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二章 やっと始まるラウトの旅

18.主人公はこうじゃなきゃね

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「準備はいいね?始め!!」


俺の合図でルルと暎斗の模擬戦は始まった。


先に動いたのはルルだった。


「行きますよー!!」


そう言いながら、一瞬で暎斗に接近して、なんのフェイントもなく拳を振るった。


ーーギンっ!!


暎斗はそれを正面から剣で受け止めた。

一見、拳と剣がぶつかり合ったように見えるが、実際は魔力による爆発波の衝撃がぶつかり合っているので、手が傷ついたりはしない。


「やりますね」


一度、暎斗と距離を取ったルルは、受け止められたことを驚く様子もなく、油断なく暎斗を見据えた。

だが、表情はとても楽しそうで、先ほど相手にしたレッドラビットとは違う手ごたえに、興奮を隠し切れていない。

戦闘狂かと疑いたくなるが、そうではなく、自分の力を全力でぶつけても問題ない仲間に出会えたことが嬉しいのだろう。

昨日、同年代の友達と比べて強すぎて孤立していた、みたいなことを言っていたから、俺たちとパーティーを組むことはルルにとっても良いことだったみたいだ。

俺としては、ルルの無警戒さというか、無自覚さというか、バカさというか・・・そっちの方が気になるのだが、どちらにせよルルは1人じゃない方がいい、と言うことだ。

話を戦闘の方に戻そう。


俺が考え事をしている間に状況は変わっていた。

俺の視線の先では、ルルと暎斗がすごい速さで動き回り、2人のその動きが交わるたびに、火花を散らして拳と剣をぶつけ合っていた。

2人の表情に余裕はなく、どちらも実力が拮抗していると言うことだろう。


少しすると、のなかった攻撃がぶつかり合う音が止み。

2人は再び距離を取り開始の時と同じ立ち位置まで戻った。


「やるなぁ、次で決める!!」


「暎斗さんこそやりますね!私も次は全力で行きます!!」


2人はお互いの力を認め合い、最後は全力の一撃で決着をつけるつもりのようだ。

今まで見ていたが、両者とも一度も相手に攻撃を当てれていない。
全て防がれるか避けられていた。
やはり実力の差がないのだろう。


2人は最初と同じように構え、姿勢を低くした。


「「行くぞ(行きます)!!」」


両者は掛け声と共に、同時に地面を蹴った。


ーーズッズーー!!


決着は思わぬ形でついた。

2人は同時に動き出したのだが、2歩目でルルがつまずいた。
そして転んだ勢いで、暎斗の足元まで滑っていった。

一瞬、ポカンとした暎斗だったが、状況を理解すると、足元にうつ伏せで倒れているルルの首筋に剣を当てた。


「こ、降参ですぅ。痛いですぅ」


ルルは首筋に当てられた剣の感覚に少しビクッとした後、素直に降参した。

防御魔法は攻撃は防いでくれるが、転んで地面に当たっても効果を発揮はっきしないので、ルルは打った所をさすりながら涙目になっていた。

実力は拮抗きっこうしていたが、精神的に冒険者が長い暎斗に軍配ぐんばいが上がった、と言ったところか。

この模擬戦を通してルルも暎斗も、対人戦にも関わらず、1度もフェイントを使わなかった。
つまり、戦術なしの純粋な技術勝負だったと言うことだ。

おそらく、フェイントを使う戦い方を知らないルルに、暎斗が合わせた感じだろうが、その方が、この模擬戦の意義に沿っていたと思う。


「勝負あり!勝者、暎斗!!」


俺が終了の合図を出すと、暎斗が剣を腰に戻した。
そして、涙目のルルに手を差し伸べた。


「ありがとうございます」


ルルがその手を取りながらお礼を言った。


「いい勝負だったぞ!久しぶりに面白かった!!」


暎斗は満面の笑みで答えた。
模擬戦でお互いに表面的にだけでなく、内面的にもある程度の理解ができ、心の距離が縮まったようだ。

ようやく、ルルもパーティーの仲間らしくなった。
まあ、実際はパーティーが違うのだが、そこは言わないお約束。



そんなこんなで、第一試合ルルvs暎斗の模擬戦は、暎斗の勝利で終わった。


続いて、第二試合穂花vs俺の模擬戦になるのだが・・・


「『プロテクション』『プロテクション』『プロテクション』『プロテクション』『プロテクション』・・・」


まだ始まってもいないにも関わらず、穂花は自分に防御魔法を「これでもか」と言うくらい何重にもかけていた。


「これ、模擬戦だから怪我させるような事はしないよ?」


そんなに俺は信用できないのだろうか。

まあ、ついさっき前科を犯しているが、怪我させたわけではない。
もう少し、俺を理解して欲しいものだ。



ーーよし!模擬戦の中で教えてやろうじゃないか、怪我をするかも、と言う不安さえ烏滸おこがましい実力の差というものを!!



