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18 自慰1

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「そうね、今日は…」

姫様がもったいをつけた。それだけで嫌な予感がした。

「ミリアが自分でしているところをリチャードに見せなさい」

「…っ…」

「始めなさい」

いつも通りの、淡々とした命令。
けれどそんな…

「早くなさい」

重ねて命じられて仕方なく、のろのろとスカートをたくし上げようとした。

「何をしているの。全部脱がなきゃ、リチャードによく見てもらえないでしょう」

「っ………」

「リチャード、脱ぐところからちゃんと見ていてあげなさい。あなたのために、ミリアはこんなことをするのだから。…あなたに見て欲しくて。そうでしょう?ミリア」

これは…なんと答えればよいのだろう…

「あら。それとももう、リチャードには飽きちゃった?他の男がいいの?」

「いえっ…リチャード様に…」

思わず食い気味に答えてしまった。

「リチャードに、何?最後まではっきり言いなさい」

冷たい声。
姫様は…どこまでも私を貶める……

「リチャード様…に…見て…欲しい…です…私が…っ…自…分を…慰っ…める…とこ…ろ…」

クスリと姫様が笑った。

「ほら、リチャード。目を逸らしたらダメよ?私の可愛いミリアのお願い、ちゃんときいてあげて」

「…くっ…」

リチャード様が、眉を寄せて私を睨みつけた。

「あ、ミリア」

何かとても楽しいことを思いついた、と言いたげな姫様の声。嫌な予感しかしないけれど、聞かない訳にはいかない。

「今日は100回以上、リチャードの名前を呼びなさい?」

「…っ…!?」

「折角、あなたの望みに応えて、あなたのはしたない姿を見ていてくれるリチャードに、「もっと見て」って何度も何度もねだるのも忘れてはダメよ?」

「…っ…っ…」

そん…な…

「ミリア、返事が聞こえないわよ?」

「…ぁ…分かり…まし…た…姫…様…」

私には、これ以外の返事など許されていない…

「いい子ね、ミリア」

姫様が美しく微笑んだ。
こんな時でも、とても美しく。


嫌々ながら、首のリボンを解いた。細く頼りないそれを、床へと落とす。

「リチャード…様…見ていて……くだ…さい…」

恥ずかしい。
それ以上に惨めでたまらない。
こんな…こんなこと……っ…
でも、やらなければ…

シャツのボタンを外していく。時々、指が震えてボタンから滑ってしまう。
それでもどうにか、全部外し終えた。

リチャード様が、私を見ている。

シャツの前を開いて、肩から滑り落とす。パサリと、床に落ちる音が響いた。
スカートのボタンを外して、それも床に落とした。床に、服の小さな山ができていく。

「ミリア、名前を呼びなさいと言ったわよね?」

「…っ…はい…姫様…………っ…リ、チャード…様…っ…」

姫様の命令で、大切な人の名前を呼ぶ。
下着も、服の山に加わった。

「リチャードに、よく見えるようにするのよ?ミリア」

「は…い……」

ソファに腰を下ろし、脚を開いた。リチャード様に、向かって…。

「見て…くださ…い…リチャード様…」

姫様に、ねだれと言われたその通りに。本当は見ないで欲しい。こんなことしたくない。でも…

「私の…はしたない姿…を…見ていて…ください…」

私に選択権などない…

ソファの背にもたれるように首を預けた。
左手で、胸をつかむ。右手は、迷ったけれど、こちらも胸をつかんだ。

「リチャード様…」

ゆっくり、胸を揉む。
初めてこんな風に触れる自分の胸は、想像以上に柔らかかった。指が時々、乳首に当たる。

「あっ…リチャード…様っ…」

快感に逆らわずに、気持ちいいと思ったところに触れる。姫様の前で快楽に抗うのは、逆効果だから。
自分で乳首をそっとつまんで指の間でくるくると転がす。リチャード様の指の動きを思い出しながら。

