ARROGANT

co

文字の大きさ
上 下
183 / 194
橘家

しおりを挟む
 大和の部屋着は原田には多少幅が大きいが、贅沢は言えない。
 そして朱鷺のパーカーも健介には大きすぎるが、文句は言えない。
 ドライヤーで髪を乾かそうと思ったが、健介が怖がったので止めて原田も濡れた頭のまま。
 健介を抱いてダイニングに行くと、テーブルと奥のソファに橘一族勢揃いだった。
「夜分遅くにお手間お掛けします」
 と、原田は申し訳ないので深々と頭を下げた。
「まぁ言い出したのは朱鷺だしな」
 と応えた大和が咥えタバコだったため、それを見た健介が怯えて原田にしがみついた。
 大和!と家族全員に詰られ、大和が慌てて火を揉み消す。
「すみません。しばらく我慢しててください」
 原田が謝ると、母が笑った。
「この機会に大和も原田君も禁煙したらいいのよ」

 やなこった!と応えたのは大和だけ。
 原田は思案中。ヘビースモーカーでもないので大和よりはその発案に抵抗がない。
 ただ、続かないだろうなという予感もある。

「二回も吐いちゃったって聞いたから、おかゆを作ったのよ。どうかしらね?」
 と、母が小さな茶碗をお盆に乗せて、原田の前に置いた。
「冷ましたけどまだ早いかも知れないわ」
 ありがとうございます、と健介を椅子に座らせるとテーブルに顔が届かないのでやはり原田の膝に乗せる。
 茶碗に触れるとそれほど熱くないし、レンゲで掬ってみて口に当ててみても熱くない。
 膝の上の健介が欲しそうに原田の手を掴むので、そのまま口に入れてやる。


「……ほーんっとうに、引き取るの?」
 テーブルに頬杖をついて二人をじーっと見詰めて、昴が訊いてきた。
「……どーなんですかねぇ?」
 おかゆを食べる健介を見下ろしたまま原田が応える。
「原田がどうこうじゃなく、健介には原田しかいないからそうするしかないんだよ」
 昴の隣で大和が応える。
「原田君にそんな義務ないよ?」
 昴が今度は大和に訊く。
「いいんだよ。義務はなくてもなんと原田には引き取る権利があるらしいから」
 大和が応える。

 意味わかんない。僕お風呂入るねー。と昴が笑って席を立った。
 大和も一緒に席を立ち冷蔵庫を開けたところで、母が気付いて原田に訊いた。
「原田君も何か飲む?ビールでいい?」
 そう声を掛けられて原田が顔を上げ、ありがとうございます、と応える前に健介が口からおかゆを零しながら言った。

「くぅと!」

 くぅと?って何だ?と大和が首を捻っているうちに、母が冷蔵庫からヤクルトを取り出した。
「これね?ヤクルトが好きなの?」
 そう笑顔で健介に渡そうとするので、原田が断った。
「ダメらしいです。甘い物は虫歯になるからと君島が禁止しました」
「くぅと!」
 健介が手を伸ばす。
「あらそうなの?虫歯はだめよね?」
 と母が手を引っ込めると、健介が原田の膝の上に立ち上がった。
「くぅと!」

「あら。一本ぐらいいいわよねー?」
 と、母が笑ったところでチャイムが鳴った。
「多分君島です。それ持ってると怒鳴られますよ」
 原田がヤクルトを指差した。
「あら。いやぁね。小煩いお嫁さんみたいね」
「嫁姑バトルになりますね」
「秋ちゃんで練習しておこうかしら?」
 そう笑い健介にヤクルトを渡したが、原田も苦情を言う。
「一日2本も飲んだら腹壊しませんか?」
「あら。原田君も小煩いお嫁さんみたいね」
 そう笑って、玄関に客人を迎えに行った。

 ヤクルトを手にして健介が喜んでいる。開けてくれ、と振り回している。
 孫に甘い祖母さんがいる家庭にはこんな面倒事があるんだな、とぼんやり思う。
 開けないよ、と顔を顰めて見下ろしていると、玄関先から君島の声が聞えてきた。


「お邪魔しまーす!この子森口君!泊まりたいっていうから連れてきちゃった!」


 そんな、友達を連れてきた小学生の息子のような君島の言葉に、原田は驚いて振り返った。
しおりを挟む

処理中です...