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5・沙羅
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無口な彼からなんとか引きだした彼の身の上は、僻地の中学出身で今後それなりの大学に進学するためにこの県庁所在地の進学校に入り、親元を離れ下宿から通っている。身の回りのことを全て自分一人でやっているために、細かいところに手が届かないということ。
「だからそれならそれでやりようがあるのよ。お金を掛けずにおしゃれだってできるんだから!」
私は一念発起し、まるで彼のスタイリストのように世話を焼きだした。おしゃれというのはディテールで、ほんの袖先、襟元、靴紐程度を綺麗に整えるだけで見違えるものだ。
私も所詮ただの女子高生でお金なんて全然ないから情報だけを掻き集め、彼を少しずつ少しずつおしゃれ男子に洗脳していく。私が手を掛けるようになってから、彼の見た目は飛躍的に洗練されていった。
そこで当然、彼の美しさにいまさら気付いた女どもが群れてくる。そして当然私が蹴散らした。
「あなた程度が彼に見合うとでも思ってるの?」
そう鼻で笑えば、バカでブスな小物たちは尻尾を巻いて引き下がる。
実は私はバスケ部を辞めた後、生徒会の役員に就任していた。中学の先輩だった生徒会長から直々に頼まれて、しょうがなく。根が目立ちたがりなので、行事毎の生徒会のアナウンスが必要な場面では必ず私がマイクを取った。だから全校で私のことを知らない生徒は皆無だ。体育祭でも学園祭でも派手に立ち回り、しかも学業優秀で自分で言うのもなんだけど可愛い部類の顔立ちだ。
そんな実力者であり有名人である私の手掛けた男に手を出す女はいなかった。
「すごいねー。完全マイフェアレディ男子版だよね」
と友人たちが感心してくれるけど、まだまだ全然足りない。
「こんな田舎の高校でイケメン認定されたところで、何の価値もないわよ。だいたいあの子、訛り直さないんだから!」
これが致命的。どんなに見た目スタイリッシュでアーバンになったところで、語尾が訛る。何度も注意して矯正しつつあるけど、油断すると訛る。
「私がいないと、訛っちゃうのよ」
だから私が常に一緒にいないといけない。彼自身のために。
とにかくこれまで付き合った経験もなく女子馴れしていない彼に、私は女心も逐一教育した。
イベントがあればプレゼントを交換するものだし休みがあれば二人で出掛けるものなのよ。記念日は大事。私たちもこれからたくさん記念日ができるから、覚えるのよ。見た目の変化に気付いて。気付かなくても何か言って。会ったら先に声掛けて。それから、
「触って。いつでも、傍にいたら手を握って。腕を、回してきて。それから、キスして」
そう教えると、横に立っていた彼がふわりと私の手を握り肩を抱き顎を指で持ち上げ、キスしてきた。
ほんの少し触れるだけの、軽いキス。
初めての。
「こんなところで!」
と彼の胸を叩いた。なにしろ昼間の校舎内だ。玄関下駄箱の陰で人目にはつかなかったけど。
「いつでもって言ったべ?」
と、彼がしれっと言う。
「時と場合を考えたいつでもよ!」
そう怒鳴ったが、照れ隠しだった。今日の日はもう絶対忘れない。私たちの仲が確実に進展した記念日。
私たちはもう特別な関係だ。
このまま進んでいくだけだ。
夢と希望しかない。
初めて結ばれたのは、クリスマスイブ。彼の部屋で。
始めのうちは緊張しているようで手際が悪くもたもたしていたのだけれど、なんとか一つになった後には堪えきれないように性急に私の奥を掻き乱し、抗う私を押さえ込んで口も塞ぎ身体全体を揺するようにしてあっという間に本懐を遂げた。
そして私から降りて息を切らせて、ごめん、と呟いた。
ごめん、なんて。そりゃ、横暴だったし乱暴だったし気持ちよくなかったけど、私はとても嬉しかった。
いつもクールな彼がこんなにも私を求めていたのだと実感できたから。
そして3年になり私は順当に生徒会長に就任したが、彼との付き合いにはなんら障害にはならない。それに受験年度だ。さらにに関係を深めつつ私たちはそれぞれの進路に向けて本格的に勉強を始めた。
彼が隣の県の旧帝大医学部を目指していることは知っていた。私もそこの大学の理工学部を受験してもよかったのだけれど、でも大学で関東に出ることは幼い頃からの目標だった。男のためにその目標を変えるというのは私には似合わない気がしたし、少し距離を持つのもいいスパイスになる気がした。
互いに切磋琢磨し互いの希望通りの大学に合格した。
地元を離れ彼と別れる時には、涙が出た。
「絶対浮気しないでね。毎日メッセージ送ってね」
涙を拭きながらそうお願いした。
彼は少し妙な顔で微笑みながら、少し頷いた。
それから始まった大学生活は、楽しいの一言だった。やはり都会は違う。人だけでなく街全体がおしゃれで個性的な人ばかりいて刺激的な毎日が過ぎ、夜にはその報告を彼にする。
田舎の大学に進んだ彼の日常は田舎の高校の時とさほど変わらないようで、彼のレスはあったりなかったり。サプライズで彼の部屋に突撃したりすると、いつも強く抱きしめてくれたけど。
でもしばらく会わずにいるとまた髪をボサボサに伸ばしていて、速攻で美容院に連れて行ったりしてイケメンに戻すけど、結局彼は何も変わっていないとがっかりもした。
遠距離になってからは彼のヤキモチもひどくなって、遠距離だけに喧嘩も長引いたりして。
彼も都会に出てきてたらそんなこともなく二人でずっと楽しく過ごして行けたのかも知れないのに。
