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135巴夫人の決意

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 輸送艦の訓練室内では、
ミイラと化した新選組傭兵の装備していた鱗甲冑と尾刃剣が黒く輝く中で、
赤い微粒子達はそれぞれに黒い輝きの中に向かっている。

 トーマス達は赤い微粒子達の動きを不思議そうに眺めていると、
鱗甲冑と尾刃剣にくっついた赤い微粒子達は、
細胞分裂を思わせる増え方をしていた。

 尾刃剣にくっついている赤い微粒子達は段々と増えていき、
黒い尾刃剣を包んでしまった。

 何万何十万に増えながら五十センチ高さの塊になると、
全ての赤い微粒子達は飛散していった。

 鱗甲冑の方では、
一メートルの高さまで赤い微粒子達の塊が出来上がっていて、
やはりすべて飛散していくと、
鱗甲冑は無くなってミイラと化した遺体だけが残っている。

 しかしながら、尾刃剣は赤い微粒子達が飛散して行った後、
グレー色に変色して形そのままで残っていた。

 ポールはグレー色に変色した尾刃剣を拾い上げると、
「めちゃ軽い。」
と言いながら振り回した。
振り回された尾刃剣は埃となって飛散した。


 牢獄看視責任者室に出頭した鹿島とサスケは、
次の赴任地へ行く旨を報告していた。

「デイブ、今回はよくやった。見事な事故死であった。
お館様も喜んでくれるだろう。
サスケに送らせるので、安心してコオル街へ向かってくれ。」
と、看視責任者は満足気味に鹿島に満面の笑顔を向けたが、
意味ありげか?サスケにニヤッと片唇をひきつらせた。

 鹿島とサスケは丸々とした首の短いエミューに引かせたそりに乗り、
針葉樹地帯の木々を器用に避けながら南に向かっていた。

「俺は、サスケを信用していいのか?」
「看視責任者は私にデイブの口止めを命じましたが、
すでにその指令は終わっています。
気になさらないでください。は、は、は、は。」
と、陰気な佐助の高笑いに、
鹿島は驚いたのか、つられるように笑い出した。

「サスケ、まだ釈然としないことがある。
お前は柳生を裏切ったのか?」
「私の命はお館様次第です。」

「柳生の草が俺の命を狙ったのに、なぜ助ける。」
「閣下を守れ。とのお館様から指令を受けました。」

「よくわからん。宗矩殿は何故に俺を守れと指示したのだ。
理由を知っているのか?」
「理由は簡単です。
閣下様が洒落では済まされない有罪判決を受けたのを知ったお館様は、九つの徳の義を、心の重き物としているので、
命の義理を受けている閣下様への、裏の陰謀を見抜いていた様子で、
丁度里帰り中であった私に閣下の護衛を命じたのです。」

「宗矩殿は、相反する二つの指令を、なぜに出したのだ?」
「これは私の推測です。
ガイア教会の指示で動いているジューベー様の指令と、
お館様の指令が相反したのかと。」

「ジューベー殿が、俺の暗殺を行わせた黒幕だと聞こえるが?」
サスケが黙り込んだので、
鹿島はそれ以上の追及をすることはなかった。

 鹿島達は見通しの出来ない吹雪の中で、
大きな木の下に穴を掘って休んでいると、
「提督閣下はここらにいるはずだ!」
と、ハービーハンの声を鹿島は聞き取り、

「ハービーハン司令官。ここだ!」
と鹿島は叫んだ。

「閣下、良かった!
パトラ様からの連絡で閣下のいる方向に向かっていたら、
急な吹雪で難渋してしまい遅くなりました。」
「有難う。助かった。」

 ハービーハン司令官は鹿島の耳元で、
「首席行政長官から報告があるそうです。」
と、小声で伝えたのちに、
ハービーハン司令官は部下にテントの設置を指示した。

 設置されたテントの中で、鹿島とマーガレットの会話は、
ハービーハン司令官の持ってきた通信機により、
銀河連合語にて会話のやり取りがなされていた。

 マーガレットはパトラが逮捕された事と、
救出されてる最中に聖騎士団が輸送艦を襲撃に来たが、
両方とも損害はなかったと報告した。

「今回の騒動は、ジューベーが黒幕のようだが、
どこまで調べはついている。」
「そのジューベーと手配中のショーセツなる者が、
第一海兵団と合流しました。」

「最終黒幕は、イエミツか?」
「まだ全体は掴んでいませんが、
第一海兵団は二手に分かれて、進撃しだしています。」
「内乱か。」

 マーガレットが黙り込むと、
「迎え撃つ準備は出来ています。」
と、トーマス元帥が話し出した。

「ビリーはどこまで知っている。」
「こちらの知っていることはすべて知らせました。」

「難しい立場に立たせたな。何もするな、動くなと伝えろ。」
「伝えてあります。」
「俺も念を押しとこう。」
「お願いします。」
と、鹿島とトーマスの会話が終わるや、
ビリー知事の声も飛び込んできた。

