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82 ヤンの感知魔法
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白石を送り出した後、コーA.Iから戦場の報告がなされた。
カントリ国人傭兵が、
バーミーズ国と鉄の国でそれぞれに動き出したとの連絡であり、
間もなく国境を超えて、
ムー州とカントリ国占領地の砦に進撃するようである。
「カントリ国人傭兵を向かい打つことは容易いが、
カントリ国人傭兵の残党が敗戦後に盗賊団に変形するのは、
時間の問題でしょう。」
「トーマスもそう思うか?」
「バーミーズ国と鉄の国を併合した暁後も、
厄介事なカントリ国人傭兵残党等でしょう。」
「ムー州自営団で、傭兵残党等をどうにか出来ないだろうか?」
「地に潜られている間は手を打てないので、被害が出た時点で動かざるを得ないが、
すべての残党を見つけ出すのは無理でしょう。」
「そうなる前に、十万の人命を一瞬で消す必要のようだな。」
「私の名で命令します。」
「此れは歴史に残る行為であろう。」
「ですので、元帥命令で実行します。」
「将来を見越してであるけれども、
元帥命令だと残酷な軍事行動一環として受け取られ、
情状酌量の幅が狭すぎる。
最高指導者の命令だと、歴史全体の善行と悪業の合わせになり、
後々の評価は善と悪だけでなく、
必要であったか過激であったかの評価になるだろう。」
「隊長が、敢えて泥をかぶると?」
「俺の立場だと、泥か?紙吹雪か?後世の学者が決めることだ。
今の時点では、普通の生活被害者を出さないためには、やらざるをえまい。」
鹿島は重い心ながら、コーA.Iに監視衛星による、
カントリ国人傭兵十万の完全消滅を命令した。
コーA.Iからの報告では、今夜夜間に実行するとの事である。
草原では再びヒトコブ兎を捕獲する為の柵作りが始まり出した。
巴姫とヤンは連れ添いながら、
「囲い柵のようですが?どんな罠ですか?」
「三方から柴を持った勢子が、
ヒトコブ兎を柵側に追い込んで、囲い柵に追い込むのです。
魚捕獲である定置網の応用です。」
「定置網?」
「海で魚の通り道に網を広げて、魚を輪になった網の中に誘い込むのです。
ヒトコブ兎は誘い込めないので、旭が昇る前に三方に隠れ潜んで、
ヒトコブ兎が露草を食べるために、
巣穴から離れて草原に現れたならば三方から追いこみます。
輪になった柵の中に追い込んでとらえます。」
ヤンしばらく考えていた後に、
「我々にも、ヒトコブ兎の捕獲に、参加させて頂けないでしょうか?」
「是非にお願いしたい。」
ヤンから鹿島達に連絡が来た。
「明日の朝ヒトコブ兎の捕獲に協力したいのですが、如何でしょうか?」
鹿島はヤン参謀の恋を成し遂げる為の提案に大いに賛同した。
コーA.Iと監視衛星を使い、
感知魔法を使えるとアピールする事をも提案した。
コーA.Iに連絡を取ると、巴姫等が豚似に襲われている前には、
草原には約五十羽のヒトコブ兎が隠れながら、
草原の草を捕食中であったらしい。
豚似コヨーテはヒトコブ兎を捕食するために現れたのだが、
ヒトコブ兎は豚似コヨーテにいち早く気が付くと、
一目散に雑木林の藪に向かい難を逃れたらしいが、
豚似コヨーテは柵を建造中の巴姫達を見て、
狙いを子供たちに換えたようである。
ヒトコブ兎の巣穴は、コーA.Iの推測では、
草原にはそれらしき兆候はなく、雑木林の藪中であるようだ。
柵の設置が終わり、明日の旭が昇る前にヒトコブ兎の捕獲の為に、
柳生指南から全員の配置場所が決められたのだが、ヤンから提案がなされた。
