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2章 幼女な神様と2人旅

8.息苦しい朝なんだが

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オレは僅かに息苦しさを覚えて目を覚ました。
窓から入ってくる光で朝が来たのだと理解する。

息苦しさの原因を知るために視線を下げると、仰向けに寝ていたオレの胸に、スヴィエートが頭を乗せていた。


(……なんでオレの上で寝てんだよ)


昨日は別々のベッドに寝たはずだから、寝相がとんでもなく悪いのか、寝ぼけていたのだろう。


「……仕方ねぇな」


オレはそう言って、何の迷いもなく起き上がる。

起き上がれば当然、乗っていたスヴィエートは転げ落ちる。

ゴンッ!と言う音と共に、スヴィエートは悲鳴を上げた。


「うぎゃぁーッ!痛いのだ!」


「大丈夫か?」


「大丈夫か?じゃないのだ!何故、迷いなく起き上がるのだ!普通は頭を撫でたり、優しくベッドに寝かせる場面だろう!」


「やっぱり起きてたんじゃねぇか!」


そうだと思ったのだ。
ルミエールも昔、よくこんなイタズラをして来たので、息づかいを聞けば、寝てるかはすぐ分かるようになった。
最悪、本当に寝ていたとしても、オレが故意に落とした事はバレないので、上に寝ている幼女を撃退するには最善の手だ。

打った頭をさすりながら立ち上がると、スヴィエートは不満そうに見てくる。


「折角、可愛い我がすばらしい朝の幸せを届けてやったと言うのに……信じられないのだ……」


「息苦しい目覚めをありがとな!」


「そうか!有り難かったのだな!ならば、明日もしてやるのだ」


「それはどうも。今度やったら床じゃなくて、窓から外に投げ捨てるから覚悟してやるんだな」


そんなやり取りをしていると、街の時計台がゴーン、ゴーンと鐘の音を響かせた。
だいたい日の出から1時間程で鳴らされるこの鐘は、表通りにある店が開店する合図になっている。

そうすると人通りも増えて活気が増す。

この宿の食堂も鐘が鳴るころには、朝食の準備を終えていると宿の女が言っていた。

まだワーワー言っているスヴィエートを置いて一階の食堂に向かう。


「待て、我も行くのだ!」


「下で待ってるから、さっさとしろよ。あんまり遅かったら勝手にセロリの盛り合わせでも頼んどくから、それが嫌なら早く来るんだな」


「セロリだけは嫌なのだッ!」


スヴィエートは慌てて身支度を始める。
その間にオレは一階に降りる。

食堂に入ると宿屋の女がいたので声をかける。


「朝食を2人分、頼む。後からもう一人くる」


「あいよ」


そもそも朝食は注文制ではないので、『セロリの盛り合わせ』は冗談だったのだが、本気にしたスヴィエートがダッダッダッ!っと階段を駆け下りてきた。


「セロリの盛り合わせはキャンセルなのだ!」


食堂に入るなりそう叫ぶ。
……あいつは馬鹿なのか?


「頼んでねぇよ。はやく座れ!」


「うむ」


椅子に座ったスヴィエートが「セーフなのだ」と呟いていたが、周りの客には確実に変な子だと思われただろう。
ある意味アウトだ。

オレは内心、憐んでいたが、スヴィエートはそれに気づくことなく話題を変えた。


「今日はどうするのだ?」


「どうする」というのは、どうやって神珠を探すのかという問いだろう。

探してるのはスヴィエートなのだから、こちらが聞きたいくらいなのだが、話が進まないので質問を返す。


「まだ決めてないが、本当に何の手がかりもないのか?」


「これは我の推測だが、神珠は世界の理を変えられるほどのアイテムなのだ。そこには膨大な力が蓄えられている。その力に魔物が引き寄せられて、異変が起きている可能性はあるのだ」


「なるほど、分からん。とにかく、魔物が集まってる場所を重点的に探すって事で良いか?」


「うむ」


「魔物が集まってる場所……この辺だとやっぱりあの森か……?」


オレは深淵の森は魔物がいっぱい居たなと思い起こす。
だが、それをスヴィエートは否定する。


「深淵の森は特別な場所だぞ。魔物が溢れているのが正常なのだ」


「じゃあ、知らないな。この辺じゃないかもな」


「ならば旅だな!」


何故か嬉しそうに言うスヴィエート。
しかし、それは無理がある。

所持金は9万リル程度。
2人旅をするには不安な額だ。


「旅の前に、まずは金を貯める必要があるな。紹介屋でもあたってみるか」


「分かったのだ!」


方針が固まった所で丁度、朝食が運ばれてきた。


「朝食だよ。お待たせ」


「待っていたのだ!」


上機嫌に答えたスヴィエートは、宿屋の女が最初にテーブルに置いた皿を見て、言葉を失う。


「セロリだよ」


その皿には女の言う通り、セロリしか乗っていない。
オレは真意を確かめるために女に視線を向けると、口元がにやけていた。


「冗談だよ。ほれパンとスープ、それから肉もあるよ」


「謀ったな!?びっくりしたのだ!」


騙されたと知ってムッとした表情になったが、朝食に口をつけると美味しかったのか、顔を綻ばせる。

黙々と食べ続けるスヴィエートを宿屋の女は、微笑ましそうに見つめていた。
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