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制覇行進
108 偽の勅書
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ゴールドル伯爵邸宅客間では、ヒカリ王女に肩を射抜かれたムノーノの護衛たちは、ヒカリ王女の治療魔法によって完治しているが、心ならずも武装解除されて下着姿である。
しかしながら、ムノーノな何故か無視されたようで前歯は折れたままである。
ムノーノは護衛の者達が殺されなかった事で、自分も助かると悟ったのか、
「提案がある。謀反を報告しない代わりの条件として、ゴールドル伯爵殿は、兄ナントン男爵領地への援軍を命じる。」
と自分の位高をひけらかす様にゴールドル伯爵をにらんだが、けれどもだれもが軽蔑の目を向けるだけである。
ヒカリ王女は鹿島の持っている巻物勅書を取りあげると、
「これ偽物だわ。慎重なアクコー兄様が、何でこんな男を寄越したのかが理解出来なかったが、これで納得できたわ。この勅書を作成して、自作自演を演じている者は、、、。」
とムノーノをにらみつけた。
「何が、、、偽の勅書だとの証拠があるのか。キチンと王印は押されている。」
「その押印が、偽物なのよ。」
「しょ、、証拠は?」
「王族だけが知っている事を、なんでお前に教えなければならない。」
と冷ややかな目を向けた。
リルドラは衛士兵を呼ぶと、
「こやつらを連れ出していけ。そして表にいる五十人の護衛隊をも武装解除しろ。抵抗するやつは殺してもいい。」
と命じ、ゴールドル伯爵とリルドラは共に部屋から出ていった。
鹿島はヒカリ王女から再び偽の勅書を取り上げて、
「王印は魔道具か何かかい?」
「普通の印ですが。」
と言って、広げた手のひらを、片側の指で外側をなぞりながら、
「王印の外側に着いた朱肉をふき取りながら、個々の部分を軽くふき取るの。」
と言って、広げた小指の部分を軽くさすった。
「とすると、角の部分が薄くなるはずだが、この押印は全体が同じ色だ!」
「でしょう。押印なんて、簡単に偽造できるから、その対策です。」
「なるほど。う~ん。だな。」と肝心しだした。
マリーは顔をしかめながら、
「勅使と聞いたときには、すぐに大河港町ハカタに停泊しているジンギハーン帝国軍の元へ、王女様に赴けとの本物の命令だと思ったわ。」
「最初は私もそう思ったが、兄様がムノーノみたいな男を寄越すはずが無いとの思いが、少しずつ頭をもたげたのよ。」
「ま、勅使が来たと聞けば、ヒカリ殿がらみだとの内容は想像するわな。」
と、鹿島も安心したようにヒカリ王女に微笑んだ。
「でも今は、もう王族だとは思っていません。」
と言って、鹿島の腕に抱き着いた。
マリーはヒカリ王女の行動に驚き、サニーの方を見るとわれ関知せずとの態度でいつの間にかチョコにかぶりついているし、鹿島は鹿島で、嫉妬深いサニーの前であるのに動揺することなく、ヒカリ王女をやさしく抱いているのにはなお驚いていた。
客間では、ヒカリ王女とマリーは忙し気に飲物と焼き菓子を並べていて、楽しげに動き回っているゆえにメイド服はよく似合っていた。
そして何よりにもヒカリ王女は、鹿島とサニーに奉仕する喜びを感じているようであった。
鹿島が微笑みを返すと、満面笑顔でうっとりとする姿は新妻の笑顔である。
サニーが忙し気に焼き菓子をほおばると、自分も幸せな満足感で優し気に微笑んで見ていた。
マリーは、ヒカリ王女の顔が悩みなどない充実していた少女時代、侍女メルシーや自分を相手に遊び騒いたときの同じ顔だと思い出していた。
鹿島はC-003号機からの連絡でタブレットパソコンを開くと、大河港町ハカタから五万の騎馬隊を先頭に、さらに歩兵部隊十万が付いてきていて、馬車に積んだ多くと砲身と思える荷車が後ろからなおも続いていた。
鹿島はエントツ元帥を呼出し、ジンギハーン帝国軍への対応はどのようになっているのかを訪ねると、エントツ元帥は冷めた顔をして、
「お館様の意向のままに、行動します。」
と、表情を変えることなく頭を下げた事で、鹿島はハタと気が付いた。
