上 下
116 / 181

113聖騎士団団長兼司法長官メイディ

しおりを挟む
 草原を走る十車輌ディーゼル機関車の中はにぎわいである。
特にテテサ教皇の乗っている車両は大にぎわいである。

 お腹が大きくなったテテサ教皇の四人の世話役に指名された双子の修道女は、
テテサ教皇をそっちのけで鹿島の世話で大忙しである。

 双子の修道女は他の修道女に注意されるが、
どこ吹く風と気にするそぶりも見せない。

 鹿島の居る個室寝台の隣はテテサ教皇で、
二人の個室を挟むように二人部屋には世話役室がある。

 テテサ教皇車輌の前後個室寝台には、
トーマス元帥とビリーも乗っていた。

 前後車輌の個室は残りの元陸戦隊が乗っている。

 トーマスとビリーの個室には、
両隣の車両から訪問した元陸戦隊が廊下まであふれているが、
たわいない話から深刻な結婚話まで飛び交っている。
 
 鹿島の個室に双子の修道女のどちらかが訪問している。

「伴侶様、私とトートーを見分けられるようになりましたか?」
「顔も声も同じなので無理。」
「胸の大きい方がわたしです。」
と鹿島の手を掴み胸に押し付けたと同時に、
後ろから現れた世話役責任者の司祭長の鉄拳がヨーヨーの頭に落ちた。

「貴方は毎日ガイア様の前で九つの徳を唱えてないでしょう。」
と、一気にしゃべった。

「唱えています。」
とヨーヨーはか細い声での不満顔である。

「九つの徳の節はどこ?」
「あ~厨房室で落としちゃったかも?」
とヨーヨーは鹿島の前席を立ち上がると、厨房室の方へ逃げていった。

 世話役責任者の司祭長は、
ヨーヨーの温めていた席を軽蔑気に一瞥(いちべつ)して鹿島をにらみつけると、
「閣下も節操を落とし過ぎです。」
と司祭長は鹿島を伴侶様とは呼ばずに暗に批判した。

「突然すぎた。」
「テテサ教皇様の思案の弊害が出たのね。教皇様に苦情言っておくわ。」
「テテサ教皇に告げ口すると?」
「告げ口ではありません。九つの徳を説いて頂きたいと申告するのです。」
「すべては無理だろう。」
「可能です。」
と言って、鹿島の個室の解放されたままのドアを閉めて出ていった。

 今回の救出救護作戦においては、
テテサ教皇の演技力に左右されるだろう。

 主役テテサ教皇は、
演説の下準備と演技の練習で豪華個室にこもりっきりである。

「お邪魔します。俺です。」
と、鹿島は気恥ずかしさ気に、テテサ教皇個室のドアを開けた。

「いらっしゃい~。ごめんなさいね、かまってやれなくて。」
と、テテサ教皇はお腹に手を当てて、椅子を回転させながら振り向いた。

「無理していませんか?」
「大丈夫です。演説の下原稿に悩んでいたが、
オモイ司祭長から九つの徳を信者に理解して貰い、
実行させるべきと進言されたのでうまく纏まりました。」

 如何やらテテサ教皇の頭の中では演説の下原稿だけが占めていて、
オモイ司祭長からの苦情を進言と勘違いした様子である。

「オモイ司祭長は、名前通りの重たいうえに堅物だとの印象ですが?」
「私が真ガイア教司祭長とは両極端の、
堅物で正直な司祭を探していると言ったら、
マーガレット首席行政長官はそんな司祭長を知っていると、
カントリ国との裁判に証人として証言したオモイ司祭長を進めました。」
「確かに。適任者だ。」
と、云いながら鹿島は胸を撫で下ろした。
 
 ヒルルマ司令官の宣告から一晩明けた早朝に、
亜人協力国軍はコオル街の外側城壁門前に整列している。

「司令官。コオル街からは何も返事がないですね。
爆裂弾丸を打ち込みますか?」
「もう直ぐ閣下やテテサ教皇様が着くだろう。暫し待とう。」

 一際目立つ黄色い半纏(はんてん)を着こんだ、
エミューに乗った伝令がヒルルマ司令官のそばに駆け寄り、
「総督閣下様がお着きになりました。」
と息を切らして機関車が着いた事を伝えた。
 
 テテサ教皇を護衛するように、
馬に乗った元陸戦隊は鹿島を先頭に外側城壁門前を目指して来ると、
後ろからメイディとエミュー騎士団三百人に、
耳長種族の騎馬隊千頭が続いている。

