上 下
33 / 117
二章 やっと始まるラウトの旅

32.格の違い

しおりを挟む
コインが地面に落ちた瞬間、スーが空間属性の魔法である『認識阻害』の魔法を使った。

その魔法はスーの姿を消した。

だが、姿を消した程度では俺には通用しない。
目を誤魔化しても、気配を探ればそこにいる事は分かる。
もっと言えば、この魔法を俺は無効化することも可能だ。

俺の視線がずっとスーのことを捉えていると分かると、スーは次に気配を消した。
なるほど、場慣れしているのが窺える。

しかし、それでも俺には通じない。
俺は探知魔法を常時展開している。
これは自分の魔力を薄く広げ、その魔力の広がりの歪みやズレなどで、対象の位置やそれが何であるかを探れる。

そして、このズレはその対象が持つ魔力によって生まれる。
つまり、探知魔法から逃れるには魔力を持たないか、魔力を完全にコントロールして、魔力の広がりのズレを、無理やり元に戻すしかない。
それをするのは常人には不可能に近い。

だから、スーは俺の索敵から逃れる術はない。

ちなみにだが、探知魔法も大量の魔力を使うため、実用的なレベルにするには、平均的な魔力量の冒険者が数十人分くらいないと厳しい。
それでも、探れるのは半径50メートルくらいだ。
という理由もあり、使える人間は数少ない。


「通じない・・・」


姿を隠す系統の魔法は通じないと判断したのか、姿を現した。
いい判断だ。
姿を隠すにも魔力を使うから、通じないならすぐに止めるべきなのだ。


「なら、力でねじ伏せる!!」


スーは宣言するように叫び、接近して来た。

そのスピードは全力の暎斗と同レベルか、それ以上だろう。
流石、裏の仕事をやってきただけはある。

だが、それも俺の前では無意味だ。


スーは片手に短剣を持っている。
その手が間合いに入ると同時に振り上げられる。

普通ならそれを防御するか、回避するだろう。
しかし、俺には視えていた。
後ろに回していたもう片方の手に、ナイフが握られているのを。

ダンジョンにもこういった手段で不意を突く攻撃をするモンスターがいた。

初見は本当に危なかった。
致命傷を負うギリギリのところで、転移して逃れた。

そんな経験があるので、俺は相手が攻撃する時は必ず、相手の身体の動きを事細かく観察している。

これは単なる視覚のみならず、探知魔法の応用系である、空間把握魔法で行なっている。

この魔法は探知魔法が平面の探知であるのに対し、空間把握は立体の探知だ。
なので、使う魔力も必要な魔力操作の技術も桁違いに難しい。
難易度で言うなら、両手でピアノを弾きながら、足でギターを弾くくらい難しい。
まあ、そんな事やったことないのだが・・・

とまあ、これらのおかげで、俺には一切の奇襲攻撃は通用しない。


ーーガキンっ!!


初撃の短剣を最小限の動作で避け、ナイフを持っていた剣で受け止めた。


「なっ!?」


初見で最適解の動きを見せた俺にスーは驚愕の声を上げた。
お互いに防御魔法を掛けているので、攻撃に躊躇いはない。
だから、受け止められるとは思っていなかったのだろう。


「甘いね」


俺はそう言って、スーの腕を押し返した。
スーは一度、距離を取る。


「今度はこっちから行くよ!」


俺はそう宣言して、お返しとばかりに空間魔法を使う。
俺が使用したのは、空間操作系の魔法の『平衡感覚麻痺』だ。
これは一時的に三半規管による平衡感覚を錯覚させ、バランス感覚を失わせる事が出来る。


「クッ!!」


スーはバランスを崩し、膝をつく。
しかし、それを見て俺は驚く。
俺はてっきり、倒れると思っていた。

この魔法はどんなにバランス感覚に優れた人でも、抗う事が出来ない。
唯一、空間魔法に耐性や適性がある者には、多少の抵抗が可能だ。

それでも俺はかなりの威力で使ったので、ある程度、抵抗できたという事は空間魔法に、相当な適性があるということだ。

しかし、膝をついた時点で勝負ありだ。

俺はゆっくりとスーに近づく。
距離を詰めると、スーはナイフを握る手に力を入れた。
その目には、まだ諦めの意思は窺えない。

俺が間合いに足を踏み入れた瞬間、スーは一気に立ち上がり俺に向けてナイフを突き出した。

しかし、そのナイフは俺に触れる事なく通り抜けた。


「えっ!?」


スーは再び驚愕の声を上げた。

それはそうだろう。
スーの視覚の中では、その攻撃は俺を捉えたのだから。
しかし、それは幻影だ。

俺は平衡感覚麻痺の魔法と同時に幻影魔法で姿を錯覚させ、認識阻害魔法と気配を消すことで、幻影を俺だと思わせたのだ。

この時、常時展開している探知魔法を含めると、実に4つの魔法を同時に行使していたことになる。
しかも、認識阻害魔法と幻影魔法は光属性で、探知魔法は魔力操作によるものなので、言うなれば無属性の魔法だ。
そうなると、3つの属性を使っていたということだ。

無属性魔法というのは、俺が独自に使っている分類だが、便利なので以後はこの呼び方にする。


そんな、異次元の魔法に対応できる筈もなく、スーはまんまと踊らされたというわけだ。


俺は静かに背後から忍び寄り、認識阻害の魔法を解いて、スーの首筋に剣を添えた。
そして、スーはそれに気づき、「降参」と負けを認めた。


「お疲れ様」


俺は労いの言葉を送る。
魔法の効果に持続性はないが、違和感や疲労は残るのだ。


「完敗した。悔しい。それに、最後のあれはどういうこと?」


スーは疲れより、魔法の仕組みが気になるらしく、そう聞いてきた。
それに俺は丁寧に解説してあげる。
すると、点と点が繋がったとばかりに頷いた。
しかし、やはりまだ疑問は残った。

それは、


「そんな事が出来るの?」


という事だ。

そう、俺がこの模擬戦で感じて欲しかったのは、そこだ。

この力はこの世界ではあり得ないのだ。
それを分かって欲しかった。
そして、そこから言いたかったのは


「普通じゃ無理だね。でも、俺は出来る。それは俺が異世界からきた転生者だからだよ」


ということである。

しかし、それだけで理解できる訳もなく、スーはキョトンとした表情になった。

なので、俺はその言葉の意味、つまり俺が地球にいた事も含め、異世界に来た経緯を順を追って説明した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

処理中です...