ヤンの提案と言うよりも、
コーA.Iからのいくつかの案であった内の一つである。
ヤンは荷車に走り去ってすぐに引き返してくると、
一メートル四方の紙を広げた。
紙に柵の配置と雑木林の中に、赤いバツを五十近く書き込んだ。
巴姫はヤン参謀の配置図よりも、
広げた紙とペンに興味を持ったようである。
「ヤン殿。その白い皮革みたいなものと、
滑らかに書いている筆は何なのです。」
「此れは、木の繊維からできた紙です。
こちらはペンと呼ばれていて、いろんな色と太さの種類があります。
興味がありそうなので、後程お見せしましょう。
先に私の配置提案を説明します。」
と言って、ヒトコブ兎の推測進路と全員の配置場所を紙に書き込んだ。
「ヒトコブ兎の進路は、何を根拠に確定でしょうか?」
と柳生指南は尋ねてきた。
「私の感知魔法です。」
とヤンが答え切ったのは、
コーA.Iと監視衛星からの補佐が可能であるので、
ヤンは感知魔法の使える魔法使いであるとの、
印象づける事は鹿島達全員の勧めである。
「おおお~~」
と、ヤンは魔法使いであることで巴姫は唸り、目をウルウルにしている。
その声に反応した柳生指南はニヤリと笑うと、
ヒルルマ司令官の子供に向けた、『白金も、黄金も玉も、何せむに、勝れる宝、子に及かめやも』の心境であろう目を巴姫に向けた。
柳生指南は、巴姫に対してはかなりの保護的好意を持っているようである。
ヤンは再度ヒトコブ兎捕獲作戦を紙の上に書き入れていき、
全員の配置場所が決まり、柳生指南の了解を確信した。
鹿島達の配置は雑木林の外側近くで待機となり、
少年達は年上順に雑木林を背に、誘い込む柵と扇形に隠れて並び、
囲い柵に追い込むよう待機する事に決定した。
鹿島は、もう完全にヤン参謀の恋は実ったのを確認した様子で、
便利な赤い微粒子を駆使してマーガレットに連絡を取り、
巴姫の鱗甲冑と尾刃剣に将校用P3ワルサー300拳銃を二丁注文した後、更に百個の手榴弾をも追加した。
「閣下、身体は大丈夫ですか?エアークラフトは控えさせていますから、
何かあったらすぐ連絡ください。」
マーガレットは鹿島のことを、かなりの心配をしているが心配ないと応えている。
鹿島はマーガレットの身体を労わって、後ろ髪惹かれる思いで赤い微粒子を駆使しするのをやめた。
マーガレットとパトラに早く会いたいと思ったが、
ヤン参謀の手助けを終えるまでは、
帰国できないと思っているので、すぐに帰れるとは言えなかった。
少年達は人力荷車からテントを降ろし出している。
草原と川原の境にテントの設置を始めたので、
鹿島達もその脇に大型テントを設営した。
テントから草原側の脇には、
直径五メートルの大きさに川原の石が並べられている。
かまど用なのか内側に向けて二列に石を並べてある。
そこに十~二十センチの枯れた倒木が、
櫓の形で一メートル位の高さに組まれだした。
夕日が遠くの山並みに掛かった頃、
干物みたいに腹を裂かれた四頭のダーホーは、解体焼肉でなく、
十字組された生木に上半身と下半身別々に張り付けられて、
そのままの形で櫓に組んだ炎に焼かれている。
鹿島達がテント前に屯していると、蘭丸と身なりの良い少年達は、
我らに幅広い葉っぱに乗せた焼けたダーホーの肉を持ってきていた。
礼儀正しく挨拶しながら焼けた部分のそいだ肉を差し出した。
ヤンとポールは少年達を連れだすと、
荷車からインスタントコーンポタージュの入った段ボール箱を取り出した。全員分の売り物予定陶器製カップを渡しながら、
インスタントコーンポタージュの説明をしている。
その最中に二人の少年は焼け落ちた櫓跡に向かって走り出した。
そこからバケツの形をした革袋を持ち川原に走り去った。
