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二章 やっと始まるラウトの旅

19.報酬はいらないんだけど・・・

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訓練場での模擬戦を終えた俺たちは再びギルドのロビーに戻った。

窓から見える外の景色は暗く、既に日が落ちていた。

ロビーにいた大勢の冒険者も、大部分が手続きを終え、帰るか酒屋で酒を飲み交わしていた。


俺たちは受付に行き、クエスト達成の手続きをする。


「クエストの達成報告に来ました」


俺は受付にいた人に言う。
今日は、昨日対応してくれたイースさんではなく、三十路みそじ過ぎ位に見える男性の職員だった。


「了解。依頼書ある?」


フランクな口調でそう聞かれ、俺はアイテムボックスから依頼書を出した。
今は人前なので、鞄に手を突っ込み、鞄から出したように偽装している。


「ありがとよ。コカトリスのやつと突撃鳥のやつな。オッケー、確認して来る」


男はそう言って、受付の奥に歩いて言った。

少し待っていると、ダッダッダッという音を立てて、さっきの男が戻ってきた。


「おい、これ今日の朝に受注されてるぞ?」


「はい、そうですが?」


男の慌てた様子に俺は疑問を感じながら答える。


「いやいや、そうですが?じゃねぇよ!早過ぎるだろ!?」


「はぁ・・・」


俺は言われた意味が分からず、気のない返事をした。


(そうなのか?俺はこの世界の基準を知らないから分からないが、穂花たちが何も言わないから大丈夫だと思っていたんだが・・・)


俺は会話を後ろで聞いている穂花たちの方を振り返った。


おい穂花、なぜ目を合わせない。

暎斗、そっぽ向いて口笛を吹くな。
あと、なぜかエーデルワイスのメロディーなのもムカつくからやめろ。


「ラウトの異常さに驚き過ぎて忘れてたかも・・・ごめんね、テヘッ」


穂花が気まずそうに目線を合わせて、謝ってきた。

まあ、今回は俺のせいでもあるから責めることなんて出来ないけど、また誤魔化すことになりそうだ。


「突撃鳥を捕獲したんだろ?見せてくれるか?」


男は信じられないのか、実物を見せてくれと言ってきた。


「分かりました」


俺はまた鞄から出したように偽装しながらアイテムボックスから突撃鳥を出した。
もちろん、魔法で眠らせた状態だ。

出した瞬間に、隣にいてずっと俺と男の会話を聞いていたルルの目が獲物を見る肉食獣の目になった。
実はルルの故郷では、鳥は貴重な食料だったらしい。
そのため、鳥を見ると目の色が変わる。

まだ、狙ってたのか・・・


「ルル、ダメだよ」


「わ、分かってます」


俺は嗜めるが、言葉こそ理解した風ではあるものの、ルルの様子は変わらない。


「これがないとお金が貰えないよ?」


そこで俺は、お金を引き合いに出すことで、ルルの気をそらす。
ルルは実力はあるが、お金をあまり持っていないので、お金の話を出すと弱い。


「うっ、そうでした。我慢します!!」


そうすると、ルルは『気をつけ』の姿勢になり、元に戻った。


今度、突撃鳥を捕まえたらルルにあげよう。
突撃鳥も鑑定で調べたら、結構美味しい鳥らしいし、料理して渡してもいいな。


そんな事を考えながら、男の職員に手に持っていた突撃鳥を渡した。
ルルとのやり取りが面白かったのか、職員は少し笑いを堪えているような表情で受け取った。

思い返すと子供と母親の会話のようで、少し恥ずかしくなった。


「本物だね。これはどこで?」


俺が思い出し笑いならぬ、思い出し恥じらいをしていると、職員に声をかけられ正気に戻った。

これは誤魔化さなくちゃならん奴や。


「えっと、偶然木の枝に嵌って動けなくなっている所を見つけて、捕まえました。あれはラッキーでした」


俺はそう口にする。
なんか、最近やけに誤魔化すことが多くて、上手くなってきた。
全く自慢できる事ではないが、便利な能力である。
『誤魔化す』なんてスキルがつかない事を祈ろう。


「なるほど、それは運が良かったな。まあ、何にせよ、これでクエストは達成だ。2人とも初クエスト達成おめでとう!!」


男は俺の話を疑う事なく聞き入れ、クエスト達成を認めてくれた。


「「ありがとうございます!!」」


俺とルルは声を合わせてお礼を言い、頭を下げた。

その後、コカトリスの巣についてルルが調査結果を報告し、こちらもクエスト達成となった。

途中で得た素材なんかは、Cランクの魔物とか、出すと目立つ物もあるため、ランクが高い穂花たちに渡してギルドに買い取ってもらい、報酬だけ貰った。


ここで問題が発生した。
報酬の分け方である。

ルルは山分けを希望したのに対し、俺は報酬はいらないと主張した。

俺は冒険者の活動をお金目的でやっていない。
だから、お金目的でやっているルルに全て報酬を渡そうと思ったのだが、ルルに反対された。


「私だけじゃクエスト達成出来なかったと思います。だからラウトさんに報酬を受け取って貰わないと、良心が痛みます」


ならば、と思い俺は妥協案を出す。


「10パーセントでどうだ?俺は報酬の1割を貰う、残りはルルのものだ」


「うーん、それでも貰い過ぎです。せめてもう少し受け取ってください!!」


それでもルルは納得してくれなかった。

ここで俺は更に妥協して提案した。


「じゃあ分かった。貰った報酬の20パーセントを貰う!これ以上は貰わないからな!!」


「うーん、それでも少ない気はしますが、本当にいいんですか?」


「俺はお金はいらないからね」


「分かりました。報酬はラウトさんの言ったようにしましょう」


これで話がまとまった。


俺は内心ほくそ笑んだ。


皆さんはお気づきだろうか。
まあ、分かるだろう。

俺は、はじめに10パーセントと言った。

その次は、半額の20パーセントと言った。

この差を考えて見て欲しい。

そう、差は0だ。

数字上は20パーセントになったが、『半額の』という前置きを入れ込む事で同値のままなのだ。
これは地球でよく商売の分野で多用される、言葉のマジックだ。

よく考えれば、騙されたと気づくだろうが、数字に夢中になると気づかない事も少なくない。
ましてや、人を疑うという事を知らないルルには気づくことは不可能だ。


「話はまとまったみたいだな」


クエスト達成の手続きを終えて、俺とルルのやり取りの一部始終を見ていた暎斗が、ニヤニヤしながら話しかけてきた。
横では穂花も苦笑いしている。
俺の性格をよく知っているからか、2人とも言葉のマジックに気づいたみたいだ。


「大丈夫だよ。2人も終わった?」


「おう、終わったぜ」


「なら、宿に帰ろうか」


「そうだな。腹減ったし、早く帰ろうぜ」


「そうだね、私もお腹すいたよ」


「私もです!!」


みんな、空腹らしい。

という事で、みんなで『癒し亭』に向かう。

なんやかんやあったが、無事に初クエストも達成できた事だし、今日のご飯は美味しく感じられそうだ。


今日こそゆっくり休もう。
俺はそう心に決めて宿へと向かった。


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