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二章 やっと始まるラウトの旅

25.何してんだ?

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「ぎゃーー!!誰か助けてーー!!」


そんな声が洞窟の奥から聞こえて、俺たちは途轍もなく嫌な予感を抱きながら、声のした方へと向かった。

敵がいない事を確認しながら、狭い通路を駆け抜ける。

そう時間がかからない内に、また広場に出た。

そこには、先ほどの広場のようにゴブリンが何体も集まっていた。
辺りを見回すと、広場の隅に一部屋ほどの大きさの窪みがあり、そこから声が聞こえていた。


「全員で一気に片付けるぞ!!」


「「「了解」」」


暎斗の掛け声に頷き、それと同時に全員が駆け出した。

ルルは目の前のゴブリンを殴り飛ばし、暎斗はゴブリンが密集した場所に入り込み、次々と切り捨てた。
穂花は火の遠距離魔法で逃げ惑うゴブリンを狙撃した。
俺はその様子を眺めていた。

そしてまもなく、俺たちは分担してゴブリンを全滅させた。


「いやー、全員でやると片付くのも早いねー」


「お前は何もしてないだろ!!」


さも、「自分も貢献しました」みたいな調子で言った俺に暎斗がツッコミを入れた。

まあ、こればかりはしょうがない。
俺がやろうとすると、みんなが認識すらできない内に全滅させられる。
そんな事をしても、みんなのためにならないだろう。
単に俺が、3人が戦う所を見たかったと言うのもあるのだが。


「それより、あれ」


俺が心の中で自分に言い訳をしてると、暎斗が話を変えて、ゆびを指した。

その先には例の窪みがある。

そこからはずっと助けを求める声が響いている。


(まあ、行かないとダメだよなぁ。助けを求めてるもんなぁ。見たくないけど、行くか・・・)


俺は気が進まないのを、抑えつつ窪みに向かった。


4人が近づくと、そこから聞こえる声もよく聞こえた。


「それだけはやめてー!!助けてー!!」


そして俺たちはその声の主がいるであろう窪みに、目を向けた。

そこでは数体のゴブリンが1人の人間に群がっていた。

そして、その餌食となっていたのは、




筋骨隆々という言葉を、体現したかのような体格で半裸の男だった。




嫌な予感がしていたのだ。
どう考えても、声音が女のものでなかった。
それに、悲鳴に危機感が感じられず、おかしいと思っていた。

その予感は見事に的中してしまったようだ。


ゴブリンはその男にナイフのようなものを突き立てているが、男は身体強化を使っているらしく、その肉体に傷をつける事すら出来ていなかった。


しかし男は、その状況には似合わない悲鳴を男は上げていた。


「助けてー!!」


その様子を見た穂花とルルは、呆れたというか蔑んだというか、とにかく冷たい視線を送った後に、その男に背を向けて洞窟の奥に進んでいった。


「それの対応は女の子には無理そうだからお願いね。嫌なら無視しても問題なさそうだし」


「私も関わりたくないです」


穂花とルルは早々に男の処理を俺と暎斗に任せ、さじを投げた。

その判断は正しいのだろう。

ただ任されたし、少しだけ興味があるので、俺は男に質問することにした。


「あの、何をしてるんですか?」


まずは事情を聞くべきだと思い、どういう状況なのか尋ねてみた。


「見て分からないかね?ゴブリンに襲われているのだよ。助けてくれないか?」


男は澄まし顔で答えるので、全く危機感がない。
その顔は非常に腹立たしい。
それを見て置いて行こうか迷ったが、我慢して返答した。


「でも、攻撃効いてないし、別に捕まってるわけでもないじやないですか」


そうなのだ、男は何かに縛られているわけではもなく、自分の意思でそこに立っている。
つまり、逃げたければ自分で逃げれる状態なのだ。
本当に何がしたいのか分からない。


「私が危機的かどうかは、今は関係ない。それより私は助けて欲しいのだ」


言っていることも意味不明である。
暎斗も「何言ってんだコイツ」みたいな目をしている。
いつもの暎斗も大概だが、この男は次元が違う。
普通の人間じゃなさそうだ。
確かに、ルルの言う通り関わりたくない。


「はぁ、では一応お名前だけお聞きしてもよろしいですか?」


会話も成立しないので助ける気がなくなった俺は、名前だけ聞いて無視することに決めた。
もし後でこいつが死んだ時に、墓の石に名前だけは彫ってやろうと考えたのだ。


「私の名かね?モッティーだ。覚えておくといい」


「わかりました。ではごゆっくりー」


俺と暎斗はモッティーと名乗った男に背を向けてその場をそそくさと離れたのだった。


「なんだろうな、あいつ」


奥に進んだ所で暎斗が口を開く。


「・・・個性的な人だったね」


「いや、狂人の域にあるだろ、あれは」


その言葉に否定の言葉が見つからず、俺は静かに頷くことしか出来なかった。


「とにかく、関わりたくないね」


そう呟いた俺の言葉に暎斗も大きく首肯した。



しかし、モッティーという人物がこの後の物語に少なからず影響を与えることを、この時の俺たちは知らなかった。
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