ARROGANT

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火曜日

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 森口さんが帰って、健介はまたすぐに二階の自分の部屋に戻って、ベッドに座るお母さんに言った。
「お母さん。もしかしたら父さんがもうすぐ戻るかも。森口さんが来る時っていつも父さん、早く帰ってくるんだよ」
「まぁ!じゃ、私帰るわ!」
「……会わないの?」
「会わない。会えない。怖いの。健介も今日私に会ったことは絶対内緒にして!」

 怖い?
 健介はその言葉に驚きながらも、本当に怯えてすぐにも部屋を出ようとするお母さんの姿に、やはりまた父に怒りを覚える。
 父さんは一体、お母さんに何をしたんだ。

「どこまで行くの?道わからないでしょ?」
 健介はお母さんを送って行くことにした。
「……うん、できたらバス停まで、行ってもらえる?」
 お母さんが少し笑った。

 また手を繋いで、下り坂を二人で歩く。


「健介。明日は私の家に来ない?」
 お母さんにさらりと誘われた。
「うん。いいよ。今日みたいに学校が終わった後ね」
「うん。迎えに行くから」
「うん」
「そのまま、うちで暮らさない?」


 またさらりと言われ、健介は返事ができなかった。


「ずっとじゃなくてもいいの。少しでいいの。だって、健介はもうこっちの家で慣れてるんだしね」
「……うん」
「でも、私のことも、思い出して欲しいの」
 お母さんがまた、泣き出した。
「赤ちゃんの時の健介しか知らないんだもの。健介しか子供はいないのに」

 どうしたらいいの。

「時々でいいの。私の家で、私をお母さんって呼んでくれるだけでいいの」

 わからないよ。
 どうして父さん、僕からお母さんを取り上げたの?

「……行く。明日、お母さんの家に行く」
 健介がそう呟いた。
 ありがとう、とお母さんがまた泣いた。


 バス停まで案内して、バスに乗り込むお母さんを見送り、健介はまた家に戻った。
 夕日が落ちて周囲は夜に向かって明度を落とす。
 坂を上り家に着き玄関を開けても、もうマックスは迎えに来ていなかった。

 だから父が一度戻って夕食を準備してマックスにもご飯を上げて、また仕事に戻ったのだと健介にはわかった。

 ずっとこういう生活だったからこれが普通だと思っていたし、自分は何にも感じていないと思っていた。
 だけど。


 もし、お母さんがいるのなら、お母さんが家で待っているのなら、

 こんな時、おかえり、と言われて、笑顔に迎えられたりするんだろうか。

 もしかしてそんな日々が、これから来るんだろうか。

 こんな不機嫌なネコすら出迎えにこない日々が終わるんだろうか。

 胸がじわりと温かくなり、健介は微笑んだ。


 父が用意した晩ご飯を一人で食べて、ずっと一人で過ごして、健介は遅くなるらしい父の帰宅を待たずに寝た。
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