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制覇行進

170 大岡裁き

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 三人の官吏はクロコマ.カツゾーを引きずり、中庭へと移動していった。
三人の官吏たちを乗せてきたデンシャ車両が無人のまま空高く浮いていくと、鹿島達は屋敷の屋根へ移動した。

 屋敷内での悲鳴は途絶えたが、せわしなく何かを破壊する音は響いていた。
 
 屋敷地下室では女たちが目覚め、何で地下室で寝ていのかと互いに尋ね合うが、誰もが原因を知る者はいないと思われたが、一人の娘がおずおずと話しだした。
「夜中にトイレから出たときに、眩しい光を受けて気が付いたらここで寝ていました。」
「妖精のいたずらかしら?」
「きっと、いたずら妖精だわ。」
娘たちは全員が妖精のいたずらとの結論を出した様子である。

 雑然とした足音が響く中、娘たちはおソロおソロと地下室から出ると、通路中に多くの死体が転がっており、悲鳴を上げながら中庭に逃げ出した。
中庭に出ると、クロコマ.カツゾーが捕縛された状態でひざまずいているのに気づき、
娘たちは何が起きたか理解出来ずに、全員で身を寄せ合い固まっていると、屋敷内から自分たちに向かってくる、血のりの付いた鍬や鎌刃を手にした男たちに恐怖の悲鳴を上げた。
ところが、多くの女たちは農奴姿の男たちの中に、見知っている人がいるのに気づき、一揆衆の各集団もとへバラバラに走り出した。
一揆衆も娘たちが無事であったことに歓喜し、一揆衆の輪の中では身内同士なのか、互いに抱き合う泣き声がだんだんと高くなりだしていた。

 屋敷中庭ではクロコマ.カツゾーを処刑する方法が話し合われていた。
「俺に殺させてくれ。」と大柄なオオマサが名乗りを上げた。
「だが、ビクトリー女王国から派遣された彼らにとっても、特使の仇でもある。」
とオオオカ領主は腕を組んで目をつぶった。
「われらは奴の両腕で我慢しましょう。」と、ヨハン官吏は力なくうなだれた。

 屋敷門前に騒ぎを聞きつけた街の住民が集まりだし、荒縄でくくられたクロコマ.カツゾーに気づき、罵声と共にクロコマ.カツゾーにむかって石つぶてが飛んできた。
クロコマ.カツゾーは石つぶてを避けることができない状態であったので、何個かの石が顔面に当たり悲鳴を上げていた。
悲鳴を上がるたびに歓声が起き、さらに多くの石つぶてが降ってきた。

クロコマ.カツゾーは腹ばいになり、地面のへこみに顔を埋めると石の雨は止んだ。
いや、オオオカ領主が街のみんなを制していた。
「これから、クロコマ.カツゾーを処刑する。残酷な処刑なので、気の小さな人には酷く感じるだろう。だがあえて行う。見たくない人はこの場から去ってくれ。」
と言い終わらないうちから、拍手が巻き起こった。

 シャジャーイ王国では殺人者は腕を切り落とされ、首をも切り落とされる処刑は一般的であったので、クロコマ.カツゾーは背中に背負った竹槍に、両腕を広げる様に結ばれた。
 
 官吏ゲルシムとエリゼルは尾刃剣を抜き、二人同時に掛け声を出して立たされた状態のクロコマ.カツゾーに向かって走りだした。
クロコマ.カツゾーの腕は竹槍と共に、両側へと飛んでいった。
悲鳴を打ち消すように再び拍手と歓声が上がり、クロコマ.カツゾーはそのままうつ伏せになると、鉄剣を持ったオオマサが近寄ってきて、上段の構えから剣を振り下ろした。
振り下ろした剣は首ではなく、頭の後ろに食い込んだ。
オオマサは頭に食い込んだ剣を抜こうと、力を込めて持ち上げた。
クロコマ.カツゾーが頭に食い込んだ剣に引かれる様に苦し気に顔を上げると、オオマサが今度は抜けた勢いで後ろに大きく振りかぶり、一本打法にて剣を速い勢いで振りぬいた。
クロコマ.カツゾーの首は打ち出されたボールのように、ヨハン官吏の方へ飛んでいった。
ヨハン官吏はすぐさま尾刃剣を抜き赤く発動させて、クロコマ.カツゾーの顔面を二つに砕割った。

