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37イアラ王女

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 イアラは、国王である父に王宮に呼び出されて、玉座の間で謁見した。
「イアラ。パンパ街に向かい、魔物を倒したらしい者達の事を調べろ。
そして、亜人国の事を詳しく知りたい。調査を命じる。」
「女傑騎士団を伴い、調査に向かいます。」
とイアラは、王城壁外の任務は初めての事であるので、心躍る思いで力強く返事した。

 イアラは女傑騎士団二十名を伴い、パンパ街に向かった。

 女傑騎士団は、通常任務は儀仗兵としての立場であるが、今回初めて偵察を兼ねた軍事行動である。

パトラ等女傑騎士団は王城を朝早く出たが、パンパ街に着いたのは、夕方近くで急ぎトマトマ.ドンク伯爵邸に向かった。

 パトラ等女傑騎士団は伯爵邸の門番に身分を明かして、トマトマ.ドンク伯爵に面会を求めた。

門の中はかなりの騒がしさで、教養無さそうで卑屈な風体をした者達がニヤツキ乍ら、
パトラ等女傑騎士団を品定めするがごとく視線を送る者、一団ごとに徘徊している者等々、領主屋敷とはとても思えない治安の悪い場所を醸し出している。

たむろしているのは傭兵達の様だが、なにが起きているのだろうかと、
パトラは思案したが、思い付く理由は何もなかった。

 トマトマ.ドンク伯爵が現れて、
「これは王女様、何用でしょうか?」
「魔物を倒した者達が居るとの、噂を聞いたので調査に来た。」
「やくざな者たちの噂ですか。あれは奴らの自称なので、ほら話です。」
「その者等を知っているのか?」
「ぼったくりの詐欺師です。」
「詳しく聞きたい。」
「今日は取り込んでいるので、勘弁して下さい。一番いい宿を紹介しますので、今夜はそちらでお過ごしください。」

 パトラ等女傑騎士団は、衛兵の案内で風格ある宿の前で待機させられた。

宿との交渉が上手く行かないのか、かなりの時間待たされたが、宿の中から罵声が響き、宿入り口の扉が蹴り開けられた如く勢いよく開いた。

 風来傭兵の集団らしき者達が、壁や物に八つ当たりしながら扉の内側から出て来た。
女傑騎士団に向かって唾を掛けてく奴もいる。

 明らかに、パトラ等女傑騎士団が宿泊する代わりに、風来傭兵の集団らしき者達が追い出されたとパトラは感じた。
パトラは、野営の準備をしてこなかったことを思い出したが、今更どうすることもできないと後悔しながら、衛兵の案内の風格ある宿の前で待つしかなかった。

 パトラ等女傑騎士団は衛兵の呼び込みに応じてフロントに向かうと、
恰幅の良い初老のおかみが、
「良かったわ、荒くれどもを追い出してくれて、今回の傭兵どもは下の下ばかりだね。
お嬢さんたちは傭兵ではなさそうだけど、まさか、亜人協力国に攻め込むために、
応援に来たのではないでしょうね。」

「亜人協力国に攻め込む話は、聞いたことがない。傭兵が多い理由は、亜人協力国に攻め込み、戦争を仕掛けるのですか?」
「身の程知らない領主様が、亜人協力国に攻め込むらしいが、
徴収兵と傭兵の集まりが悪くて、足踏み状態らしいです。集まってくる奴らは、ろくでなしどもばかりさ。」

「兵の集まりが悪いとは、理由は分かりますか?」
「領主様の人望のなさと、魔物を倒した勇者の国に、
勝てるわけがないと思うからでしょう。」
「トマトマ.ドンク伯爵は、人望が無いのですか?」
「無い!全く無い。出来れば、魔術師達勇者にこの街を占領して貰い、
亜人協力国に併合された方が、住民は歓迎するかも知れないよ。」

「亜人に支配されても構わないと?」
「この街から樹海跡地に移住した人たちから、伝えられている噂話だと、
個人の尊厳を第一に決めて、亜人協力国は住民皆平等で、だれにも自由と生活に関しては支配されない、それを守り、協力し合いながら国造に勤しんでいるらしいです。」
「まるで理想郷ですね。」

