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4章 商人ピエールの訪れ

61.やらかすのは遺伝だったらしい

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「手続きをしてくれるかしら」


私は静まり返ったギルドの空気を破ってそう切り出す。


「は、はい。では、この用紙に必要事項を書いてください」


受付の女性は慌てて紙を取り出して差し出す。
それをみれば、名前や戦闘経験などを書く欄がある。


(そう言えば、自動翻訳機能って書いた字にも適用されるのかしら)


私は少し不安だったが、ここで説明書を出すと余計に注目されるので、それはできない。
仕方なく、紙に日本語で記入する。


「これで良いかしら」


「ありがとうございます」


受付の女性も何も言ってこないので、どうやら問題なく字も翻訳してくれるらしい。


「こちらがギルドカードになります。注意事項などの説明は必要ですか?」


「いらないわ。ありがとう」


私はそう言って受付を離れた。
正直いえば、説明して欲しかったが、周りの冒険者達から注目されているので、早くギルドを出ることを選んだ。
説明については説明書に任せれば良いとかんがえたのだ。



私は近くの公園で説明書を開く。


「どこか人目につかない場所で魔法の練習をしたいわ。さっきも少し違和感があったの」


《それなら街の西に人があまり行かない森がある。ギルドカードを見せれば街の出入りは簡単だ》


「そうなのね。なら、そこに行ってみるわ」




森に来た私は早速、説明書を開く。


「この世界の魔法について教えてくれる?」


《昨日も言ったようにこの世界の魔法は魔力を使う。まずは魔力を認識することから始めると良い》


「魔力ってこれの事かしら」


私は以前から感じていた身体の中にある『何か』に意識を集中させて、どうにか制御しようと試みる。


《そうだ。それが自由自在に操れるようになったら、魔法のイメージと共に魔力を放出する。それがこの世界の魔法だ》


「そうなのね。向こうの魔法と随分と違うのね。向こうではイメージだけすれば良かったのに」


《向こうでは魔力の操作を神が補ってくれていたんだ》


「ふーん。ねぇ、会話してて思ったんだけど、やっぱりあなたって人の心があるでしょ」


《まあ似たようなものだとだけ言っておく》


「ほんと、何も教えてくれないのね。まるで弟の春輝と会話してるみたい。あの子も隠し事が上手で、ちょっと悔しかったのよね」


私が懐かしむように言うが、説明書からの返答はなかった。



その日は、日が暮れるまで魔法の練習をして、何とか火と水関係の魔法と聖属性の『リフレッシュ』は思い通りにできるようになった。
説明書曰く、この世界に複数の属性を使える人はほとんどいないらしいから、人前では火属性をメインに使っていこうと思う。

日が暗くなる前に私は街へと戻る。
ギルドカードのおかげで審査なしで街を出入りできるのはとても助かった。

ちなみに、宿への帰り際に冒険者達が話しているのを聞いたのだが、私が吹っ飛ばした冒険者はBランクだったらしい。
それから予測すると、私はこの世界で強い部類に入るのだろう。
となると、問題は生き残れるかと言うよりはこの世界にうまく馴染めるかという事になりそうだ。
モスティーの助言と同じ結論にたどり着いた事になる。
少しは信用できると認識しても良いかもしれない。

まぁ、もしここにラウト達がいれば、いや、もっと言うなら説明書を開いていれば、全力でやめた方がいいと言っただろうが・・・。

そんな感じに一日が終わり、私はベッドに潜り込む。
明日はクエストを受けてみようと思う。


(新人冒険者らしく、今日のように下手に目立たないように気をつけないと)


そんな風に考えていると眠気がやってきて、私は睡魔に逆らう事なく目を閉じた。



翌日、冒険者ギルドではとてつもない数の魔物を倒した新人冒険者が現れたと凄い話題になるという事件があった。
だが、その冒険者は報酬を受け取るとどこか違う街へと行ってしまったらしい。
その冒険者は受付でこう呟いたらしい『やらかした』と。
しばらくの間、街ではその事件について色んな憶測が飛び交い、街を賑わせた。


その冒険者の名はミレイと言ったらしい。
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