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6章 ゲドラ獣王国編
103.方向音痴
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====side美玲====
ラウトが冒険者トーナメントの観戦に熱中しているのと同時刻。
この街、ジルオンに訪れる者があった。
その者ーーー美玲は説明書を片手に船から降りる。
「遠かったわね。丸3日は船に乗っていたもの。それにしても綺麗な街だわ」
西洋の街並みを想わせる白い壁の建物を眺めながら呟く。
「あれが闘技場かしら」
一際大きな建物を見つける。
今回の目的地はあそこだ。
何を隠そう、冒険者トーナメントに参加する事になっている。
参加するのを決めたのは、自分の力がどの程度通用するのか確かめたかったのと、手っ取り早く冒険者ランクを上げたかったのだ。
説明書曰く、このトーナメントに優勝すればSランクになれるらしい。
行く先々でやらかしてきた私だけど、トーナメントなら手加減を考えなくて済む。
とまあ、そんな理由で冒険者トーナメントに参加する事にしたのだ。
「試合は明日だけど、他の出場者のレベルも知って置きたいわね」
私は地図もとい説明書を見ながら闘技場へと向かった。
地図を見ると、どうやら港から闘技場までは大通りを突っ切るだけらしい。
これならいくら方向音痴な私でも迷う事はない。
意気揚々と歩き出して約5分、行き止まりにたどり着いた。
可笑しい……。
真っ直ぐ歩いて来た筈だ。
そう思って後ろを振り返ると、通ってきたはずの一本道はなかった。
私は自分が思っているよりずっと方向音痴らしい。
地図をこまめに確認するしかない。
気を取り直して地図をもとに、大通りまで戻ってきた。
次こそ、と今度は脇目も振らず、地図と道を交互に見ながら歩いて行く。
すると突然、誰かに肩を叩かれた。
「は、はいっ!」
地図と道に意識を集中していたため、ビックリした。
「ごめんねぇ。おばあちゃん道に迷っちゃったの。悪いんだけど、地図を見せてくれないかい?」
歳を召した女性がそう頼んできた。
「良いですよ、どうぞ」
断る理由もないので、地図をおばあちゃんに見せてあげる。
いつもは色んな文字を浮かび上がらせる説明書も今はただの地図ブックにしか見えない。
「ありがとさん。おかげでわかったよ」
「いえいえ」
私はおばあちゃんを見送って意識を地図に戻した。
(あれ?どっちから来たっけ?)
いやいやいや、忘れる筈ない。
だってずっと見ながらきたもの。
見覚えのある建物などを探して確信する。
うん、こっちね!
そう断言して、道なりに進むと到着した。
港に……。
「もう誰に話しかけられても無視するわ!」
自分の方向音痴さにうんざりする。
悪いけど人助けをする余裕はなさそうね。
私は再び地図と道と睨めっこしながら、道なりに進んでいく。
話しかけるなオーラを全開にして。
そうしてようやく、闘技場に辿り着いた。
長かった。
闘技場の外からでも、歓声が聞こえて来た。
どうやら試合が行われている最中らしい。
ここに来るまでに時間がかかり過ぎたため、今やっている試合が今日の最後だろう。
見逃すときた意味がなくなるので、急いで場内に入った。
客席のある場所まで登ってくると、闘技スペースの真ん中にあるステージで2人の冒険者が試合をしていた。
聞こえてくる歓声や会話に耳を傾けていると、どうやらこれはエキシビジョンマッチで、試合をやっているのはSランク冒険者の2人らしい。
座る時間も惜しいので立ち見で観戦する。
どちらも剣士らしいが、ひとりは壮年の冒険者なのに対して、片方は見るからに若い。
下手をすると私より年下かも知れない。
一見すると、ずっと壮年の剣士が押しているようだけど、若い剣士は攻撃を全てギリギリのところで躱している。
Sランクの剣士だけあって、その全力の猛攻は私でも受け切れる自信はない。
しかし、そんな攻撃を若い剣士は、針に糸を通すかの如く掻い潜っている。
常人に出来る芸当ではない。
私はその若い冒険者に底知れぬ力を感じた。
過程はともかく、結果は呆気なかった。
『終始、壮年の冒険者が攻めていたが、若い冒険者が逆転の一撃で沈めた。』と観客たちは思っているだろう。
盛り上がりから見ても間違いない。
でも実際は、若い冒険者が接戦を演じ、機を見て隠してた力を出したに過ぎない。
なるほどエキシビジョンマッチとはよく言ったものだ。
これだけ盛り上がるなら茶番も意味を成す。
しかし、仮にも壮年の冒険者だってSランクだ。
そんな相手に接戦を演じる余裕すらある若い冒険者を思うと末恐ろしい。
ステージを降りて控え室へ消えて行く若い冒険者を見つめた。
その時、その冒険者がこちらを向いた気がした。
「気のせいよね?」
直後、場内にアナウンスが流れる。
『只今のエキシビジョンマッチは如何だったでしょうか?とても熱い展開で私共もつい力が入ってしまいました。結果は新たにSランクに昇格した大型新人ラウト選手の勝利でした。明日も多くの試合が予定ーーー』
私はアナウンスを聞いて耳を疑った。
ラウト?
それは弟の春輝がこの世界で名乗っている名前だった筈だ。
あの若い冒険者が春輝?
