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銀嶺の章
参 空箱 1
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目が覚めた時…私はいつもその日の何もかもを諦めた。そのほうが心が楽で苦しさが半減されていく気がした。
「……あれ?ここって…」
目が覚め、いつも一番に見える天井はいつもと違っていた。いつもなら無垢な白の天井が見えていたはずだが今は趣のある木の天井が私の目にうつる。そのせいか何故か懐かしいような温かなものが感じられた。
「…っ痛」
頭から手の先まで至る所が痛み…ため息をついた。この痛みは日常で今さら感じるものはないが痛いものは痛く…気持ちというより日常に支障が出ることのほうが問題だった。それでもいつもより新鮮なのは…『痛み』に綺麗な包帯が巻かれ目覚めたこと…丁寧な巻き方でその隅々までテープや包帯で治療されている。そのことにいくらか心が軽くなったように感じた。むくりと痛む体を起こし耳を澄ませる。朝なのか昼なのか外が明るい。私はどのくらい眠っていたんだろう。あたりは静かであまり物音はしないが微かに人の気配は感じる。記憶といえば…この『吉原』にきて柳という人に連れられ、この『店』に入って…もう泣きじゃくって。それからの記憶がない…何か話した気もするが、それも虚ろだ。
私はため息ををつきながら、立つとふすまを開ける。冷たい風が全身にあたり目をつむった。やはり私はこの方が落ち着く。ふすまを開けた先は縁側のようになっていて、そこにある木の柱にもたれかかるとそこに座り体重を預けた。凍てつくような冷たい風は手も足もかじかむほどだが…部屋の中の生温さよりも居心地が良く感じる。白い息を吐きながらただ…空を見上げた。
「…」
「あら?え、ちょっと…そこで何してるの!?そんな薄着のまま。凍えちゃうわよ!」
いきなり聞こえた声にビクッと震え横を見ると、綺麗な桔梗色の長髪を一つに結っている男性?が立っていた。その手には救急箱のようなものを抱えている。が
ガシャーン
幸い中身は飛び出さなかったが、思い切り箱を落とすと、それをそのままに…急いで私のもとに駆け寄り自らの羽織をかけてくれた。
「どうしたの?こんなところで…全身冷えきってるじゃない。まだ熱もあるし…体も痛むでしょう?」
そう言って私を撫でると心配そうな顔で私をのぞき込んだ。
「えっと…あの…」
「桔梗よ」
私が名前を聞く前に察したように名を告げる
「…桔梗…さん。あの…この羽織、大丈夫ですから返します」
私は肩の羽織を見ると手を伸ばす
「何言ってるの。全然大丈夫じゃないでしょ?」
「でも…それじゃ桔梗さんが」
「私はいいの。この通りまだ何枚も着込んでるし、それにね私…体が凄く丈夫なのよ。だから…あなたが着てなさい。ね?」
押し負けた私は素直に羽織を肩にかけたまま外をみる。ここに座ったは良いものの、すこぶる体調が悪くしばらく動ける気がしなかった。
「おい、桔梗どうした?何か凄い音が…」
次に青い髪の…夜天と呼ばれていた男性も歩いてくる。その顔は私を見た瞬間焦った顔をした
「この子が何故ここに?寝てたんじゃなかったのか?」
すぐに駆け寄ってくると同じように心配するように私をのぞき込む
「私がここに来たときには、こんな状態で…この子が自分で出てきたみたい」
二人は深刻そうな面持ちで私をみる。私はそれほどまでに何かを抱えているのだろうか
「ねぇ、早く中に戻りましょう?…これじゃ…まるで何かの罰を自ら受けてるようだわ。そんなの、あなたには必要ないのに」
そう私に語りかけるとふわりと抱きしめ私の肩に顔を埋めた。何故かその時熱い水が肩に流れた気がしたのは私の気のせいだろうか
「夜天…この子を運んでくれる?私、救急箱とってくるから」
私を離すと青色の髪の男性にそう言いスッと立ち上がった
「あぁ」
ふわっと自分の身体が持ち上がったのを感じ、私はされるがままに先程まで寝ていたであろう布団に戻された。
微睡んだ意識の中で二人の男性が何かを話しているようだったが、その言葉を私が聞くことはなかった
「夜天…さっきね、私がこの子を見かけた時一瞬言葉を失ったの。あまりにも空っぽな瞳で無気力に空を見ていたから」
「…」
「寒さも感じてないようで、体は反応しているのに…この子には届いてないの。もう…分からないんだわ。そういう感覚が…」
「俺は何となく思ってた。お前が背中の…全身のあの傷を見つけたときから。いや…柳様が傷を悪化させないように守っていたときから。あの子は誰かが言うまで気づいてなかった。背中だって痛いはずなのに…一度も顔には出さなかったんだ。我慢というよりは、そもそも気づいてないんだ」
「そう…そっちの方がよっぽどたちが悪いわね。傷ついたことに気づいてないのか。傷ついたことに気づいても…それを忘れてしまうのか。あるいはどちらとも」
「…どちらにしろ、この子が今壊れていることは事実だ」
「…誰…なんでしょうね。私の…私たちの『宝物』を壊したのは」
「桔梗、俺達は俺達にできることをやろう。今はな…」
「…そうね」
チリンチリン チリンチリン
