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5章 冒険者らしい活動もしようよ!!
93.覚えてない
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背の低い草木がまばらに生えていた大地が魔法ひとつで荒野に変わってしまった。
落下地点には大きなクレーターができ、深く地面が抉れていた。
あれほどいたレッドビーも死体すら残らず吹き飛ばされた。
馬車で一部始終を見ていた者でさえ、その事実に理解が及んでいなかった。
「どうなっているんだ・・・」
声を絞り出したノーランのその表情には、明らかな恐怖の感情が見て取れた。
理解できない出来事の恐ろしさは言うまでもないだろう。
ディアやその他の商人たちも言葉こそ発していないが、同じく恐怖を隠せていなかった。
その中で一人だけ冷静さを失わなかった者がいた。
「あんな魔法もあるんですね!初めて見ました」
そう言ってルルは平然と馬車から出て俺の方に向かってきた。
ルルにとっては想像以上の出来事ではあったが、理解のできないものではなかったらしい。
「あれは使える場面が限られてるからね」
「でも地面がボコボコですね」
ルルの言う通り、道のあった場所は深さ2メートルくらいのクレーターで通れなくなっている。
周りも衝撃波でとても馬車が通れる状態じゃない。
「すぐ直せるよ」
返事をするが早いか、土魔法を発動させると、言い終わる頃には既に道が出来ていた。
元々そこまで整備された道ではなかったので、普通に土を平らに固めただけだ。
さて、問題はどう説明するかだ。
今回は「空間魔法です」で誤魔化せる域はゆうに超えている。
かと言って、事情を全て説明するのは面倒くさい。
うまく回避できる方法はなかろうか。
馬車に戻ると早速説明を求められた。
「兄ちゃん、あれは何だったんだ?」
「魔法なのか?」
恐怖を紛らわすように早口で捲し立てる。
返答に困って頭を悩ませていると閃いた。
そう言えば、こういう時に便利な言葉があるじゃないか。
日本では良く使われていた魔法の言葉。
ーー記憶に御座いません。
つまり覚えてない事にして仕舞えば良いのだ。
覚えていないと言われれば、相手はそれ以上追及できない。
怪しまれるのは諦めるしかないが、この場を凌げば後は何とでもなる。
クエストさえ達成すれば、ルル以外とはもう会う事もないのだ。
だから俺は最大限の演技をもって口を開く。
「へ?何の事ですか?」
王都に無事到着した俺たちはクエスト達成の報酬をギルドで貰い、更に積荷を無傷で守り切ったので、商人から追加報酬を受け取った。
あの魔法の事はなかった事にされている。
冒険者に対する詮索は御法度なのが暗黙の了解なので、当事者の記憶にだけに残る出来事となった。
最後までノーランは説明して欲しそうにしてたが、気づかないふりをした。
一件落着、俺はこの時そう思っていた。
でも失念していた。
ギルドカードに討伐記録が残っている事を。
☆
王都観光。
これが護衛クエストを受けた理由の一つであった。
ルルはルルで見たい場所があるらしいので、別行動だ。あとで合流する。
俺は大きな通りに来てみた。
人通りが多くお目当てを見つけるにはうってつけの場所だ。
前も言った通り、お目当ては獣人さんなのだが、見た感じ他種族は見当たらない。
聞いた話では、獣人はいわゆるケモ耳らしいので見れば一目で分かるはずだ。
しかし獣人と出会うことなく大通りを抜けてしまった。
そう簡単に見つからないのかと考えていた時、魔力探知で裏道のような場所で怪しい反応を拾った。
俺は誰も見ていないことを確認して、転移でその場所に移動した。
(ビンゴ!!)
