上 下
44 / 181

42サンビチョ王国の内情

しおりを挟む
 イアラ王女は女傑騎士団の剣術訓練中に、国王に呼び出されて玉座の間へ向かった。

玉座の間に入ると、両側にサンビチョ王国評議会員が並び、
王座近くには兄である皇太子ゲルグ殿下と、対極に叔父であるヘレニズ公爵が、
互いに不機嫌な顔で睨み合っている。

「亜人協力国に対し、交戦か同盟かに意見が割れた。王女イアラ、お前の意見を聞きたい。亜人協力国と開戦した場合、結果はどのようになると思う。」
「万の兵士を持っても、亜人協力国の戦士一人さえ傷付ける事が出来ず、無残に敗退するでしょう。」

 評議会員全員は驚愕の声を上げると、
「妄想か?神の軍団か?何の根拠で?姫はおかしくなったのか?」
と、あちらこちらで、ひそひそ話が漏れていた。

「皆に分かりやすく、説明しろ」
と、国王は不機嫌に言葉を発した。

 イアラ王女は護衛衛兵に剣と甲冑を用意させると、甲冑を床に立ててから甲冑の中に剣を入れ、チェーンソー剣を発動させると、剣諸共甲冑を二つに切り割った。

 イアラ王女は更に鱗製兜をかぶり、衛兵に、
「魔物の鱗甲冑なので、切るなり、突くなり、好きにしてよい。」
と、両腕を広げて身構えた。

衛兵が躊躇していると、叔父のヘレニズ公爵が痺れを切らした様で、
「早くお前の腕前を見せてみろ。」
と、催促したが、遠慮気味に胴に切り込み、平伏してしまった。

 それを見ていた兄の皇太子ゲルグが、衛兵の剣を取り上げてイアラ王女の広げた腕に、
気合い声で切り込んできた。
 
皇太子ゲルグは、イアラ王女の上腕部の鎧に切りかかったが、
鎧は虹色に輝き剣をはねのけた。

「国王陛下、ご覧のように甲冑には傷もつきません。
亜人協力国の前衛戦士達は皆、この装備です。

女傑騎士団二十名が一瞬で、眷属に乗っているエルフ族の爆裂を封じ込めた魔法の杖から、火花と共に鉛の矢が二十名全員の同じ肩下箇所へ命中した。

その爆裂を封じ込めた魔法杖を二千以上保有していて、
強力な爆裂を発動する砲を搭載した自力魔法で動く、何者も追いつけない荷車を多数保有しています。
一番怖いのは亜人協力国の守り人とエルフ親衛隊五十人の持つ、一瞬で首から上を炭にしてしまう光魔法の杖でしょう。
この様な装備だから、魔物を倒せるのも理解できるでしょう。」

 王国評議会員は、凍り付いたように静まり返っている。

「亜人協力国との付き合い方は、パンパ街の修道院長が『亜人協力国に対して、賢い国は友好を求め、愚かな国は奪おうとします。決して、愚かな国に成らない様に』と、言った。
これがすべてでしょう。」
と、ヘレニズ公爵が付け加えると、

「そんな愚かな国に成らない為だけに、叔父上様は、亜人協力国に領地を献上したのですか?」
「皇太子!ヘレニズ公爵に対して、その様な事を言うのは、余が許さない!国のことを考え決断し、国の食糧を確保した上に、食料中継地に成ったが故、我が国に利益さえも、もたらしている。」

王国評議会員からの拍手に、皇太子ゲルグは黙り込んだ。

「余は、教会司祭からの討伐要請を断ろうと思う。皆はどうだ!」
「父上様、教会に集まっている聖騎士団と敵対すると?」
と皇太子ゲルグは食い下がるが、
「聖騎士団がその気ならば、対峙するまでだ。亜人協力国とは、友好関係でいたい。」

 それでもなお皇太子は何故か、司祭の申し込みは受けねば成らないと、
「六か国の連合軍と対峙するかも知れない、それでもなお司祭の要望を断るというのですか?」
大声で叫んだ。
「その時の為に、亜人協力国と同盟を結びたいと思う。王女イアラ。同盟は可能か?」
「必ずや、可能です。」
「賛同者は手を挙げよ。」

 皇太子を除く、玉座の間全員が挙手した事により、国王陛下は上機嫌で、
「王女イアラ、余の代理として、亜人協力国と同盟調印にあたり、全権大使に任命する。」
「必ずや、同盟を結んできます。」
国王陛下と叔父上様は、強い絆で結ばれている事を、確認させられた出来事でもあった。

