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123モーゴー国との決戦

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 人は落ち込んでいる時や高揚している時には、
得てして判断を間違える時がある。

 全てを賭けて「今が機会だ!」と思って動き出したい時には、
自分を過信していないか、多くの賛同を得られるかを判断すべきである。

 全てを賭けて、判断を間違えた時の重さをも考えてみるべきである。

「全軍突撃せよ!」と叫んだ張飛馬将軍も、
何を根拠に自軍より多い砦内に対して、
勝算があるのかを判断すべきであった。

「無防備な心に災難がかくれて居る。」的な感じの大惨事が始まった。

 張飛馬将軍は、七万の強力な火力を所持した砦部隊に、
無防備な五万だけの微弱な剣だけの兵で突入させた。

 駆け出したフタコブエミューの足は、
前方の惨事など気にしないかのように我先にと突進していくが、
砦の中の広場に駆け込んだ機動車輌隊の入った奥の扉は閉まっていて、広場の中ではすでに惨劇が始まっていた。

 砦周りにひしめいてくるモーゴー国兵は、
砦からは容易い的でしかなかった。

 近衛師団の機動車輌とエミュー隊は、
砦に逃げ込んだ入り口の逆側扉を開けて砦の外に出ると、
持ち上がらない扉を混乱しながら踏みつけているモーゴー国兵の後方から攻撃しだした。

 張飛馬将軍は、
義兄の関羽馬将軍が捕らえられたと聞いた時にも信じられなかったが、これほどの戦力差を見て孔明の忠告を思い出した。

「亜人協力国軍に総攻撃を行おうと言い出す者達が出るであろうが、
はやる者達を抑えて、伸び切った隊列の後ろを散発的に攻撃しろ。
亜人協力国軍の前進を阻止しながら相手を疲れさせろ。」
と張飛馬将軍は、
孔明に人の上に立つ者の心得をも忠告されていたが、
自らがはやる者であったと理解してはいなかった。

 張飛馬将軍は恐怖した体に、
熱い何かが刺さったと感じた時に視界はすべて真っ暗であったが、
干からびた男の絵が表れわされると意識がなくなった。

 狙撃銃の弾丸は張飛馬将軍の胸を貫いていた。

 近衛師団の築いた砦は墓場なると張飛馬将軍が予想した通りに、
埋まった者等は予想と違ったが墓場とはなった。

 砂漠に心地よく吹く風は、
フタコブエミューの蹄の舞い上げた砂漠の埃を遠くまで払ってくれたが、殆どの埃は倒れた者たちを慰めるようにその体を覆っていた。

 近衛師団の多くを占める初年兵は、累々たる屍を正視したくないのか、
仰向けに倒れたエミュー等や、
うずくまっているエミュー等の、
救い願いの弱々しい鳴き声から逃げるためか、
墓場とはなった砦から遠ざかるように急ぎ足で行軍しだした。

 近衛師団は第五第六師団が対峙している、
五十万のモーゴー国軍本隊十キロ後ろまで迫っていた。

 鹿島にコーA.Iから、
第七師団の機動車輌二十五台が二万頭のフタコブエミューを追って近づいて来ている事と、
猫亜人工科部隊が五十台のトラックにて、
三本の木材をひもで結んで組み合わせた三脚多数と、
有刺線を持って向かったとの連絡をもなされた。

 鹿島は直ぐに、近衛師団に溜池を作るよう指示した。

 水の匂いに釣られて、二万頭のフタコブエミューは溜池に殺到した。

「第七師団とはぐれてしまいました。
恥ずかしながら、近衛師団で我等を預かって頂きたいです。」
と、第七師団機動車輌中隊長ホイール大尉が白々しく言い放ったのには、鹿島も苦笑するしかなかった。

 鹿島はモモハラ草原の戦い方の防護柵と同じ構造の抜け道を想定した、三脚と有刺線を組み合わせる為の柵を持ち、
長さ十キロにも及ぶ、
三列横隊陣形で五十万のモーゴー国軍本隊に向かった。

 近衛師団の前に、頻繫にモーゴー国軍の偵察部隊が現れるが、
全ては遠距離狙撃か、
機動車輌とエミュー隊の追撃によって壊滅させられた。

 モーゴー国軍総括軍師孔明は三分の計を思い定めて、
オトロシ国の国境に来たはずであったが、
国境に着いた時には既にオトロシ国は亜人協力国に併合されていた。

 三分の計の思案は敵対しているどちらか一方と同盟を組んで、
互いに疲れあったならば、
二国とも征服する目的予定が根本から無くなったばかりか、
モーゴー国軍のみで最強国の亜人協力国と対峙してしまった。

 軍師孔明は、今更講和は無理であろうと思えて、
降伏か退却かを悩んでいた。

「軍師殿、いつまでここにとどまって居るのですか、
とどまっている間に敵は増える一方です。」
と、趙雲が怒鳴った事で、
進む事も退却もできない状態になってしまったと軍師孔明は感じた。

