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銀嶺の章
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大丈夫…大丈夫。それが私の口癖だった。全然大丈夫じゃなくて苦しくて、それでも「大丈夫」その言葉でいつも自分を信じ込ませていた。
再び目が覚めた時、部屋には暖をとるように炉がたかれていた。その近くでは柳という男性が机にむかい何か書いているようだった。体の痛みも熱もまだ引く気配がないようで相変わらずすこぶる体調が悪かった
「…目が覚めましたか?」
声が降ってきた方を向くと、いつの間にか柳という男性は手を止めこちらを見ていた。その顔は穏やかで何故か懐かしく感じる。
「あなたは相変わらず目が離せませんね。少し外した隙に外へ出てしまうなんて思いませんでした。別に閉じ込めてるわけじゃないんですよ。でも今のあなたには安静が必要ですから」
そう言って私の頭を撫でると、額に手を当てる。相変わらず…その言葉に少し疑問を感じたが今の私には考える余裕なんてなかった
「まだ熱は引きませんね。もう少し眠っててほしいところですけど…そうもいかなそうですね」
そう言って柳様は私をゆっくり起こすと少し苦いお湯を私に飲ませた
「薬ですよ。まだきついでしょう?これで少しは楽になるといいですけどね」
その人は私の顔を見ると微笑んで頭を撫でる。わからない…なんでこうも見ず知らずの私に優しくしてくれるんだろう。身内でさえ、ここまでしてくれたことはないのに…あれ?でも…昔同じ優しさを向けてくれた人たちがいたような…そんな気がする
「…んで…」
「…どうしました?」
私の方をみて優しく聞き返す
「なんでこんなに優しくするんですか?あなたも…あの人たちも。私たち他人ですよね?」
「……」
私の最後の言葉を聞いた柳様の顔が一瞬悲しく曇ったのがわかった。けれどほんとに一瞬ですぐに元に戻りまた優しい表情を向ける。その一瞬がひどく気にかかるのは何故だろう
「たしかに。すいません、私もあの子たちもみんな世話焼きなんです。嫌だったのなら謝ります」
それはほんとに心のこもった話し方で顔で…それがあまりにも慣れなくて。でも…あまりに愛しそうな声で話すから。私に誰かを重ているように話すから。もしかしたら、他人ではないかもしれない…私の「あの日々」の何処かに…忘れてしまっている記憶の何処かにいるのかもしれない。そんな淡い期待が湧いてきて…訳わからなくておかしくなりそうだ
「いや…じゃないです。ごめんなさい、でも慣れないから。こういう時どうしたら良いかわからなくて…」
わからない。何に期待してるのかも…なんで期待してるのかも。私は何を思って…この人にあの人たちに心を許してしまうのか。
「…そうですか」
柳様はくすっと笑うと嬉しそうに私を見た
「甘えてください。どうか私たちに寄りかかってください。1人であんな所に行かなくてもいい。暖かいこの場所で…私たちの近くで今は休んで」
熱に浮かされ微睡んだ意識の中で…その言葉はたしかに私の中に溶け込んだ。寒く凍えるくらいに冷え切った私の世界。苦しかった私の冬に暖かい日の光が差し込んだような…そんな気がした。
眠る愛しい少女の横で柳という男はほっと息をついた。ようやく眠ることができた少女への安堵もある。けれどそれよりも…
「…あなたの中に、まだ私たちは残ってるんですね。この場所も。あの日々もあなたの奥底にきっと。私は…ほんとに嬉しいんですよ。あなたと再び会えたことが。あの時手放したこと後悔しなかった日はありませんでした。みんなからも散々恨まれましたしね。でも、あなたがあの世界に戻って壊れたのなら…次はもう欲張ってもいいですよね。許してください。私は…私たちはもう、あなたを元の世界に戻してあげられないかもしれません」
その後悔をそして決意を私は知らなかった。彼らをそうしてしまった私の罪深さをまだ知らずにいた。無責任に変えてしまった…すくい上げてしまった者たちを私は覚えていなかった。何も覚えていない私が…壊れてしまった私が彼らに与える悲しみを知らなかった。
思い出せていれば…知っていたら。