「隊長。有難う御座いました。
メイディは守る魔石に救われまして、双子の赤ん坊を授かりました。」

「おおお。おめでとうございます。で性別は?」
「男の子と女の子です。」
と、メイディの容態よりも子供の話題を優先しだした。
ぐわばら、くわばら。

 ヤン海軍元帥と巴夫人は互いに、黙り込んでいる。
巴夫人は大きく息を吸い、
「お父上様に、やはり会って、阻止しなければならない。」
と、立ち上がると、

「大きな石が下り坂へ落ちてしまったのだ、不可能だろう。」
「愛するあなたとならば、何でもできる。
たとえ命が尽きようと、
この幸せを邪魔する奴はお父上様であろうと、許さない。」
と言って部屋を出ていき、鱗甲冑にガンベルトを装着して現れた。

「蘭丸!元帥様の鎧を持って来い!」
と、巴夫人は部屋ドアを開けて怒鳴った。

「何をするつもりだ。」
「愛する人と友人たちの立場は理解している。
だからこそ、わらわが父を阻止する。」
「俺は隊長とトーマス元帥に、
巴を失うような行動はするな、動くなと指示されている。」

「愛する人よ、あなたは見てるだけでよい。
これは、わらわの立場を理解しなかった父の責任です。
責任は取ってもらいます。」

「俺は海軍元帥を捨てても構わないが、巴を失いたくない。」
「わらわも愛する人の心を失いたくない。失うのは怖い。」

「無茶なことはするなよ。」
「父上様次第です。
結果がどうなろうと、愛する人よ、
あなたは決して父上に手出ししないでほしい。
愛する人が一生涯後悔しながら、
私を見つめる寂しい目は見たくない。」
と、巴夫人は何かを決断した笑顔をヤンに向けた。

 ビリーと巴夫人に蘭丸は、
第一海兵団が火州との境で野営しているのに追いついて、
イエミツの居るゲルに入った。

「父上様。軍を引いて、司令官職を辞任してください。」
「これは婿殿へのプレゼントだ。」

「わらわが欲しがらないものを、わらわの愛する人も欲しがりません。お父上様をわらわがここで止めなければ、
お父上様が亜人協力国との戦闘になりでもしたら、
わらわの愛する人の心に後悔の念が生まれる。そんなのは嫌だ」

「既に閣下は事故で死んで、王宮も制圧されたとのことだ。
何の憂いがある。」
「提督閣下様は生きています。
王宮を襲撃した聖騎士団は、解散しました。」

 ショーセツは解放されてるゲルに入ってくるなり、
「何処からそんなデマを。」
と、笑い顔で現れた。

「お前が何でここにいる!」
「私は軍師だからです。」

「お前が軍師なら、誰でも軍師を名乗れるわ。」
「助平野郎を犯罪奴隷に陥れたことや、
聖騎士団、モーリ殿、柳生の草、
そして、第一海兵団指揮するイエミツ司令官様。
それをまとめた俺の功績は大きい。」

「お前が糸を引いたと!」
「糸を引いたなどとは、畏れ多い。裏で知恵を貸してやっただけだ。」

「この悪霊が!蘭丸。手配中のこやつを捕らえろ!」
と巴夫人が叫び、蘭丸がショーセツに組しようとすると、
イエミツは鞘を二人の間に差し出した。

「父上様。こやつは手配中の犯罪者だ。」
「これショーセツは元日出国の犯罪者だが、
元国王として既に恩赦を与えている。」

「ゆるせん!父上様わらわと立ち会え。」
イエミツは鋭い眼光で巴夫人を見つめて、

「巴。なんで俺の大望を邪魔する。」
「大望?」

「若き頃からの夢であった、天下取りの大望だ。男なら一度は目指す。」
「周りの希望を踏みつけたうえに、
三日天下さえも叶わない愚かな行為だ。」
と、巴夫人に罵倒されたイエミツは、
怒りを秘めた鋭い眼光だが静かに立ち上がると、
「立ち合い受けよう。」
と言って、
蘭丸とショーセツの二人の間に差し込んだ剣を持ち直すとゲルの外へ出た。

 巴夫人は尾刃剣を発動させるのを忘れているのか、
白刃のままで正眼に構えたが、
イエミツも中段に構えると、巴夫人は天の構えに切り替えた。
「巴やめろ!」
と、ヤンが声をかけるが、
その声は巴夫人には聞こえてなさそうである。

 イエミツは中段に構えからそのまま走りながら剣を突き出してきて、
迎え撃つ巴夫人はイエミツの頭上に白刃の尾刃剣を振り下ろした。

 二人の相打ちを予感したヤンであったが、
二人の刃の間に影が飛び込んできた。

 飛び込んできたのは白石であった。
イエミツの剣は白石の背中を突き抜けて、腹の上部から刃先が出た。

 巴夫人の白刃の尾刃剣は白石の肩に食い込んでいる。

「叔父上様。なして!」
と巴夫人は尾刃剣を握りしめたまま叫ぶと、
「兄上様も巴姫様も酔狂が過ぎてます。
兄上様をお止め出来なかった責任は私です。
兄上様、演習はここまでです。」
と言って、目を閉じた。

 イエミツは立ち上がると、
「今回の演習はここまでである!
直ちに演習場へ帰ってまた訓練だ!」
と、イエミツの下まぶたには涙が溜まっていた。

 又もや、ショーセツは雲を霞と三八歩兵銃を持って逃げ出していた。

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