櫓跡のかまどに乗せられた鉄製鍋から、
沸騰したお湯でインスタントコーンポタージュを溶かしたカップに注いで、追加のそいだ肉と一緒に巴姫と少年達から受け取った。
ヤンは巴姫と少年等に連れられて、
焼け落ちた櫓跡のアサード式焼肉の前で、
話をしながら再度食事を始めたようである。
ヤンが抜けた後入れ替わるように、鹿島達への警戒が解けたのか、
柳生指南と副指南がやってきて鹿島達に酒を進めた。
「カジマ様の故郷の話を聞きたいのですが?構いませんでしょうか?」
「何でも質問してください。応えられる範囲であれば教えます。」
「どういうルートで、闇の樹海に着いたのでしょうか?」
「大河沿いを船で来ました。」
「あの流れの速い大河を船で、、、、、ですか?」
「技術的には問題ありませんでした。」
「鹿島様の故郷では、争いはあるのでしょうか?」
「もうかれこれ、五十年はトカゲモドキとの戦いが主で、
合間には、生活に支障が有る蟲の駆除でしょうか?」
「トカゲモドキ?」
「魔物よりも、厄介なトカゲ野郎です。」
「魔物よりも、強いのですか?」
「単体であれば魔物が強いが、我らと同等の知能を持ったトカゲモドキは、
常にわれらより多くの数で対応してきます。」
「魔物をどの様に倒されたのですか?」
「最初の一頭は、二十人で爆裂と凍り付かせて倒しました。」
「先ほど巴姫の使った爆裂ですか?」
「あの程度では、魔物は倒せません。もっと強い爆裂です。」
「二頭を一度に倒したこともあると?」
「個別に対峙して、蜂蜜酒を与えて眠らしたのちに、
続け様に倒しただけです。」
「神降臨街での戦いでは、ガイア様の加護を受けられて、
異端者どもを成敗したとのことですが?」
「テテサ教皇様の怒りを買った者共の事でしょうか?」
「その者共は骨も残らず、灰になったとのことですが?」
「です。」
「テテサ教皇様とカジマ様共に、使徒様でしょうか?」
「テテサ教皇様は使徒様であるようだが、
俺の立場は、、、明かせないが加護は受けている。」
「-------無礼ぶしつけ、お詫びします。」
「もう一つ無礼ぶしつけな質問を承知で質問します。
テテサ教皇様とカジマ様以外にも、
ガイア様の加護を受けられた人は、居るのでしょうか?」
「亜人協力国の守り人全員と運営委員会の全員、
その中の二人とテテサ教皇等三人はガイア様、、、、、、、いや。」
「ガイア様が降臨したとの、
ガイア教会から発表された事は、事実だったのですか?」
「柳生様も剣術士であれば、豚似コヨーテとダーホーとの戦い方で、
我ら守り人はガイア様に加護を受けているために、
人智を超えていると思いになるでしょう。」
「確かに、豚似コヨーテとの戦いを目前にて見ていたが、
人智を超えていました。」
それまで静かに聞いているだけであった、副指南がポールに声掛けした。
「ポール殿、一手御指南のほど、お願いできませんでしょうか?」
ポールはにこやかに、
「いいですよ。」
と言って、片刃直刀尾刃剣を静かに抜き、発動させない状態で中段に構えた。
「真剣ですか?」
と、副指南は狼狽しだした。
「この方が真剣になれるでしょう。」
「しかし。けがをさせては、、、、。」
「お気遣い無用ですし、その言葉は失礼でしょう。」
「確かに、失礼な事を申しました。」
ポールのぶっきら棒な態度に、副指南は再び狼狽し出したが、
長剣を矢張り中段に構えて、戦いなれた真剣な顔付きになった。
副指南は正眼に構えて、ゆっくりとしたカニ歩きで、
左回りに動き出している。
それに合わせるようにポールは、右足を足元の草をすり足で折々しながら、
ゆっくりと後ろに引いていき、右足に体重を軽く乗せるそぶりで、
