ARROGANT

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1月

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「へぇええええええ~っ!すごいねっ!さすがだねっ!」
 週末、居留守を使い損ねて部屋に君島に踏み込まれ、なんとなく先日の現場での事件を報告するとそんな感想を言われた。
「さすがってなんだよ」
「その子のパパなんでしょ?浩一パパ!」
 面倒なので無視する。
「きっとまた会うよ。きっとこの部屋探し当ててやってくるよ!」
「やめろ」
 無視しようと思ったのについ反応してしまった。
「すごいね!ある朝玄関開けたら、子供が立っててパパって呼ばれるよ!」

 ぶっころしてやりたい。と、笑う君島を睨む。そんな原田を見て君島がさらに笑って言った。

「何怖がってんだよ。そんなチビ」

 お前に分かるもんか。胸の中でそう呟き、目を逸らす。


 君島にはあの子供に対する自分の恐怖は分からないだろうと原田は思う。
 なぜなら、君島はあの子供と同類だから。

 君島は常に腹の中に怒りを抱えている。原田はそう見ている。
 何の拍子でそれが破裂するかわからない。破裂したら何をするかわからない。あの子供のように渾身の力で突き進むだろう。危ういバランスで今は笑っているだけだ。
 そんな君島に恐怖は感じない。
 君島は原田に執着していないから。

「なんで俺なんだろうなぁ……」
 俯いてそう呟く。

 原田にはそれが一番の恐怖だった。


「本当に本当は浩一の子供なんじゃないの?本当に覚えはないの?」
 今度こそそんなうるさい雑音は無視して、たばこを吸いにキッチンに向かう。
 そしてその話題を終わらせるために別の話を持ち出した。

「そういえばお前、仕事は?」
「あー……。芳しくないねぇ。探してはいるんだけどねぇ。選ばなきゃいくらでもあるんだけどねぇ」
「いつまでも遊んでいられないだろ」
「それがいられるんだよねぇ」
「ん?」
「今の彼女がお金持ちばかりなんだよねぇ。全然困ってないんだよね僕」
「ふーん。よかったな」
「ね。勤労意欲が全く湧いてこないんだよ。こんなことじゃダメ人間になってしまう」
「もうとっくにダメ人間だから気にするな」
「そうかなぁ?」
「そうだな」
「そっかぁ」


 そんなばかばかしいやりとりの最中に、チャイムが変なリズムで鳴った。
「朱鷺だ」
 原田が咥えたばこでそう言うと、君島が立ち上がり玄関に向かった。
 せっかくの休日をまた一人邪魔しに来た、と原田は煙を吐く。


「や!朱鷺ちゃん久しぶり!あれ?雪降ってるの?」
 そんな君島の声が聞こえたので目を向けると、入ってきた朱鷺の長い髪の毛と真っ赤なダウンジャケットに雪がちらちらと付いている。
 朱鷺は原田にちらりと目を向けてすぐに君島を振り返り、短く手話を示した。
「そう?そんなに前から降ってた?」
 そう言葉で応えながら君島も手話を使った。

 そんな雪の中わざわざ何しに来たんだ、と原田は目で朱鷺に訴える。
 特にその意味を汲み取った訳ではないが、朱鷺が持ってきた袋から大きな書類のような物を取り出して原田に渡した。
 受け取った原田が一応引っ張り出して見てみる。

「……図面?この写真の家の?これがどうかしたのか?」

 原田がどこかの一戸建ての写真と図面を見ている最中に、朱鷺が手話で君島に説明している。

「朱鷺ちゃんのお母さんの知り合いが、息子の結婚祝いに建てた新築が、もう用無しになったと。1年も住まないうちに離婚して空家になってて、売りに出したいらしい」
 君島が朱鷺の手話を通訳する。
「どうしたらいいかなって」

「……防音オーディオルームが珍しいけど、築年数も経ってないしガレージもでかいし売れるだろ」
「改装した方がいいなら考えるって」
「俺も中古物件の取引はよくわかんないけど、それは客が付いてからでいいんじゃないの?」
「それはどうしたらいい?」
「知ってる不動産屋に打診してみるよ。って、朱鷺。お前の家には社長がいるだろ?社長に訊いた方が早いだろ」

 原田の口を読んだ朱鷺が、にこりと笑って手を使い君島に通訳を頼んだ。君島も納得して笑った。


「あんな素人には訊くだけムダだとお母さんが言ったって」
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