そこにいたのは男女の子供2人。
2人の頭には想像通りのケモ耳があった。
こちらからは見えないが尻尾もあるのだろう。
そして2人を追う人影もあった。
「待てやゴラァ!!」
怒りの形相を浮かべた男が割れた瓶を振り回している。
こちらには耳も尻尾もないので、ただの人間らしい。
顔が赤いのは怒っているからもあるだろうが、酔っているのだろう。
俺も気配を消して追いかける。
するとほどなくして、逃げていた2人は行き止まりに逃げ道を阻まれてしまった。
すぐに酔った男が追いついて荒い息を整えながら口を開く。
「獣人のガキが調子に乗りやがって」
近づいていく酔った男の前に、男の子の方が恐怖で座り込んでしまった女の子を庇うように前に出る。
とうとう2人の目の前まで迫った男は嫌な笑みを浮かべた。
「まずはお前からだぁ!!」
男は瓶を握る手に力を入れると思いっきり振り下ろした。
「はい、そこまで」
俺は男の腕を掴んで間に割って入る。
事情は知らないが、子供に手をあげるのは良くない。
「誰だお前!」
「瓶を捨てろ」
俺は男の言葉を無視して命令する。
しかし、男は従わずもう一方の腕で殴りかかってきた。
俺はそれを避けて腹に膝蹴りを叩き込む。
男は腹を押さえて崩れ落ちる。
冷静に話が出来なさそうだったので無力化した。
「じゃあ何があったか教えてくれる?」
俺は振り返って2人に事情を尋ねた。
落下地点には大きなクレーターができ、深く地面が抉れていた。
あれほどいたレッドビーも死体すら残らず吹き飛ばされた。
馬車で一部始終を見ていた者でさえ、その事実に理解が及んでいなかった。
「どうなっているんだ・・・」
声を絞り出したノーランのその表情には、明らかな恐怖の感情が見て取れた。
理解できない出来事の恐ろしさは言うまでもないだろう。
ディアやその他の商人たちも言葉こそ発していないが、同じく恐怖を隠せていなかった。
その中で一人だけ冷静さを失わなかった者がいた。
「あんな魔法もあるんですね!初めて見ました」
そう言ってルルは平然と馬車から出て俺の方に向かってきた。
ルルにとっては想像以上の出来事ではあったが、理解のできないものではなかったらしい。
「あれは使える場面が限られてるからね」
「でも地面がボコボコですね」
ルルの言う通り、道のあった場所は深さ2メートルくらいのクレーターで通れなくなっている。
周りも衝撃波でとても馬車が通れる状態じゃない。
「すぐ直せるよ」
返事をするが早いか、土魔法を発動させると、言い終わる頃には既に道が出来ていた。
元々そこまで整備された道ではなかったので、普通に土を平らに固めただけだ。
さて、問題はどう説明するかだ。
今回は「空間魔法です」で誤魔化せる域はゆうに超えている。
かと言って、事情を全て説明するのは面倒くさい。
うまく回避できる方法はなかろうか。
馬車に戻ると早速説明を求められた。
「兄ちゃん、あれは何だったんだ?」
「魔法なのか?」
恐怖を紛らわすように早口で捲し立てる。
返答に困って頭を悩ませていると閃いた。
そう言えば、こういう時に便利な言葉があるじゃないか。
日本では良く使われていた魔法の言葉。
ーー記憶に御座いません。
つまり覚えてない事にして仕舞えば良いのだ。
覚えていないと言われれば、相手はそれ以上追及できない。
怪しまれるのは諦めるしかないが、この場を凌げば後は何とでもなる。
クエストさえ達成すれば、ルル以外とはもう会う事もないのだ。
だから俺は最大限の演技をもって口を開く。
「へ?何の事ですか?」
王都に無事到着した俺たちはクエスト達成の報酬をギルドで貰い、更に積荷を無傷で守り切ったので、商人から追加報酬を受け取った。
あの魔法の事はなかった事にされている。
冒険者に対する詮索は御法度なのが暗黙の了解なので、当事者の記憶にだけに残る出来事となった。
最後までノーランは説明して欲しそうにしてたが、気づかないふりをした。
一件落着、俺はこの時そう思っていた。
でも失念していた。
ギルドカードに討伐記録が残っている事を。
☆
王都観光。
これが護衛クエストを受けた理由の一つであった。
ルルはルルで見たい場所があるらしいので、別行動だ。あとで合流する。
俺は大きな通りに来てみた。
人通りが多くお目当てを見つけるにはうってつけの場所だ。
前も言った通り、お目当ては獣人さんなのだが、見た感じ他種族は見当たらない。
聞いた話では、獣人はいわゆるケモ耳らしいので見れば一目で分かるはずだ。
しかし獣人と出会うことなく大通りを抜けてしまった。
そう簡単に見つからないのかと考えていた時、魔力探知で裏道のような場所で怪しい反応を拾った。
俺は誰も見ていないことを確認して、転移でその場所に移動した。
(ビンゴ!!)
そこにいたのは男女の子供2人。
2人の頭には想像通りのケモ耳があった。
こちらからは見えないが尻尾もあるのだろう。
そして2人を追う人影もあった。
「待てやゴラァ!!」
怒りの形相を浮かべた男が割れた瓶を振り回している。
こちらには耳も尻尾もないので、ただの人間らしい。
顔が赤いのは怒っているからもあるだろうが、酔っているのだろう。
俺も気配を消して追いかける。
するとほどなくして、逃げていた2人は行き止まりに逃げ道を阻まれてしまった。
すぐに酔った男が追いついて荒い息を整えながら口を開く。
「獣人のガキが調子に乗りやがって」
近づいていく酔った男の前に、男の子の方が恐怖で座り込んでしまった女の子を庇うように前に出る。
とうとう2人の目の前まで迫った男は嫌な笑みを浮かべた。
「まずはお前からだぁ!!」
男は瓶を握る手に力を入れると思いっきり振り下ろした。
「はい、そこまで」
俺は男の腕を掴んで間に割って入る。
事情は知らないが、子供に手をあげるのは良くない。
「誰だお前!」
「瓶を捨てろ」
俺は男の言葉を無視して命令する。
しかし、男は従わずもう一方の腕で殴りかかってきた。
俺はそれを避けて腹に膝蹴りを叩き込む。
男は腹を押さえて崩れ落ちる。
冷静に話が出来なさそうだったので無力化した。
「じゃあ何があったか教えてくれる?」
俺は振り返って2人に事情を尋ねた。
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