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3 無力な私たちへ
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人は絶望を目の当たりにした時どんな行動をとるだろう。逃げる、立ち向かう、諦める…それとも…
人間の本性はそんな時に分かるものだと私は思う。
普段優しい人も、その時に限って自己的になるかもしれない。逆に無関心の人に限って実は自分の命を投げ売ってまで誰かを守る勇敢な人になるかも知れない。私もそうだ。
私は少しぐらい優しい人間だと思っていた。けれどそれはただの勘違いで本来臆病な人間なのだと思い知る。そう…『あの時』私は確かに絶望を知った。
『嵐』から数日少しずつニュースの報道も静まりだし、いつものスキャンダル等など日々のものに置き換わりつつあった。私も何となくその日を過ごし、あの出来事の朝もボーッとテレビを見ながらパンにかぶりついていた。そう…あの日のことを『あの日から』のことを私は生涯忘れることはない。
○日 海面の一部が謎の上昇を始め一直線上に盛り 上がった
○日 さらに重い雲が私達の街の空一面を覆った。
○日 その雲は県をまたいで覆い始めた。
○日 雲はさらにかさを増し私達の国中を覆った
○日 暗雲は国をまたぎ覆い始める
○日 暗雲が…世界の全てを覆い尽くした
○日 太陽の光が届かず薄暗い日々が始まる
あの出来事…一つ目の海面上昇を気に何もかもが変化を始めたようだった。パンにかぶりつきながらテレビの報道を見たあの日まさか…ここまで立て続けに日を追うごとに…『変化』が起き出すなんて私は夢にも思わなかった。私はまだどこかで…多分信じていたのだと思う。いや、信じたかったんだ。悪魔のあの『警告』は私の幻想で夢で…何も起きずに平穏な毎日が続くのだと。そう…信じていたかった。けれどもう、今となってはあれを信じるしかない。現実に『変化』は確実に姿を見せ始めた。私はそろそろ心の準備をしなければならないのかも知れない。覚悟を決める日が…もうすぐそこまで来ている。そう思うのだ。
プルルプルルル
「…もしもしお母さん?私さ、そっちに帰っていい?急に何って…うーん。何となくかな」
心の準備を…大切な人たちのいる場所へ。
○日 海面は少しずつ上昇している
私は…死の恐怖を感じた時、もし誰かとその日を分かち合えるのなら…それは家族が一番だと思っている。もしも最後を迎えるなら家族のもとで。だから…私は今一番大切な人たちのいる場所へ帰るのだ。
ガラガラガラガラ
「……ただいま。お母さん」
「おかえり」
暖かい家族のもとへ。
○日 海面は今だに上昇中。
海面は今だに上昇し、暗雲は晴れることなく私達の日常に影を指していた。日が…当たらないせいか冬の寒さはさらに増す。もうすぐ春が訪れるはずなのに。人々の心にも影を落とし始めた。
この期間異例の帰省ダッシュが訪れたという。みんな同じなのだ。誰もがどこかで何かを感じてる。だからこそ、家族のもとへ…自分にとって大切な者たちのもとへ帰るのだ。
「ねぇお母さん…何してるの?」
「あぁ…ちょうど良かった。ちょっと手伝ってくれない?今、部屋を片してるのよ」
「掃除?」
「まぁね。最近なんか物騒だから。一応備えておかないとって思って最近けっこう買い貯めしてるのよ。だから色々整理しないと入らなくて」
「……そっか」
昔から母は感の冴えた人だった。何か悪いことが起こりそうな日はいつもこうして準備していたっけ。私自身よくそれに救われたのを覚えている。例えば、雨が降りそうな日は傘を必ず渡してくれたし『台風』の日は学校に行かせてくれる日とそうでない日があった。後になってみると、行かなかった日はは必ず台風による被害が大きかった。そして行かせてくれた日は、そこまで被害はなく通り過ぎるだけだった。お陰でよく当たるもんだから…学校の先生がそういった日には必ず家に電話をかけて来て学校の休校が決まったのだ。
「今回もなんか良くないことが起こりそうなの?」
「……そうねぇ。今まで以上にお母さんは恐いかな。今回はね、ほんとに外れてほしいって思ってるの」
私は知ってる。お母さんの感が外れたことはないってことを。
私は知ってる。悪魔のあの警告を。
「お母さん……なんか恐いね」
「そうね」
かすれた声で話す私をお母さんは優しく撫でてくれるけど…心の何処かで叫んでた。怖いよ…助けてって。何もまだ起きてない。だけど…
ボソッ「……何か起きるんだね」
「?何、何か言った?」
「……ううん。何でもない。お母さん、私…向こう片付けてくるね」
「うん。お願いね」
無力な私たちへ…私達は恐怖に怯えることしかできないのかな。悪魔の言ったとおりになるのかな。何もできることはないのかな。そう私は思うのです。
ねぇ…みんなもそう思うでしょう?きっと何処かにいる守り人のみんなも…
だけど…情けないな。こんな時に足がすくんで動かないんだ。息が詰まったようになる。胸が苦しくなる。私は臆病者だからきっと物凄く怖いんだ。今も、いや…『あの日』から息ができなくなりそうなくらい怖いよ…
きっと誰もが恐怖を感じてる。もしも仮に、私以外に警告を受けた守り人たちがいたとしても…みんな恐怖に怯えてるんじゃないか。みんなは今何をして過ごしていますか?
