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82 ヤンの感知魔法

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 白石を送り出した後、コーA.Iから戦場の報告がなされた。
カントリ国人傭兵が、
バーミーズ国と鉄の国でそれぞれに動き出したとの連絡であり、
間もなく国境を超えて、
ムー州とカントリ国占領地の砦に進撃するようである。

「カントリ国人傭兵を向かい打つことは容易いが、
カントリ国人傭兵の残党が敗戦後に盗賊団に変形するのは、
時間の問題でしょう。」
「トーマスもそう思うか?」

「バーミーズ国と鉄の国を併合した暁後も、
厄介事なカントリ国人傭兵残党等でしょう。」
「ムー州自営団で、傭兵残党等をどうにか出来ないだろうか?」

「地に潜られている間は手を打てないので、被害が出た時点で動かざるを得ないが、
すべての残党を見つけ出すのは無理でしょう。」
「そうなる前に、十万の人命を一瞬で消す必要のようだな。」

「私の名で命令します。」
「此れは歴史に残る行為であろう。」
「ですので、元帥命令で実行します。」

「将来を見越してであるけれども、
元帥命令だと残酷な軍事行動一環として受け取られ、
情状酌量の幅が狭すぎる。
最高指導者の命令だと、歴史全体の善行と悪業の合わせになり、
後々の評価は善と悪だけでなく、
必要であったか過激であったかの評価になるだろう。」

「隊長が、敢えて泥をかぶると?」
「俺の立場だと、泥か?紙吹雪か?後世の学者が決めることだ。
今の時点では、普通の生活被害者を出さないためには、やらざるをえまい。」

 鹿島は重い心ながら、コーA.Iに監視衛星による、
カントリ国人傭兵十万の完全消滅を命令した。

 コーA.Iからの報告では、今夜夜間に実行するとの事である。

 草原では再びヒトコブ兎を捕獲する為の柵作りが始まり出した。

 巴姫とヤンは連れ添いながら、
「囲い柵のようですが?どんな罠ですか?」
「三方から柴を持った勢子が、
ヒトコブ兎を柵側に追い込んで、囲い柵に追い込むのです。
魚捕獲である定置網の応用です。」

「定置網?」
「海で魚の通り道に網を広げて、魚を輪になった網の中に誘い込むのです。
ヒトコブ兎は誘い込めないので、旭が昇る前に三方に隠れ潜んで、
ヒトコブ兎が露草を食べるために、
巣穴から離れて草原に現れたならば三方から追いこみます。
輪になった柵の中に追い込んでとらえます。」

 ヤンしばらく考えていた後に、
「我々にも、ヒトコブ兎の捕獲に、参加させて頂けないでしょうか?」
「是非にお願いしたい。」

 ヤンから鹿島達に連絡が来た。
「明日の朝ヒトコブ兎の捕獲に協力したいのですが、如何でしょうか?」

 鹿島はヤン参謀の恋を成し遂げる為の提案に大いに賛同した。

 コーA.Iと監視衛星を使い、
感知魔法を使えるとアピールする事をも提案した。

 コーA.Iに連絡を取ると、巴姫等が豚似に襲われている前には、
草原には約五十羽のヒトコブ兎が隠れながら、
草原の草を捕食中であったらしい。

 豚似コヨーテはヒトコブ兎を捕食するために現れたのだが、
ヒトコブ兎は豚似コヨーテにいち早く気が付くと、
一目散に雑木林の藪に向かい難を逃れたらしいが、
豚似コヨーテは柵を建造中の巴姫達を見て、
狙いを子供たちに換えたようである。

 ヒトコブ兎の巣穴は、コーA.Iの推測では、
草原にはそれらしき兆候はなく、雑木林の藪中であるようだ。

 柵の設置が終わり、明日の旭が昇る前にヒトコブ兎の捕獲の為に、
柳生指南から全員の配置場所が決められたのだが、ヤンから提案がなされた。  

 ヤンの提案と言うよりも、
コーA.Iからのいくつかの案であった内の一つである。

 ヤンは荷車に走り去ってすぐに引き返してくると、
一メートル四方の紙を広げた。
紙に柵の配置と雑木林の中に、赤いバツを五十近く書き込んだ。
 
 巴姫はヤン参謀の配置図よりも、
広げた紙とペンに興味を持ったようである。

「ヤン殿。その白い皮革みたいなものと、
滑らかに書いている筆は何なのです。」

「此れは、木の繊維からできた紙です。
こちらはペンと呼ばれていて、いろんな色と太さの種類があります。
興味がありそうなので、後程お見せしましょう。
先に私の配置提案を説明します。」
と言って、ヒトコブ兎の推測進路と全員の配置場所を紙に書き込んだ。

