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2章 幼女な神様と2人旅

18.野営なんだが

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野営する場所を探しながら歩いていると、少しだけ周囲より高くなっている場所を見つけた。

近くに水辺はなく、見晴らしも良さそうなので野営地はそこに決めた。

それなりに重かった荷物を地面に置いて、伸びをする。


「まずは火を焚かないとな……」


「薪は森で拾ったのだ!」


野営のために、森で拾っておいた薪をスヴィエートは取り出す。
それを火のつきやすいように組んだ。

あとは火打石で着火するだけだな。
そう思い、火打石をリュックまで取りに行く。


「おぉー!!凄いのだ、ナイト!」


オレが火打石を探してリュックを探っていると、背後でスヴィエートがはしゃぎだす。
何かと思えば、組んだ薪にいつの間にか火がついていた。


「もしかして、これナイトがやったのか!?」


「そうなのだ!口から火を出したのだ!」


スヴィエートは大袈裟に身振り手振りをして、興奮気味に話す。


「お前、魔法も使えたのか……」


どこか得意げなナイトを、オレは唖然として見つめた。
黒い毛と言い、魔法を使える事と言い、ナイトは普通のウルフとは特徴が異なる部分が多い。
突然変異種だったりするのだろう。

それにしても、火の魔法が使えるのは非常に助かる。

火は旅において、2番目に大事なものなのだ。
最重要は流石に水だが、火は料理をするにも、暖をとるにも欠かせないので、それが魔法で用意できるのは大きなメリットである。


「偉いぞ、ナイト!お前の方が、スヴィエートより役に立つな」


オレはもふもふなナイトの毛を撫でながら言う。


「我も役に立つのだッ!」


スヴィエートを引き合いに出すと、当の本人はオレのお腹をポカポカと叩いて猛抗議する。


「冗談に決まってるだろ。お前の読心術も役立つ時があるからな」


「うむ、そうだろう」


オレが手の平を返すように言うと、あっさり機嫌を直した。
内心でチョロいなと思っていたが、表情には出さなかった。


さて、火は確保できたので料理に移るとしよう。


「何を作るかな……」


オレは買った食材を見ながらメニューを考える。

ここ5年は自分で料理していたし、子供の頃から料理を任される事も多かったので、料理は得意な方だ。

とは言え、料理器具も豊富な訳ではないので、作れるものも必然的に限られる。

まあ、手軽に炒め物にするかと決めて、調理する食材を選ぶと、手慣れた手つきで食材を切っていく。

食べやすいサイズに切った食材を鍋に入れて、火にかけ始める。
火が通るまで少し時間がかかるので、その間にスヴィエートの様子を伺う。

スヴィエートにテントの設置を任せてみたのだ。
簡単に組み立てられる設計になっていたので、できるかもと思ったのだ。

少し期待して見てみると、酷い光景が目に入ってきた。


「……どうやったらそうなるんだ?」


そこにあったのは、上下が逆さまのテント。

地面に接するはずの底面が空を向いて、尖った上部が地面に刺さっている。
絶妙なバランスで立っているそれは、何かのモニュメントのようである。


「このテントは寝づらそうなのだ……」


「そりゃ、そんな設置の仕方は、想定されてないだろうからな」


さも、テントの設計が悪いように言うスヴィエートにツッコミを入れる。


「もう少し工夫すれば寝られそうなのだ!」


「余計な事はするな!お前に任せたオレが馬鹿だったから」


そんな会話をしている内に、鍋の食材からいい匂いが漂ってくる。
火が通ってきたらしい。

オレはそこに調味料を加えて味付けをする。
隠し味なんかの知識はないので、奥深い味にはならないが、普通に美味しい。

他にも簡単なスープを作っておいた。
これは容器に入れて保存すれば、明日以降も飲めるので多めに作った。


「それじゃあ食べるか」


「うむ!ディランの料理は初めてだから、楽しみなのだ!」


ワクワクと言う効果音がつきそうな様子のスヴィエート。
大層なものではないので、そこまで期待されると少し困る。


「そこまで期待するなよ。料理屋やってる訳じゃないんだからな」


「分かっているのだ」


「「いただきます」」


そう声を合わせて言うと、オレ達は料理を口に運んだ。


「美味しいのだ!」


一口目を口に入れた瞬間、スヴィエートがそう声をあげた。


「そうか?」


「うむ。複雑な味ではなく、むしろ何度も何度も同じ料理を作って、味つけを最適化していったような工夫の跡が感じられるのだ」


スヴィエートの感想は具体的なのか抽象的なのか、よく分からないが、まったくもってその通りだ。

深淵の森で暮らしている間は、調味料などは街で買う必要があったので、出来るだけ少ない量で済ませられるように、日々、工夫していたのだ。
そのため、オレの料理は調味料を最小限しか使わない。

そんな背景をひと口で読み取れるのは、もはや人間業ではない。


「とにかく、口に合ったみたいで良かった。オレも誰かに振る舞うのは久しぶりだったから安心した」


オレがそう言うと、少しスヴィエートは沈黙して考えるような仕草をした。


「こうして見ると、ディランは出来ない事がないのではないか?」


スヴィエートは真剣な顔になると、唐突にそんな事を言った。
スヴィエートのそんな表情を見るのは初めてだった。


「出来ない事くらいあると思うが、なんでだ?」


「いや、ディランのような人が兄だったら、妹は誇りに思うのではないかと思ったのだ。今なら自信を持って、ルミエールとも顔を合わせられるのではないか?」


「今のオレがそんな風に見えるのは、時間が経って成長したからだ。あの時のオレとは違う。もうオレに妹と会う資格はない」


「最初から完璧な人間などいないのだ。それに、会う資格があるかどうかは、ルミエールが決める事のはずだ。会いに行くべきだとは思っていないが、もし向こうが会いに来たら会っても良いのではないかと思うのだ……。まあしかし、これは我の個人的な意見だ。神様の独り言と思ってくれて構わないのだ」


考え込むオレを見てスヴィエートは、いつもの表情に戻る。
そして、何事も無かったかのように、再び料理を口に運び始めた。

オレも一旦、考えるのをやめて料理に手をつける。

その後、食べ終わってテントを設置し直したり、濡れたタオルで身体を拭いたりして、夜の時間は過ぎていった。

まだスヴィエートが眠くないと言うのでオレ達は、夜空を眺めながら話に花を咲かせる。

しばらくそうしていると、会話の途中で不意に沈黙が訪れて、スヴィエートから寝息が聞こえてきた。

見ると、スヴィエートはふかふかのナイトを抱き枕がわりにして、気持ちよさそうに寝ていた。

オレはスヴィエートを起こさないのように寝袋に運んでやった。

オレも今日はかなり歩いたので、それなりに疲れもある。
気持ちよく眠りにつけそうだと考えながら、オレも寝袋に入る。

しかし、眠りにつくその瞬間まで、食事の時のスヴィエートの言葉が頭に残って離れなかった。
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