「毎日の生活において衣食住、安全、祈りは満たされ、天国らしいです。
息子夫婦も樹海跡地に移住させて頂き、宿の支店を造る計画を思案中です。」

「私達は、魔物を退治したという者たちを、探究しに来たのですが、
何か噂話を聞いていますか?」
「魔術師達勇者のことなら、噂話でなく事実として町の者たち皆知っているが、
私に聞きな、詳しく教えてやるよ。」
「魔物を倒したとの自称者を、知っているのですか?」
「親衛隊の頭を消し去る、多数の魔法杖と強烈な爆裂魔法を使い、伯爵様を二十メートルも投げ飛ばせる怪力を持ち合わせているうえに、鎧ごとだよ、鎧ごと、、、身二つに切り倒す魔法の剣を持ち、その剣で瞬く間の迅速さで五人の騎士を身二つにした。
あのしびれさせられるいい男の勇者様なら、後百人、いや、千人は倒せたでしょう。
魔術師達勇者様が魔物を倒したのは本当だと思うよ。
魔物から製造した、エルフ製造の万能薬も売っていましたから。」

「膨張しすぎでしょう。」
「町のみんなが見ていた事さ。それに、樹海跡地に教会を建てたテテサ修道女様は、
ガイア教会から聖人と認められたらしい、その理由を街の修道院で、貴女が確認すればいい事さ。」

 部屋の片づけがおわり、準備できたと若夫婦らしき二人が階段から降りてきたが、
イアラ王女はサンビチョ国王の命を受け、女騎士団を率いてパンパの街に着いたばかりであるが、亜人協力国の守り人が本当に魔物を倒したのか、
亜人協力国の守り人は、どの様な人なのか調査する為に、再びパンパの街に飛び出した。

 パンパ街の住人全てが褒めたたえ、勇者であり爆裂魔法の魔術師だと言い合って、
魔物を間違いなく倒す力があると言い合うので、半信半疑ながら、修道院を訪ねる事にした。

 イアラ等女傑騎士団は再び宿に引き返して、案内された部屋に入り、
甲冑のままでベッドに横になり、魔物を倒した者達の噂を整理すると、

トマトマ.ドンク伯爵は、魔物を倒したらしい者達を見知り、
倒したと自称する、亜人協力国の守り人を詐欺師と言い、

宿の女将やパンパ街の住人全てが褒めたたえて、
亜人協力国守り人全員は、魔法師で勇者であると言い、
多数の魔法器具を用いて、その魔法は強力だと断言している。
 
 イアラは宿での朝食を済ますと、女傑騎士団五人を伴い修道院へ向かった。

 修道院の修道士に声を掛けて身分を明かすと、豪華とは言えない清潔で、整理された客間に案内された。

 間をおいて、穏やかな雰囲気の初老の修道院長が現れて、
「サンビチョ王国の王女イアラ様が、こんな辺境の寂れた修道院へ、何用でお越しですか?」
「国王陛下の命を受けて、魔物を倒したらしい者達の事、そして、亜人国の事を詳しく知りたいので、調査にきました。」
「調査にはすべて協力しますが、サンビチョ王国に対しては、心地よくない返答が含まれるかもしれません。」
「心地よくない返答とは?」
「亜人協力国への戦いを起こす事です。」
「トマトマ.ドンク伯爵の事ですか?」
「ヘレニズ.サンビチョ公爵様と組んで、侵攻するとの事です。」
「叔父上様も関係しているのですか?」
「サンビチョ王国の指示があったのでは?」

「私は何も聞いてない。国王陛下は何事があろうと、臣下を支持はするが、
今回の侵攻に関しては、国王陛下の命を受けたとは思えない。
何故ならば、今回の私への命令は、亜人国の調査をも、含んでいるからです。」

