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制覇行進

204人質事件の裏

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 ヒカリ皇后とマリーは鱗甲冑に髭手袋を装着し、黒ボーボアの尾刃剣を腰に差して完全武装していた。

 隊長リルドラは治安部隊精鋭百人を指揮して、デンシャ車両でアマゾネス村前の森へ向かうこととした。

一方、鹿島達もマリーが空間移動出来ない事で、同様にデンシャ車両に便乗することにしたが、しかしながら隊長リルドラは畏れ多いとのへりくだりで、治安部隊とは別のデンシャ車両を用意した。

そんな準備中、アマゾネス村に設置してある連絡用通信機から、緊急連絡が治安部に届いた。
そのために、アマゾネス村前の森へ向かう予定を、急遽変更しなければならなくなった。

 鹿島はデンシャ車両に駆け込んで来た隊長リルドラから、
「アマゾネス村から緊急要請が届き、森へ向かう予定を急遽変更しなければ、ならなくなりました。」
「アマゾネス村で何が起きた?」
「元近衛騎士達三人が二人の子供を人質にして、酒場に立てこもり、私の謝罪を要求しているとのことです。」
「リルドラ殿に謝罪せよと?なして?」
「彼等は募集に応じて採用面接を受けたが、平等をもっとうとしている鎮守聖国において、みすぼらしいとの差別を受け、他数々の侮辱言葉を浴びせられたので、尊厳を傷つけられたとのことです。それ故に、私に謝罪せよとのことです。」

「面接官のキンノクラ様は他人を差別などしないし、ましてや侮辱などしない。竹を割った様な生真面目一本気の男だ。」
と、マリーは立ち上がって面接官キンノクラを弁護した。
「マリーは面接官キンノクラ、、、殿をよく知っているのか?」
ヒカリ皇后が微笑みながら問いかけると、マリーは真っ赤な顔になり、
「同じ行政官として、顔見知り、、、です。」

やはり鹿島も何かを感じた様子で、
「マリー嬢が言っていることは正しいだろう。」と微笑み、さらに
「何か、要求の裏がありそうだな。」と付け加えた。
「裏とは?」
「それを確かめに行こう。」

 二両のデンシャ車両はゆっくりとアマゾネス村広場に降下した。

 隊長リルドラと治安精鋭部隊百人は急ぎ飛び降り、酒場を囲んだ。
しかしながら、鹿島達の乗っているデンシャ車両の扉は開くことなく、全員がそのまま居残った。

「陛下様、何故に待機なさるのでしょうか?」
鹿島はパブレットを開き、
「屋根にいる三人の暗殺団と、商人を装っている奴をここで監視する。」
「何で、暗殺者が村人の輪の中心にいるのだ?」
「何かが匂うね。」
マリーは慌てて鹿島のそばから離れ、自分の体臭を嗅ぎ始めた。
「マリーちゃん。別に、あなたの匂いではないわよ。”コーガカンジャ団“の行動のことよ。」
と、サニーもパブレットを覗き込んだ。

 隊長リルドラは村人に親し気に挨拶し、
「その者は、見覚えがないが?」と、
村人の輪の中心にいる暗殺者を睨んだ。

「たまたま通りがかった商人ですが、子供の釈放交渉が出来るとのことで、無頼漢との交渉をしてもらったのです。」
「で、誰も怪我はしていないのだな。」
「無頼漢はケガしている様子です。」
と村長は言って、恰幅の良い女性に、此れまでの経緯を説明するように言った。

 隊長リルドラは恰幅の良い女傑の顔を見つめると真っ赤な顔になり、此れまでの経緯の説明を求めた。
恰幅の良い女傑の武勇伝を聞いている隊長リルドラは、嬉し気に相槌を打っていた。
「うん。今回の経過では、村人達は褒めるに値する行動だった。それ故に、無頼漢どもがけがをした原因を咎めることはない。それが、ヒカリ自治区の法だ。」
「これからの対応は、どのようになさいますか?」
と商人を装った暗殺者は尋ねた。
「面接官との行き違いが在ったのなら、私が責任者として謝ろう。」
と、隊長リルドラは武具甲冑を脱着し、酒場扉へ向かった。

 隊長リルドラは酒場の扉を開き、
「治安部隊長リルドラ.ゴールドルだ。面接官の非礼があったとの訴えを聞き、参上した。
ヒロー殿、インポイ殿、コーシク殿、子供たちを解放する条件を聞きたい。」

酒場の奥から、
「なぜに我らの名前を知っている。」
「帥達を見知った者から、たまたま見かけたと、報告があったのだ。」
「して、今後の俺達の待遇はどのようにする。」
「互いの行き違いで起こった出来事なので、罪は問わない。が、自治区領地からの追放はある。」
「身の安全は保障すると?」
「子供を無事に解放するなら、命と自由は保障する。」
「少し待て。」
酒場内ではしばらく沈黙が続いていた。

