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二章 やっと始まるラウトの旅

34.言葉が分からないんだもの・・・

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                 ====side美玲====

森を抜け、近くの街まで来た私は困った事に気づいた。

街に着くと、ゲートのような場所で審査みたいなことをしている。

今は夜だ。
こんな時間に女の子が本だけ持って出歩いているのは、何処からどう考えてもおかしい。
怪しまれて、捕まるのがオチだろう。

それに何より致命的なのは、言葉が分からない。

ここは異世界だから、日本語が通じるはずもない。
どうしようか迷ったが、どうする事もできないので、とりあえず私は審査の列に並んぶ事にした。

しばらく並ぶと、私の番になった。


『次の方どうぞ』


当たり前だが、何を言っているか分からない。
こういう時に便利なのは、ジャパニーズスマイルと、とりあえず頷く事だ。

多分、相手はこちらの事情を推測してあれこれ聞いて来るはずだ。
それならば、何を聞かれてもとりあえず笑顔で頷いておけば、最悪の事態は避けられる、そう考えたのだ。


『その格好はなんだ?誰かとはぐれたのか?』


「はい」


私はニッコリ笑って頷く。
言葉の意味は分からずとも、語尾が上がってることから、何かを聞いてきているのだろうと予測できた。
「はい」か「いいえ」で答えられる質問かは判断がつかないが、こうするしかない。


『よく顔を見せろ』


「はい」


私はまた頷く。

審査の人が顔を覗き込んできた。
私は怪しまれていると思い内心焦ったが、笑顔は崩さない。


『お前!!長い黒髪に黒い瞳じゃないか!!もしかして、お前がモスティー王子が探している女か!?』


「はい」


もちろん、私は頷く。
審査の人からは驚きの表情が見て取れるが、それ以上のことは分からない。
途中で「モスティー」とかいう人名らしきものが聞こえたが、確かではない。
街の名前かもしれない。

そんな空回りする私の思考などお構いなしに会話は進んでいく。


『そうか!!よく来てくれた、今から王城へ案内するからついて来い』


「は、はい」


審査の人は突然立ち上がり、私の腕を掴み引っ張ったので、私は困惑しながら返事をした。


(どうなったのかしら?逮捕って雰囲気じゃないけど、何処に連れて行かれるのか不安だわ・・・)


しかし、そんな私の心配をよそに、審査の人はズンズンと何処かへと進んでいくのだった。



私が手を引かれ連れて来られた場所は大きなお城だった。


何故、お城に連れて来られたのか、今から何が行われるのか、何もかもが分からない状況に私は戸惑いと恐怖を隠せなかった。


『何をしている。早く行くぞ!!』


私があたふたしていると、審査の人はまた私の手を引いてお城へと入っていった。





『ここで少し待っていろ』


手を引かれて案内されたのは、中世ヨーロッパの貴族が使いそうな、あちこちに装飾品が施された部屋だった。

審査の人は私をその部屋に入れると、何処かへ行ってしまった。

私は部屋に一人残された。

そのタイミングで今まで静かだった説明書が警告音を鳴らした。

私が一人になるのを見計らったかのようなタイミングだった。
まるで、意思がこもっているようである。


私は説明書を開いた。


《何してる、馬鹿》


そんな文章が浮かび上がってきた。


「しょうがないじゃない、言葉が分からないんだもの」


私は言い訳じみた言葉を口にする。
説明書はそれを言い終えると新たな文章を表示した。


《この世界には魔法がある。『自動翻訳』と唱えれば、言葉も通じる》


それを見た私は驚きと同時に怒りを感じた。


「そんな便利なものがあるなら先に言いなさいよ」


つい、怒鳴ってしまった。


《・・・言う前に行動してただろ》


現れた文章を見て、私は自分の行動を振り返った。

確かに、説明書を開くタイミングはあった。
それをしなかった私が悪い。
説明書のいうことはもっともであった。


「そうだったわね。ごめんなさい」


私は自分の非を認め、素直に謝った。


《それは良い。それより、状況を説明する。
ここは王城。そして、これから王子様と会う事になってる》


説明書は私の謝罪を軽く流し、状況を簡潔に説明してくれた。
しかし、何故そうなったのか知りたい。


「どうしてそんな状況に?」


私が問うと、説明書はさっきの会話を日本語に直して文章にしてくれた。


「見てもよく分からないけど、偶然私は王子様が探している人に似ていたってことかしら?」


私は推測を口にした。


《多分、そう》


説明書も曖昧に同意する。


「あら、説明書にも分からないことがあるのね」


私は意外に思い、そう言った。


《説明書も全知じゃない》


そんな返事が返ってきた。
私はこれまでの説明書とのやり取りにどこか、人間らしさと懐かしさを感じ、親しみが湧いた。


「それでも心強いわよ。これからもよろしくお願いするわ。それで、『自動翻訳』だったかしら」


私は呪文を口にした。
すると、さっきの会話を思い出し、それが日本語で理解できた。


《その魔法を使えば、日本語で答えても相手には異世界語で伝わる》


説明書が解説をくれた。


「なるほど、便利ね。ありがとう」


私は説明書にお礼を言った。



その時、部屋の外から複数の足音が近づいてきた。
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