「それならば、公爵様、伯爵様共に兵の集まりが悪いので、侵攻は起きないかもしれない。」
「叔父上様も兵が集まらないのですか?」
「亜人協力国の守り人たちの強さは、超人的で使徒か眷属だとの噂ですから。」
「亜人協力国の守り人たちが魔物を倒した者達ですか?」

「聖者となったテテサ様の報告では、証人も証拠もあります。間違いなく彼らは魔物を倒しました。」
「亜人は、何を目的に国を興したのか、ご存知ですか?」
「聖者テテサ様からの報告を整理して、順に話します。」

亜人協力国の守り人たちは、遥か遠方から来たのだが、自国に帰るすべがなく、
闇の樹海の傍に住み着き、その地で、守り人の指導者がガイア様に愛され、
ガイア様から啓示を受けて力を授かったとのことです。

ガイア様の示教に応える為に、石の防壁壁を建造中に魔物が現れて、
魔物に工事を邪魔されて、工事に支障が出たので退治したとのことです。

その頃、エルフ族の集落は魔物に食い散らかされた残腐肉から、病気の気が発生して、
万能回復薬の製造に必要な魔物の石を譲渡してくれと、彼らに求めたら、
譲渡の条件は、亜人種族と人間種族が共に働く国を興し、
子供の教育と、皆が個人の尊厳を持つことを義務付けて、
パンパの安全を脅かす、あらゆる猛獣や魔獣を討伐し克服したらしい。

闇の樹海跡地は安全な場所になったので、広大な耕作地と牧畜地が出来た。

猫亜人族とエルフ族は、安全な闇の樹海跡地に移住してきて、樹海跡地とパンパを亜人協力国とした。

樹海跡地では、年に五回の収穫ができる肥沃な土壌であるらしく、
これらを闇の樹海全て開墾出来たなら、大陸の争いは無くなるだろうとの事である。

「このことが、聖者テテサ様からの報告です。」

「闇の樹海の開墾が可能であるならば、すべてを達成する過程で、かなりの国からねたまれ、狙われるでしょう。」

「賢い国は、友好を求めてきます。愚かな国は、奪いに来ます。」

「叔父上様は、愚か者ですか?」
「最初に、私の返答は、心地よくないと申しました。」

 イアラは、宗教の教えは、善か悪の答えだけであるが、身内が悪人と言われると、いい気がしない様子である。

「聖者テテサ様にお会いできますか?」
「ガイア教会は、何時でも扉を開けています。」

 修道士が扉を開けて、急ぎ足で修道院長に何事かを耳打ちした。
「トマトマ.ドンク伯爵の軍は、亜人協力国の守り人たちが、三湖街の森で魔物と対峙しているらしいので、進軍したようです。」
「私達も三湖街の森へ向かいます。」
と、言って、席を立った。

 修道院長は、部屋から出ていくイアラの背中に向かって、
「トマトマ.ドンク伯爵の軍と、亜人協力国の守り人たちの戦闘になっても、決して巻き込まれないように、気を付けてください。勝ち目はありません。」

 イアラ等女傑騎士団は、三湖街の森で魔物と亜人協力国の守り人たちが、対峙しているとの話だけしか聞いてなかったようで、亜人協力国軍に勝てない理由を、聞く間もないように急ぎ宿に戻り、トマトマ.ドンク伯爵の軍を追った。

 イアラ等女傑騎士団はかなりの速さで追った甲斐があり、トマトマ.ドンク伯爵の軍の影が見えてきた。

 イアラ等女傑騎士団は何度かの爆裂音が響くのを感じながら、亜人の守り人たちが魔物と対峙中と思い、エミューをさらに急がせた。

 伯爵の軍の全容が確認できて追いつけたと思ったときに、明るい日差しの中なのに眩しい光を受けると、強烈な爆音が顔正面いっぱいに響ように襲った。

 イアラ等女傑騎士団は伯爵の軍の中から、全速力で女傑騎士団に向かって来るエミューに、しっかりとしがみついている人影を、トマトマ.ドンク伯爵と確認した。

 後ろの方から、聞きなれない動物らしき声が聞こえ振り向くと、長い顔した巨体の地響きが轟、イアラ等女傑騎士団に向かってきた。

「後ろに敵!火炎魔法師、迎え撃て!」
と、イアラは叫び、エミューの向きを長い顔した巨体に向かわせたとき、
巨体に乗っているエルフ族の杖から火花が出たと同時に、
右肩に衝撃と痛みが走り気を失った。