私は急いで闘技場の出口に向かった。
控え室から一番近い出口だ。
話す事は出来ないけど、自分が無事であることを伝えたい。
だが、いくら待ってもラウトらしき人物は現れなかった。
ラウトが冒険者トーナメントの観戦に熱中しているのと同時刻。
この街、ジルオンに訪れる者があった。
その者ーーー美玲は説明書を片手に船から降りる。
「遠かったわね。丸3日は船に乗っていたもの。それにしても綺麗な街だわ」
西洋の街並みを想わせる白い壁の建物を眺めながら呟く。
「あれが闘技場かしら」
一際大きな建物を見つける。
今回の目的地はあそこだ。
何を隠そう、冒険者トーナメントに参加する事になっている。
参加するのを決めたのは、自分の力がどの程度通用するのか確かめたかったのと、手っ取り早く冒険者ランクを上げたかったのだ。
説明書曰く、このトーナメントに優勝すればSランクになれるらしい。
行く先々でやらかしてきた私だけど、トーナメントなら手加減を考えなくて済む。
とまあ、そんな理由で冒険者トーナメントに参加する事にしたのだ。
「試合は明日だけど、他の出場者のレベルも知って置きたいわね」
私は地図もとい説明書を見ながら闘技場へと向かった。
地図を見ると、どうやら港から闘技場までは大通りを突っ切るだけらしい。
これならいくら方向音痴な私でも迷う事はない。
意気揚々と歩き出して約5分、行き止まりにたどり着いた。
可笑しい……。
真っ直ぐ歩いて来た筈だ。
そう思って後ろを振り返ると、通ってきたはずの一本道はなかった。
私は自分が思っているよりずっと方向音痴らしい。
地図をこまめに確認するしかない。
気を取り直して地図をもとに、大通りまで戻ってきた。
次こそ、と今度は脇目も振らず、地図と道を交互に見ながら歩いて行く。
すると突然、誰かに肩を叩かれた。
「は、はいっ!」
地図と道に意識を集中していたため、ビックリした。
「ごめんねぇ。おばあちゃん道に迷っちゃったの。悪いんだけど、地図を見せてくれないかい?」
歳を召した女性がそう頼んできた。
「良いですよ、どうぞ」
断る理由もないので、地図をおばあちゃんに見せてあげる。
いつもは色んな文字を浮かび上がらせる説明書も今はただの地図ブックにしか見えない。
「ありがとさん。おかげでわかったよ」
「いえいえ」
私はおばあちゃんを見送って意識を地図に戻した。
(あれ?どっちから来たっけ?)
いやいやいや、忘れる筈ない。
だってずっと見ながらきたもの。
見覚えのある建物などを探して確信する。
うん、こっちね!
そう断言して、道なりに進むと到着した。
港に……。
「もう誰に話しかけられても無視するわ!」
自分の方向音痴さにうんざりする。
悪いけど人助けをする余裕はなさそうね。
私は再び地図と道と睨めっこしながら、道なりに進んでいく。
話しかけるなオーラを全開にして。
そうしてようやく、闘技場に辿り着いた。
長かった。
闘技場の外からでも、歓声が聞こえて来た。
どうやら試合が行われている最中らしい。
ここに来るまでに時間がかかり過ぎたため、今やっている試合が今日の最後だろう。
見逃すときた意味がなくなるので、急いで場内に入った。
客席のある場所まで登ってくると、闘技スペースの真ん中にあるステージで2人の冒険者が試合をしていた。
聞こえてくる歓声や会話に耳を傾けていると、どうやらこれはエキシビジョンマッチで、試合をやっているのはSランク冒険者の2人らしい。
座る時間も惜しいので立ち見で観戦する。
どちらも剣士らしいが、ひとりは壮年の冒険者なのに対して、片方は見るからに若い。
下手をすると私より年下かも知れない。
一見すると、ずっと壮年の剣士が押しているようだけど、若い剣士は攻撃を全てギリギリのところで躱している。
Sランクの剣士だけあって、その全力の猛攻は私でも受け切れる自信はない。
しかし、そんな攻撃を若い剣士は、針に糸を通すかの如く掻い潜っている。
常人に出来る芸当ではない。
私はその若い冒険者に底知れぬ力を感じた。
過程はともかく、結果は呆気なかった。
『終始、壮年の冒険者が攻めていたが、若い冒険者が逆転の一撃で沈めた。』と観客たちは思っているだろう。
盛り上がりから見ても間違いない。
でも実際は、若い冒険者が接戦を演じ、機を見て隠してた力を出したに過ぎない。
なるほどエキシビジョンマッチとはよく言ったものだ。
これだけ盛り上がるなら茶番も意味を成す。
しかし、仮にも壮年の冒険者だってSランクだ。
そんな相手に接戦を演じる余裕すらある若い冒険者を思うと末恐ろしい。
ステージを降りて控え室へ消えて行く若い冒険者を見つめた。
その時、その冒険者がこちらを向いた気がした。
「気のせいよね?」
直後、場内にアナウンスが流れる。
『只今のエキシビジョンマッチは如何だったでしょうか?とても熱い展開で私共もつい力が入ってしまいました。結果は新たにSランクに昇格した大型新人ラウト選手の勝利でした。明日も多くの試合が予定ーーー』
私はアナウンスを聞いて耳を疑った。
ラウト?
それは弟の春輝がこの世界で名乗っている名前だった筈だ。
あの若い冒険者が春輝?
私は急いで闘技場の出口に向かった。
控え室から一番近い出口だ。
話す事は出来ないけど、自分が無事であることを伝えたい。
だが、いくら待ってもラウトらしき人物は現れなかった。
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