副指南の正眼と同じように構えているが、徐々に片刃直刀尾刃剣の刃先は、副指南の正面から副指南の左肩に向きだしたのは、
ポールは完全に副指南を誘い込んでいるようである。
ポールがやや左脚に体重を移す様な素振りをした時、
副指南は気合諸共に鋭い両刃剣先を、
ポールの首に向かってついて来たと同時に、
ポールは正眼のまま刃を合わせたままで、
副指南の両刃長剣の刃を鍔(つば)で動きを封じた上に、
両刃長剣刃の運動を上方へと押し上げると、左足を前に踏み込み、
同時に長い右足で、副指南の全体重を乗せていた足首を払いのけた。
副指南の進行運動を支えていた足は浮いてしまい、
前のめりになっている上半身は、重力の法則により大地の引力が働いて、
無残にも這いつくばる体制になってしまった。
副指南の顔は赤く紅を塗り込んだごとく真っ赤であるが、
すぐに起きだして、渾身一気に上段からポールの頭に打ち下ろした。
ポールの尾刃剣は、両刃長剣刃に触れる直前に赤く発動していた。
払いのけた後には既に赤く発動した尾刃剣により、
両刃長剣は、真ん中あたりと鍔の根元で刃部分は、
二つに切り折られて草の根元に刺さっている。
副指南は両刃長剣を振り下ろしたつもりが、
手で握りしめているのは柄(つか)だけであるが、
辛うじて柄には、鍔(つば)だけは残っていた。
副指南の手に残ったのは、無残な刃の無い愛刀元長剣である。
副指南の高揚していた顔は、段違いの武術を確認できたようで、
いまは無残にも顔は青ざめている。
神降臨街の鍛冶屋に頼んで、副指南の愛刀長剣に似た、
代わりの剣を補償しなければならないだろうと鹿島は思った。
カントリ国人傭兵が、
バーミーズ国と鉄の国でそれぞれに動き出したとの連絡であり、
間もなく国境を超えて、
ムー州とカントリ国占領地の砦に進撃するようである。
「カントリ国人傭兵を向かい打つことは容易いが、
カントリ国人傭兵の残党が敗戦後に盗賊団に変形するのは、
時間の問題でしょう。」
「トーマスもそう思うか?」
「バーミーズ国と鉄の国を併合した暁後も、
厄介事なカントリ国人傭兵残党等でしょう。」
「ムー州自営団で、傭兵残党等をどうにか出来ないだろうか?」
「地に潜られている間は手を打てないので、被害が出た時点で動かざるを得ないが、
すべての残党を見つけ出すのは無理でしょう。」
「そうなる前に、十万の人命を一瞬で消す必要のようだな。」
「私の名で命令します。」
「此れは歴史に残る行為であろう。」
「ですので、元帥命令で実行します。」
「将来を見越してであるけれども、
元帥命令だと残酷な軍事行動一環として受け取られ、
情状酌量の幅が狭すぎる。
最高指導者の命令だと、歴史全体の善行と悪業の合わせになり、
後々の評価は善と悪だけでなく、
必要であったか過激であったかの評価になるだろう。」
「隊長が、敢えて泥をかぶると?」
「俺の立場だと、泥か?紙吹雪か?後世の学者が決めることだ。
今の時点では、普通の生活被害者を出さないためには、やらざるをえまい。」
鹿島は重い心ながら、コーA.Iに監視衛星による、
カントリ国人傭兵十万の完全消滅を命令した。
コーA.Iからの報告では、今夜夜間に実行するとの事である。
草原では再びヒトコブ兎を捕獲する為の柵作りが始まり出した。
巴姫とヤンは連れ添いながら、
「囲い柵のようですが?どんな罠ですか?」
「三方から柴を持った勢子が、
ヒトコブ兎を柵側に追い込んで、囲い柵に追い込むのです。
魚捕獲である定置網の応用です。」
「定置網?」
「海で魚の通り道に網を広げて、魚を輪になった網の中に誘い込むのです。
ヒトコブ兎は誘い込めないので、旭が昇る前に三方に隠れ潜んで、
ヒトコブ兎が露草を食べるために、
