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100柳生領地迎撃戦

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 神降臨街教会で鹿島が案内された部屋には、
テーブルとソファーだけが置かれている殺風景な部屋である。
若い修道女が緑茶とクッキーを鹿島の為に用意してくれた。

 鹿島のタブレットパソコンの画面では、
柳生領地と火の国の国境ではすでに戦闘が始まっている。
柳生国境守備隊五百兵に対して、
二万の火の国兵は怒涛の勢いで国境を越えて柳生領地へ攻め込み、
その地を地盤に日出国を攻め込む計画だろう。

 火の国は愚かにも自国の防衛をおろそかにして、
主力師団を日出国に振り分けているようで在る。
 
 二万の火の国兵は圧倒的に多い自軍を過信して、
個別の隊にて連携もなく柳生国境守備隊に攻撃している。

 柳生五百兵は敗走を装いながら、
巧みに二万の火の国兵との距離を維持しつつ、
得意とする影からの攻撃ができる予定の森に誘い込んでいる。

 森に誘い込まれた二万の火の国兵は、
薄暗い木々の間で右往左往している。
柳生五百兵の作戦は影からの攻撃であり、
はぐれた火の国兵を確実に倒していく。

 既に火の国国境を越えていたヒルルマ第二師団の一部エミュー隊89式5,56mm連発小銃銃装備の五千人と、
機動車両に無反動砲を積んだ五台も並行している。

 陽がまだ高いうちに、二万の火の国兵の背後に追いつけそうである。

 塩の国兵と鉄の国兵三万も国境を越えて、
柳生領地の砦に進撃しだした。

 陽が落ちる頃には砦に着くであろうが、
作られたばかりの砦には、
最強部隊イアラ率いる攻撃型ヘリコプター五機の搭乗員は、
闘争心に溢れているが、
設置している砲台二十門と、
わずかな百にも満たない銃撃隊だけが残っているだけだ。

 鹿島は砦向かい側の丘に、青い矢印がでているので拡大すると、
エルフエミュー銃撃隊千人は、
強力な64式7.62mm小銃を持って、丘の上の森に潜んでいる。

 大胆にも砦をおとりにした少数にての迎撃包囲作戦のようである。

 関が原方面を見ると、
砦を指揮すべきはずのハービーハン司令官率いている64式7.62mm小銃を持った三千の騎馬隊と、千人のエミュー銃撃隊が、
何故か関が原方面に向かう日出国帝軍を追っている。

日出国での当初作戦に変更がなされたようである。
トーマス元帥の性格を思うと、
有利な通信機器を持っているので常に臨機応変の結果であろう。

 皇王軍はどうやら野営地を早めに設置中のようで、
明日の朝早くに関が原に着くと、天下分け目との意気込みのようである。

 トーマス元帥はヤンの立場を後押しするために、
関が原戦では圧倒的な強さで勝つつもりのようだ。
ハービーハン司令官率いる騎馬隊の投入はその合力の為である。
 
 鹿島の居る部屋のドアがノックされて、
双子の修道女は別れの挨拶に来た。
「伴侶様、残念ながら、
私達はけが人の看護で、戦場に行かねばなりません。
お別れの挨拶にきました。
火の国にいらしたならご連絡ください。
火の国教会では色んな歓迎します。期待してください。」
「特に私から。」
「姉の私が先でしょう。」
と、意味不明な挨拶をしながら、
鹿島に出されているクッキーを代わる代わる手を出して食べてしまった。

 鹿島はけが人の看護で、戦場に行くとの理由を詳しく聞くと、
回復魔法の使える者が医術教育校の生徒を引き連れて、
戦闘後のけが人や病人の治療実習を行うようである。

 その際の指導回復師として、
その地区の教会治療修道士が指導するようである。

 日出国都教会での多くの娘たちと、
火の国エンドリー街双子の修道女による鹿島の受けた失禁洗礼は、
このためのテテサによる事前の計画であったようだ。

 治療実習移動には、エアークラフトが使われるようで、
要約、エアークラフトが今回の戦闘で使われていない原因に納得した。

 自分の頭ではこんな先読み等出来ないと、
また運営委員会の戦略的行動力を鹿島は知らされた。

 失禁洗礼は鹿島の下心の遥か先で、運営委員会の思案であったことに、鹿島の心は恥ずかしさで少し折れた。

 鹿島の下心を運営委員会の女殿達に見透かされ、
利用された挙句失禁洗礼を受けたことで、
泣きたくなるが我慢したようである。
いや、心折れたままではいけないだろうと、
すべてを忘れると思い直した様子である。

又もや下心を持ったことを恥じて、
反省している神様見習いの鹿島である。

 四方一キロメートル前後の森の中に、柳生軍に誘い込まれた火の国兵二万が突入していく。

 火の国兵は柳生軍の気配を追って、
藪の茂みの中に潜んでいる柳生軍を囲むが、
手薄となった部分を突破されて、影を利用してその背後に回り、
殺傷したのちに消え去る事を柳生軍は繰り返す。

