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国興し

ゴールドル領主の決意

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 リルドラはゴールドル領都に着くと、精力的に行動した。
最初は、農奴衛士兵を正式な衛士兵に昇格させ、これまでの慰労金と毎月の給与を約束した。

 次は領主所有の荘園で働くすべての農奴と小作人及び奴隷たちをは解放したのちに、無料で耕作地を貰えるとの噂を広めた。
リルドラは衛士兵を三人一組にして各集落を回らせた。
衛士兵達には噂の真偽を問われても肯定も否定もしないで、「もしも噂通りに解放されたなら。」との冗談混じりに問いかけ、小作人各自の解放後の希望をまとめさせた。
その調査中に、衛士兵への加入希望者がいたならば、即採用することも命じた。

 衛士兵への加入希望者は想像よりも多く、ゴールドル弱小領に似合わない多数の衛士兵が集まりだした。
その数二万人である。
加入希望者の中には荘園農奴だけでなく、地主の所有する小作人や農奴も交じっていたが、リルドラは素知らぬふりして彼ら全員を採用した。
一気に大領地並の十倍の軍を編成する事になり、さらにリルドラの負担は増えていった。

 ゴールドル領主の下には、次々と多くの地主抗議者が訪れたが、「行方不明者の調査は行っている最中。」とだけ告げた。
そして新たな噂は、ナントン領地国境へ向かう多くの浮浪者達を見かけたとの噂である。
ナントン領地の先には天国鎮守聖国があるので、みんなはその噂を信じた。

 ゴールドル領軍の増加を陰から後押ししていたのは、他ならぬ王女とマリーであった。

 王女達の護衛として、鹿島の運転する新型実験駆動車の助手席にサニーが乗っていた。
マリーは鹿島元愛用エンジン駆動車に王女と白い修道士衣装の四人の娘達を乗せ、各集落の治療訪問と布教活動を行っていた。

 正体を伏せた鹿島とサニーの護衛で、王女とマリーに修道士達は病人やけが人を治しながら、平等と公平を教えていた。
村人たちは、治療師が王族のヒカリ王女とゴールドル領主の姫君マリーだと知ると、平等と公平を理解しだした。
「個人の尊厳を各自が自覚するなら、あなた達の希望はチンジュ女神様が守ってくれる。」
「俺の希望は、荘園の農奴達と同じように、解放されて衛士兵になることだ。」
「チンジュ女神様に祈り、希望に向かって行動する事です。」
村人たちは互いに顔を見合わせ合うと、
「王女様とマリー姫様が言っているから、、、もしかして。」
「行動して、、、、も。」
「それに今は、巡回看視衛兵もいなくなっている、、、、し。」
と言って、沈黙した。

 王女とマリーに修道士達が集落を後にしたその夜中には、各集落から無数の影がゴールドル領都に向かっていた。

 王女達は魔獣や猛獣に何度か遭遇したが、それらに気が付くと直ぐに、鹿島とサニーはあっと言う間もなく討伐した。

 十日間の治療訪問と布教活動を終えた王女達は領都に着くと、ゴールドル領主邸宅の離れを使い、そこをチンジュ女神教会とした。
教会では直ぐに治療受け入れと布教活動を始めた。

 ゴールドル領主はエントツ元帥から譲られた装備を衛士兵に支給した。
そして、次々と現れる衛士兵入隊希望者を使い、防護壁補修と増築工事に掛かりっきりであった。
そんな最中、ゴールドル領主名義の幌馬車商隊が、神降臨街から帰ってきたとの知らせを受けた。

 ゴールドル領主は以前鹿島とマリーが伐採した森跡に、幌馬車隊を誘導すべきと思い馬に乗って幌馬車隊に向かった。

 森跡には多くのテントが立ち並び市場と化した。

 幌馬車商隊が領都に来るとの噂はすでに広がっていた様子で、多くの買い付け商人が群れとなって森跡テント群に集まりだした。
すでにゴールドル領主は商業ギルドとは打合せ済みであったのか、取引は商業ギルド経由で行われた。
ゴールドル領主は元金無しで、森跡テント群に積み上げた商品による大金を手にいれた。
商品の中には売り出さないで、ゴールドル領主邸宅に運んだものがあった。
それは、兎亜人によって製作した兵士用一般向け防具と剣に槍であった。
しかしながら、ゴールドル領主はまさか二万の兵が集まるとは予想していなかったので、兵士用一般向け防具と剣に槍の追加注文を鎮守聖国に求めた。