巣穴から離れて草原に現れたならば三方から追いこみます。
輪になった柵の中に追い込んでとらえます。」
ヤンしばらく考えていた後に、
「我々にも、ヒトコブ兎の捕獲に、参加させて頂けないでしょうか?」
「是非にお願いしたい。」
ヤンから鹿島達に連絡が来た。
「明日の朝ヒトコブ兎の捕獲に協力したいのですが、如何でしょうか?」
鹿島はヤン参謀の恋を成し遂げる為の提案に大いに賛同した。
コーA.Iと監視衛星を使い、
感知魔法を使えるとアピールする事をも提案した。
コーA.Iに連絡を取ると、巴姫等が豚似に襲われている前には、
草原には約五十羽のヒトコブ兎が隠れながら、
草原の草を捕食中であったらしい。
豚似コヨーテはヒトコブ兎を捕食するために現れたのだが、
ヒトコブ兎は豚似コヨーテにいち早く気が付くと、
一目散に雑木林の藪に向かい難を逃れたらしいが、
豚似コヨーテは柵を建造中の巴姫達を見て、
狙いを子供たちに換えたようである。
ヒトコブ兎の巣穴は、コーA.Iの推測では、
草原にはそれらしき兆候はなく、雑木林の藪中であるようだ。
柵の設置が終わり、明日の旭が昇る前にヒトコブ兎の捕獲の為に、
柳生指南から全員の配置場所が決められたのだが、ヤンから提案がなされた。
ヤンの提案と言うよりも、
コーA.Iからのいくつかの案であった内の一つである。
ヤンは荷車に走り去ってすぐに引き返してくると、
一メートル四方の紙を広げた。
紙に柵の配置と雑木林の中に、赤いバツを五十近く書き込んだ。
巴姫はヤン参謀の配置図よりも、
広げた紙とペンに興味を持ったようである。
「ヤン殿。その白い皮革みたいなものと、
滑らかに書いている筆は何なのです。」
「此れは、木の繊維からできた紙です。
こちらはペンと呼ばれていて、いろんな色と太さの種類があります。
興味がありそうなので、後程お見せしましょう。
先に私の配置提案を説明します。」
と言って、ヒトコブ兎の推測進路と全員の配置場所を紙に書き込んだ。
「ヒトコブ兎の進路は、何を根拠に確定でしょうか?」
と柳生指南は尋ねてきた。
「私の感知魔法です。」
とヤンが答え切ったのは、
コーA.Iと監視衛星からの補佐が可能であるので、
ヤンは感知魔法の使える魔法使いであるとの、
印象づける事は鹿島達全員の勧めである。
「おおお~~」
と、ヤンは魔法使いであることで巴姫は唸り、目をウルウルにしている。
その声に反応した柳生指南はニヤリと笑うと、
ヒルルマ司令官の子供に向けた、『白金も、黄金も玉も、何せむに、勝れる宝、子に及かめやも』の心境であろう目を巴姫に向けた。
柳生指南は、巴姫に対してはかなりの保護的好意を持っているようである。
ヤンは再度ヒトコブ兎捕獲作戦を紙の上に書き入れていき、
全員の配置場所が決まり、柳生指南の了解を確信した。
鹿島達の配置は雑木林の外側近くで待機となり、
少年達は年上順に雑木林を背に、誘い込む柵と扇形に隠れて並び、
囲い柵に追い込むよう待機する事に決定した。
鹿島は、もう完全にヤン参謀の恋は実ったのを確認した様子で、
便利な赤い微粒子を駆使してマーガレットに連絡を取り、
巴姫の鱗甲冑と尾刃剣に将校用P3ワルサー300拳銃を二丁注文した後、更に百個の手榴弾をも追加した。
「閣下、身体は大丈夫ですか?エアークラフトは控えさせていますから、
何かあったらすぐ連絡ください。」
マーガレットは鹿島のことを、かなりの心配をしているが心配ないと応えている。
鹿島はマーガレットの身体を労わって、後ろ髪惹かれる思いで赤い微粒子を駆使しするのをやめた。
マーガレットとパトラに早く会いたいと思ったが、
ヤン参謀の手助けを終えるまでは、
