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40パトラの能力

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 カナリア領地に出現した魔物討伐に向かうことで、猫亜人とエルフ種族による救護班が万能回復薬を持ち、ジョシュー達と共に先発した。

その後には少し遅れてはいるが、食糧五十トンを積んだ多くのトラック隊が続いていく。

 討伐隊がカナリア街に着いたのは、日が傾いた夕方近くで、城壁沿いに多数のゲルを設置した。

 解体専用部隊として猫亜人も同行し、魔物討伐見学を兼ねたかなりの希望者があり、多数のご参加出動者編成である為に、城壁内に宿は取らずゲルでの一夜となった。

 魔物は、最悪の樹海を棲み処にしているようで、またその辺りは、野獣や魔獣の多発出没地帯であるらしいので、パトラの従兄弟達騎馬隊六十頭にレーザーガンを持たせて戦列に加えた。

 マーガレットにパトラ、聖騎士団、王女イアラと三人の女傑騎士、無理やり連れてこられたシリー達六名に、レールガン砲を改造して半月型尾刃流弾の試し打ちの成果確認ため、職工のカサーノ等が多く参加している。

 今回は二頭なので、重火器を先頭にして、マーガレットとパトラは特攻的注意人物なので、切込み隊は控えに回ることを鹿島は命じた。
 
魔物の素材も重要であるが、今回は討伐優先として、徹底的に駆逐する作戦で挑むことにした。

魔物の鱗を使った、先端鋭い貫通弾や貫通ミサイルに、レールガン砲に組み込んだ半月型流刃等の新兵器性能調査も兼ねていた為に、液体窒素放水車は用意したが、
結果次第の待機とすることにした。
 

 早朝から、偵察衛星で調査した、魔物の食い散らかした腐肉場所へ向かい、
対細菌防護服に身をくるんだ猫亜人が、火炎放射器を搭載した軽機動車で、
腐肉を求めて出発した。 
程なく、無数の煙が上がり、腐肉を焼いているようである。

 鹿島達が煙の数を確信しているとき、コーA.Iから、銀色狼似キャルド三十三頭が最悪の樹海より出没したとの通信が入ると同時に、エルフ騎馬隊が駆け出すと、その後を荷台に座席を並べたトラックが追っている。

 鹿島はコーA.Iにトラックの乗員を尋ねると、マーガレットにパトラ、聖騎士団、王女イアラと三人の女傑騎士、さらにシリー達六名らしい。

 運転席のマーガレットとパトラは、十九名を乗せたトラックでエルフ騎馬隊を追い越していった。

 連絡用通信からパトラの声が響き、
「ハービーハン、ハスネ、ヒビイ、トトラ、ユイヤ、援護しろ。我らが切り込む。」
「族長、キャルドはわれら騎馬隊の担当です。」
「命令だ!」
「合点承知」

 パトラの剣幕に、騎馬隊は引いたようであるが、パトラの響き声に合わせて軽機、重機動車輌の乗員陸戦隊全てが、後を追っていくのは、シリー達を心配しての事だろう。
 
鹿島も追わなければならないと思い、軽機動車を向かわせた。

 銀色狼似キャルドとの戦闘は既に始まっていたが、何頭かのキャルドに於いては、
足を切り落とされて、のたまいながら這いつくばっている。

 マーガレットにパトラ、聖騎士団、王女イアラと三人の女傑騎士、シリー達六名等各グループ内の連携は素晴らしく、互いにカバーしあって戦っている。

マーガレットにパトラ、王女イアラと三人の女傑騎士の後ろに回り込んだキャルドを、騎馬隊は、事前に頭をレーザー銃にて炭にしている。

 キャルドはあらかた倒し終えられているが、まだのたうち回っている奴らもいるので、
女戦士達は我さきと、止めを差しに殺到している。
 
陸戦隊全員が、シリー達六名の周りに集まり、怪我してないかと甲冑を調べ回っている。

 トーマスもシリー達を心配している様であったが、トーマスはパトラを呼び、
「勝手な行動は、厳罰です!ましてや、訓練中の娘たちまで引き連れての事は、許されません。」
「シリー達が、勝手に付いて来ました。」

 シリー達もワクワク顔で、
「パトラの快感経験を聞いて、勝手に参加しました。」

 マーガレットに至っては、トラックの影に隠れる素振りであり、今回もパトラの提案に、皆が乗ったようである。

 陸戦隊が引き上げると、パトラが腕を上げ、
「キャルド討伐隊完全勝利!」
と、叫ぶと、
「か、い、か、ん!」
と、自称キャルド討伐隊はこぶしを上げて、パトラの勝利宣言に応える様に叫んだ。