○月○日 ついに上昇した海面は歩みを進めた
あぁ……『こんにちは…絶望』
人間の本性はそんな時に分かるものだと私は思う。
普段優しい人も、その時に限って自己的になるかもしれない。逆に無関心の人に限って実は自分の命を投げ売ってまで誰かを守る勇敢な人になるかも知れない。私もそうだ。
私は少しぐらい優しい人間だと思っていた。けれどそれはただの勘違いで本来臆病な人間なのだと思い知る。そう…『あの時』私は確かに絶望を知った。
『嵐』から数日少しずつニュースの報道も静まりだし、いつものスキャンダル等など日々のものに置き換わりつつあった。私も何となくその日を過ごし、あの出来事の朝もボーッとテレビを見ながらパンにかぶりついていた。そう…あの日のことを『あの日から』のことを私は生涯忘れることはない。
○日 海面の一部が謎の上昇を始め一直線上に盛り 上がった
○日 さらに重い雲が私達の街の空一面を覆った。
○日 その雲は県をまたいで覆い始めた。
○日 雲はさらにかさを増し私達の国中を覆った
○日 暗雲は国をまたぎ覆い始める
○日 暗雲が…世界の全てを覆い尽くした
○日 太陽の光が届かず薄暗い日々が始まる
あの出来事…一つ目の海面上昇を気に何もかもが変化を始めたようだった。パンにかぶりつきながらテレビの報道を見たあの日まさか…ここまで立て続けに日を追うごとに…『変化』が起き出すなんて私は夢にも思わなかった。私はまだどこかで…多分信じていたのだと思う。いや、信じたかったんだ。悪魔のあの『警告』は私の幻想で夢で…何も起きずに平穏な毎日が続くのだと。そう…信じていたかった。けれどもう、今となってはあれを信じるしかない。現実に『変化』は確実に姿を見せ始めた。私はそろそろ心の準備をしなければならないのかも知れない。覚悟を決める日が…もうすぐそこまで来ている。そう思うのだ。
プルルプルルル
「…もしもしお母さん?私さ、そっちに帰っていい?急に何って…うーん。何となくかな」
心の準備を…大切な人たちのいる場所へ。
○日 海面は少しずつ上昇している
私は…死の恐怖を感じた時、もし誰かとその日を分かち合えるのなら…それは家族が一番だと思っている。もしも最後を迎えるなら家族のもとで。だから…私は今一番大切な人たちのいる場所へ帰るのだ。
ガラガラガラガラ
「……ただいま。お母さん」
「おかえり」
暖かい家族のもとへ。
○日 海面は今だに上昇中。
海面は今だに上昇し、暗雲は晴れることなく私達の日常に影を指していた。日が…当たらないせいか冬の寒さはさらに増す。もうすぐ春が訪れるはずなのに。人々の心にも影を落とし始めた。
この期間異例の帰省ダッシュが訪れたという。みんな同じなのだ。誰もがどこかで何かを感じてる。だからこそ、家族のもとへ…自分にとって大切な者たちのもとへ帰るのだ。
「ねぇお母さん…何してるの?」
「あぁ…ちょうど良かった。ちょっと手伝ってくれない?今、部屋を片してるのよ」
「掃除?」
「まぁね。最近なんか物騒だから。一応備えておかないとって思って最近けっこう買い貯めしてるのよ。だから色々整理しないと入らなくて」
「……そっか」
昔から母は感の冴えた人だった。何か悪いことが起こりそうな日はいつもこうして準備していたっけ。私自身よくそれに救われたのを覚えている。例えば、雨が降りそうな日は傘を必ず渡してくれたし『台風』の日は学校に行かせてくれる日とそうでない日があった。後になってみると、行かなかった日はは必ず台風による被害が大きかった。そして行かせてくれた日は、そこまで被害はなく通り過ぎるだけだった。お陰でよく当たるもんだから…学校の先生がそういった日には必ず家に電話をかけて来て学校の休校が決まったのだ。
「今回もなんか良くないことが起こりそうなの?」
「……そうねぇ。今まで以上にお母さんは恐いかな。今回はね、ほんとに外れてほしいって思ってるの」
私は知ってる。お母さんの感が外れたことはないってことを。
私は知ってる。悪魔のあの警告を。
「お母さん……なんか恐いね」
「そうね」
かすれた声で話す私をお母さんは優しく撫でてくれるけど…心の何処かで叫んでた。怖いよ…助けてって。何もまだ起きてない。だけど…
ボソッ「……何か起きるんだね」
「?何、何か言った?」
「……ううん。何でもない。お母さん、私…向こう片付けてくるね」
「うん。お願いね」
無力な私たちへ…私達は恐怖に怯えることしかできないのかな。悪魔の言ったとおりになるのかな。何もできることはないのかな。そう私は思うのです。
ねぇ…みんなもそう思うでしょう?きっと何処かにいる守り人のみんなも…
だけど…情けないな。こんな時に足がすくんで動かないんだ。息が詰まったようになる。胸が苦しくなる。私は臆病者だからきっと物凄く怖いんだ。今も、いや…『あの日』から息ができなくなりそうなくらい怖いよ…
きっと誰もが恐怖を感じてる。もしも仮に、私以外に警告を受けた守り人たちがいたとしても…みんな恐怖に怯えてるんじゃないか。みんなは今何をして過ごしていますか?
○月○日 ついに上昇した海面は歩みを進めた
あぁ……『こんにちは…絶望』
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