「リチャード…様っ…ぁっ……」

しばらく続けると、下が疼き始めた。右手を、胸から離して下へと伸ばす。そこへ触れようとした時だった。

「ねぇ、リチャード。結婚したのだったわね?」

びくんと身体が震えて手が止まった。
姫様はいったい、どういうつもり…

「どうなの?リチャードの妻の胸は、ミリアより大きい?」

「…っ…」

リチャード様が、顔を歪めた。

「答えて」

「…っ…明かりの下で、妻の身体を見たことはありませんから…」

リチャード様の口から「妻」という言葉が出た。それだけで、完全に動けなくなった。

「あら、そうなの?大切にしているのね。でも、触れば分かるんじゃない?」

姫様の何気ない「大切にしている」という言葉が胸に突き刺さる。明かりの下でしか、触られたことのない自分…。

「…」

リチャード様は、答えない。
優しさ、なの、だろう…。

「じゃあ、どちらの胸の方が柔らかい?それなら、分かるでしょう?」

「…比べるような…ものではありませんから…」

ほっと、こっそり息を吐いた。
リチャード様に他の女性と、奥様と比べられたくなかった。
でも

「そう…じゃあ…」

姫様の質問は続いた。
いったん、言葉を区切って

「どちらの胸の方が、気持ちいい?」

「…っ…!」

「これには答えられるでしょう?あなたの主観だもの。答えなさい。どちらに触った時の方が興奮した?」

…ぁ…嫌…だ…リチャード様…答え…ないでっ…

そんな願いも虚しく、リチャード様が口を開いた。悔しそうに。

「妻…ですっ…妻の…方が…」

…っ…!

「あら、模範的な回答なんて期待していないわよ?正直に答えていいのに」

「っ…妻…ですっ…」

食いしばった歯の隙間から絞り出すように、リチャード様が答えた。

胸が、痛い。
分かっていた答え。
分かりきっていた答え。
それでも、胸が痛い。

「あら、そう。残念だったわね?ミリア。リチャードは、散々触ったあなたの胸より妻の胸の方がずっと気持ちがいいそうよ?」

涙が、零れた。
泣きたくなどない。こんなことで。

リチャード様は騎士だ。奥様より他の女がいいなどと、言う訳がない。しかも私のような、無理矢理抱かされている女の身体など…。

それに…本当に、奥様の身体の方が気持ちいいだけかもしれない…貴族の女性の、手入れの行き届いた身体。きっと、毎日働き通しの私などよりよっぽど…

「あらあら。酷い男ね、リチャードは。あなたのことを嫌というほど抱いたくせに、ね?」

楽しそうに姫様が笑う。
こんな当たり前のことで泣く私は滑稽だ。

そう思っても返事ができない…。
リチャード様が、私の方がいいなどと言う訳がない。そう分かっていたはずなのに、今の言葉は堪えた…。

「それでもあなたは、リチャードがいいのよね?ミリア」

「…っ……」

甘い、毒を含んだ姫様の声。

「他の男は嫌なのよね?妻のいるリチャードに、渋々抱かれる方がずっといいのよね?」

「…っ…」

肩が、震えた。
姫様が、鋭い瞳で私を見ている。

答え…なければ…
どれだけ、嫌でも
でなければきっと、姫様は…

「は…い…」

「「はい」だけじゃ分からないわ、ミリア。きちんと言いなさい」

「…っ……リ、チャード様、にっ…奥様がっ…いてっ…も…奥様のっ…身体の…方がっ…遥かに…よく…て…も…それ…でも…私、はっ…リチャード様がっ…いい…ですっ…リチャード様がっ…リチャード様でっ…なければっ…っ…っ…嫌…っ…」

涙が止まらない。
こんなことを、こんな姿で言わされて。
それでも逆らえない…
こんなにも…惨めな本心を……リチャード様の前に…吐き出して…

「あらあらあら」

上機嫌な姫様の声。

「あなたは本当にリチャードが好きなのね。ねぇ、リチャード。私のミリアは、もうすっかりあなたの虜よ?」

クスクスと、嬉しそうに姫様が笑う。

「こんなに健気な私のミリアに、妻帯者のあなたは、いったい何をしてくれるのかしら?」


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