「全軍で後ろの敵を討つ。」
と孔明は気持ち裏腹に号令した。

 趙雲率いる五十万の兵は、
近衛師団前方二百メートル先の三脚を連結した防護柵に向かった。

 三脚を連結した防護柵は機能を発揮して、
先頭集団のエミュー隊の足に絡まると、
五十万のエミュー隊の突進を混乱させた。

 近衛師団は混乱しだしたモーゴー国軍を囲むように、
両端の部隊は、
三脚を連結した防護柵を持って変形鶴翼の陣U字形に陣形を変化させた。

 第五第六師団は、モーゴー国軍が近衛師団に向かったのに気が付いて、モーゴー国軍の後を追撃しだしていた。

 カナリア街出身のシュワルル連隊長は、
囲みの外側から千予のモーゴー兵が国軍旗と本陣御印をたなびかせて、
逃げ出して行くエミュー隊に気が付いた。

「テール!逃げ出して行くエミュー隊を追う。機動車輌隊に乗り込め!」
と言って、シュワルル連隊長預かりの、
近くで機関砲を射続けている第七師団機動車輌隊長ホイール大尉の機動車に乗り込んだ。

 千予のモーゴー国軍旗をたなびかせて逃げ出して行くエミュー隊を、追っていたシュワルル連隊長の乗った機動車輌は、
岩場に差し掛かると岩に道をふさがれて、
前進することができなくなった。

 立ちふさがった岩には{淫乱シン.カジマの墓}と書かれていた。

「淫乱でスケベな亜人協力国の指導者に仕えている不義の子供等よ、
もうあきらめたか?」
と、岩場の影から声が聞こえてきた。

 カナリア街出身のシュワルル連隊長と中隊長は、
機動車輌から飛び降りて岩の先に飛び出すと、
「慈愛深いガイア様の加護を受けた、
閣下様を侮辱するやつは許さん!出て来て勝負しろ!」
と、シュワルル連隊長が叫ぶと、二人に千予の矢が向かってきた。

 シュワルル連隊長とホイール中隊長は、楯を片手に機動車輌に戻ると、機動車輌に乗り込んで来ていた二百人の歩兵銃隊にも矢の雨は降り注いでいた。

 機動車輌の通って来た通路は、すでに岩によって塞がれていた。
「全員銃剣を装着!」
と、万事休すと感じたシュワルル連隊長と中隊長は同時に叫んだ。

 楯と岩に機動車輌を楯にした二百人の歩兵銃隊にはまだけが人はいないが、
反撃しようにも、敵は岩の影から矢を絶え間なく打ち込んでくる。

 鹿島はコーA.Iからの連絡で、
カナリア街の少年たちが窮地に陥っていると知らされた。
少年たちにもしもの事があったならば、
ジョシュー知事に合わす顔がないと感じた鹿島は、
そばの軽機動車輌に乗り込むと、自ら運転して岩場に向かった。

 鹿島は軽機動車輌を目一杯駆動させるが、
砂漠の砂は軽機動車輌の加速を邪魔しているので、
駆け出た方が速いと感じたが、
けが人がいたときの為にそのまま進ざるを得なかった。

 鹿島が岩場に着くと、
モーゴー国軍はすでに機動車輌の二十メートルにまで迫っていて、
機動車輌隊にはかなりの負傷者も見受けられた。

 鹿島は無謀と思える千予の矢の中に飛び込んだ。

 鹿島の発動した尾刃剣は、
岩に隠れている者たちを岩ごと叩き切って行く。

 鹿島に向かってくる矢は鹿島を避けていくだけでなく、
怖れるように足元に落下した。

 カナリア街の少年たちと二百の銃撃隊は鹿島を唖然として観ている。

 鹿島に千予のモーゴー国軍が殺到したが、
鹿島は千予のモーゴー国軍兵の間を泳ぐように、そして舞うように、
所かまわず身二つにしながら切り込んでいく。

「鬼だ!」
とモーゴー国軍兵の誰かが叫ぶと、
千予のモーゴー国軍兵の残りは我先に逃げ出した。

 カナリア街の少年たちと二百の銃撃隊は我に返ったように、
逃げ出したモーゴー国軍残兵に向かって銃弾の雨を降らした。
 
 矢を受けた二百の銃撃隊は、
各自の持参している万能傷薬で治療を始めだすと、
「閣下様。有難うございました。この不始末は私の責任です。
皆は私の命令でここにいます。」

「よく生き残った。生き残れた事は褒められるべきことだ。」
と鹿島は上官の言葉で、独自で動いた責任負担を安堵させ、
生き残れた誇りを待たせたが、
鹿島にすれば、カナリア街のジョシュー知事に吉報でもするかのように、
胸をなでおろしていた。

 U字形に陣形の中で趙雲は奮闘したが、
如何せん、突進していく先は混乱しているばかりで、
敵の足元にも届かない有様であったが、
軍師孔明が無事に落ち延びたのを確認すると、
手薄になった端の方へ突進したが、
エミューの足が何かに絡んで横転してしまった。

 趙雲は立ち上がると、見えない矢が刺さったと感じた。
刺さってくる数を十まで数えられまで耐えったが、
息を吸い込む力は弱くなり意識も薄れていった。

 鹿島は第五第六師団に追撃を指示すると、
ポールの第七師団に連絡して、モーゴー国都平京に向かわせたが、
既に平京は隣の弱小国家と言われているチベルトガイア教国によって制圧されていた。

 チベルトガイア教国は、テテサ教皇に付属国願を出していて、
亜人協力国との併合には秘密の通信機を使って同意していた。

 ポールの第七師団は、
次の知事が決まるまでモーゴー国都平京に向かえとの指令で、
モモハラ草原入り口で別れた胸に宿ったミーテラ女神が向かった神降臨街へは、
ポールは美のヴィーナスの面影宿るミーテラ女神と共には帰れなかった。
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