帰国できないと思っているので、すぐに帰れるとは言えなかった。
少年達は人力荷車からテントを降ろし出している。
草原と川原の境にテントの設置を始めたので、
鹿島達もその脇に大型テントを設営した。
テントから草原側の脇には、
直径五メートルの大きさに川原の石が並べられている。
かまど用なのか内側に向けて二列に石を並べてある。
そこに十~二十センチの枯れた倒木が、
櫓の形で一メートル位の高さに組まれだした。
夕日が遠くの山並みに掛かった頃、
干物みたいに腹を裂かれた四頭のダーホーは、解体焼肉でなく、
十字組された生木に上半身と下半身別々に張り付けられて、
そのままの形で櫓に組んだ炎に焼かれている。
鹿島達がテント前に屯していると、蘭丸と身なりの良い少年達は、
我らに幅広い葉っぱに乗せた焼けたダーホーの肉を持ってきていた。
礼儀正しく挨拶しながら焼けた部分のそいだ肉を差し出した。
ヤンとポールは少年達を連れだすと、
荷車からインスタントコーンポタージュの入った段ボール箱を取り出した。全員分の売り物予定陶器製カップを渡しながら、
インスタントコーンポタージュの説明をしている。
その最中に二人の少年は焼け落ちた櫓跡に向かって走り出した。
そこからバケツの形をした革袋を持ち川原に走り去った。
櫓跡のかまどに乗せられた鉄製鍋から、
沸騰したお湯でインスタントコーンポタージュを溶かしたカップに注いで、追加のそいだ肉と一緒に巴姫と少年達から受け取った。
ヤンは巴姫と少年等に連れられて、
焼け落ちた櫓跡のアサード式焼肉の前で、
話をしながら再度食事を始めたようである。
ヤンが抜けた後入れ替わるように、鹿島達への警戒が解けたのか、
柳生指南と副指南がやってきて鹿島達に酒を進めた。
「カジマ様の故郷の話を聞きたいのですが?構いませんでしょうか?」
「何でも質問してください。応えられる範囲であれば教えます。」
「どういうルートで、闇の樹海に着いたのでしょうか?」
「大河沿いを船で来ました。」
「あの流れの速い大河を船で、、、、、ですか?」
「技術的には問題ありませんでした。」
「鹿島様の故郷では、争いはあるのでしょうか?」
「もうかれこれ、五十年はトカゲモドキとの戦いが主で、
合間には、生活に支障が有る蟲の駆除でしょうか?」
「トカゲモドキ?」
「魔物よりも、厄介なトカゲ野郎です。」
「魔物よりも、強いのですか?」
「単体であれば魔物が強いが、我らと同等の知能を持ったトカゲモドキは、
常にわれらより多くの数で対応してきます。」
「魔物をどの様に倒されたのですか?」
「最初の一頭は、二十人で爆裂と凍り付かせて倒しました。」
「先ほど巴姫の使った爆裂ですか?」
「あの程度では、魔物は倒せません。もっと強い爆裂です。」
「二頭を一度に倒したこともあると?」
「個別に対峙して、蜂蜜酒を与えて眠らしたのちに、
続け様に倒しただけです。」
「神降臨街での戦いでは、ガイア様の加護を受けられて、
異端者どもを成敗したとのことですが?」
「テテサ教皇様の怒りを買った者共の事でしょうか?」
「その者共は骨も残らず、灰になったとのことですが?」
「です。」
「テテサ教皇様とカジマ様共に、使徒様でしょうか?」
「テテサ教皇様は使徒様であるようだが、
俺の立場は、、、明かせないが加護は受けている。」
「-------無礼ぶしつけ、お詫びします。」
「もう一つ無礼ぶしつけな質問を承知で質問します。
テテサ教皇様とカジマ様以外にも、
ガイア様の加護を受けられた人は、居るのでしょうか?」
「亜人協力国の守り人全員と運営委員会の全員、
その中の二人とテテサ教皇等三人はガイア様、、、、、、、いや。」
「ガイア様が降臨したとの、