私はこんなにも「あなた」を悲しませずにいられたのに。
覚えていたら…私はもっと早くこの場所に…「あなた」の元に戻れていたかも知れないのに。
再び目が覚めた時、部屋には暖をとるように炉がたかれていた。その近くでは柳という男性が机にむかい何か書いているようだった。体の痛みも熱もまだ引く気配がないようで相変わらずすこぶる体調が悪かった
「…目が覚めましたか?」
声が降ってきた方を向くと、いつの間にか柳という男性は手を止めこちらを見ていた。その顔は穏やかで何故か懐かしく感じる。
「あなたは相変わらず目が離せませんね。少し外した隙に外へ出てしまうなんて思いませんでした。別に閉じ込めてるわけじゃないんですよ。でも今のあなたには安静が必要ですから」
そう言って私の頭を撫でると、額に手を当てる。相変わらず…その言葉に少し疑問を感じたが今の私には考える余裕なんてなかった
「まだ熱は引きませんね。もう少し眠っててほしいところですけど…そうもいかなそうですね」
そう言って柳様は私をゆっくり起こすと少し苦いお湯を私に飲ませた
「薬ですよ。まだきついでしょう?これで少しは楽になるといいですけどね」
その人は私の顔を見ると微笑んで頭を撫でる。わからない…なんでこうも見ず知らずの私に優しくしてくれるんだろう。身内でさえ、ここまでしてくれたことはないのに…あれ?でも…昔同じ優しさを向けてくれた人たちがいたような…そんな気がする
「…んで…」
「…どうしました?」
私の方をみて優しく聞き返す
「なんでこんなに優しくするんですか?あなたも…あの人たちも。私たち他人ですよね?」
「……」
私の最後の言葉を聞いた柳様の顔が一瞬悲しく曇ったのがわかった。けれどほんとに一瞬ですぐに元に戻りまた優しい表情を向ける。その一瞬がひどく気にかかるのは何故だろう
「たしかに。すいません、私もあの子たちもみんな世話焼きなんです。嫌だったのなら謝ります」
それはほんとに心のこもった話し方で顔で…それがあまりにも慣れなくて。でも…あまりに愛しそうな声で話すから。私に誰かを重ているように話すから。もしかしたら、他人ではないかもしれない…私の「あの日々」の何処かに…忘れてしまっている記憶の何処かにいるのかもしれない。そんな淡い期待が湧いてきて…訳わからなくておかしくなりそうだ
「いや…じゃないです。ごめんなさい、でも慣れないから。こういう時どうしたら良いかわからなくて…」
わからない。何に期待してるのかも…なんで期待してるのかも。私は何を思って…この人にあの人たちに心を許してしまうのか。
「…そうですか」
柳様はくすっと笑うと嬉しそうに私を見た
「甘えてください。どうか私たちに寄りかかってください。1人であんな所に行かなくてもいい。暖かいこの場所で…私たちの近くで今は休んで」
熱に浮かされ微睡んだ意識の中で…その言葉はたしかに私の中に溶け込んだ。寒く凍えるくらいに冷え切った私の世界。苦しかった私の冬に暖かい日の光が差し込んだような…そんな気がした。
眠る愛しい少女の横で柳という男はほっと息をついた。ようやく眠ることができた少女への安堵もある。けれどそれよりも…
「…あなたの中に、まだ私たちは残ってるんですね。この場所も。あの日々もあなたの奥底にきっと。私は…ほんとに嬉しいんですよ。あなたと再び会えたことが。あの時手放したこと後悔しなかった日はありませんでした。みんなからも散々恨まれましたしね。でも、あなたがあの世界に戻って壊れたのなら…次はもう欲張ってもいいですよね。許してください。私は…私たちはもう、あなたを元の世界に戻してあげられないかもしれません」
その後悔をそして決意を私は知らなかった。彼らをそうしてしまった私の罪深さをまだ知らずにいた。無責任に変えてしまった…すくい上げてしまった者たちを私は覚えていなかった。何も覚えていない私が…壊れてしまった私が彼らに与える悲しみを知らなかった。
思い出せていれば…知っていたら。
私はこんなにも「あなた」を悲しませずにいられたのに。
覚えていたら…私はもっと早くこの場所に…「あなた」の元に戻れていたかも知れないのに。
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