鎮守聖国軍の幹部たちはほとんどがナントン男爵領地の元農奴や奴隷たちであったし、ミミズ街冒険者傭兵ギルド出身者も多数いて、鎮守聖国軍や住人たちは、ナントン男爵やミミズ街住民に対しては、助けるな、教えるな、関わるなとの三原則の思いがしずかに国中にも沈殿していた。
鹿島は三原則を思い出し、
「では、ジンギハーン帝国軍が鎮守聖国に手を出さない限り、静観していよう。ちなみに、、、もし何かが起きた場合の掃除役は、ヒカリ王女軍に任せましょう。」
「それがよろしいと思います。」
と、やはり冷めた声で答えた。
それを聞いていたヒカリ王女とマリーは、エントツ元帥の冷めた声ゆえだったからか、降りかかる火の粉を払うように大きく息を吐いた。
ゴールドル伯爵は静かにノックして部屋に入ってくると、してやったとの表情で入ってきた。
「ムノーノのやつ、焼け火鉢を顔に近づけると、あっさりと勅書は偽物で、自分は勅使ではないと吐きやがった。」
「誰が絵図を書いたのだ?」
「ナントン男爵とムノーノのやつらが相談し合って、アクコー王国援軍の到着までの時間稼ぎに、王女様をジンギハーン帝国軍に差し出し、俺の領地軍を前線へ向かわせようと画策したけれども、護衛を首都の衛士兵から借りるのに多額の金貨を払ったようで、その回収をも請け負っていたようです。」
「ナントン兄弟て、馬鹿か。」
「権力者は、常に虎の威を借りた強政権をもってさえいれば、人はみな動くと思ってしまうようです。」
「それの典型が、ナントン兄弟て~わけか。」
「全く、事前調査なしに、出向いてくるなど、少しおかしな兄弟たちだ。だから言ってやりました。俺の領地軍は一兵もいないと。」
「ははは、さぞや驚いただろう。」
「やはり理解できないようで、きょとんとしていました。」
そして、やはりきょとんとしているヒカリ王女は、
「え、聖女突撃騎馬隊は確かに配下にする事は承諾したが、しかしながら聖女近衛兵は、私を守る名目上の、ゴールドル伯爵軍隊なのではないのか?」
「聖女突撃騎馬隊と聖女近衛兵の指揮者は王女様です。すでにご承知だと思っていましたが?」
ヒカリ王女はまたもや不安な表情で、鹿島を見つめた。
「ま、成り行き上、そうなったのだ。しっかりと守って貰いなよ。」
と鹿島は要するに、それが今のヒカリ王女の置かれている現実だと伝えたかったのである。
「調整能力が問われる最初の試練とは、そういう意味だったのね。」
と、王族の義務から離れるには、自分を守る周りの人たちが大きな渦巻を起して抵抗していると理解し、その渦巻の中心に自分がいることを理解したようである。
オハラ王国の歴史では王女の息子が王になったことはあるが、女性が王になった事実は無かった故に、ヒカリ王女はアクコー王と相争う気持ちはなかったけれど、鹿島とサニーの保護下にいるだけでなく、人情にしたがい叔父ホルヘ公爵やタワラボシ聖女突撃騎馬隊隊長の敵討ちに協力するには、アクコー王と戦う必要があるとの情があったし、事が成就した暁にはその後の王位継続者を決めなければならないだろうと思えた。
鹿島は身内同士の争いを避けたいヒカリ王女を理解していたし、アクコー王に対してだけ恨みがあるのをも知っていた。
「なあ~、ヒカリ殿。配下となった人たちが暴走しない限り、遣りたい様にやらせてやるのも上司の心構えだし、その責任を取るのも上司の務めだと俺は思う。」
「では、聖女近衛兵や聖女突撃騎馬隊が、今後誰と戦うにしろ、すべて見守れと?」
「俺の故郷では、ほうれん草との格言がある。報告、連絡、相談を義務付ける事で、コントロールするのだ。それが今の、ヒカリ殿の立場責任だと思う。」
「そうよ。タローでさえ鎮守聖陛下と呼ばれているのだから、ヒカリちゃんならきっとうまくいくわ。」
「そうなのだよね。最初は農奴と奴隷たちの解放のつもりだったのに、開拓地ではいつの間にか人々が増え、今では鎮守聖国ではお館様と呼ばれるようになってしまった。」
「二人がそう言うのであればゴールドル伯爵殿、報告、連絡、相談を義務付ける事を、命じる。そして、リルドラ聖女近衛隊長とタワラボシ聖女突撃騎馬隊隊長にも、そのように報連相の義務を伝えてください。」
「わかりました我が主様。」