ガイア教会から発表された事は、事実だったのですか?」
「柳生様も剣術士であれば、豚似コヨーテとダーホーとの戦い方で、
我ら守り人はガイア様に加護を受けているために、
人智を超えていると思いになるでしょう。」
「確かに、豚似コヨーテとの戦いを目前にて見ていたが、
人智を超えていました。」
それまで静かに聞いているだけであった、副指南がポールに声掛けした。
「ポール殿、一手御指南のほど、お願いできませんでしょうか?」
ポールはにこやかに、
「いいですよ。」
と言って、片刃直刀尾刃剣を静かに抜き、発動させない状態で中段に構えた。
「真剣ですか?」
と、副指南は狼狽しだした。
「この方が真剣になれるでしょう。」
「しかし。けがをさせては、、、、。」
「お気遣い無用ですし、その言葉は失礼でしょう。」
「確かに、失礼な事を申しました。」
ポールのぶっきら棒な態度に、副指南は再び狼狽し出したが、
長剣を矢張り中段に構えて、戦いなれた真剣な顔付きになった。
副指南は正眼に構えて、ゆっくりとしたカニ歩きで、
左回りに動き出している。
それに合わせるようにポールは、右足を足元の草をすり足で折々しながら、
ゆっくりと後ろに引いていき、右足に体重を軽く乗せるそぶりで、
副指南の正眼と同じように構えているが、徐々に片刃直刀尾刃剣の刃先は、副指南の正面から副指南の左肩に向きだしたのは、
ポールは完全に副指南を誘い込んでいるようである。
ポールがやや左脚に体重を移す様な素振りをした時、
副指南は気合諸共に鋭い両刃剣先を、
ポールの首に向かってついて来たと同時に、
ポールは正眼のまま刃を合わせたままで、
副指南の両刃長剣の刃を鍔(つば)で動きを封じた上に、
両刃長剣刃の運動を上方へと押し上げると、左足を前に踏み込み、
同時に長い右足で、副指南の全体重を乗せていた足首を払いのけた。
副指南の進行運動を支えていた足は浮いてしまい、
前のめりになっている上半身は、重力の法則により大地の引力が働いて、
無残にも這いつくばる体制になってしまった。
副指南の顔は赤く紅を塗り込んだごとく真っ赤であるが、
すぐに起きだして、渾身一気に上段からポールの頭に打ち下ろした。
ポールの尾刃剣は、両刃長剣刃に触れる直前に赤く発動していた。
払いのけた後には既に赤く発動した尾刃剣により、
両刃長剣は、真ん中あたりと鍔の根元で刃部分は、
二つに切り折られて草の根元に刺さっている。
副指南は両刃長剣を振り下ろしたつもりが、
手で握りしめているのは柄(つか)だけであるが、
辛うじて柄には、鍔(つば)だけは残っていた。
副指南の手に残ったのは、無残な刃の無い愛刀元長剣である。
副指南の高揚していた顔は、段違いの武術を確認できたようで、
いまは無残にも顔は青ざめている。
神降臨街の鍛冶屋に頼んで、副指南の愛刀長剣に似た、
代わりの剣を補償しなければならないだろうと鹿島は思った。
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この世に鏤められた愛と生命の尊さ。不思議な「えにし」で再び出会えた二人はたどり着けなかった幸せを追い続けていた。切なく険しい道のりの果てたどり着いたその場所は。出会いは必然でそのひとつひとつに意味があった。多種多様の人生・愛だからこそそれは何にも代えがたい宝。悲しみと切なさに暮れた涙はいつしか大きな幸せの泉に変わる。さかのぼる時代を生きた人たちを回顧し思いをはせつつ真剣にいまを生きる人たちに齎された奇跡とも言える出会いと愛の人間模様。
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