それでも、その変わらない彼のその姿勢こそ、私は愛していたのだと気付いた。
『別れたってホント?彼に新しい彼女出来たって噂になってるけど?』
というメッセージを親友からもらった時に。
「だからそれならそれでやりようがあるのよ。お金を掛けずにおしゃれだってできるんだから!」
私は一念発起し、まるで彼のスタイリストのように世話を焼きだした。おしゃれというのはディテールで、ほんの袖先、襟元、靴紐程度を綺麗に整えるだけで見違えるものだ。
私も所詮ただの女子高生でお金なんて全然ないから情報だけを掻き集め、彼を少しずつ少しずつおしゃれ男子に洗脳していく。私が手を掛けるようになってから、彼の見た目は飛躍的に洗練されていった。
そこで当然、彼の美しさにいまさら気付いた女どもが群れてくる。そして当然私が蹴散らした。
「あなた程度が彼に見合うとでも思ってるの?」
そう鼻で笑えば、バカでブスな小物たちは尻尾を巻いて引き下がる。
実は私はバスケ部を辞めた後、生徒会の役員に就任していた。中学の先輩だった生徒会長から直々に頼まれて、しょうがなく。根が目立ちたがりなので、行事毎の生徒会のアナウンスが必要な場面では必ず私がマイクを取った。だから全校で私のことを知らない生徒は皆無だ。体育祭でも学園祭でも派手に立ち回り、しかも学業優秀で自分で言うのもなんだけど可愛い部類の顔立ちだ。
そんな実力者であり有名人である私の手掛けた男に手を出す女はいなかった。
「すごいねー。完全マイフェアレディ男子版だよね」
と友人たちが感心してくれるけど、まだまだ全然足りない。
「こんな田舎の高校でイケメン認定されたところで、何の価値もないわよ。だいたいあの子、訛り直さないんだから!」
これが致命的。どんなに見た目スタイリッシュでアーバンになったところで、語尾が訛る。何度も注意して矯正しつつあるけど、油断すると訛る。
「私がいないと、訛っちゃうのよ」
だから私が常に一緒にいないといけない。彼自身のために。
とにかくこれまで付き合った経験もなく女子馴れしていない彼に、私は女心も逐一教育した。
イベントがあればプレゼントを交換するものだし休みがあれば二人で出掛けるものなのよ。記念日は大事。私たちもこれからたくさん記念日ができるから、覚えるのよ。見た目の変化に気付いて。気付かなくても何か言って。会ったら先に声掛けて。それから、
「触って。いつでも、傍にいたら手を握って。腕を、回してきて。それから、キスして」
そう教えると、横に立っていた彼がふわりと私の手を握り肩を抱き顎を指で持ち上げ、キスしてきた。
ほんの少し触れるだけの、軽いキス。
初めての。
「こんなところで!」
と彼の胸を叩いた。なにしろ昼間の校舎内だ。玄関下駄箱の陰で人目にはつかなかったけど。
「いつでもって言ったべ?」
と、彼がしれっと言う。
「時と場合を考えたいつでもよ!」
そう怒鳴ったが、照れ隠しだった。今日の日はもう絶対忘れない。私たちの仲が確実に進展した記念日。
私たちはもう特別な関係だ。
このまま進んでいくだけだ。
夢と希望しかない。
初めて結ばれたのは、クリスマスイブ。彼の部屋で。
始めのうちは緊張しているようで手際が悪くもたもたしていたのだけれど、なんとか一つになった後には堪えきれないように性急に私の奥を掻き乱し、抗う私を押さえ込んで口も塞ぎ身体全体を揺するようにしてあっという間に本懐を遂げた。
そして私から降りて息を切らせて、ごめん、と呟いた。
ごめん、なんて。そりゃ、横暴だったし乱暴だったし気持ちよくなかったけど、私はとても嬉しかった。
いつもクールな彼がこんなにも私を求めていたのだと実感できたから。
そして3年になり私は順当に生徒会長に就任したが、彼との付き合いにはなんら障害にはならない。それに受験年度だ。さらにに関係を深めつつ私たちはそれぞれの進路に向けて本格的に勉強を始めた。
彼が隣の県の旧帝大医学部を目指していることは知っていた。私もそこの大学の理工学部を受験してもよかったのだけれど、でも大学で関東に出ることは幼い頃からの目標だった。男のためにその目標を変えるというのは私には似合わない気がしたし、少し距離を持つのもいいスパイスになる気がした。
互いに切磋琢磨し互いの希望通りの大学に合格した。
地元を離れ彼と別れる時には、涙が出た。
「絶対浮気しないでね。毎日メッセージ送ってね」
涙を拭きながらそうお願いした。
彼は少し妙な顔で微笑みながら、少し頷いた。
それから始まった大学生活は、楽しいの一言だった。やはり都会は違う。人だけでなく街全体がおしゃれで個性的な人ばかりいて刺激的な毎日が過ぎ、夜にはその報告を彼にする。
田舎の大学に進んだ彼の日常は田舎の高校の時とさほど変わらないようで、彼のレスはあったりなかったり。サプライズで彼の部屋に突撃したりすると、いつも強く抱きしめてくれたけど。
でもしばらく会わずにいるとまた髪をボサボサに伸ばしていて、速攻で美容院に連れて行ったりしてイケメンに戻すけど、結局彼は何も変わっていないとがっかりもした。
遠距離になってからは彼のヤキモチもひどくなって、遠距離だけに喧嘩も長引いたりして。
彼も都会に出てきてたらそんなこともなく二人でずっと楽しく過ごして行けたのかも知れないのに。
それでも、その変わらない彼のその姿勢こそ、私は愛していたのだと気付いた。
『別れたってホント?彼に新しい彼女出来たって噂になってるけど?』
というメッセージを親友からもらった時に。
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