「金貨三十貨幣と、国境を超えるまでの女の人質と交換だ。それが交換条件だ。」
「金は出せるが、女性の人質など出せるわけがなかろう。お前たちも元貴族の子息で近衛騎士だったのなら、俺の言葉は名誉がかかった、言葉だと理解するはずだ。」
「アクコー王を裏切ったお前を信用しろと。」
「俺も親父殿も、反逆者アクコーに忠誠を誓った覚えはない!」
と、怒鳴り返した
「確かに前王を殺害したアクコーは反逆者だと認めよう。だが、金と女の要求を、引っ込める気はない!」

ともあれ、隊長リルドラは冷却期間が必要との判断で、
「今は手元には金貨三十貨など持ってはいないし、女性の人質など言語道断だ。なので、金貨三十貨幣を用意するまでの時間、休戦にしよう。よく考えるのだな。」

隊長リルドラは踵を返して、村人たちの輪へ進んだ。
輪の中には、人質となっている兄妹の母親も現れていて、

「私が人質になります。子供たちを助けてください。」
泣きぬれた真っ赤な目をした母親が、隊長リルドラの足の甲にキスしようと膝まづくと、隊長リルドラは慌てて自身のひざを折り、
「われらには、民の安泰と命に財産をも守る義務がある。もうこれからの時代、誰もが誰にもかしずく必要はなくなったのだ。」
といって、母親の手を握り立たせた。

「私にも責任の一端があります。なので私が人質になります。」
と、女傑が隊長リルドラの前に進み出たが、しかしながら、隊長リルドラは彼女に対して無言ながらも、穏やかな表情で首を横に振った。

 隊長リルドラは二人の女性を制し、村人たちに向かって、
「誰にも今回の事件に関しては責任などない。卑怯卑劣なきゃつらの独断行動だ。」
と、すべての責任は卑怯卑劣奴らだと念を押した。

 鹿島達は、商人に扮した男が屋根にいる三人と合流している映像をタブレットに映し出し、四人の”コーガカンジャ団”の会話を聞き取っていた。

「あ奴ら、思わぬ思案の上を行ってくれるな。」
「棚から牡丹餅が次々と落ちてくるよ。」
と四人は微笑んでいた。

「では要求は、金貨三十貨幣と、子供の母親との人質交換だな。その後、向かわせる先は森の中だ。」
「母親なら、奴らが強く要求すれば、応じるでしょう。」
「たとえリルドラが反対しようと、母親は必ず応じるさ。その上、金貨三十貨幣まで持ってくるだとよ。」
「で、治安部隊は森の中を、居なくなった奴らと母親を、広範囲に捜索する羽目になるだろう。ともあれ、そのように奴らに伝えてきます。」と、
商人に扮したスカシッペは屋根から飛び降り、村人の居る輪に向かった。

鹿島は”コーガカンジャ団”達の会話から、彼らだけの情報共有独特の隠れ言葉を推測し、
「元近衛騎士三人は”コーガカンジャ団”に踊らされていて、金貨三十貨幣を持って森へ向かい、森でいなくなり、治安部隊は森の中を広範囲に捜索する羽目になる。どういう意味だ?」
「いなくなるとは、死体を隠す。ことかしら?」

「広範囲に捜索する羽目になる。とは、戦力の分散かしら?」
「その推測が正しければ、”コーガカンジャ団”は元近衛騎士三人を殺し、金貨三十貨幣を奪う。
だが、奴らの本来の目的は、ゴールドル一族の暗殺だろう。何でこんなことを企む。」

サニーはしばらく考えたのち、
「みんな忘れちゃったのかしら、私たちがここへ来た目的は、リルドラ殿に謝罪に来いとの連絡でここへ来たのに、元近衛騎士からは謝罪しろとの言葉は一言もないわ。」
「事実と違う因縁としか感じなかった謝罪要求だったが、確かに謝罪要求の言葉は一言もなかった。」
「だが、確かに連絡では兄様に、謝罪しろとの連絡であったはずです。」
「なら、治安部隊は森の中を広範囲に捜索する羽目になる。との事と関係があるのかしら?」

「本来の目的はゴールドル一族の暗殺なので、手強いリルドラ殿をここに誘いだし、森の中で暗殺する為に、誘拐事件をそそのかした。と、考えると合点がいく。」
「思わぬ思案の上とは、最初の計画では金貨の要求をする、予定ではなかったのかもしれない。」
「では金貨の要求は。元近衛騎士の独断でしょうか?」
「そうであるなら、金貨の上乗せをすれば、人質を諦めるかもしれないな。」
「村人に偽の要求を伝えた、商人に扮した暗殺者が邪魔しそうだな。」