 森の中では彼方此方で、罵倒と断末魔の悲鳴が起こり、
火の国兵がその場に駆け付けると、
その場には、
火の国兵の血まみれで倒れた仲間の死体と、
負傷者だけが残っているだけである。

 二万の火の国兵は、
わずか五百のジューベー指揮する柳生軍に翻弄されながら、
奥へ奥へと誘い込まれていく。

 火の国指揮官は、
「このまま森を抜けて、柳生一族を根絶やしにしろ!」
と、二万の兵の力を過信しているのか、
翻弄しながら逃げてく柳生兵に怒りを表にしている。

 火の国指揮官の鼓舞する掛け声は虚しく、
更に二万の火の国兵からの罵倒と断末魔の悲鳴は止む事無く続き、
柳生一族は森に隠れて手薄な所に襲い掛かった。
それは火の国兵が森を抜けきるまで続いた。

 辛うじて柳生一族からの攻撃を受けなかった火の国兵は、
ようやく森を抜けると、
遠くの崖下に楯を並べた柳生一族の陣を確認した。

 ジューベー指揮する五百の柳生軍は森から抜けると、
楯を並べた柳生陣内に駆け込んでいる。。

 火の国指揮官は、ジューベー指揮する五百の柳生軍を、
無整列に追尾している自軍の兵を呼び止めるかのように、
「隊列を組め。」
と、周りに聞かせるように大声を上げた。

 このまま追跡して行けば、
個別に矢の雨を受けてしまう恐れに気が付いたようである。

 火の国指揮官からすれば、
格段に違う兵の数で力押しにしていけば容易い相手である。

「無駄な消費をしてしまいやがって。」
とつぶやく火の国指揮官は、自軍の整列の遅さにいら立ちしながら、
「各隊長は部隊をきちんと整列させて!列を乱させるな!」
と、森での失態を暗に批判して百人隊長達指揮官に怒鳴っている。

 ヒルルマ第二師団の一部89式5,56mm連発小銃エミュー隊五千人は、既に森の入り口に差し掛かっている。

 小銃隊五千人は、エミューを降りてクツワを掴み森の中に入り、
機動車両の道をも切り開きながら、慎重に進みだした。

 火の国指揮官は柳生陣を見て、
「愚かにも二万の兵に対して、崖を背にして背水の陣のつもりか?
愚かな。所詮暗闇だけの戦いしか知らぬ忍び稼業者だ。」
と、自信ありげに周りに吹聴している。

 火の国二万の兵は、
矢よけ大楯を持った重甲冑に身を包んだエミュー隊を前列に配してゆっくりと進み、その後ろに弓矢隊が付いて行く。

 弓矢隊の後ろには整列した長槍部隊が続き、
その後ろには、小さ目の楯と抜刀した数多くの甲冑歩兵が続いている。

 甲冑歩兵は揃いの装備なので徴兵や奴隷兵士ではなく、
訓練された職業正規兵だけのようである。

 弓矢隊が前列に出て、暫くの期間双方から矢雨の応酬が続いたが、
矢屛風を払いのけて、
矢雨の中を火の国重甲冑隊はエミューで疾走しだした。

 その後を追うように、
火の国二万の長槍部隊と甲冑歩兵は一斉に後を追った。

 重甲冑エミュー隊が疾走しだした時、
柳生陣からの矢の飛来がぴったりと止まった。

 火の国重甲冑隊は、柳生陣の矢屛風を踏み倒して乱入したが、
既に無人の陣であり、打ち捨てられた弓だけが残っていた。

 狼狽している火の国重甲冑隊に向かって、
崖上と崖中腹から長い銃剣を装備した、
二千丁の三八歩兵銃が火を噴いた。

 柳生軍が火の国兵を森の中で混乱させたかいがあったので、
ヒルルマ第二師団の一部は戦闘に間に合い、
柳生陣からの銃声を確認出来たので、
機動車両搭載の無反動砲が火を噴いた。

 森の中から連発小銃撃隊五千人と、
機動車両の無反動砲は成果を競うようにさく裂した。

 戦場は、
柳生陣とヒルルマ第二師団との連携部隊による、
一方的な殺りく場となっている。

 火の国指揮官は、
亜人協力国の魔法の武器の噂は聞いてはいたが、
膨張された噂話だと思っていた。

 一方的な殺りく場となってしまっている自軍状態を、
噂話は現実であったと思い知らされて、
飛来する爆裂弾にわが身を守るのが精いっぱいなのか、
指揮を放棄してしまっている。