 左足の激痛に耐えかねて目を開けると、左足に添え木をつけられて、広い荷台に寝かされている。
「気づかれましたか?回復万能薬です。お飲みください。」
猫亜人が、コップに入った薄緑の液体をイアラに差し出した。

 イアラは苦い飲み物だが、回復万能薬であるならば、飲まざるを得ないと苦味をこらえて飲み干したのち、身体中の痛みは耐えられるぐらいに感じられた。
 
イアラは周りを見渡すと、女傑騎士団全員が横たわっているのを確認させられた。
イアラを含めて全員が鎧を脱がされていて、右肩下を皆白色の包帯が巻かれている。

イアラを含めて十七人の重傷者が出たようで、全員に万能薬とえぐられた銃創には万能塗り薬を使い、骨折者にはギブスをあてがわれているが、
イアラ等女傑騎士団全員は捕虜となったようで、暫くの間亜人協力国で養生させられるらしい。

 イアラ等女傑騎士団は気が付いた順番に、回復万能薬を与えられ、皆、周りを見渡すと驚くが、何かをあきらめたように目をつぶり横になった。

 イアラ等女傑騎士団は、亜人協力国の王宮と思われるところに着き、ベッドに運ばれた順番に、爵位と名前を聞かれている。

 イアラの番が来て、白いきれいな身なりの猫亜人が、
「爵位とお名前を教えて下さい。」
「私達は皆捕虜ですか?」
「私達もそれを知りたくて、こちらに招待したのです。」
「聖者テテサ様を呼んでいただけませんか?」
「爵位とお名前を教えてください。」
「サンビチョ王国の第一王女イアラです。」
「テテサ様を呼びます。少しお待ちください。王女様。」

 イアラはそろいの白い服を着た猫種族とエルフ種族の亜人に、ベッドに横たわってのまま、テラスのある部屋に連れて来られると、向い扉からガイア教会の司祭服装で二十歳半ばの女性が現れた。

「初めましてイアラ王女様、私がテテサです。」

「お呼びしましたのは、我々はトマトマ.ドンク伯爵軍とは関係ありません。
国王命により私たちは魔物を倒した噂の真実と、亜人協力国の調査を命じられ、調査に赴いたのですが、
今まさに魔物と戦っている者がいるらしいと、修道院長の知らせで三湖街の森に向かっていたのですが、トマトマ軍が亜人協力国と交戦しているとは知らず、
爆裂音の方からトマトマ伯爵の乗ったエミューが、避難する様に我々の方へ来たので、
サンビチョ国王女の立場では、保護する義務があるので、女騎士団に向かい襲い掛かってきた、奇怪な野獣に乗ったエルフ族に立ち向かっただけです。」

 イアラはパンパ街での聞き取り調査と、修道院長とのやり取りを細かく説明して、エルフ種族との交戦は、向かってきた敵対行為と受け止め、防衛しただけと説明した。

「ヘレニズ.公爵様に置かれては、傭兵を募集して、亜人協力国に攻め込むとのお触れを出し、亜人協力国の指導者閣下の討伐した魔物を横取りしようと、
戦いを挑んで来たとの事ですが、サンビチョ王国の指示でしょうか?」

「サンビチョ王国は関わっていません。国王陛下の知らないことです。」
「トマトマ伯爵様は、傭兵を募集する際に、亜人協力国に攻め込むとの、触れ込みだったそうですが、それも知らなかったのですか?」
「全く知らないことです。」
 
 イアラはヘレニズとトマトマが捕虜になったことを知り、女騎士団は騎馬隊に対して自主的敵対行為でなく、正当防衛を主張したい様子である。

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