「だが、これで全容がうっすらと見えたな。」
「確かにあの広い森の中での捜索は、治安部隊は分散するしかない。
屋敷内や街中では、多くの治安部隊が分散したとしても、すぐに集合出来て対処できたが、森のなかで分散したなら、すぐには集合できない。
で、暗殺団の本来の目的は、手薄になった兄様を四人がかりで襲うとのことでしょうか。」
「だな。」

「で、タロー、これからどうするの?」
「森はサニー達のラッキーゾーンだろう。罠にはまって森へ向かおう。ここで争うより、犠牲者が少なくなる。」
「でも、母親の人質だけは、避けたいわ。」
「そこは身代金を上乗せして、人質交換を阻止しよう。」
「ダメな時には、私が人質になります。キク精霊様とツボミちゃんがいれば、空間移動してすぐに逃げおうせます。」
「皇后両陛下様それはいけません。私が行くべきです。」
「マリーは空間移動できないでしょう。」
「ま、どっちでも、俺が瞬間移動で隠れながら付いていくから、心配はないだろう。」
「はい。信じています。」
とヒカリ皇后は鹿島に抱き着いた。
「なら、私は絶対皇后両陛下様についていきます。」
と固い決意を表明した。

「は~。」と、全員は反対意見を述べるのをあきらめ、息を吐いただけであった。

「あと、金貨三十枚と上乗せ分はどうする?」と、
鹿島はみんなを見回した。
サニーに精霊たちはそれぞれが金貨一枚を出し、ヒカリ皇后は二枚とマリーだけが三枚持っていた。
「タローはないの?」
「俺は金貨は不便なので、銀貨二十枚持っているだけだ。」
「は~。」とみんなは再び息を吐いた。

「母様。これがいっぱいほしいの?」
と、銀色妖精ツボミがヒカリ皇后の手から金貨を取り上げた。
「ツボミちゃん、金貨を持っているの?」
「持って来る。」といって、デンシャ車両の壁を抜けていった。
「何、今の魔法。空間移動魔術似たいな感じで、すり抜けた。」
「ますます謎の存在だわ。」とサニーはうずくまった。
「サニたちだって、壁のすり抜けなどできただろう。」
「違う。あれはすり抜けたのではない。移動したのだ。」
「壁がないかのように、移動した。」
鹿島はその移動現象を、全くの別物として認識できなかった。

 思う間のなく直ぐに、銀色妖精ツボミはヒカリ皇后の顔面前に、生い茂った葉っぱの枝思って現れた。
「母様。これで足りますでしょうか?」
と言って、生い茂った葉っぱの枝を差し出した。
「これ、な~に。」
「金貨の枝だよ。」
と言って、枝を振ると金貨が枝から零れ落ち、枝はただの枯れ木になった。
「なななななな~。」との声がデンシャ車両内で響き渡った。
「きききき、金貨私造は犯罪よ。」と、マリーが叫ぶと、
「筆頭二番目のマリー、魔素を抜けますか?」
と言って、零れ落ちた金貨をマリーに手渡した。

「確かに、かすかにこの金貨には魔素を感じるわ。魔素を私が吸い取るのね。」
と金貨を手のひらに乗せた。
すると金貨は再び葉っぱになった。
「ななななな~。」と再び合唱が起きた。
「すぐに葉っぱになるから証拠隠滅が起こり、金貨私造犯罪には、ならないわ。」

「ツボミちゃん、何でこんな事が出来るの?」
「母様の記憶と能力を受け継いでいるからよ。」
「私は葉っぱを金貨にできないわ。」
「だって、タヌキの頭に葉っぱを乗せると、金貨にできるでしょう。」
「それ俺の記憶だろう。」と、
鹿島は自分に指をさした。

「あ、タロー様。私がタロー様の記憶を見て、便利な魔法だと感心した記憶があります。」と、
ヒカリ皇后は鹿島の記憶を覗いている事がばれた様子に、唇を吸い込み小さくなった。

サニーは確認する様に、
「ツボミちゃん、あなたはヒカリちゃんの記憶と能力を、全て魔法にできるの?」
「出来るよ。」
「でもヒカリちゃんの魔法や魔術と違う組み方だわ。」
「組み方?わからない。生まれた時、母様の匂いと共に記憶と能力が入ってきてので、ただ、それを真似しただけだよ。」
「真似した、、、だけ?」
サニーの頭の中で一柱との景がよぎり、絶句した様にこぶしを口に当てた。
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