 パトラは、ほかの者たちの戦闘意欲を増らせる能力を、持っているのだろうか?と、
鹿島はパトラを見て、人をたぶらかす不審者ではと、訝(いぶかし)しげに思った。

トーマスが近づいて、
「魔物は見当たらない様ですが、樹海に爆裂弾丸落としてみますか?」
「樹海に火が付いたら困るし、それに、赤外線探査が難しくなるだろう。」

 ゲルの方から、二頭のエミューに引かれた旅車が近づき、
ジョシュー知事はこざっぱりとした服装の貴族婦人と気づかせない、
初老の婦人を伴い下りてきた。

「閣下の慈愛で、何千人も救われました。ありがとうございます。我が伴侶ハイヤーです。お見知り置き下さい。」

 トマトマとは対極な治世を敷いている二人らしく、病人の看護の為か、共に寝不足で目が充血して、目の下にクマを作っていた。

「魔物は出てこないようですが、我らはしばらく待機していますので、お疲れの様子なので、魔物は、われらに任せて、お帰り下さって構いません。」
「病人の回復に目途が着いたので、お力になりたいのです。」
「あなたの仕事は、これからです。住民の為に、昨夜は、かなり無理したように見受けられます。健康第一で働いてください。でないと、われらも困ります。」

 付き添いであろう御者二人も旅車の運行操作席から降りてきて、
「頭領様も、奥様も、お歳です。何時も無理してばかりで、今日はもうかなりお疲れです。お言葉に甘えてお帰りさせていただき、お休みください。」

 鹿島も賛同して、二人と旅車まで同行して見送った。

 旅車がシリー達鱗甲冑六名の横を通り過ぎたとき、少し停車したが、何事もないようにまた城壁門へ動き出した。
 
 三日三晩待ってみたが、魔物は現れない。
陸戦隊庇護のもとに、自称キャルド討伐隊は、魔獣や猛獣狩りを進んで名乗りを上げて討伐して楽しんでいるようだが、肝心の魔物の気配がしないのである。

 ジョシュー知事に夕食会に招かれ、鹿島とトーマス、ビリー、ヤン,ポール五人が招待に応じた。

 貴族風装いのジョシュー知事夫妻に出迎えられ、長いテーブルには、いろんな料理に、酒や果物が並べられている。

 テーブルの前に、色とりどりの甲冑をまとった、まだ二十代前と思われる少年たちも並んでいた。
鹿島達はテーブル中央に案内されて着席すると、テーブルを挟んで甲冑姿の少年達を、
ジョシュー知事から一人一人紹介された。

「この者達の親、兄、叔父等は、先の高原の戦場で、我が息子二人と共に、ヒット前皇太子ハワーク様の親衛隊として従軍して、全員戦死してしまいました。
今この領地の軍の指揮を任せていますが、経験不足です。
戦いは、近づいています。早急に、亜人協力国の戦士に育ててください。
ひと月後には、複数の国が動くかもしれません。」

「ジョシュー知事殿は、その状況で亜人協力国に与すると。」
「魔物が出現し、頼れるところが亜人協力国しかなく、亜人協力国との縁を結ぶことにより、我らの仇と対峙するかもしれないと思い、我らの無念を晴らせる、
ガイア様が与えてくれたチャンスかと思いました。」
「ガイア様が与えた?」
「パンパ街の修道院長は、妻の遠縁に連なる人です。
彼女からの手紙では、『亜人協力国に対して、賢い国は友好を求め、愚かな国は奪おうとします。決して、愚かな国に成らない様に』と、指示されました。」
「たとえ何十万の兵に攻め込まれようと、我らは負けません。安心してください。」
「何十万の兵力でも、魔物は倒せません。亜人協力国の守り人は、二頭の魔物を倒すと言いました。信じています。」

「傭兵を募集する予定はありますか?」
「どの位の寄付が集まるかによります。」
「募集条件は、給金は相場の半分で、一年間の衣食住の保証としてください。」
「それでは、傭兵は集まらないでしょう。」
「旗印を持ってきます。」

 ジョシュー知事は、黙想したのち、
「解りました。旗印の下に着きましょう。我らの仇名する者たちに、共に一太刀入れるのを、旗印様に了解くださいますよう、口添えお願い致します。」

 ジョシュー知事は、やはりシリー元王女に気づいていた様子である。

 夕食会が終わり、もう一日待機したのち、魔物が現れなければ、引き上げることを伝えて、夕食会のお礼を述べて、ゲルに向かった。
 
 その夜、鹿島は又もや不思議な体験をする。

 夢の中で、一糸纏わぬ娘が現れ、
「最悪の樹海に火を出さない様に指示して頂きありがとう。
魔物は、樹海深くに移動したので、暫くは草原に現れないでしょう。」

 頬を合わされ、唇を吸われた時、口の中にメープルシロップの味と匂いが漂った。

「ガイア様に愛され人よ、再会を楽しみにしています。」

 鹿島は外の騒がしい声で目を覚ますと、あまりにも生々しい夢に驚き、周りを見渡すと、いつもの赤い微粒が、ゲルの中いっぱいに浮遊している。

 トーマス、マーガレット、パトラの三人が鹿島のゲルの中に駆け込んできた。
「閣下大丈夫ですか!」
トーマスの大声がゲルいっぱいに響いた。

鹿島は何事が起きたのかわからず、口の中に僅かに残る味と香りを確認していると、
「衛兵が、閣下のゲルが燃えていると、騒いでいるのです。」

 原因は、いつもより多い赤い微粒のことだと思い、
「今夜は、確かに赤い微粒が多いです。原因は分からないが、変な夢を見た。
きれいな娘が現れて、魔物は樹海深くに移動したので、暫くは草原に現れないと言った。」
 