イアラ王女は女傑騎士団総勢六十名を引き連れて、亜人協力国へと向かった。

 戦略会議の議題は、反テテサ派を迎撃殲滅後、サンビチョ王国の改革と農奴の開放を、どの様な戦略で進めるかである。

 テテサから、サンビチョ王国の大まかな政治体制と、領民の意識についての説明がなされた。

「建前は、絶対君主制ですが、王国評議会制度で国政を運営しています。
奴隷制度もあり、耕作地は貴族の荘園が殆どで、農奴の数はどの国よりも多いと思います。
サンビチョ王都の教会は反亜人で、自分たちの事をハイヒューマンと呼んでいます。
騎士団長ヨーコーと共に、反対派の中心的な行動をしているようです。」

「農奴と奴隷解放は、課題だね」

 鹿島とすれば、サンビチョ王国は真っ先に併合したい隣国である。
「サンビチョ王国の荘園崩壊は、時間の問題だけでしょう。」
マーガレットは、自信気に発言した。

 そして、テテサもマーガレットの言葉に、頷いて
「正攻法ならば、荘園を買い上げ、農奴に土地を分配するにしても、一年は係るかもしれない。最も手取り早い方法で攻めたいわ。」
マティーレとパトラは、テテサの含みを揶揄しながら、
「これは、テテサの管轄ですね。よろしくお願いいたします。」
「種まきした事気づいていたの、だけどチョット劇薬だから、役者が増えるかもしれないので、閣下の負担が増えるかも。」
 
テテサの自信ある表情は、聖人と思えない、怪しげな色化を漂わせて鹿島を覗き込む。

「強さを引け散らす聖騎士団長、権力志向の司祭、強欲な国王たち。他にも役者が?」
「好戦狂皇太子ゲルグ。」
「彼はサンビチョ王国軍を、国王の許可なく動かせないでしょう。」
「王都の教会に、マティーレの許可で、白金貨三貨寄付しました。その貨幣で、どの位傭兵を集めきれるかしら。三百人かな?六百人かも?」
「その傭兵と、自分の親衛隊で、何かをなすと。」
「好戦的で、自己慢心の皇太子ゲルグ、きっと動くと思います。」

 農奴と奴隷解放はテテサの悲願で有り、
亜人協力国の国是そのものの基礎思想の一つである。

 鹿島にふと疑問が湧いた。
「今、話し合っている中で、サンビチョ王国の農奴と奴隷解放は、以前から決めていた計画ですか?」
「ヘレニズ.サンビチョ公爵が、傭兵を募集している時に話し合ったわ。」
「あの時は正当な理由で、サンビチョ王国と戦争になると思ったが、テテサと王女イアラの行動で、ヘレニズ公爵は、戦争起こすことは、自国に不利と気が付いたので、回避されてしまいました。」
「白金貨二千貨を捨てても、良かったと?」
「どうせ、土の中に落ちていた石ころでしょう。」
「王女イアラに鱗甲冑と、チェーンソー剣を渡したのは?」
「彼女、無知か無関心か、シリーほど、農奴と奴隷解放を重要な事と、気づいていないわ。」
「だから。サンビチョ王国の統治は、王女イアラにしたいのと、亜人協力国の強さを知らしめる事が、重要だからです。」

「今日の戦略会議は、戦後の統治する方法と、統治者の選別です。」
「人材不足ですね。」
「サンビチョ王国はイアラ、補佐人ヘレニズ公爵、ヒット王国はシリー、補佐人ミクタ。
あとの国は軍政で、閣下に任せましょう。」
「軍政って、占領ですか?」
「軍政を敷いて、政府を立ち上げてください。できた政府と併合の条約を結びます。」

 サンビチョ王国に至っては、まだ国王は健在で、イアラ王女を奉ることは、
内政干渉であるが、皇太子ゲルグのクーデターを確信しているのか、運営委員会の四人は、個人の尊厳、人種差別、農奴と奴隷解放、教育の普及、それらの為なら、冷酷に行動するようである。

亜人協力国の国是の為なら、既存利益者を追い落とすのは、
運営委員会の四人の使命だと、決意しているからかもしれない。

 皇太子ゲルグのクーデター計画、その事を裏付ける動きが、サンビチョ王都の教会から、多数の聖騎士団と傭兵の集結が確認できて、その中央に常に皇太子ゲルグの姿が確認されると、コーA.Iからの報告がなされていた。

サンビチョ王都の教会から、聖騎士団が四方の国に向かったとの事と、
イアラ王女に率いられた六十名の女傑騎士団が、神降臨街に向かって来ていると、
コーA.Iから報告がもたらされた。

 神降臨街にイアラ王女に率いられた、六十名の女傑騎士団が訪問してきた。

 円卓会議室に、イアラ王女と付き添いの二名が、鹿島の前に金貨の入った革袋を差し出して、
「治療して頂いた、回復万能薬の代金です。金貨五百貨にて、了解していただきたい。」