 ゴールドル領主は二万の兵と装備が整うなら、王家からの侵略を防げるのではとの思いがこみ上げてきた。

 二百人の鎮守聖国聖騎士団と魔法部隊によるゴールドル領軍との合同演習は、低木が生い茂る草原前で行われた。
火炎魔法部隊十一人による火炎竜巻が十一柱立ち上がり、低木が生い茂る草原を焼き払った。
草原に炎が煙に代わると、水魔法部隊十一人によるどしゃ降りが草原中を覆った。

 どしゃ降りがやんだ草原先の森近くに、ゴールドル領軍の管理している十台の大型バリスタから矢の雨が降り注いだ。
矢の雨が降り注ぐ先の森では、多くの岩に枝葉の屋根が落ちていて、その先の林でもやはり多くの竜巻と稲妻が荒れ狂っていた。

 森の中からは、多くの魔獣や猛獣が岩や竜巻と稲妻から逃れるように続々と飛び出してきた。
大型バリスタからの矢の雨は、森から逃れてきた魔獣や猛獣に襲い掛かったが、その数は千頭を越えていて、まだ九割方が鎮守聖国聖騎士団と魔法部隊それにゴールドル領軍に向かってきた。
ゴールドル領軍鱗甲冑五百人は弓矢隊の後ろで槍を構えて身構えた。
その後方では、一般向け防具と剣に槍を持った二千の兵が控えていた。

 十台の大型バリスタから一度に打ち出した三百本矢は、確実に多くの魔獣や猛獣を仕留めてはいるが、殆ど数は減ってないのではと、観戦中のゴールドル領主と指揮官のリルドラは感じていた。
「コンパウンドボウ部隊前で片膝!ベアボウ部隊は立ち上がり、射て!」
多くの先頭集団を形成している猛獣は次々と倒れては行くが、倒れた猛獣を踏みつけながら魔獣の集団が押し寄せてきた。
雨の矢を潜り抜けてくる魔獣や猛獣が、三百メートルまで迫ってきた。
「鱗甲冑隊前!弓矢隊後退しながら射続けろ!後衛軍は備えろ!」
と指揮官のリルドラは叫んで腰の剣を抜いた。
まだ半数以上残った魔獣が二百メートルに近付くと、
「突撃!」
と、鎮守聖国聖騎士チャップリ指揮官が叫んだ。

 鎮守聖国聖騎士団は背後からの矢など気にしてない様子で、戦闘中のゴールドル領軍と魔獣や猛獣の間に猛然と飛び出した。
リルドラは慌てて手をおおきく振りかぶって、
「弓矢隊射方、止め!止め!」と叫んだ。

 鎮守聖国聖騎士団は横一列に並び、黒い穂先長槍はすでに青く輝いていて、魔獣や猛獣の間を騎馬隊は減速する事なく駆け抜けていった。
駆け抜け後には、魔獣や猛獣はまだ何頭か走り回っていたが、すべてと言っていい魔獣や猛獣は血吹雪を上げながらのたうち回っていた。

 鎮守聖国聖騎士団が血吹雪を起こしながら、立木が無惨にへし折れた森跡のふもとまで走り去るまで、ゴールドル領軍は唖然としてみていた。
「鱗甲冑隊突撃して、残りの魔獣を仕留めろ!」
と、我に返ったリルドラは叫んだ。

 ゴールドル領主もリルドラの声で我に返った。
魔獣や猛獣の突進を許していたなら悲惨だったとの思いは、鎮守聖国聖騎士団が目の前で奇跡を起こしたと感じ、「無謀、いや、無敵の騎士団。」とつぶやいた。
「なんだ。終わったのか。」
とゴールドル領主の後ろから鹿島がつぶやいた。

 いつの間にか現れた鹿島の声に驚いたゴールドル領主は片膝をついて、
「此れからは、ヒカリ王女様に忠誠を誓いますので。鎮守聖陛下の保護下に、ヒカリ王女様も加えていただきたく思います。」
「もちろんそのつもりだが、ゴールドル殿の決心は誠か?」
「ヒカリ王女様を、守り切れると確信しました。」
「なら、良かった。これで俺は新しい任務先に向かえる。」
と、鹿島は満面笑顔で首を上下させた。
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