俺は穂花に防御魔法をかけた後、距離をとって開始の立ち位置へと向かった。
穂花の防御魔法では、万が一の危険があるので、一応の保険として俺も防御魔法をかけておいた。

そんな一騒動があったが、お互いに戦闘体勢に入った。

そこで、俺は穂花に問いかける。


「俺の本気が見たい?それとも手加減して欲しい?」


その質問に穂花は迷っているようだった。


「冒険者という立場から言えば、本気を見せて欲しいけど、1人の女の子から言わせて貰えば、甘々に手加減して欲しいよ」


「わかった。怪我ひとつさせない事は約束しよう。それから、攻撃を受ける前に負けを認めるような戦いを見せてあげる」


迷いながら答えた穂花の言葉を聞いて、俺は方針を決めた。


そして、その言葉を最後に静寂が訪れる。
みんなの緊張感が伝わって来る。

そして、暎斗の合図によって戦いの火蓋は切られた。


「両者、準備はいいな?始め!!」


俺は暎斗の声と同時に、魔力の一部を解放した。

魔力は普段、体の中を血のように循環している。
それを戦闘時や魔法使用時は放ったり、纏ったりして魔力を使う。

しかし、俺はその循環している魔力を一部、外に解放した。

魔力は目には見えないが、感じることができる。
そして、多過ぎる魔力は、威圧感となって人の精神を襲う。

俺は3年もの間、ダンジョンで生活していたが、あそこは空気中の魔力密度が地上とは比べてものにならないほど高い。
特に、下層は常人が入れば数分と経たずに精神が壊れてしまうほどの魔力濃度だった。
しかし、魔力量が元々かなり多かった俺は、そこでも精神をまともに保つことができ、さらにそこに長期間いたことにより、体に取り込める魔力量が急激に多くなり、加えて魔力を回復するスピードも尋常じゃないほど早くなった。
そこに、元々魔力の扱いに慣れていたという理由もあって、俺は魔力量、回復、扱い、どれをとっても、神に等しいほどの力を手にしているのである。


ちなみに、人は魔力を体内で作ることができないため、空気中から魔力を吸収することで使った魔力を回復し、保持して、使う時は魔力を空気中に放出している。
そして、人の魔力量や、吸収速度は環境や努力によって成長することもある。
中には魔力を体内で生成することのできる魔物もいるが、そのような魔物は無限に魔法を使えるが、魔力を体内で保持できないため、1度に使える魔力量に制限がある。


そんな魔力を俺は一部だが解放した。

俺の魔力量からしたら、数パーセント位の量でしかないが、その濃度はダンジョンの下層の濃度に近い。
その魔力は、目の前にいる穂花はもちろん、暎斗やルルのところまで届き、威圧となって彼女らを襲った。
これ以上の魔力を解放すると、訓練場の外にも被害が及びそうだったので、やめておいた。
しかし、数パーセントではあるが、それは穂花の魔力量を軽く上回る。


穂花たちは常人と比べると遥かに魔力が多いため、耐性もあるが、それでも膝がガクガク震えていた。
表情も青ざめている。

それでも、戦闘意志はまだあるらしく、構えた杖を降ろしていない。


「流石、Aランク冒険者、これだけでは降参しないんだね」


俺は素直に感心し、賛辞を送る。

ならば、と思い俺は今ここで出せる最大威力の魔法、その名も『インフェルノ』を展開した。


それは、まさに地獄を形にしたような黒い炎の塊だった。


「・・・」


その圧倒的な魔法を見上げた穂花は死期を悟ったような顔になった。


「降参してくれる?」


俺はこの魔法を撃つ気はない。
だから、降参してくれないと困る。
だが、穂花から返信はなかった。

とは言え、まだ穂花に戦う意志があるわけではない。
穂花は魔法を見上げたまま、放心状態におちいっていた。
少し離れた暎斗やルルたちも、状態は同じだった。

仕方ないか、と少し自嘲気味に笑い魔力の供給を止める。
すると、魔法もだんだんと縮んでいき、最後には消えてなくなった。


「勝負ありってことでいいよね?」


俺は、まだ先ほどまで炎の玉が浮いていた虚空こくうを見つめている穂花に声をかけた。


「・・・えっ?あ、うん・・・」


実感がともなっていないのか、穂花はふわふわした雰囲気で答えた。


そこで俺はふと思った。


(これ、やってることイタズラの時と変わんなくないか?)


怯えさせるだけ怯えさせて、実際はやらないと言うこのやり方は、イタズラの時と全く同じ手口だ。


これはやってしまった、と反省する。


だがしかし、本気を見せて欲しいと言われたのは事実だし、本気を誰かにぶつけるわけにもいかないし・・・

と、誰に言い訳しているのか分からないようなことを心の中で言いながら、本日2度目の謝罪をするのだった。

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