 亜人協力国において医療費は無料であるが、イアラ王女を含め女傑騎士団は、
亜人協力国の住民ではないので万能薬と治療費の対価を払い、互いに対等な立場を示したいようである。

「この度お伺い致しましたのは、我が国サンビチョ王国と亜人協力国は末永く、友好関係を築くために、同盟調印にまかり越しました。」
「友好関係を築くことは、我が国の利益であり希望でもあるが、我が国の国是をご存じの上での、同盟関係を結びたいと言う事ですか?」

「亜人協力国の国是は、聖人テテサの説教で理解しましたが、サンビチョ王国に馴染む事と、馴染め無いことがございます。」
「馴染む事ができると思う事と、馴染め無い事を教えて頂けませんか?」

「個人の尊厳、人種差別、教育の普及、これらの事は、わたくしも賛同できますし、サンビチョ王も賛同してくれるでしょうが、農奴と奴隷は所有者の財産であり、売り買い禁止は、貴族と地主の抵抗があるでしょうから、サンビチョ王国での、農奴と奴隷の開放は難しいでしょう。」

「個人の尊厳を理解して賛同したとしても、奴隷や農奴や小作人に対して、人道的な扱いを受けさせるとは思えないが?我が国の国是と合致しないのであれば、同盟の合意は難しいでしょう。」

「私も全権を任されているが、亜人協力国の国是全てを受け入れたいが、農奴と奴隷は所有者の財産だと認めていただきたい、でないと国が崩壊します。貴族と地主の反発が起きると、国の運営においては難しくなりますので、理解してください。」

「今日はここまでとして、後日改めて話し合いましょう。何かいい考えが浮かぶまで、保留としよう。」
「私も何か良い案があるか、考えます。」

 イアラ王女は、サンビチョ王国の崩壊を防ぐには、どこまで妥協すべきかの答えを、自分を守ってくれるガイア様に期待して神降臨街教会に出向いた。

 聖人テテサの説教受ける事が、同盟合意のヒントが授かるとの思いで、
「聖人テテサ様、農奴と奴隷解放は、現状では不可能です。我が王は、反聖人テテサ様派に与するつもりはありません。与しないと決めますと、数か国を敵に回してしまいます。
切羽詰まっている我が国は、亜人協力国と同盟出来ないと、国の存亡が危ういのです。お力を授けてください。」

「同盟を結ぶのは、政治体制及び国是が同じでないと、逆に国の住民から不平不満が出て、現政権存続は難しいでしょう。救援ではだめですか?」
「鉄の結束の関係を、同盟で表したいのです。」

「イアラ王女、農奴と奴隷解放は、現状では不可能だが、いずれ農奴と奴隷は逃亡するでしょう。それを見越して、王の決断一つで可能でしょう。」
「現時点では、農奴と奴隷解放など、王には決断出来ないと思います。」

「統治を、一極集中国家に改革するしかないのでは?」
「一極集中国家は、我が王家の悲願であるが、方法がわかりません。」

「サンビチョ王国の運営は両輪のように、王と評議会とで運営し、各自に年額報酬を決めて、軍と税を一極集中して王の権限運営にすれば、国は農奴と奴隷解放する事で税収増となり、荘園を持つものは、管理することなく、毎月の収入が保証されます。今の状態で農奴と奴隷解放しないで置くなら、間違いなく搾取されていると思う者達の逃亡者は増えるでしょう。」

「それを行うには、貴族の持つ荘園を、取り上げねばならないか、買い上げるとしても、かなりの資金が必要になり、不可能ではないでしょうか?」

「サンビチョ王国が、亜人協力国の国是に同意して、決断したならば、資金はガイア教会が保証する形で、亜人協力国の銀行から借り受けるよう、手配します。」

「亜人協力国の銀行?」
「銀行とは、だれでも貨幣を預けると金利がもらえて、資金が必要な人に貨幣を貸します。」
「金利が高くて、返せなくなるのでは?」
「亜人協力国の最高金利は、法律で三パーセントです。」

 此れは、イアラ王女にはあまりにも壮大な案で、自分だけでは決断できかねると思い、父である王にお伺いを立てる必要があると判断した。

 亜人協力国においては常に住民受け入れ状態であるから、農奴と奴隷はいずれにせよ、亜人協力国に逃亡するであろう。

 亜人協力国の国是はガイア様の意思である事を皆が知ると、荘園と地主の運営が崩壊することを予感させる、イアラ王女はそのことに国王が気付いてくれるのを、祈るばかりである
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...