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サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 ⑦

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    第一章 2001年 春


 タイにはこれまで六十五回ほど、ラオスには二十回あまり訪れていますが、この旅行記の背景は2001年の春で、このときはまだ二度目の訪問でした。だから、いろんなものが目新しくて驚きの連続でした。

 当時は、現在とはネット環境や社会情勢がかなり違っていますので、ところどころ意外に感じられるかも知れません。


      七

 タイの出国イミグレーション近くでトゥクトゥクを降りた。
 おじさんには約束の四十バーツ(百二十円弱)を支払い、コップン・カーとお礼を言ってゲートに向かった。

 ゲートの前までに来ると、網のフェンスの向こうに鉄道線路が敷かれており、いずれこれが友好橋(フレンドリーシップブリッジ)を渡ってラオスの首都・ヴィエンチャンまで開通するらしいのだが、ラオス側の経済的事由により工事が進まないらしい。
(現在は完成して鉄道での国境の行き来が可能になっています)

 今回の旅は、ラオスのアライバルビザを国境で取得するということが、駆け出しのバックパッカーの僕にとってはひとつの目的でもあった。

 何度も僕の話に出てくる、前年にベトナムで数日間過ごした彼女が、この友好橋のボーダーでラオスビザを簡単に取得したと話していた。

 だがその後、翌年になって何等かの理由で、アライバルビザの取得が一時不可能になったという情報を、僕はWebなどで確認していた。

 ラオスは1999年から2000年をラオス観光年としていたので、それが終わったことにより、アライバルビザは友好橋では簡単に取れなくなったのかもしれないと僕は思っていた。

 国情の変化でビザの状況が変わるのは仕方がなく、もし取得できなかった場合はその時に考えればいいことである。

 ラオスビザは日本で旅行代理店などに依頼すると一万数千円もかかり、タイ側の国境近くの代行者に頼むと、それなりに便利な面はあっても二千バーツが相場(この時のレートで五千八百円ほどかな)と聞いていたから、できれば自分で取りたいと思っていたのだ。


 ここからはバスに乗って、メコン川のこちら側にあるタイのイミグレーション窓口近くにて一旦降車し、タイ出国手続きをするらしい。

 バスに乗り込む前に係員に十バーツを支払って空席に座る。
 バックパックは膝の上に置いて出発を待つ。
 大勢のタイ人やラオス人と、旅人らしき数人の欧米人とアジア人が乗り込んできてからようやくバスは出発した。

 だが、わずか三分ほどでタイ出国窓口に到着した。

 慌ただしく下車する乗客、送れずについて行くと大きなテーブルがいくつか設置されており、出国カードが置かれていた。
 それを一枚手にする人と、カードを持たずに出国窓口に並ぶ人とに分かれていた。

 どういった区別があるのか分からなかったが、ともかく僕は出国カードを取って、空いている椅子に座ってテーブルの上で慎重に記入をはじめた。

 情報によれば、出国手続きを早く済ませる人と記入に時間がかかる人とがいるから、バスは一定時間待ってある程度乗車したら、メコン川を渡ってラオス入国窓口へ出発してしまうらしいのだ。

 しかしバスは次々来るから、最初支払った十バーツのチケットさえ持っていれば、次のバスに乗って渡っても何等差し支えがない。

 もちろん僕は出国カードの記入に手間取り、乗ってきたバスはとっくに行ってしまった。

 だが、そんなことは気にせずに記入デスクでまわりを見渡してみると、数人の欧米人旅行者の他に、僕と同じようにボンヤリとした感じの日本人らしき男性を見つけた。

 早速、僕は彼の方へ近づいていった。

「こんにちは~、日本の方ですよね」

「そうですけど」

「僕はこういった書類を書くのに慣れてないんですよ。ちょっと教えてくれませんか」

 僕は意識的に微笑みながら言った。

 ところが彼は、「いや、僕もあまり知りませんねん。適当に書いたらええんとちゃいますか」と、バリバリの大阪弁で目を細めながら言うのであった。

 中背の少しふっくらとした体躯で、しかも言葉からして関西人らしいということから、僕はホッとした気持ちになり、「ラオスは初めてですか?」と訊いてみた。

 この時に知り合った彼と、この先ビエンチャンからバンビエン、そしてルアンパバーンへと、旅は道連れ世は何とかになるとは、この時は全く思わなかった。

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