79 / 194
翌月曜日
10
しおりを挟む
「久しぶりだね、君島君」
寄り掛かっていた車から離れて笑う榎本刑事部長に、君島が深々と頭を下げた。
「お久しぶりです!今回は本当に本当にありがとうございました!」
「いやいや。ほぼ何もしてないよ。健介君が自力で逃げたんだからね」
「いえ」
頭を上げて、榎本を見上げて、君島は微笑んだまま言った。
「強行して本部作ったんですよね?誘拐の可能性は低いってみんな思ってたんじゃないですか?」
事件発生直後の警官たちのぼやきを、君島は聞いていた。
榎本は笑って目を伏せた。
「まぁね。浩一君が健介君を自発的に被疑者に預けてるだろ?あれがネックだった。あのせいで連れ去りっていう君たちの証言の信ぴょう性が疑われた」
「そうですか」
「しかも戸籍上も親子じゃないからなおさら熱が入らないというかね」
「そうですよね」
「私はよく知っているから疑いはしなかったけど、私一人の主張ではなんともね。説得する自信もなかったから強行しただけだよ」
「すごいですね。これで何もなかったら責任問題になったんじゃないですか?」
「ならないよ。逆ならあるけどね。通報を放置して事件になる方が失態だから。それに今回のことでみんな慄いてる。軽く見ていた略取がこれだけの大事件に発展してしまって」
「でもみなさんにすごくよくしてもらいましたよ」
「うん。精鋭送り込んだから」
「そうなんだ。……取り調べは、進んでるんですか?」
「うん。全然難しい話じゃないよ。ただ、なるべくなら君たちには聞かせたくない」
「……予想は、ついてますよ」
「そうだろうけどね」
榎本は、一度頷いて話題を変えた。
「それで?浩一君は?」
榎本がベンツに目をやる。朱鷺と朱鷺母が車を降りて、榎本にお辞儀をする。
「健介を助けてくれた古くからの知り合いです」
君島が紹介して、榎本も軽く会釈する。
「で、浩一と健介は、ベンツの後ろで寝てます」
君島が指差し、そうすると車を隣に移動した方がいいな、と榎本が同行してきた警官に指示し、セダンをベンツの近くに動かした。
「あ。浩一の車だ」
君島がいまさら気付く。
「そう。これでガレージに突っ込んでそのまま浩一君たちを家に入れればいいだろ?」
「そっかー!頭いいー!」
「うん。伊達に刑事部長やってない」
偉そうに頷く榎本に、自分の発案ですが、と車の中の若い警官が小さくぼやいた。
その大柄な若い警官が降りてきてベンツのドアを開け、原田の脇に両手を差し込んでその身体を引き摺りだしている途中、横から君島が声を掛ける。
「重いでしょ?」
「ちょっと、一人じゃ無理ですね」
「足持ちます」
「いや!そんなことは!それは刑事部長お願いしますよ!」
「ああ、いいよ。君島君は健介君連れてきてよ」
「え?はい」
君島はそう返事をして原田を持ち上げる二人を横目に車の後ろを回って、逆のドアを開けて健介を抱き上げてから、気付いた。
さてはまた女と間違われたか!