とゴールドル伯爵は片膝をついた事で、ヒカリ王女は近い将来、アクコー王と覇権争いをしなければならなくなったなら、引く気はないとこの時点で決意した。
しかしながら、ムノーノな何故か無視されたようで前歯は折れたままである。
ムノーノは護衛の者達が殺されなかった事で、自分も助かると悟ったのか、
「提案がある。謀反を報告しない代わりの条件として、ゴールドル伯爵殿は、兄ナントン男爵領地への援軍を命じる。」
と自分の位高をひけらかす様にゴールドル伯爵をにらんだが、けれどもだれもが軽蔑の目を向けるだけである。
ヒカリ王女は鹿島の持っている巻物勅書を取りあげると、
「これ偽物だわ。慎重なアクコー兄様が、何でこんな男を寄越したのかが理解出来なかったが、これで納得できたわ。この勅書を作成して、自作自演を演じている者は、、、。」
とムノーノをにらみつけた。
「何が、、、偽の勅書だとの証拠があるのか。キチンと王印は押されている。」
「その押印が、偽物なのよ。」
「しょ、、証拠は?」
「王族だけが知っている事を、なんでお前に教えなければならない。」
と冷ややかな目を向けた。
リルドラは衛士兵を呼ぶと、
「こやつらを連れ出していけ。そして表にいる五十人の護衛隊をも武装解除しろ。抵抗するやつは殺してもいい。」
と命じ、ゴールドル伯爵とリルドラは共に部屋から出ていった。
鹿島はヒカリ王女から再び偽の勅書を取り上げて、
「王印は魔道具か何かかい?」
「普通の印ですが。」
と言って、広げた手のひらを、片側の指で外側をなぞりながら、
「王印の外側に着いた朱肉をふき取りながら、個々の部分を軽くふき取るの。」
と言って、広げた小指の部分を軽くさすった。
「とすると、角の部分が薄くなるはずだが、この押印は全体が同じ色だ!」
「でしょう。押印なんて、簡単に偽造できるから、その対策です。」
「なるほど。う~ん。だな。」と肝心しだした。
マリーは顔をしかめながら、
「勅使と聞いたときには、すぐに大河港町ハカタに停泊しているジンギハーン帝国軍の元へ、王女様に赴けとの本物の命令だと思ったわ。」
「最初は私もそう思ったが、兄様がムノーノみたいな男を寄越すはずが無いとの思いが、少しずつ頭をもたげたのよ。」
「ま、勅使が来たと聞けば、ヒカリ殿がらみだとの内容は想像するわな。」
と、鹿島も安心したようにヒカリ王女に微笑んだ。
「でも今は、もう王族だとは思っていません。」
と言って、鹿島の腕に抱き着いた。
マリーはヒカリ王女の行動に驚き、サニーの方を見るとわれ関知せずとの態度でいつの間にかチョコにかぶりついているし、鹿島は鹿島で、嫉妬深いサニーの前であるのに動揺することなく、ヒカリ王女をやさしく抱いているのにはなお驚いていた。
客間では、ヒカリ王女とマリーは忙し気に飲物と焼き菓子を並べていて、楽しげに動き回っているゆえにメイド服はよく似合っていた。
そして何よりにもヒカリ王女は、鹿島とサニーに奉仕する喜びを感じているようであった。
鹿島が微笑みを返すと、満面笑顔でうっとりとする姿は新妻の笑顔である。
サニーが忙し気に焼き菓子をほおばると、自分も幸せな満足感で優し気に微笑んで見ていた。
マリーは、ヒカリ王女の顔が悩みなどない充実していた少女時代、侍女メルシーや自分を相手に遊び騒いたときの同じ顔だと思い出していた。
鹿島はC-003号機からの連絡でタブレットパソコンを開くと、大河港町ハカタから五万の騎馬隊を先頭に、さらに歩兵部隊十万が付いてきていて、馬車に積んだ多くと砲身と思える荷車が後ろからなおも続いていた。
鹿島はエントツ元帥を呼出し、ジンギハーン帝国軍への対応はどのようになっているのかを訪ねると、エントツ元帥は冷めた顔をして、
「お館様の意向のままに、行動します。」
と、表情を変えることなく頭を下げた事で、鹿島はハタと気が付いた。
鎮守聖国軍の幹部たちはほとんどがナントン男爵領地の元農奴や奴隷たちであったし、ミミズ街冒険者傭兵ギルド出身者も多数いて、鎮守聖国軍や住人たちは、ナントン男爵やミミズ街住民に対しては、助けるな、教えるな、関わるなとの三原則の思いがしずかに国中にも沈殿していた。
鹿島は三原則を思い出し、
