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制覇行進

99 二つの許可証

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 ノライヌは娘メルシーと会話しながら食事をしていた。
「ね~、お父様。今日からわたしはヒカリ王女様の妹分になったのよ。この髪飾りがその印です。」
と髪を持ち上げ、花飾りの付いたヘアピンを自慢げに見せた。
「王女様の妹分とは大げさな。」
「聴いてお父様。マリー様が、私が王女様と親し気に話すと、怒るのです。だから、王女様が仲を取り持ってくれて、マリー様も王女様のおねえに成ったので、マリー様も私の義理姉上になりました。」
と、満面笑顔をし、ノライヌを嬉しがらせようと、微笑似をノライヌにも求めた。

 ノライヌと娘メルシーとの会話中、突然にドアを蹴破ってアクコーの甲冑を身に着けたヒカリ王女が現れた。
ノライヌは突然の出来事に怒りがわき起きて反射的に槍をつかんだ。
「娘メルシーの仇!」と叫びアクコーの甲冑を身に着けたヒカリ王女に槍を突き出した。

 まだ夜も明けない闇の中、傭兵達の起床合図のドラ音でノライヌは飛び起きた。
「ゆめ、、、か。」と、握りしめた手の中は汗でびっしょりとしていた。

 ノライヌは先日ヒカリ王女が背後から声を掛けたとき、アクコーの妹野郎との思いが沸き上がっていたが、ヒカリ王女が死んで喜ぶのは仇アクコーだけだと気づいてはいた。
自分はここに何の為にいるのだと、問いかけながら雑炊に口をつけた。
答えは明確である。アクコーの配下どもを多く殺す嫌がらせの為であった。
だが、ヒカリ王女を見たときに{坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。}との想いが、どうしても込み上げてくるのを抑えるために、涙をこらえながら降ろした腰にさらに体重をかけた。

 ノライヌはヒカリ王女が立ち去ると、前かがみになっていた上半身を起こし、傍に立てかけてある槍をつかんだ。
槍はノライヌの握った腕にしっくりくる感触を与えた。
槍を振り回すと穂先が青く輝き、槍全体の重心を握った手元に感じるのは、かなり腕のいい鍛冶屋だろうとの思いがこみ上げてきた。
「俺に、名工の作成した槍を譲るとは?」とつぶやいて、ヒカリ王女の本心に感づいたのか、
「兄であるアクコーを、討てとの、この槍が仇討許可証だな。」
と去っていったヒカリ王女の本心に気づいたのか、立ち去った影に向かって頭を下げた。

 夢を吹っ切りるように顔を洗ったノライヌは、身支度を整えると槍を握りしめた。
「今日の戦いは俺のための、記念すべき一歩だ。」
と、傭兵部隊の並んでいる先頭場所へ割り込んだ。

 鹿島はC-003号機の操縦席でヒカリ王女の方へ向かう時間を気にしながらも、武装集団のいる上空でホバーリングして眼下の動きを観察しだした。
「タケバヤシ集落とツボチ集落からの、斥候それぞれ三名が、森に近づいています。」
「両方の集落も、しびれを切らしたか。」
と鹿島は赤外線探知機能付き望遠立体映像の画面と腕の時計を見比べだした。

 鹿島には、各個人の細かい動きは画面からではハークできないが、C-003号は顔の表情や口の動きまで読み取る事が出来る為か、
「森に入った斥候たちが、感づかれたようです。」
と鹿島に伝えた。
「両方ともか?」
「いいえ、森に入ったのは、タケバヤシ集落からの斥候だけです。」
「ならそこに、降りて行こうか。」
「やはり、ロープを使っての降下ですか?」
C-003号機からの降下方法は、ジェット噴射推進器とパラシュートに安全帯着用のロープ垂直降下であった。
「枝葉が邪魔だから、ロープを選ぶだろう。文句あるのか?」
「では行ってらっしゃい。」
鹿島はC-003号をからかう心算でからんでみたが、C-003号からは全く無視された。

 中央格納庫の座席はベッド代わりになっていて、二人の修道士は点滴中の若者を上半身裸にし、いろんな検査をしていた。
「あ、お館様。こちらのオキタさんは回復しそうです。」
「さすがに、抗生物質薬の効果は、この惑星では強力だな。」
「素晴らしい薬です。」
「では、俺はちょっと下に降りていくから、あとはよろしく。」
といってハッチを開くとロープを投げ降ろした。
鹿島は暗視鏡を頭に乗せるとロープにフックを取付け、ハッチから飛び降りた時若者の驚きの声が鹿島に届いた。

 鹿島は落下しながら、ヒカリ王女に居る戦場に行きたいはやる気持ちを邪魔する枝葉を払い、タケバヤシ集落からの斥候達の居る大木の根元へ降下した。
「うひゃ~。」
と斥候達三人は驚きの声を上げたが、逃げるそぶりは無く、竹やりを鹿島に向けた。
「タローだ。随分と森深くまで偵察するなど、少し無謀だぞ。」
「人のいるけはいがするので、奴らの動向を知りたかったのです。」
「もう、囲まれてしまっているよ。」
と言って、ドローンにサーチライトの照明光線を大木の周りに照らすよう命じた。

 武装集団は突然の光に驚いたのか、隠れていた姿を鹿島達にさらした。
「おい。すくんでないで、俺らの前に出てこい!」
と鹿島は早く出ろとの言葉を抑えた。
武装した二十人の男達は、鹿島のいら立ちを増幅する様にゆっくりと近づいてきた。
「全く、ここらの集落は、、、武装するだけでなく、寝込みを襲うとは、ふざけた奴らだ。」
「ならあきらめて、立ち去るか?」
「明るくなったら、どんなに武装しようと、平民風情が俺らに歯向かえないだろう。」
「闇夜での戦いは不利だから、明るくなるまで待っていたわけか?」
「地の利を知った相手と戦うには、明るい方を選ぶのが、策士たる者の心得だろう。」
鹿島はめんどくさい奴らだと思い、無駄な時間を消耗したくないので、
「なら明るくなった今なら、逃げないで戦うと?」と、挑発した。
「お前、あほだろ。人数を計算できないあほだ。」
と、策士を名乗った男が腹を抱える様に大声で笑いだした事で、鹿島は斬殺許可証をつかんだと確信した。

 斬殺許可証を出した男はまだ笑いこけながら、
「ちょっと運動がてらに、相手してやれ!」
と周りにいる武装集団に腕で指図した。

 鹿島は三人の斥候を大木まで押し下げ、三人の前で仁王立ちした。
「お前たちは、ここから動くなよ。」
と鹿島は暗視鏡をセットし直し、後ろの三人に声がけした。
切り込んできた二人を瞬時に身二つにした瞬間、サーチライトの明かりが消えた。

 闇夜の森では、鹿島の数を数える声と悲鳴が響き続いた。
「二十!終わり!」
との声で森に静寂が訪れた。
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