上 下
11 / 16

元どおり…でもない

しおりを挟む
翌週からまた、都合がつけば彼の部屋に行くようになった。だって行かない理由がなくなってしまったから。

再び渡された合鍵を使って彼の部屋に入る。そして相変わらず、私以外の女の気配がしない部屋にほっとする。
疑うというか、一度その可能性を考えた後だと、どうしても気になってしまう。

私、邪魔になってない?
…騙されたり、してないよね…?

そんな風に考えたくはないけれど、不安になってしまう。
彼の幸せの邪魔になるのも。
彼に騙されて道化になるのも…。
どちらも嫌だから。

いつの間にか、彼は私にとってとても大切な人になってしまっていたから。それを、はっきりと自覚してしまったから。
そんな彼の幸せを邪魔してしまったら凄く後悔するだろうし、弄ばれたりしたらきっと立ち直れないくらいに傷ついてしまうと思うから。
だから、疑いたくなんてないけれど不安になってしまう…。


そういえば、あれから小さくて、でもとても大きな変化があった。
彼が、最中に名前を呼ぶようになったのだ。

私の名前を。


こういう関係になってしばらくして、リサと呼ばれなくなったことには気づいていた。吹っ切れてきたのだろうと、彼のためによい事だと喜んではいたけれど。
思えば最近はずっと、誰の名前でもなく「おまえ」と呼ばれていたけれど。
まさか自分の名前を呼ばれる日がくるとは…


最初は驚き過ぎて固まってしまった。
けれどすぐに、名を呼ばれるたびに身体が勝手に反応してしまうようになった。

色気のある声で呼ばれるたび、体温が上がってしまって。それを指摘されると、どうしたらいいのか分からなくなって彼に縋りついてしまって。
彼はそんな私を嬉しそうに見つめて、更に深く私に触れてきて…。


これはどうしたらいいのだろう。
もう最近ではほぼ毎回、気持ちが高ぶりすぎて記憶が飛んでしまっている。ただ朧気に、たくさん叫んで彼に縋りついていた記憶があるだけ。

とても恥ずかしい。
けれど、やめてとも言えない。
だって嫌ではないから。
ひたすら恥ずかしいというだけで。

むしろ嬉しい。
じっと見つめられながら彼に自分の名前を呼ばれると、嬉しくなってしまう。
彼に名前を呼ばれるたびに、幸せな気持ちになってしまう。

そう。私は彼にそういう風に抱かれて、幸せを感じているのだ。彼に名前を呼ばれると、まるで私自身を求められているように思えて。
それを幸せだと感じてしまっている。

…彼のその変化の理由を、問いただせもしないのに。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

(完結)私はあなた方を許しますわ(全5話程度)

青空一夏
恋愛
 従姉妹に夢中な婚約者。婚約破棄をしようと思った矢先に、私の死を望む婚約者の声をきいてしまう。  だったら、婚約破棄はやめましょう。  ふふふ、裏切っていたあなた方まとめて許して差し上げますわ。どうぞお幸せに!  悲しく切ない世界。全5話程度。それぞれの視点から物語がすすむ方式。後味、悪いかもしれません。ハッピーエンドではありません!

婚約破棄目当てで行きずりの人と一晩過ごしたら、何故か隣で婚約者が眠ってた……

木野ダック
恋愛
メティシアは婚約者ーー第二王子・ユリウスの女たらし振りに頭を悩ませていた。舞踏会では自分を差し置いて他の令嬢とばかり踊っているし、彼の隣に女性がいなかったことがない。メティシアが話し掛けようとしたって、ユリウスは平等にとメティシアを後回しにするのである。メティシアは暫くの間、耐えていた。例え、他の男と関わるなと理不尽な言い付けをされたとしても我慢をしていた。けれど、ユリウスが楽しそうに踊り狂う中飛ばしてきたウインクにより、メティシアの堪忍袋の緒が切れた。もう無理!そうだ、婚約破棄しよう!とはいえ相手は王族だ。そう簡単には婚約破棄できまい。ならばーー貞操を捨ててやろう!そんなわけで、メティシアはユリウスとの婚約破棄目当てに仮面舞踏会へ、行きずりの相手と一晩を共にするのであった。けど、あれ?なんで貴方が隣にいるの⁉︎

「君を愛することはない」の言葉通り、王子は生涯妻だけを愛し抜く。

長岡更紗
恋愛
子どもができない王子と王子妃に、側室が迎えられた話。 *1話目王子妃視点、2話目王子視点、3話目側室視点、4話王視点です。 *不妊の表現があります。許容できない方はブラウザバックをお願いします。 *他サイトにも投稿していまし。

ご愛妾様は今日も無口。

ましろ
恋愛
「セレスティーヌ、お願いだ。一言でいい。私に声を聞かせてくれ」 今日もアロイス陛下が懇願している。 「……ご愛妾様、陛下がお呼びです」 「ご愛妾様?」 「……セレスティーヌ様」 名前で呼ぶとようやく俺の方を見た。 彼女が反応するのは俺だけ。陛下の護衛である俺だけなのだ。 軽く手で招かれ、耳元で囁かれる。 後ろからは陛下の殺気がだだ漏れしている。 死にたくないから止めてくれ! 「……セレスティーヌは何と?」 「あのですね、何の為に?と申されております。これ以上何を搾取するのですか、と」 ビキッ!と音がしそうなほど陛下の表情が引き攣った。 違うんだ。本当に彼女がそう言っているんです! 国王陛下と愛妾と、その二人に巻きこまれた護衛のお話。 設定緩めのご都合主義です。

処理中です...