と、つい健介を抱える腕に力を込めてしまって健介を起こしそうになった。
原田を原田の車の後部座席に押し込み、健介をその隣に寝かせた。
それからなんとなく埃でも落とすようにポンポンと手を叩いて、君島はベンツを向いた。
朱鷺と朱鷺母が並んで立っている。
「それじゃ、私たちはここで失礼するわね。原田君の家の前は素通りさせてもらうわ」
「はい。絶対止まらない方がいいと思います」
笑って別れの挨拶をする。
「ありがとうございました。浩一が起きたらまた改めてお礼に行くと思います」
「いつになるかしらね?三日寝るんでしょ?」
そう笑いながら、朱鷺母が運転席に座る。
またね、と指で示してから朱鷺も助手席に乗る。
そして走り去るベンツに、君島は見えなくなるまで手を振った。
寄り掛かっていた車から離れて笑う榎本刑事部長に、君島が深々と頭を下げた。
「お久しぶりです!今回は本当に本当にありがとうございました!」
「いやいや。ほぼ何もしてないよ。健介君が自力で逃げたんだからね」
「いえ」
頭を上げて、榎本を見上げて、君島は微笑んだまま言った。
「強行して本部作ったんですよね?誘拐の可能性は低いってみんな思ってたんじゃないですか?」
事件発生直後の警官たちのぼやきを、君島は聞いていた。
榎本は笑って目を伏せた。
「まぁね。浩一君が健介君を自発的に被疑者に預けてるだろ?あれがネックだった。あのせいで連れ去りっていう君たちの証言の信ぴょう性が疑われた」
「そうですか」
「しかも戸籍上も親子じゃないからなおさら熱が入らないというかね」
「そうですよね」
「私はよく知っているから疑いはしなかったけど、私一人の主張ではなんともね。説得する自信もなかったから強行しただけだよ」
「すごいですね。これで何もなかったら責任問題になったんじゃないですか?」
「ならないよ。逆ならあるけどね。通報を放置して事件になる方が失態だから。それに今回のことでみんな慄いてる。軽く見ていた略取がこれだけの大事件に発展してしまって」
「でもみなさんにすごくよくしてもらいましたよ」
「うん。精鋭送り込んだから」
「そうなんだ。……取り調べは、進んでるんですか?」
「うん。全然難しい話じゃないよ。ただ、なるべくなら君たちには聞かせたくない」
「……予想は、ついてますよ」
「そうだろうけどね」
榎本は、一度頷いて話題を変えた。
「それで?浩一君は?」
榎本がベンツに目をやる。朱鷺と朱鷺母が車を降りて、榎本にお辞儀をする。
「健介を助けてくれた古くからの知り合いです」
君島が紹介して、榎本も軽く会釈する。
「で、浩一と健介は、ベンツの後ろで寝てます」
君島が指差し、そうすると車を隣に移動した方がいいな、と榎本が同行してきた警官に指示し、セダンをベンツの近くに動かした。
「あ。浩一の車だ」
君島がいまさら気付く。
「そう。これでガレージに突っ込んでそのまま浩一君たちを家に入れればいいだろ?」
「そっかー!頭いいー!」
「うん。伊達に刑事部長やってない」
偉そうに頷く榎本に、自分の発案ですが、と車の中の若い警官が小さくぼやいた。
その大柄な若い警官が降りてきてベンツのドアを開け、原田の脇に両手を差し込んでその身体を引き摺りだしている途中、横から君島が声を掛ける。
「重いでしょ?」
「ちょっと、一人じゃ無理ですね」
「足持ちます」
「いや!そんなことは!それは刑事部長お願いしますよ!」
「ああ、いいよ。君島君は健介君連れてきてよ」
「え?はい」
君島はそう返事をして原田を持ち上げる二人を横目に車の後ろを回って、逆のドアを開けて健介を抱き上げてから、気付いた。
さてはまた女と間違われたか!
と、つい健介を抱える腕に力を込めてしまって健介を起こしそうになった。
原田を原田の車の後部座席に押し込み、健介をその隣に寝かせた。
それからなんとなく埃でも落とすようにポンポンと手を叩いて、君島はベンツを向いた。
朱鷺と朱鷺母が並んで立っている。
「それじゃ、私たちはここで失礼するわね。原田君の家の前は素通りさせてもらうわ」
「はい。絶対止まらない方がいいと思います」
笑って別れの挨拶をする。
「ありがとうございました。浩一が起きたらまた改めてお礼に行くと思います」
「いつになるかしらね?三日寝るんでしょ?」
そう笑いながら、朱鷺母が運転席に座る。
またね、と指で示してから朱鷺も助手席に乗る。
そして走り去るベンツに、君島は見えなくなるまで手を振った。
0
お気に入りに追加
4
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる