9 / 26
2章 幼女な神様と2人旅
8.息苦しい朝なんだが
しおりを挟む
オレは僅かに息苦しさを覚えて目を覚ました。
窓から入ってくる光で朝が来たのだと理解する。
息苦しさの原因を知るために視線を下げると、仰向けに寝ていたオレの胸に、スヴィエートが頭を乗せていた。
(……なんでオレの上で寝てんだよ)
昨日は別々のベッドに寝たはずだから、寝相がとんでもなく悪いのか、寝ぼけていたのだろう。
「……仕方ねぇな」
オレはそう言って、何の迷いもなく起き上がる。
起き上がれば当然、乗っていたスヴィエートは転げ落ちる。
ゴンッ!と言う音と共に、スヴィエートは悲鳴を上げた。
「うぎゃぁーッ!痛いのだ!」
「大丈夫か?」
「大丈夫か?じゃないのだ!何故、迷いなく起き上がるのだ!普通は頭を撫でたり、優しくベッドに寝かせる場面だろう!」
「やっぱり起きてたんじゃねぇか!」
そうだと思ったのだ。
ルミエールも昔、よくこんなイタズラをして来たので、息づかいを聞けば、寝てるかはすぐ分かるようになった。
最悪、本当に寝ていたとしても、オレが故意に落とした事はバレないので、上に寝ている幼女を撃退するには最善の手だ。
打った頭をさすりながら立ち上がると、スヴィエートは不満そうに見てくる。
「折角、可愛い我がすばらしい朝の幸せを届けてやったと言うのに……信じられないのだ……」
「息苦しい目覚めをありがとな!」
「そうか!有り難かったのだな!ならば、明日もしてやるのだ」
「それはどうも。今度やったら床じゃなくて、窓から外に投げ捨てるから覚悟してやるんだな」
そんなやり取りをしていると、街の時計台がゴーン、ゴーンと鐘の音を響かせた。
だいたい日の出から1時間程で鳴らされるこの鐘は、表通りにある店が開店する合図になっている。
そうすると人通りも増えて活気が増す。
この宿の食堂も鐘が鳴るころには、朝食の準備を終えていると宿の女が言っていた。
まだワーワー言っているスヴィエートを置いて一階の食堂に向かう。
「待て、我も行くのだ!」
「下で待ってるから、さっさとしろよ。あんまり遅かったら勝手にセロリの盛り合わせでも頼んどくから、それが嫌なら早く来るんだな」
「セロリだけは嫌なのだッ!」
スヴィエートは慌てて身支度を始める。
その間にオレは一階に降りる。
食堂に入ると宿屋の女がいたので声をかける。
「朝食を2人分、頼む。後からもう一人くる」
「あいよ」
そもそも朝食は注文制ではないので、『セロリの盛り合わせ』は冗談だったのだが、本気にしたスヴィエートがダッダッダッ!っと階段を駆け下りてきた。
「セロリの盛り合わせはキャンセルなのだ!」
食堂に入るなりそう叫ぶ。
……あいつは馬鹿なのか?
「頼んでねぇよ。はやく座れ!」
「うむ」
椅子に座ったスヴィエートが「セーフなのだ」と呟いていたが、周りの客には確実に変な子だと思われただろう。
ある意味アウトだ。
オレは内心、憐んでいたが、スヴィエートはそれに気づくことなく話題を変えた。
「今日はどうするのだ?」
「どうする」というのは、どうやって神珠を探すのかという問いだろう。
探してるのはスヴィエートなのだから、こちらが聞きたいくらいなのだが、話が進まないので質問を返す。
「まだ決めてないが、本当に何の手がかりもないのか?」
「これは我の推測だが、神珠は世界の理を変えられるほどのアイテムなのだ。そこには膨大な力が蓄えられている。その力に魔物が引き寄せられて、異変が起きている可能性はあるのだ」
「なるほど、分からん。とにかく、魔物が集まってる場所を重点的に探すって事で良いか?」
「うむ」
「魔物が集まってる場所……この辺だとやっぱりあの森か……?」
オレは深淵の森は魔物がいっぱい居たなと思い起こす。
だが、それをスヴィエートは否定する。
「深淵の森は特別な場所だぞ。魔物が溢れているのが正常なのだ」
「じゃあ、知らないな。この辺じゃないかもな」
「ならば旅だな!」
何故か嬉しそうに言うスヴィエート。
しかし、それは無理がある。
所持金は9万リル程度。
2人旅をするには不安な額だ。
「旅の前に、まずは金を貯める必要があるな。紹介屋でもあたってみるか」
「分かったのだ!」
方針が固まった所で丁度、朝食が運ばれてきた。
「朝食だよ。お待たせ」
「待っていたのだ!」
上機嫌に答えたスヴィエートは、宿屋の女が最初にテーブルに置いた皿を見て、言葉を失う。
「セロリだよ」
その皿には女の言う通り、セロリしか乗っていない。
オレは真意を確かめるために女に視線を向けると、口元がにやけていた。
「冗談だよ。ほれパンとスープ、それから肉もあるよ」
「謀ったな!?びっくりしたのだ!」
騙されたと知ってムッとした表情になったが、朝食に口をつけると美味しかったのか、顔を綻ばせる。
黙々と食べ続けるスヴィエートを宿屋の女は、微笑ましそうに見つめていた。
窓から入ってくる光で朝が来たのだと理解する。
息苦しさの原因を知るために視線を下げると、仰向けに寝ていたオレの胸に、スヴィエートが頭を乗せていた。
(……なんでオレの上で寝てんだよ)
昨日は別々のベッドに寝たはずだから、寝相がとんでもなく悪いのか、寝ぼけていたのだろう。
「……仕方ねぇな」
オレはそう言って、何の迷いもなく起き上がる。
起き上がれば当然、乗っていたスヴィエートは転げ落ちる。
ゴンッ!と言う音と共に、スヴィエートは悲鳴を上げた。
「うぎゃぁーッ!痛いのだ!」
「大丈夫か?」
「大丈夫か?じゃないのだ!何故、迷いなく起き上がるのだ!普通は頭を撫でたり、優しくベッドに寝かせる場面だろう!」
「やっぱり起きてたんじゃねぇか!」
そうだと思ったのだ。
ルミエールも昔、よくこんなイタズラをして来たので、息づかいを聞けば、寝てるかはすぐ分かるようになった。
最悪、本当に寝ていたとしても、オレが故意に落とした事はバレないので、上に寝ている幼女を撃退するには最善の手だ。
打った頭をさすりながら立ち上がると、スヴィエートは不満そうに見てくる。
「折角、可愛い我がすばらしい朝の幸せを届けてやったと言うのに……信じられないのだ……」
「息苦しい目覚めをありがとな!」
「そうか!有り難かったのだな!ならば、明日もしてやるのだ」
「それはどうも。今度やったら床じゃなくて、窓から外に投げ捨てるから覚悟してやるんだな」
そんなやり取りをしていると、街の時計台がゴーン、ゴーンと鐘の音を響かせた。
だいたい日の出から1時間程で鳴らされるこの鐘は、表通りにある店が開店する合図になっている。
そうすると人通りも増えて活気が増す。
この宿の食堂も鐘が鳴るころには、朝食の準備を終えていると宿の女が言っていた。
まだワーワー言っているスヴィエートを置いて一階の食堂に向かう。
「待て、我も行くのだ!」
「下で待ってるから、さっさとしろよ。あんまり遅かったら勝手にセロリの盛り合わせでも頼んどくから、それが嫌なら早く来るんだな」
「セロリだけは嫌なのだッ!」
スヴィエートは慌てて身支度を始める。
その間にオレは一階に降りる。
食堂に入ると宿屋の女がいたので声をかける。
「朝食を2人分、頼む。後からもう一人くる」
「あいよ」
そもそも朝食は注文制ではないので、『セロリの盛り合わせ』は冗談だったのだが、本気にしたスヴィエートがダッダッダッ!っと階段を駆け下りてきた。
「セロリの盛り合わせはキャンセルなのだ!」
食堂に入るなりそう叫ぶ。
……あいつは馬鹿なのか?
「頼んでねぇよ。はやく座れ!」
「うむ」
椅子に座ったスヴィエートが「セーフなのだ」と呟いていたが、周りの客には確実に変な子だと思われただろう。
ある意味アウトだ。
オレは内心、憐んでいたが、スヴィエートはそれに気づくことなく話題を変えた。
「今日はどうするのだ?」
「どうする」というのは、どうやって神珠を探すのかという問いだろう。
探してるのはスヴィエートなのだから、こちらが聞きたいくらいなのだが、話が進まないので質問を返す。
「まだ決めてないが、本当に何の手がかりもないのか?」
「これは我の推測だが、神珠は世界の理を変えられるほどのアイテムなのだ。そこには膨大な力が蓄えられている。その力に魔物が引き寄せられて、異変が起きている可能性はあるのだ」
「なるほど、分からん。とにかく、魔物が集まってる場所を重点的に探すって事で良いか?」
「うむ」
「魔物が集まってる場所……この辺だとやっぱりあの森か……?」
オレは深淵の森は魔物がいっぱい居たなと思い起こす。
だが、それをスヴィエートは否定する。
「深淵の森は特別な場所だぞ。魔物が溢れているのが正常なのだ」
「じゃあ、知らないな。この辺じゃないかもな」
「ならば旅だな!」
何故か嬉しそうに言うスヴィエート。
しかし、それは無理がある。
所持金は9万リル程度。
2人旅をするには不安な額だ。
「旅の前に、まずは金を貯める必要があるな。紹介屋でもあたってみるか」
「分かったのだ!」
方針が固まった所で丁度、朝食が運ばれてきた。
「朝食だよ。お待たせ」
「待っていたのだ!」
上機嫌に答えたスヴィエートは、宿屋の女が最初にテーブルに置いた皿を見て、言葉を失う。
「セロリだよ」
その皿には女の言う通り、セロリしか乗っていない。
オレは真意を確かめるために女に視線を向けると、口元がにやけていた。
「冗談だよ。ほれパンとスープ、それから肉もあるよ」
「謀ったな!?びっくりしたのだ!」
騙されたと知ってムッとした表情になったが、朝食に口をつけると美味しかったのか、顔を綻ばせる。
黙々と食べ続けるスヴィエートを宿屋の女は、微笑ましそうに見つめていた。
0
お気に入りに追加
278
あなたにおすすめの小説
姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……
踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです
(カクヨム、小説家になろうでも公開中です)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる