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彼と私は
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彼と私の関係は何なのだろう。
多分、世間一般的にはセフレと呼ばれるものなのだろう。
でも私にとって、彼は決してそれだけの存在ではないし、彼も私の身体だけを必要としている訳ではない、…と思う。
たとえお互い、最初は身体だけを求めていたのだとしても。
正直、最近は少し戸惑っている。
彼と週末を過ごすことが当たり前になり過ぎて。
木曜日に今週末も行けそうだと思うと機嫌がよくなって、金曜日には仕事さえ問題なければ彼の部屋に足が向いてしまう。そして行ったら行ったで、月曜日に彼のマンションから出勤するまで入り浸ってしまうのだ。
流石に鬱陶しくないだろうか
そう我に返って、金曜に彼の部屋に行きたいのを我慢して自分の家に帰ってみることもある。
けれどそうすると、この前のことがあってようやく連絡先を交換した彼からメッセージが届くのだ。
『仕事忙しいのか?大丈夫か?』
まるで仮病を使っているのに気遣われているような後ろめたさから
『平気』
そう素っ気なく返事をする。
そして翌週の金曜日には「彼だって気にかけてくれてるんだし」と自分に言い訳しながら、ノコノコと彼の部屋へと向かってしまうのだ。
そんな訳で、今日もまた彼の部屋へと向かう。
でも今日の手土産は一味違う。
ちょっとお高いシャンパンだ。
たまたま今週末が彼の誕生日だと知ったので、奮発してみたのだ。
彼はビールやチューハイも飲むけど、それ以外のお酒も結構好きだから。
気に入るかな?
彼の喜ぶ顔を想像して、若干浮かれながらマンションのエントランスのロックを解除する。
これも最初は馴れ馴れしくないだろうかと思っていたのだけれど、彼曰く作業をいちいち中断させられるのが面倒くさいし、来客だと思うと緊張するから、勝手に入ってきてくれた方がいいらしい。
セキュリティ的にそれでいいのかと思ったけど、男の人だから感覚が違うのかもしれない。
「どうせおまえにしか鍵渡してない」
そう言われて思わず嬉しくなった自分の気持ちには、気づかない振りをした。
エレベーターのドアが開くと、誰かの話し声がした。
珍しい。いつもは静かなのに
そう思いながらエレベーターから一歩降りる。
声のする方を見ると、彼の部屋のドアが開いていた。ドアの陰に隠れてほとんど姿は見えないけれど、通路に髪の長い女の人が立っていた。その女性と話している、聞き慣れた彼の声。
軽く言い合い染みているけれど、酷く親しそうな雰囲気。まるでじゃれ合っているような。
…心を許し合っているのが、こちらにも伝わってくるような…
一気に指先が冷たくなって、反射的にエレベーターの下りボタンを押していた。幸いまだそこにいたようで、直ぐに開いたドアに飛び込んだ。閉まるボタンを何度も押してドアを閉め、一階のボタンを押す。
エレベーターが動き出して、思わず壁に寄りかかった。
誰…あれ…誰…?
心臓がバクバクと脈打つ。
凄く…親しそうだった…
彼の、迷惑そうな振りをしながらも決して突き放している訳ではない声音。それどころか、言い合いを楽しんでいるような…
特別な相手に向ける、遠慮の全くない口調。なのに優しい声……
私にだって…あんな風には……
心臓がぎゅっとなる。
これで終わり…かな…
あんな風に心を許せる女の人ができたなら、もう私はいらないよね…
ポーンと音がして、エレベーターが一階に着いた。力なく降りて、トボトボと集合ポストへと向かう。
鍵、今返してしまおう…
彼に返せと言われるのはキツい………
震える手で、ぎゅっと握りしめていた鍵をポストに入れた。
カツンと軽い金属の音がして、彼と私の関係は終わった。
多分、世間一般的にはセフレと呼ばれるものなのだろう。
でも私にとって、彼は決してそれだけの存在ではないし、彼も私の身体だけを必要としている訳ではない、…と思う。
たとえお互い、最初は身体だけを求めていたのだとしても。
正直、最近は少し戸惑っている。
彼と週末を過ごすことが当たり前になり過ぎて。
木曜日に今週末も行けそうだと思うと機嫌がよくなって、金曜日には仕事さえ問題なければ彼の部屋に足が向いてしまう。そして行ったら行ったで、月曜日に彼のマンションから出勤するまで入り浸ってしまうのだ。
流石に鬱陶しくないだろうか
そう我に返って、金曜に彼の部屋に行きたいのを我慢して自分の家に帰ってみることもある。
けれどそうすると、この前のことがあってようやく連絡先を交換した彼からメッセージが届くのだ。
『仕事忙しいのか?大丈夫か?』
まるで仮病を使っているのに気遣われているような後ろめたさから
『平気』
そう素っ気なく返事をする。
そして翌週の金曜日には「彼だって気にかけてくれてるんだし」と自分に言い訳しながら、ノコノコと彼の部屋へと向かってしまうのだ。
そんな訳で、今日もまた彼の部屋へと向かう。
でも今日の手土産は一味違う。
ちょっとお高いシャンパンだ。
たまたま今週末が彼の誕生日だと知ったので、奮発してみたのだ。
彼はビールやチューハイも飲むけど、それ以外のお酒も結構好きだから。
気に入るかな?
彼の喜ぶ顔を想像して、若干浮かれながらマンションのエントランスのロックを解除する。
これも最初は馴れ馴れしくないだろうかと思っていたのだけれど、彼曰く作業をいちいち中断させられるのが面倒くさいし、来客だと思うと緊張するから、勝手に入ってきてくれた方がいいらしい。
セキュリティ的にそれでいいのかと思ったけど、男の人だから感覚が違うのかもしれない。
「どうせおまえにしか鍵渡してない」
そう言われて思わず嬉しくなった自分の気持ちには、気づかない振りをした。
エレベーターのドアが開くと、誰かの話し声がした。
珍しい。いつもは静かなのに
そう思いながらエレベーターから一歩降りる。
声のする方を見ると、彼の部屋のドアが開いていた。ドアの陰に隠れてほとんど姿は見えないけれど、通路に髪の長い女の人が立っていた。その女性と話している、聞き慣れた彼の声。
軽く言い合い染みているけれど、酷く親しそうな雰囲気。まるでじゃれ合っているような。
…心を許し合っているのが、こちらにも伝わってくるような…
一気に指先が冷たくなって、反射的にエレベーターの下りボタンを押していた。幸いまだそこにいたようで、直ぐに開いたドアに飛び込んだ。閉まるボタンを何度も押してドアを閉め、一階のボタンを押す。
エレベーターが動き出して、思わず壁に寄りかかった。
誰…あれ…誰…?
心臓がバクバクと脈打つ。
凄く…親しそうだった…
彼の、迷惑そうな振りをしながらも決して突き放している訳ではない声音。それどころか、言い合いを楽しんでいるような…
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私にだって…あんな風には……
心臓がぎゅっとなる。
これで終わり…かな…
あんな風に心を許せる女の人ができたなら、もう私はいらないよね…
ポーンと音がして、エレベーターが一階に着いた。力なく降りて、トボトボと集合ポストへと向かう。
鍵、今返してしまおう…
彼に返せと言われるのはキツい………
震える手で、ぎゅっと握りしめていた鍵をポストに入れた。
カツンと軽い金属の音がして、彼と私の関係は終わった。
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