 騎馬隊千頭の耳長種族戦士は、
銃剣を装備した銃を背中にしょっていて、
腰には拳銃を付けているのは全員が将校であろう。
 
 外側城壁門前には、
高さ二十メートル程の大きな車輪を付けた櫓が設置されている。

 櫓の中央には四角い箱が置かれていて、
箱を吊るす様に太いロープが付けられている。

 四方の櫓には歯車式レールが取り付けてあるのは、
四角い箱はエレベーターであろう。
 
 ビリーとポールにタゴールが箱に乗り込むと、
安全装置フックを箱の上部に固定した。

 ホルヘの乗った重機動車輌はゆっくりと前に進んで、
櫓の上から伸びているロープを引いた。

 箱も重機動車輌の動きに合わせてゆっくりと上昇していくと、
櫓の中ほどで止まった。

 重機動車輌が止まると、
ゆっくりとバックしだしてロープを緩めている。

 ロープは緩んではいるが、箱は落下しないで止まったままであるのは、歯車式レールの機能で停止を防いでいるようである。

 また一つ技術の進歩があったようである。
 
 櫓の上にビリーとポールにタゴールは残り、
鹿島とテテサ教皇は箱に乗り込んで上昇した。

 鹿島とテテサ教皇が櫓の上に並んだ時に、
救援と称したフィルノル国エミュー隊が丘を駆け下りて来て、
第二師団と城壁の間に割り込むように突進してくる。

 黄色い半纏(はんてん)を着こんだ伝令が、
フィルノル国エミュー隊を阻止するように駆け出した。

 伝令の後ろからメイディも駆け出している。
「あら、メイディの弟が来たのね。」
とテテサ教皇がつぶやくと、
「メイディの弟?」
と鹿島は驚いている。

「メイディはフィルノル国の元公女です。」
「元公女とは?」
「現フィルノル国王には子供がいないので、王の弟が皇太子らしいが、その弟がメイディの父親だそうです。
メイディは第三継承資格者であったのですが、
それを放棄していて、弟が第三継承資格者になったようです。」

「なんと、これもガイア様の導き?」

 フィルノル国はオトロシ国から攻め込まれて滅亡一歩手前であったが、
オトロシ国と亜人協力国が戦争状態になった事で、
オトロシ国軍はフィルノル国から引き揚げて行ったので、
フィルノル国は滅亡から救われていたとの報告を、
鹿島とテテサ教皇も受けていた。

「メイディはガイア様と亜人協力国に感謝しています。」

 黄色い半纏(はんてん)を着こんだ伝令と、
フィルノル国指揮官らしき若い将軍がもめている間にメイディは割り込んで、
「メイドーム!私の伝言を無視して、
何故にテテサ教皇様の邪魔をする!」

「これは姉上様。お久しぶりです。
亜人協力国の援護には感謝していますが、
オトロシ国に攻め込む一番槍は我等にも有ります。」

「ない!ない!絶対にない!
テテサ教皇様の奇跡を起こす邪魔する権利はない!
ガイア様の加護で救われたフィルノル国はガイア様に立て付くと滅亡するだろう。」

「テテサ教皇様の奇跡と滅亡?」
「それを知りたいのであれば、軍を下げよ!」
 
 メイディとメイドームのやり取りの中強烈な爆裂音が響いた。

「奇跡の始まりだ!メイドーム命が欲しくば、
巻き込まれないように引け!すぐに失せろ!後は知らん!」
と言ってメイディと黄色い半纏(はんてん)を着こんだ伝令は、
テテサ教皇の居る櫓のもとへ駆け出した。

 メイドームは、
「奇跡?滅亡?」
とつぶやいてはいるが、奇跡と滅亡の意味が分からなくて、
思考は停止している様子である。

 目の前の城壁への爆裂が始まると、
メイドームの乗っているエミューが勝手に逃げ出したので、
たずなを操って本隊に合流した後に正気になったのか、
恐怖からか、軍を後退させだした。

 機動車輌に積み込まれているレール砲から発射された爆裂弾丸と、
二百丁大砲の威力は凄まじさであった。

 三重の防壁は三百メートル幅に更地になって、
崩された瓦礫により堀の役目も果たさなくなっている。

 三台のブルドーザーは、
テテサ教皇と鹿島達の乗った櫓の前をきれいに整地しだした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...