 真っ先に全滅したのが弓矢隊で、
背後の第二師団への矢は届かず抗すべき手もなく、
ただ最後尾に整列している標的だけの的であった。

 重甲冑隊は何とか崖に取り付こうと突進するが、
身の重さに動きが鈍く、
柳生軍二千丁の三八歩兵銃の重甲冑を貫く威力の前では、
簡単な標的になっていた。

 火の国二万の兵は陣形の塊のままなので、
その中あたりに無反動砲砲丸が絶え間なく炸裂する。

 他の陣形から逃れた者同士は鉢合わせに合流し合い、
塊となったところに更に砲弾が打ちこまれるので、
多くの死傷者があふれていく。

 既に森から出た銃撃隊五千人は、鶴翼の陣を終えており、
塊から逃れた者達をも完全に囲み終わっている。

 火の国二万の兵は、
銃兵に肉薄することもできないで、既に全滅しまいかけていたが、
長い銃剣を装備した柳生軍は、更に追い打ちをかけて、
まだ逃げ惑う兵を追いかけ殲滅している。

 柳生軍は、
負傷して倒れているまだ息のある者共等をも串刺しにしだした。

 柳生軍を指揮する宗矩としては、
早くこの戦場から離脱して関が原に行かなければ成らない事情から、
残酷な行為は治安維持の為に、敵の生存者を残せなかったのである。

 ヒルルマ第二師団の一部エミュー隊と、
無反動砲を積んだ機動車両五台は、
当初の予定は国境を越えた火の国兵を打ち取ったならば、
再度火の国に向かい、本隊と合流予定であった。

 柳生領地での殲滅した部隊は火の国精鋭部隊と思われたので、
急遽、砦に残ったエルフエミュー銃撃隊千人を指揮する、
独立部隊副司令官ハスネの指揮下に入るよう命令が下された。

 火の国兵の生存者がいないことを確認した柳生軍は、
皇王に合流する為に、宗矩は軍を指揮しながらも、
険しい顔で関が原方面の空を見つめている。

 剣士の最高峰を目指しているジューベーはその脇で、
虚脱感漂わせながらも険しい顔でエミューの腹をけって疾走している。

 ジューベーの心情は、自らが使った三八歩兵銃の威力と、
無反動砲の慈悲もない殺戮の光景に、
得体の知れぬ怒りと恐怖のためだろう。

「武士の魂が全て無となる。」
と呟いたのは、銃対剣の嚙み合わない理不尽さを嘆いてのことだろう。

 闇の暗さに隠れる卑怯者と、陰口を言われ続けて、
剣の修行に明け暮れているジューベーにとっては、かなりの衝撃であった。

 父宗矩はそんなジューベーの心を知らずか、
「駆けろ!芯の臓が止まっても、足は止めるな!」
と、ただ宗矩の心は、
決戦場所、関が原に居る日出国帝への忠誠だけであった。

 陽が落ちかける前に、
ヒルルマ第二師団の一部エミュー隊と、
無反動砲を積んだ機動車両五台は砦に着き、
砦の守備に就いた頃、
塩の国の斥候が現れて周りの地形と砦の勢いを調べ出した。

 砦から大砲の試射であろうか、
塩の国の斥候のすぐわきに砲弾がさく裂した。

 砲弾のさく裂に驚いたエミューは、
搭乗兵を振り落として一目散に、四方へ逃げ駆け出して行った。

 落下した七、八人は立ち上がり、元来た道へ逃げ走り去っていくが、残された三人は倒れ込んだままである。

 要約一人だけは起き上がり、
足を引きずりながら先に逃げた者たちを追っていく。

 塩の国兵と鉄の国兵三万が、
砦と向き合う小高い丘に陣を設置しだした頃、
少し小雨が降りだしてきた。

 雨降りの中で、
イアラ率いる攻撃型ヘリコプターからナパーム弾を投下予定であるが、
雨の中、ナパーム弾の使用が可能なのかをコーA.Iに問うと、
多少の雨でもその威力は変わらないとのことである。

独立部隊副司令官ハスネの指揮するエルフエミュー銃撃隊千人は、
副司令官ハスネと伝令を残して全員休息しているのは、
夜間攻撃を予定しているのであろう。

 ハスネは双眼鏡で塩の国軍と鉄の国軍を観察したのちに、
砦の方に向き直して、伝令に攻撃時間の確認と、
互いの攻撃箇所を確信するために、伝令は森を迂回して砦に向かった。

 いつも冷静沈着なハスネの今回の作戦は大胆さがあったが、
ヒルルマ第二師団の一部エミュー隊の参加で、
作戦の変更が出たのであろう。

 鹿島は、亜人エルフ種ハスネ副司令官は軍人ではなくて、
行政官向きだとパトラに進言したが、即座に却下されていた。

 パトラは亜人が人種に対して行政することで、
人種から反発されるのを怖がっているようである。
しかしながら、いつかは超えなければならない事である。

 鹿島の思いは、
 亜人エルフ種ハスネの功績は、理解し合える為の手本になるだろう。
亜種も人種も互いに対等で尊敬し合える社会の構築は、
子供たちへの負担を無くす為の親の務めである。

 神降臨街や各州で行政官の下で、一般募集した官僚も育っており、
これらの官僚ひなも巣立させねばならないだろう。
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