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4章 商人ピエールの訪れ

81.では、道中お気をつけて

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ヒアはどこか知らない部屋で目を覚ました。
何故かベッドに寝かされていた。


この状況を考える前に周りの気配を探る。
危険はなさそうである。
この建物には6人の気配を感じる。
その内一人がこの部屋に近づいて来る。


ーートントン


部屋の扉がノックされる。
ヒアは身構えながら待つ。


「ラウトだけど入るよ」


そこで私はようやく状況の整理がつく。
ピエールがゴブリンに襲われて死ぬと分かった瞬間に気が抜けて、そこから記憶がない。

多分ラウトが運んでくれたのだ。

となると、ここはラウトの家ということだ。


「どうぞ」


扉の前で返答を待っているラウトにそう返して身構えるのをやめた。

すぐにラウトはいくつかの食器を乗せたお盆を持って入ってきた。
その皿からは湯気が立っていて、美味しそうな匂いが漂ってきた。


「寝起きだと思うけど、食べれる?」


「ありがとう」


何で寝起きだと知っているのかと思ったけど、そう言えばラウトは魔力探知が使えるのだ。
その位は簡単に分かるのだろう。

でも、魔力探知が出来るのは受け入れがたい事実だ。
なにせ、国のお抱え魔法使いが何人も魔力を空っぽにして魔導具に充填して、やっと発動できるのだ。そして数日で効果はなくなる。
魔力探知を常時維持してる所は王城くらいなのに、それを個人でしかも魔導具なしで出来るのだから、化け物としか言いようがない。

まあ、転移魔法はもっと凄いんだけどね。
私にはどれくらい凄いことなのかすら想像がつかない。

そんなラウトが何者なのかが気にならない訳ではないが、それよりも感謝が勝っていたのだ。

命を救われただけじゃなく、真の目的を思い出させてくれて、それの手助け、いや、ほとんどやってくれてしまったのだ。

ヒアはラウトからお盆を受け取って、料理を口に運ぶ。
とても美味しい。

恩は増えるばかりだ。


そこに3人の人物が近づいて来るのが気配で分かる。
一旦、食事を止めてラウトに視線を送る。

ラウトはその視線の意味を理解して小声で言う。


「3人は俺の仲間、ヒアが暗殺者って事は教えてないよ」


最低限の情報だけど、これからヒアがすべき行動を決めるのに十分なものだった。
ラウトはこういう頭の回転も恐ろしく速いらしい。

直後、扉を開けてラウトの仲間の3人が入ってくる。


「はじめましてヒアさん。私たちはハル・・・ラウトの冒険者仲間で私は穂花、こっちは暎斗で、この子がルル」


穂花が代表する形で挨拶をする。
若干、ヒアに対して敵意のようなものを感じるが、ヒアは気にせず返す。


「ヒアです。お邪魔させて貰って、食事まで頂いて本当にありがとうございます」


「ラウトから聞いたぜ、魔物に襲われて死にそうな所を助けられたらしいな、良かったな助かって」


暎斗が口を挟む。
そのおかげで3人の認識がだいたい分かった。


「本当に助かりました」


「でも、何で森にいたんだ?」


「偶々、旅の途中で通り掛かった所を魔物に襲われてしまったんです」


当たり障りのないように答える。
暎斗達も疑う様子もなく「災難だったな」と返す。


「では、道中お気をつけて」


すると、穂花がいきなりそう言い出す。
まさか、もう追い出されるとは。
文句が言える立場ではないけど、もう少しいさせてくれると思っていた。

見るとラウトもびっくりしている。
どうやら穂花の独断らしい。


「穂花、もう少しゆっくりさせてあげようよ。食事を食べていって欲しいし、俺はまだ話したい事があるんだ」


ラウトは慌てて口を挟む。
それを聞いて穂花は頬を膨らませる。

ヒアはそれで理解した。
穂花はラウトの事が好きで私を近づけたくないのだ。
最初に敵意を感じたのもそう言うことかと合点がいく。
ヒアに対する行動は嫉妬から来るものだったと分かると急に微笑ましく思えてくる。


「むぅ・・・ごゆっくり」


穂花は渋々という感じでそう言う。
そして3人は部屋から出て行った。


「穂花がごめんね」


「大丈夫、それより話って?」


「ああ、それは食事を食べ終わってからで良いよ」


「分かった」


ヒアは食事を再開する。

それにしてもこの料理が本当に美味しく感じる。
精神的に余裕が出来たからだろうか、いつもより食事を楽しむことができた。



食事を終えてラウトに食器を返すと、ラウトはそのお盆を消した。
ヒアが驚いた表情を作るとラウトが解説を入れる。


「アイテムボックスだよ」


「本当に何でも出来るのね」


「それでね、話ってのはヒアの今後のことだよ」


呆れた様子のヒアにラウトは本題に入った。
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