 門の前にいた群衆は暫く静寂に包まれたが、一人の男がごくりとつばを飲み込む音を合図に、大歓声と拍手の嵐となった。

 オオオカ領主は中庭に積み上げられた装備を、ジロチョーたちに持ち出すよう指示をして、屋敷の門を出ていった。
屋敷門から農奴姿の男たちは娘たちを守りながら装備品を抱え、片手で鍬を担いで出て行った。

 女たちが門を過ぎていくと、三人の官吏達は屋敷内の馬小屋から馬を引き出したようで、それぞれで馬を引きながら屋敷門から出ていった。

 オオオカ領騎士団と一揆衆が街の大通りを通ると、道の脇には人だかりがあふれだし、それぞれの手には食べ物を持っていた。 
道の脇に並んでいる群衆は、オオオカ領騎士団と一揆衆にいろんな種類の食べ物を差し出していた。
 オオオカ領主は街の防壁門を出たところで、屋敷からの戦利品を並べさせた。
高そうなツボや絵画に血のりの付いた絨毯などと、中庭に積み上げられた武器類に装備品らも並べられた。

 ヨハン官吏は鹿島とイザベラ女王から預かった金袋を、オオオカ領主に二つ差出した。
「イザベラ女王陛下より預かった、オオオカ領主様に渡せと仰せつかった軍資金です。返済する必要がないので、ご自由にお使いくださいとのことです。そしてわれらも此れからはオオオカ領主様に同行させていただきます。」
と手を差し伸べると、オオオカ領主も手を差し出し、
「イザベラ女王陛下に命を差し出したので、イザベラ女王陛下の思うままに、お使い下さるようお伝え下さい。」
「イザベラ女王陛下の意にかなうようお互い頑張りましょう。」
と互いに手を取り合った。

 オオオカ領主は二つの金袋から金貨三十貨を分けて再び金袋に仕舞い、
「ジロチョー、この金をお前に預けるから、一揆衆で分配してくれ。装備品は売り払わずに、私に協力してくれる者たちに装備品を渡してほしい。騎士団の戦利品は一人大銀貨一枚で私が買い取る。どうだろう。」
「それでは、領主様が丸損でしょうに。」
騎士隊隊長が不満な表情を向けた。
「みんなが損をするのに、私だけが損をしないわけにはいかない。」
「みんなが損しているとは?」
「屋敷からの戦利品は大金になるかもしれないが、この御時世すぐに貨幣に替える事が出来ないであろうから、みんなの不満が出るし、装備品は間違いなく大金になる。それらを敵に売り払われると、こちらの損害が大きくなる。みんなはもっと大きな貨幣を手にできたであろうが、大銀貨一枚しか手にできない。だから、三方一両損となる。」
「オオオカ領主様の裁きで、全員が不満無く満足することができます。」
と、ジロチョーは頭を下げた。

 オオオカ領主は背後に騎士団を並べさせ、一揆衆に向かって解散を告げた。
が、ジロチョーが進み出て、
「われらを無償でいいので、タイガー軍の反撃があるでしょうから、装備した者達だけでなく、自前で装備できる者たちも防衛兵士に使ってください。」
と頭を下げると、一揆衆からも歓声が上がった。
しかも合図し合ったように、食い物を口いっぱいに頬張り、勝どき声をも上げだした。

 「ビクトリー女王国の旗の下、わが軍に合流していただく人は歓迎し、相場の給金も払おう。なお、我が領地では、すでに農奴制度は廃止されているが、ビクトリー女王国では農地を無料で与え、三年間は無税とのことだ。希望者は我が領地に着いてから受け付ける。ではみんな我が領地へ向かおう。」
と宣言すると、一揆衆だけでなく、大きな歓声が街中からも響き、街中ではオオオカ領主に共感する旨の騒ぎが門の外まで響いていた。
 
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