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5章 冒険者らしい活動もしようよ!!

92.圧倒的

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馬車を進めること半日。
日は沈み、予定通り野営地に到着した。
ここは魔物がいない安全地帯なので、俺たちも警戒しなくて大丈夫だ。

森を通り抜ける間に、幾度か襲撃があったが、主にルルが頑張ってくれたおかげで、被害はない。
なんでも、商人が積荷が無事だったら追加報酬を出してくれるらしく、ルルは更に張り切っていた。


野営地では火を焚いてその周りにテントを設置した。
いつもなら自分たちで食事を用意するのだが、今日は俺たちの分も商人の雇った料理人が作ってくれたので、楽ができた。


食後に俺はルルを誘って近くの小川に来た。
他の人がいない事を確認してルルと自分にリフレッシュの魔法をかける。
リフレッシュは聖属性の魔法なので、空間魔法を使えると公言している手前、みんなの前で使うことは出来ない。

ここに来たついでに、靴を脱いで小川に足を沈める。
透明度が高く川底がくっきり見える。


「冷たくて気持ちいいですぅ」


「リラックスするよね。ところで、あの2人けっこう強かったね」


「はい、凄かったです!」


俺は昼間の戦闘を思い出して呟く。
相変わらず、ルルの猫パンチは魔物を次々と吹き飛ばしていたが、それに負けず劣らずディアやノーランも魔物を倒していた。
ディアは射った矢を付与した風の魔法で曲げると言う技術を使っていた。
あれは魔力操作の能力が高くないと出来ないので、相当な腕前だと思う。

ノーランはノーランで魔物を何体も串刺しにする槍使いには驚愕した。
それでも突きの精度を保っていたからいつもの事なのだろう。



しばらくそこで、水の音に耳を傾けながら体の力を抜いていると、心地よい眠気が襲ってきた。


「そろそろ戻って寝ようか。明日も早いし」


「はい!おやすみなさい!」


ルルと俺は違うテントで寝るので、そこでルルと別れた。


俺はテントの中で横になり明日のことを考える。
今日一日で2人の実力は大体分かった。
これなら俺は索敵役に徹しても大丈夫そうだ。
明日も目立たない事を心がけよう。

俺はそう心に決めて目を閉じた。



だが翌朝、俺は目の前の状況に目眩を覚えた。



馬車は今、全速力で道を進んでいる。
いや、正確には逃げている。

後方には大量の虫型の魔物が飛んで追い掛けてきている。
その魔物はレッドビーと言い、大きな赤い目が特徴的な蜂の魔物だ。
体長は20センチほどもあり、見た目通り凶暴な性格で、巣の近くを通った生物を殺すまで追ってくる。
蜂なのでもちろん毒針を持っている。
その毒は死ぬほどではないが、腫れが一週間くらい続くらしい。
また、体のサイズに比例して針のサイズは人差し指くらいある。
あれに刺されれば毒がなくとも相当痛いだろう。

それでも普通は、群れになっても数十匹なのだ。
それはこのサイズの蜂が巣に何百匹もいれば邪魔でしょうがないからだ。

しかし、後ろを振り返れば百では済まない数がいる。
もはや、背景の空は見えないほどだ。


この状況は不運の重なった結果なのだ。
偶然、巣に帰る途中のレッドビーと鉢合わせして、討伐したのだが、死ぬ直前でレッドビーが歯をガチガチと鳴らして仲間を呼んだのだ。
俺も巣が近くにある事を知っていれば、その行動をさせる前に仕留めていただろうが、ギリギリ半径200メートルに入っていなかったため、巣の存在に気づけなかった。
更に、この近くに巣はいくつかあったのだ。そのため、そのレッドビーの数がとんでもない量になったと言うわけだ。

そして問題は俺以外が範囲攻撃を使えない点だ。
唯一、ノーランが火魔法を使えるが、この数をどうにかできるものではない。


「はあ、しょうがないか」


俺は実力を隠してもいられない状況にため息をついた。

ちっとばかし本気を出しますか。


俺は目の前の窓を開けて、全速力で走る馬車から飛び降りた。


「おい!!!」


中にいた商人たちが驚愕の表情で俺の行動を見ていた。

俺は滑るように地面に着地して体勢を整える。

後ろからやって来たルルやノーランたちが乗る馬車も俺の横を通り過ぎる。
そして俺の姿を見てディアとノーランは青ざめる。


「「ラウト!!」」


「やっちゃってください!!」


ルルだけは安心し切った顔をしていた。

この数を処理するのは俺でも面倒臭いんだぞ。
俺は内心で毒づきながら迫るレッドビーを見据えた。

数の多さを改めて見て呟く。


「この魔法しかないか」


そして俺は空に向かって手を掲げる。
すると空が赤く染まる。

その異変に誰もが空を見上げた。
そこには異変の原因であるもの、すなわち真っ赤に燃える隕石があった。
この魔法の名はメテオ。名の通り隕石を降らせる魔法である。
と言っても、実際にどっかを飛んでる隕石を連れてくるのではなく、魔力で擬似的な隕石の衝突を再現しているだけだ。
しかし、その破壊力は本物と変わらない。

直径10メートルほどの巨大な隕石が、熱と爆音を放ちながら落ちてくる。


「何だよ、あれ」


ノーランが溢したその言葉はその光景を見る全ての者の心の声を代弁したものだった。
ルルでさえ言葉を失っていた。


そして隕石はレッドビーの群れの真ん中に落下した。
その衝撃波で、周辺にあったあらゆるものが吹き飛ばされる。
そして次に炎と熱風が辺りを飲み込んでいく。

俺は自分の周りと馬車に結界を張って、その被害を免れる。


しばらくして炎が収まり、舞い上がった土などが晴れると、そこにはレッドビーのかげも形もなかった。
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