「ヒトコブ兎の進路は、何を根拠に確定でしょうか?」
と柳生指南は尋ねてきた。
「私の感知魔法です。」
 とヤンが答え切ったのは、
コーA.Iと監視衛星からの補佐が可能であるので、
ヤンは感知魔法の使える魔法使いであるとの、
印象づける事は鹿島達全員の勧めである。

「おおお~~」
と、ヤンは魔法使いであることで巴姫は唸り、目をウルウルにしている。

 その声に反応した柳生指南はニヤリと笑うと、
ヒルルマ司令官の子供に向けた、『白金も、黄金も玉も、何せむに、勝れる宝、子に及かめやも』の心境であろう目を巴姫に向けた。

 柳生指南は、巴姫に対してはかなりの保護的好意を持っているようである。

 ヤンは再度ヒトコブ兎捕獲作戦を紙の上に書き入れていき、
全員の配置場所が決まり、柳生指南の了解を確信した。

 鹿島達の配置は雑木林の外側近くで待機となり、
少年達は年上順に雑木林を背に、誘い込む柵と扇形に隠れて並び、
囲い柵に追い込むよう待機する事に決定した。

 鹿島は、もう完全にヤン参謀の恋は実ったのを確認した様子で、
便利な赤い微粒子を駆使してマーガレットに連絡を取り、
巴姫の鱗甲冑と尾刃剣に将校用P3ワルサー300拳銃を二丁注文した後、更に百個の手榴弾をも追加した。

「閣下、身体は大丈夫ですか?エアークラフトは控えさせていますから、
何かあったらすぐ連絡ください。」

 マーガレットは鹿島のことを、かなりの心配をしているが心配ないと応えている。

 鹿島はマーガレットの身体を労わって、後ろ髪惹かれる思いで赤い微粒子を駆使しするのをやめた。

 マーガレットとパトラに早く会いたいと思ったが、
ヤン参謀の手助けを終えるまでは、
帰国できないと思っているので、すぐに帰れるとは言えなかった。

 少年達は人力荷車からテントを降ろし出している。
草原と川原の境にテントの設置を始めたので、
鹿島達もその脇に大型テントを設営した。

 テントから草原側の脇には、
直径五メートルの大きさに川原の石が並べられている。
かまど用なのか内側に向けて二列に石を並べてある。

 そこに十~二十センチの枯れた倒木が、
櫓の形で一メートル位の高さに組まれだした。

 夕日が遠くの山並みに掛かった頃、
干物みたいに腹を裂かれた四頭のダーホーは、解体焼肉でなく、
十字組された生木に上半身と下半身別々に張り付けられて、
そのままの形で櫓に組んだ炎に焼かれている。

 鹿島達がテント前に屯していると、蘭丸と身なりの良い少年達は、
我らに幅広い葉っぱに乗せた焼けたダーホーの肉を持ってきていた。
礼儀正しく挨拶しながら焼けた部分のそいだ肉を差し出した。

 ヤンとポールは少年達を連れだすと、
荷車からインスタントコーンポタージュの入った段ボール箱を取り出した。全員分の売り物予定陶器製カップを渡しながら、
インスタントコーンポタージュの説明をしている。

 その最中に二人の少年は焼け落ちた櫓跡に向かって走り出した。
そこからバケツの形をした革袋を持ち川原に走り去った。
 
 櫓跡のかまどに乗せられた鉄製鍋から、
沸騰したお湯でインスタントコーンポタージュを溶かしたカップに注いで、追加のそいだ肉と一緒に巴姫と少年達から受け取った。

 ヤンは巴姫と少年等に連れられて、
焼け落ちた櫓跡のアサード式焼肉の前で、
話をしながら再度食事を始めたようである。

 ヤンが抜けた後入れ替わるように、鹿島達への警戒が解けたのか、
柳生指南と副指南がやってきて鹿島達に酒を進めた。

「カジマ様の故郷の話を聞きたいのですが?構いませんでしょうか?」
「何でも質問してください。応えられる範囲であれば教えます。」
「どういうルートで、闇の樹海に着いたのでしょうか?」
「大河沿いを船で来ました。」

「あの流れの速い大河を船で、、、、、ですか?」
「技術的には問題ありませんでした。」
「鹿島様の故郷では、争いはあるのでしょうか?」
「もうかれこれ、五十年はトカゲモドキとの戦いが主で、
合間には、生活に支障が有る蟲の駆除でしょうか?」