パトラがゆっくりと鹿島に近寄り、小声で、
「髪の色は?」
「薄い黄緑だった。」
「服装は?」
「すっぱ。」
「身体のどこかに、木の葉が付いていましたか?」
「いや、気づかなかった。」

 パトラの手が伸び、鹿島の頬を挟み込み、顔を近づけて頬や耳元と唇の周りの匂いを嗅ぎ始めた。

 鹿島は何が起きているのか理解できず、胸の鼓動が耳全体すべてを占めた。
パトラは、真っ赤な顔で鹿島を押しのけ、素早い動きでマーガレットの手を引き、
ゲルの外へ出ていった。

 トーマスは怪訝そうに、
「何が起きたのか説明願いたいです。」
「夢の中ですっぱの娘にキスされた。」
「裸の娘が夢の中に出てきたことが、パトラを動揺させたのでしょうか?」
「まさか、夢に悋気する?」
「ただの嫉妬だと?」
「嫉妬される理由はない。悋気が正しいだろう。」
「パトラは匂いを嗅いでいた様子に見受けられましたが?」
「夢の中で、メープルシロップの味と匂いが感じられ、目が覚めても、口の内に匂いと味は残っていた。」
「新たな神の降臨ですか?」
「茶化すなよ。俺の中では、夢と現実が解らなくなっているのだ。」

 パトラとマーガレットが現れて、
「閣下の身に、良からぬ事が起きたようです。」
と、マーガレットが目を伏せて、呟くと、パトラが一気にしゃべりだした。

「閣下、夢の中の出来事は、現実です。赤い妖精が多く集まったのは、閣下の身に危険が迫っていたからです。
夢の中に現れたのは、樹齢五千年以上の古木で、稀にメープルシロップの匂いを漂わせて、偶像化出来る個体が現れると、伝説は伝えています。
老樹霊と呼ばれています。老樹霊は生ある個体の生気を吸い取り、
身を肥やしにすると言われています。」

「老樹霊が、何故に俺の所へ表れたのだ。」
「閣下の奥底の願望にスキを見出し、入り込んで来たと思われます。」
「奥底!そこまで言いますか?」
「対策は、マーガレットと相談した結果、私等二人が防ぎます。了解ください。」

 鹿島は奥底と言われ、確かに良からぬ事に願望を持ち、妄想するのは俺の自由だと胸の中で反発もしたが、裸体の娘を思い出し、夢が覚めなければ楽しいことが起きたかもしれないと、心の中で想像してしまい、パトラの言葉を聞き流して頷いてしまった。
 
 カナリア街から七人の若者戦士を預かり、ジョシュー知事に別れを告げて、
樹海跡地の砦に引き上げた。

 七人の若者戦士の特訓は、苛烈を極めるといえた。
早朝から砲撃戦の基本である、方位盤や測距儀の使用方法、戦術、槍術、剣術、体術等の
豪華訓練であるが、若者戦士は音を上げる出なく、いつも負けん気な顔で励んでいる。

 七人の若者戦士は、陸戦隊の訓練は過酷であるが、軍の指揮を任せると言われたら、ジョシュー知事の期待に応えなければならないと、一人一人が自覚しているようである。

トーマス相手に、シリー達六名の戦士?はキャルド討伐後、快感の成果なのか鱗甲冑の信頼性か、トーマスの肉を切らして骨を切る剣術が気に入ったようで、
がむしゃらに打ち込んでいる。
 
ジャネックに至っては、シリー達女戦士を率いて獲物狩りへ誘い出し、
シリー達六名の戦士は、猛獣も魔獣も区別する事無く、トーマスの剣技を真似て、猛獣も魔獣からの攻撃を防衛することなく、当足り構わず身を二つに切り裂いていた。

 シリー達女戦士はトーマスに敬意を持ち、親衛隊のごとく各訓練に付いて行き、
すべてに参加しだした事の原因は、勇気を奮い出させたのはパトラであるが、
自信を持っての行動力は、トーマスのようである。

 テテサの報告では、教会の教皇様の容態は、回復に向かったようで、
反テテサ派の動きが治まって来ているとの事だが、一時の平和は、互いに次の戦いに備えての準備期間でもある。

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