「では、ジンギハーン帝国軍が鎮守聖国に手を出さない限り、静観していよう。ちなみに、、、もし何かが起きた場合の掃除役は、ヒカリ王女軍に任せましょう。」
「それがよろしいと思います。」
と、やはり冷めた声で答えた。
それを聞いていたヒカリ王女とマリーは、エントツ元帥の冷めた声ゆえだったからか、降りかかる火の粉を払うように大きく息を吐いた。
ゴールドル伯爵は静かにノックして部屋に入ってくると、してやったとの表情で入ってきた。
「ムノーノのやつ、焼け火鉢を顔に近づけると、あっさりと勅書は偽物で、自分は勅使ではないと吐きやがった。」
「誰が絵図を書いたのだ?」
「ナントン男爵とムノーノのやつらが相談し合って、アクコー王国援軍の到着までの時間稼ぎに、王女様をジンギハーン帝国軍に差し出し、俺の領地軍を前線へ向かわせようと画策したけれども、護衛を首都の衛士兵から借りるのに多額の金貨を払ったようで、その回収をも請け負っていたようです。」
「ナントン兄弟て、馬鹿か。」
「権力者は、常に虎の威を借りた強政権をもってさえいれば、人はみな動くと思ってしまうようです。」
「それの典型が、ナントン兄弟て~わけか。」
「全く、事前調査なしに、出向いてくるなど、少しおかしな兄弟たちだ。だから言ってやりました。俺の領地軍は一兵もいないと。」
「ははは、さぞや驚いただろう。」
「やはり理解できないようで、きょとんとしていました。」
そして、やはりきょとんとしているヒカリ王女は、
「え、聖女突撃騎馬隊は確かに配下にする事は承諾したが、しかしながら聖女近衛兵は、私を守る名目上の、ゴールドル伯爵軍隊なのではないのか?」
「聖女突撃騎馬隊と聖女近衛兵の指揮者は王女様です。すでにご承知だと思っていましたが?」
ヒカリ王女はまたもや不安な表情で、鹿島を見つめた。
「ま、成り行き上、そうなったのだ。しっかりと守って貰いなよ。」
と鹿島は要するに、それが今のヒカリ王女の置かれている現実だと伝えたかったのである。
「調整能力が問われる最初の試練とは、そういう意味だったのね。」
と、王族の義務から離れるには、自分を守る周りの人たちが大きな渦巻を起して抵抗していると理解し、その渦巻の中心に自分がいることを理解したようである。
オハラ王国の歴史では王女の息子が王になったことはあるが、女性が王になった事実は無かった故に、ヒカリ王女はアクコー王と相争う気持ちはなかったけれど、鹿島とサニーの保護下にいるだけでなく、人情にしたがい叔父ホルヘ公爵やタワラボシ聖女突撃騎馬隊隊長の敵討ちに協力するには、アクコー王と戦う必要があるとの情があったし、事が成就した暁にはその後の王位継続者を決めなければならないだろうと思えた。
鹿島は身内同士の争いを避けたいヒカリ王女を理解していたし、アクコー王に対してだけ恨みがあるのをも知っていた。
「なあ~、ヒカリ殿。配下となった人たちが暴走しない限り、遣りたい様にやらせてやるのも上司の心構えだし、その責任を取るのも上司の務めだと俺は思う。」
「では、聖女近衛兵や聖女突撃騎馬隊が、今後誰と戦うにしろ、すべて見守れと?」
「俺の故郷では、ほうれん草との格言がある。報告、連絡、相談を義務付ける事で、コントロールするのだ。それが今の、ヒカリ殿の立場責任だと思う。」
「そうよ。タローでさえ鎮守聖陛下と呼ばれているのだから、ヒカリちゃんならきっとうまくいくわ。」
「そうなのだよね。最初は農奴と奴隷たちの解放のつもりだったのに、開拓地ではいつの間にか人々が増え、今では鎮守聖国ではお館様と呼ばれるようになってしまった。」
「二人がそう言うのであればゴールドル伯爵殿、報告、連絡、相談を義務付ける事を、命じる。そして、リルドラ聖女近衛隊長とタワラボシ聖女突撃騎馬隊隊長にも、そのように報連相の義務を伝えてください。」
「わかりました我が主様。」
とゴールドル伯爵は片膝をついた事で、ヒカリ王女は近い将来、アクコー王と覇権争いをしなければならなくなったなら、引く気はないとこの時点で決意した。
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