上 下
42 / 117
3章 ルルの故郷と恋〜主人公無双が止まらない〜

41.あっごめん、倒しちゃった

しおりを挟む
俺の魔法で生み出された大量の泥水が、圧倒的な力で魔物をなぎ倒し、動けなくしていった。

それを高い所から見届けるのは気持ちが良い。
悪を裁く王とはこんな気分なのだろうか。


数分後、俺が生み出した水は魔力を失って消えた。
それでも、効果は十分以上に出た。

水によって抉られた地面の凹凸や、木の葉の高さまで飛んでいる泥の塊が魔法の威力を物語っている。

魔物はというと、大半が水の重圧に耐えられず、命を落とすか気を失っている。
そうでない魔物も動きが相当鈍っている。

ただ、例外もいる。

それは空を飛べる魔物と、水に慣れた魔物だ。
後者はほとんどいなかったが、前者はそれなりの数がいて、ダメージはほぼ皆無と言っても過言ではない。

その中にはボス級の魔物であるワイバーンも含まれている。


「まあ、順当な結果だね」


「そうですね。バット系の魔物がいっぱい生き残りました」


俺の呟きに、ルルはおでこに手を当てて、見渡しながらそう答えた。

バット系、つまりコウモリのような空を飛ぶ魔物は小回りが効くため、今回のような範囲魔法で倒しにくい。
それに多少だが、魔法への耐性もあるので、一体一体倒すのは、骨が折れる。

しかし弱点もあり、風の魔法にめっぽう弱い。
羽が小さいため、推進力に乏しいバット系の魔物は、風魔法の風圧で簡単に吹き飛ばせる。

なので、そこまで厄介というわけではない。

それよりは、なんと言ってもワイバーンだ。
ドラゴン種の中では下級に位置するが、それでもたった一体で、村を全壊させる事も場合によってはある。

ワイバーンは巨体に似合わぬ機動力を持ち、なおかつ推進力にも優れている。
そして一番の脅威は魔法を使う事だ。

上位の魔物は魔法を使える種がいくつかいる。
ダンジョンの下層では、複数の属性を扱えるモンスターもいた。
魔力の扱いで言えば、人間より魔物の方が得意であるため、知性がなくても本能で魔法を使うことが出来る。


ちなみに、魔物の発達した巨体や身体能力は一種の突然変異であり、祖先を辿れば皆、動物や昆虫などの普通の生き物なのだ。
それが何らかの原因で魔力を過剰に吸収し、変体したのが魔物と呼ばれる存在だ。

ダンジョンのモンスターも似たようなもので、あれは地上の魔物を模してダンジョンが魔力によって独自に生み出した怪物だ。
なので、本質的には魔物に近い。


閑話休題。


ワイバーンが使うのはブレス。
これはドラゴン種固有の魔法で、属性は様々だが、総じて攻撃力が高い。
ワイバーンは風のブレスを使い、刃のような風のブレスで射線の物体を切り裂く。

この攻撃は直接的なダメージもそうだが、地形を変えるほどの威力なので、地上から戦うのはさらに不利になる。
早めにケリをつけるのが望ましい。


「ワイバーンがいるから、先にそっちを処理しちゃおう。小物は後回しだ」


俺は探知魔法で詳しい状況を確認して、ルルに指示を出した。


「俺がワイバーンを引きずり下ろすから、ルルは落ちたワイバーンにトドメをさすのを頼むよ」


「了解です!」


ーーグギャー!!!


ルルが返事をすると同時にワイバーンの怒り狂った鳴き声が聞こえた。

起こった事への怒りが困惑を超越したらしい。


俺とルルはそれを聞いて頷き合うと、土壁から飛び降りて鳴き声のした方向へと走り出した。


「見えました」


ワイバーンはこちらに向かって来ていたらしく、すぐに姿が見えた。
俺たちの気配を感じ取ったようだ。


俺はそれを見て瞬時に加速した。

それまでルルの隣を並走していたにも関わらず、次の瞬間にはワイバーンの頭上まで移動していた。
転移したわけではない。
単なる加速とジャンプで移動したのだ。

たった一瞬の内にルルとの距離は100メートル近く離れていた。


「ラウトさん、速すぎです」


ルルはそう零したがその声は俺には届かなかった。


ーーズドーン!!


ルルの視線の先でこちらに向かって飛んでいたワイバーンの巨体が、突然に急降下を始めた。


「落としたよー」


いつの間にかルルの頭上に戻って来ていたラウトはルルに声をかけた。


俺とルルは落ちたワイバーンのそばに並んだ。
そして揃って首を傾げた。


「死んでない?」


「死んでますね」


そう、ワイバーンはすでに事切れていた。


(おかしいなぁ、後頭部に手刀を入れただけなんだけど・・・)


俺はそう思って不思議がった。


ラウトがその理由を知るのはもっと後になるのだが、ネタバラシすると地上の魔物はダンジョンのモンスターに比べて脆弱なのだ。


それを知らない俺は少しの間、困惑を隠せなかった。


「よく分からないけど、ワイバーンは仕留めたから残りの雑魚を片付けちゃおう」


「そうですね」


俺は一旦、理由を突き止めるのを諦め、雑魚の処理に意識を切り替えた。

しかし、この時に完全には消えなかった心のモヤモヤがこの後、重大な問題を抱える原因になる。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

姫騎士様と二人旅、何も起きないはずもなく……

踊りまんぼう
ファンタジー
主人公であるセイは異世界転生者であるが、地味な生活を送っていた。 そんな中、昔パーティを組んだことのある仲間に誘われてとある依頼に参加したのだが……。 *表題の二人旅は第09話からです (カクヨム、小説家になろうでも公開中です)

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...