神の膝元神隠し 神の膝元神隠し
隠さるるは 慈悲か 悪戯か
それは 偶然か 必然か
さあ この神の箱庭で 流るる癒やしの刻を
「……あれ?ここって…」
目が覚め、いつも一番に見える天井はいつもと違っていた。いつもなら無垢な白の天井が見えていたはずだが今は趣のある木の天井が私の目にうつる。そのせいか何故か懐かしいような温かなものが感じられた。
「…っ痛」
頭から手の先まで至る所が痛み…ため息をついた。この痛みは日常で今さら感じるものはないが痛いものは痛く…気持ちというより日常に支障が出ることのほうが問題だった。それでもいつもより新鮮なのは…『痛み』に綺麗な包帯が巻かれ目覚めたこと…丁寧な巻き方でその隅々までテープや包帯で治療されている。そのことにいくらか心が軽くなったように感じた。むくりと痛む体を起こし耳を澄ませる。朝なのか昼なのか外が明るい。私はどのくらい眠っていたんだろう。あたりは静かであまり物音はしないが微かに人の気配は感じる。記憶といえば…この『吉原』にきて柳という人に連れられ、この『店』に入って…もう泣きじゃくって。それからの記憶がない…何か話した気もするが、それも虚ろだ。
私はため息ををつきながら、立つとふすまを開ける。冷たい風が全身にあたり目をつむった。やはり私はこの方が落ち着く。ふすまを開けた先は縁側のようになっていて、そこにある木の柱にもたれかかるとそこに座り体重を預けた。凍てつくような冷たい風は手も足もかじかむほどだが…部屋の中の生温さよりも居心地が良く感じる。白い息を吐きながらただ…空を見上げた。
「…」
「あら?え、ちょっと…そこで何してるの!?そんな薄着のまま。凍えちゃうわよ!」
いきなり聞こえた声にビクッと震え横を見ると、綺麗な桔梗色の長髪を一つに結っている男性?が立っていた。その手には救急箱のようなものを抱えている。が
ガシャーン
幸い中身は飛び出さなかったが、思い切り箱を落とすと、それをそのままに…急いで私のもとに駆け寄り自らの羽織をかけてくれた。
「どうしたの?こんなところで…全身冷えきってるじゃない。まだ熱もあるし…体も痛むでしょう?」
そう言って私を撫でると心配そうな顔で私をのぞき込んだ。
「えっと…あの…」
「桔梗よ」
私が名前を聞く前に察したように名を告げる
「…桔梗…さん。あの…この羽織、大丈夫ですから返します」
私は肩の羽織を見ると手を伸ばす
「何言ってるの。全然大丈夫じゃないでしょ?」
「でも…それじゃ桔梗さんが」
「私はいいの。この通りまだ何枚も着込んでるし、それにね私…体が凄く丈夫なのよ。だから…あなたが着てなさい。ね?」
押し負けた私は素直に羽織を肩にかけたまま外をみる。ここに座ったは良いものの、すこぶる体調が悪くしばらく動ける気がしなかった。
「おい、桔梗どうした?何か凄い音が…」
次に青い髪の…夜天と呼ばれていた男性も歩いてくる。その顔は私を見た瞬間焦った顔をした
「この子が何故ここに?寝てたんじゃなかったのか?」
すぐに駆け寄ってくると同じように心配するように私をのぞき込む
「私がここに来たときには、こんな状態で…この子が自分で出てきたみたい」
二人は深刻そうな面持ちで私をみる。私はそれほどまでに何かを抱えているのだろうか
「ねぇ、早く中に戻りましょう?…これじゃ…まるで何かの罰を自ら受けてるようだわ。そんなの、あなたには必要ないのに」
そう私に語りかけるとふわりと抱きしめ私の肩に顔を埋めた。何故かその時熱い水が肩に流れた気がしたのは私の気のせいだろうか
「夜天…この子を運んでくれる?私、救急箱とってくるから」
私を離すと青色の髪の男性にそう言いスッと立ち上がった
「あぁ」
ふわっと自分の身体が持ち上がったのを感じ、私はされるがままに先程まで寝ていたであろう布団に戻された。
微睡んだ意識の中で二人の男性が何かを話しているようだったが、その言葉を私が聞くことはなかった
「夜天…さっきね、私がこの子を見かけた時一瞬言葉を失ったの。あまりにも空っぽな瞳で無気力に空を見ていたから」
「…」
「寒さも感じてないようで、体は反応しているのに…この子には届いてないの。もう…分からないんだわ。そういう感覚が…」
「俺は何となく思ってた。お前が背中の…全身のあの傷を見つけたときから。いや…柳様が傷を悪化させないように守っていたときから。あの子は誰かが言うまで気づいてなかった。背中だって痛いはずなのに…一度も顔には出さなかったんだ。我慢というよりは、そもそも気づいてないんだ」
「そう…そっちの方がよっぽどたちが悪いわね。傷ついたことに気づいてないのか。傷ついたことに気づいても…それを忘れてしまうのか。あるいはどちらとも」
「…どちらにしろ、この子が今壊れていることは事実だ」
「…誰…なんでしょうね。私の…私たちの『宝物』を壊したのは」
「桔梗、俺達は俺達にできることをやろう。今はな…」
「…そうね」
チリンチリン チリンチリン
神の膝元神隠し 神の膝元神隠し
隠さるるは 慈悲か 悪戯か
それは 偶然か 必然か
さあ この神の箱庭で 流るる癒やしの刻を
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