「トカゲモドキ?」
「魔物よりも、厄介なトカゲ野郎です。」
「魔物よりも、強いのですか?」
「単体であれば魔物が強いが、我らと同等の知能を持ったトカゲモドキは、
常にわれらより多くの数で対応してきます。」

「魔物をどの様に倒されたのですか?」
「最初の一頭は、二十人で爆裂と凍り付かせて倒しました。」
「先ほど巴姫の使った爆裂ですか?」
「あの程度では、魔物は倒せません。もっと強い爆裂です。」

「二頭を一度に倒したこともあると?」
「個別に対峙して、蜂蜜酒を与えて眠らしたのちに、
続け様に倒しただけです。」

「神降臨街での戦いでは、ガイア様の加護を受けられて、
異端者どもを成敗したとのことですが?」

「テテサ教皇様の怒りを買った者共の事でしょうか?」
「その者共は骨も残らず、灰になったとのことですが?」
「です。」

「テテサ教皇様とカジマ様共に、使徒様でしょうか?」
「テテサ教皇様は使徒様であるようだが、
俺の立場は、、、明かせないが加護は受けている。」
「-------無礼ぶしつけ、お詫びします。」

「もう一つ無礼ぶしつけな質問を承知で質問します。
テテサ教皇様とカジマ様以外にも、
ガイア様の加護を受けられた人は、居るのでしょうか?」
「亜人協力国の守り人全員と運営委員会の全員、
その中の二人とテテサ教皇等三人はガイア様、、、、、、、いや。」
「ガイア様が降臨したとの、
ガイア教会から発表された事は、事実だったのですか?」

「柳生様も剣術士であれば、豚似コヨーテとダーホーとの戦い方で、
我ら守り人はガイア様に加護を受けているために、
人智を超えていると思いになるでしょう。」
「確かに、豚似コヨーテとの戦いを目前にて見ていたが、
人智を超えていました。」

 それまで静かに聞いているだけであった、副指南がポールに声掛けした。

「ポール殿、一手御指南のほど、お願いできませんでしょうか?」
ポールはにこやかに、
「いいですよ。」
と言って、片刃直刀尾刃剣を静かに抜き、発動させない状態で中段に構えた。

「真剣ですか?」
と、副指南は狼狽しだした。
「この方が真剣になれるでしょう。」
「しかし。けがをさせては、、、、。」
「お気遣い無用ですし、その言葉は失礼でしょう。」
「確かに、失礼な事を申しました。」

 ポールのぶっきら棒な態度に、副指南は再び狼狽し出したが、
長剣を矢張り中段に構えて、戦いなれた真剣な顔付きになった。
 
 副指南は正眼に構えて、ゆっくりとしたカニ歩きで、
左回りに動き出している。

それに合わせるようにポールは、右足を足元の草をすり足で折々しながら、
ゆっくりと後ろに引いていき、右足に体重を軽く乗せるそぶりで、
副指南の正眼と同じように構えているが、徐々に片刃直刀尾刃剣の刃先は、副指南の正面から副指南の左肩に向きだしたのは、
ポールは完全に副指南を誘い込んでいるようである。

 ポールがやや左脚に体重を移す様な素振りをした時、
副指南は気合諸共に鋭い両刃剣先を、
ポールの首に向かってついて来たと同時に、
ポールは正眼のまま刃を合わせたままで、
副指南の両刃長剣の刃を鍔(つば)で動きを封じた上に、
両刃長剣刃の運動を上方へと押し上げると、左足を前に踏み込み、
同時に長い右足で、副指南の全体重を乗せていた足首を払いのけた。
 
 副指南の進行運動を支えていた足は浮いてしまい、
前のめりになっている上半身は、重力の法則により大地の引力が働いて、
無残にも這いつくばる体制になってしまった。

 副指南の顔は赤く紅を塗り込んだごとく真っ赤であるが、
すぐに起きだして、渾身一気に上段からポールの頭に打ち下ろした。

 ポールの尾刃剣は、両刃長剣刃に触れる直前に赤く発動していた。

 払いのけた後には既に赤く発動した尾刃剣により、
両刃長剣は、真ん中あたりと鍔の根元で刃部分は、
二つに切り折られて草の根元に刺さっている。

 副指南は両刃長剣を振り下ろしたつもりが、
手で握りしめているのは柄(つか)だけであるが、
辛うじて柄には、鍔(つば)だけは残っていた。

 副指南の手に残ったのは、無残な刃の無い愛刀元長剣である。

 副指南の高揚していた顔は、段違いの武術を確認できたようで、
いまは無残にも顔は青ざめている。

 神降臨街の鍛冶屋に頼んで、副指南の愛刀長剣に似た、
代わりの剣を補償しなければならないだろうと鹿島は思った。

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