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制覇行進

107 勅使の災難

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 鹿島達はリルドラの案内で客室に入ると、若干カエル亜人似の禿デブと言いたくなる程のぞんざいな態度で男がソファーに座っていた。
しかもその上、鹿島達を見下すような目つきであった。

 鹿島は禿デブと言いたいのを我慢して、
「ヒカリ王女様の前で何奴だ、こいつは無礼な奴だな。」
と言って、男の前にあるテーブルに足を乗せた。
「おおお~ま~えこそ、無礼だろう!俺は大王アクコー様の勅使で、大王様からの勅書を持ってきたのだぞ。全く田舎者は礼儀も知らないやつらばかりだ。ゴールドル伯爵!わかっているか?黄金音は騒がしくなるぞ。」
「こいつばかか?」
と、禿デブと言いたくなるを我慢している鹿島は、あきれたように首を傾げた。

 ヒカリ王女は大きく息を吐いて、
「で、ムノーノ.ナントン殿は、どの様な勅書を持って来たと?」

「全員ひざまずけ!勅旨を伝える!」
と言って、禿デブと呼びたくなるムノーノ.ナントンは巻物を広げだした。

 ムノーノ.ナントンは誰も膝まずかないことで、
「ヒカリ王女様もゴールドル伯爵も、たかが、親衛隊軍を追い払ったからと、よもや反乱を考えているのか?」
「王女様がなんでお前ごときに、跪かねばならないのだ!」
と、ゴールドル伯爵は怒鳴り返した。
ムノーノ.ナントンもひるむことなく、
「俺は!大王アクコー様の勅旨を伝える勅使だぞう。たとえ王族であろうと、大王アクコー様の勅旨をないがしろにはできまい。俺の報告次第で、お前たちは謀叛を企んでいると、報告できるのだぞ。わかっているのか不忠者達。」
「不忠者達?ここには、アクコーに忠誠を誓った者はいないぞ。」
「領主たる者は、国王に忠誠を誓っているはずだろう。」
「前大王オウイカ様には忠誠を誓ったが、アクコーに忠誠を誓った覚えはない。」
「お前はやはり反逆者か!」

 鹿島は、ムノーノは権威をひけらかし、わいろを要求する屑野郎と判断した。
「で、それをもみ消すのに、黄金音を騒がしくしろと?」
「おう、お前は若いのに見どころがあるな。ゆえに、兄のナントン男爵に好待遇で推挙してやるぞ。女三人に男が三人では、俺らにかなうまい。こっちに加勢しろ。」
と言って、後ろに控えていた五人の護衛甲冑武者に片腕を上げ、
「抵抗するやつらは、知り捨てろ。」と命じた。

 鹿島の堪忍袋が切れた。
ムノーノの顔面に右ストレートが見事にヒットした。
宙を飛ぶムノーノを追いかける様に、五本の前歯がその後を追っていった。
五人の甲冑武者はすぐさま剣を抜くと、ゴールドル伯爵とリルドラに切りかかるが、だがヒカリ王女の五本指が伸びて五人の肩を刺し貫いた時に、
「ひゃ~。」と声を出したのは意外にもマリーであった。

 全員は倒れた男たちに注目するはずが、だがそうではなくて声を出したマリーとヒカリ王女を見比べていた。
「なんで姫が驚くのだ?」
とリルドラが問いかけると、
「だって、王女様が勅旨を無視するだけでなく、勅使の護衛を攻撃したのですよ。」
「どうして、私が兄の目論見に従わなければならないのよ。私は私です。」
とヒカリ王女は白い手袋に着いた血油を、平然とした顔をして拭き取っている。
「以前の王女様は、まず王族の義務を優先していたのに、急に変わられた上に、しかも人を傷つけるなど、初めででしたので驚いたのです。」
「アクコー兄様は父と従兄弟殿の仇なのに、今更私に王族の義務を押し付けるなど、片腹痛いわ。」
「今日は、王女様が急に別人になったように感じます。」
「フフフフ、貴女もつがいを見つけたら、変るかもよ。」
と、サニーは口に手を当てて笑い出した。

 ヒカリ王女は顔を真っ赤にして、
「バカバカ。」と言いながら、涙目でサニーの頭をぽかぽかと殴りだした。
「ごめんなさい。人種にとっては、つがいは恥ずかしいことだったのよね。」
と、更にサニーがからかいだすと、ヒカリ王女の腕の振り下ろしはさらに早くなっていた。

 ゴールドル伯爵とリルドラにマリーが唖然としている中で、鹿島は二人の騒動に巻き込まれないように、二人を無視してムノーノが放り投げていた巻物を開いた。

「あ、やっぱり、ジンギハーン帝国軍への特使として、講和を進めろとのことが書いてあら~。アクコーはヒカリ殿が、のこのこと、あんな所へ行くと思ったのか?」
「以前の王女様だったら、行くといたでしょう。」
と、マリーは心配げにヒカリ王女の方を向いて答えた。
「お父上様から行けと言ったなら、行ったでしょうね。でも、そう言う前に、使徒様探しに逃げたのだけどね。」
とヒカリ王女は寂しげに答えた。

 気を失っていたムノーノは気が付いたのか、ヒカリ王女の言葉尻を捕らえて、
「先代大王様は、王女様をジンギハーン帝国へ送る算段をしていたのですが、行くか他知れずになっていて、延期になっていたのだ。
大王アクコー様はそれゆえに、先代大王様のかわりに引き継いだだけだ。だから王女様が特使で行くことが先代大王様の意志、いや遺言なのだ。」
「そんなことぐらい、気づいていたから、使徒様探しの旅に出たのよ。おかげで大河の向こうに嫁いでいかなくても、もうよくなったの。
要するに、自分探しの終着駅を見つけた訳です。」
と満面の笑顔を鹿島に向けた。

 ムノーノは自分の威厳をなくすまいとまだ抵抗したい様子で、
「王女様は、反逆者になるのだな。」
「兄様が、本当の反逆者でしょうに。」
「反逆者だと報告するからな。」
「ずいに、どうぞ何なりとでも。」
とヒカリ王女も開き直った。
そして、二人のやり取りを聞いていたゴールドル伯爵とリルドラは、互いにしたり顔し合うと片手を打ち合った。
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