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一章 ダンジョンに飛ばされた!?

6.侵入者は幼なじみだった!?

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ーー2年後

俺が最下層を制覇してから2年が経った。

あの頃から俺は、どこにいてもこの世界の中を、全て探知魔法で確認できるようになっていた。

だからわかってしまった。

この世界には何もない。

確かに、生き物やモンスターはいるが、そうじゃない。

国や街はもちろん、人ひとりいない。

ここには姉さんも友人も幼なじみもいなかった。


俺はあの自称神に牢獄ろうごくのような狭い世界に閉じ込められたのかも知れない。


(そんな風に考えるようになったのは、1年前くらいだったかな)


しかし、この世界を制覇したものの、唯一未知の場所があった。

それが上層にある湖だ。

1年ほど前、その湖の底に魔力のよどみがあることを探知魔法で発見した。
初めは気にしていなかったが、そこからこの世界にはいなかった種類の魚が、出現するのを探知魔法で感知してからは、流石さすがに無視できなくなった。
早速、もぐって調べてみたのだが、これがよく分からないのだ。
そこは先の見えない穴のようだが、輪郭りんかくははっきりせず、モヤモヤしている。
手で触れようとしたことはあるが、実体がないのか、触れることはできなかった。
鑑定でも調べられなかったし、本当に謎である。

ただ、そこに何か物体を入れると吸い込まれるように消えるのを発見したので、それならばと思い、そこに釣り糸を垂らしてみたのだ。
すると、思った通りこの世界にはいない種類の魚が釣れた。
それが分かってからは、釣りに没頭ぼっとうした。
地球にいた頃も、釣りが大好きだったので、その知識をもとに、異世界の材料で釣竿とリール、糸、仕掛けなどを自作し、色々なものを釣った。
なにも、釣れたのは魚だけではない。
ここにはいないモンスターなんかも釣れた。

俺は考えた。

ここは世界の一部なのではないか。

他の場所につながる何かがあって、それを使えば、この牢獄のような場所から出られるのではないか、と。

でも、ダメだった。

どこを探しても、なんの手掛かりも見つからなかった。

ただ、希望を捨てたわけではない。アイテムボックスには、ドロップした武器やモンスターの素材、食料など、それこそ小さめのビルならすぐに一杯になってしまうくらいの物資がある。

その中で一番、量が多いのはお金だ。
それも金貨や銀貨という、地球では使われているはずがないものばかりだ。

つまり、この硬貨を使用している文明があるということになる。
そして、この世界でこの硬貨が手に入る事から、ここもその文明と、そう無関係なものではないはずだ。

まあ、だからと言って、その文明を探す手掛かりもないのだが・・・



だが、今日。
3年間で初めての出来事があった。
なんと、この世界に侵入者が現れたのだ。

俺がのんびり釣りをしていたら、常時じょうじ発動している探知魔法がこの世界のものではない反応をキャッチした。

その反応を感知した場所には何もないはずで、湖の底のように魔力の淀みもない。

まるで転移魔法でここに現れたような反応だった。

反応は2つ、歩くくらいの速さでこの世界の最上層を移動している。


「侵入者か・・・楽しみだな・・・」


人かはまだわからないが、期待せずにはいられない。

俺は侵入者に気づかれない場所へ、そっと転移した。


木々が生茂る場所だったので、木の上に転移した。
もちろん気配は消している。
ここで生きていく上で癖になってしまった。

今はまだ見えないが、そろそろ見える位置まで来る。


(・・・人だ!!!)


俺は心の中で歓喜かんきした。
俺の視線の先には、どこからどう見ても人としか言いようのない姿の生き物がいた。
遠くて顔はよく見えないが2人、それもおそらく男女1人ずついる。


(男の方は剣を持っているのか?それに女は杖みたいなものを持ってる・・・これが普通なのか?流石は異世界人だな)


侵入者の2人は周囲を警戒しながら進んでいる。

俺は気づかれないように、少しずつ近づくことにした。

幾度いくどか転移を繰り返し、あと20メートルくらいの近さまで近づくことができた。


(この距離で気づかれないということは、あまり索敵さくてきが得意ではないのか?)


俺ならこの世界のどこにいても探知できるが、それは俺が魔法が得意だからだと思う。

しかし、気配を消していても、この距離だと中層くらいのモンスターなら気づかれる。

2人がこの世界に何しに来たかは、わからないが、この世界で生きていけるか心配だ。


(まあ、ずっと上層にいる分にはあまり問題ないだろうが・・・)


このまま、尾けていても何もならないので、声をかけてみることにする。


(日本語で通じるかなぁ?)


俺は気配を消すのをやめて、木の影から出て、前を歩く2人に声を掛ける。
もちろん、武器は構えていない。腰に剣を差したままだ。


「すいませーん」


俺が声を掛けると、2人は振り返り武器を構えた。
そして当然、両者ともにお互いの顔を確認した。


(っ!!!!!!)


2人の顔をみた瞬間、心臓が飛び出るかと思った。


(なんでここにいるんだ・・・?)


そこにいたのは、俺の幼なじみでもある2人の友人、穂花ほのか暎斗あきとだった。

異世界に来ているとは聞いていたが、ここに来て初めて会う人がこの2人になるとは思いもしなかった。


「「・・・日本語?」」


武器を持ったまま固まっている2人は、声を揃えて驚いていた。

ここに来る時に容姿が変わってるから、俺だと気づかないのも無理はない。


「驚かしちゃって、ごめん」


俺は突然後ろから声をかけたことを素直に謝った。


「いえ、大丈夫です。というか日本人なんですか?」


杖を下ろして、そう聞いてきたのは、黒髪ストレートボブでやや赤みがかった瞳の少女、穂花だ。

俺はすぐに正体を明かせばいいのに、久しぶりの再会でテンションが上がっていたので、素直には教えなかった。


「はい、元日本人で転生しました。実はK県のH市に住んでいました」


「そうなのか!?俺らもそこに住んでた!」


食いついてきたのは、茶髪のイケメン暎斗だ。
反応が面白いので、もう少し続ける。


「ほんとですか?S高校って知ってますか?そこに通ってました」


「「えっ、そうなの!?」」


息ピッタリですね。


(・・・そろそろネタばらしするか)


「じゃあ、春輝って知ってる?それが前の世界の名前だよ」


「「・・・・・・えっーーーーーー!!」」


やはり面白い。

いや、それにしても会話できるって素晴らしいと再認識した。
内心、少し泣きそうだった。


「ハルくんなの?」


そう聞いてきたのは穂花だ。穂花は俺を『ハルくん』と呼ぶ。


「そうだよ」


「嘘じゃないよね?」


「嘘じゃないよ」


少し落ち着いて、やっと思考が安定してきたのか、穂花がいろいろと質問してきた。


「どうしてここにいるの?」


「話せば長くなるけど、簡単に言うと、神様に転生させてもらった」


「いつからここにいるの?」


「3年くらい前からかな」


「「3年!?」」


「3年間もずっとここにいたの?」


「そうだね」


俺がそう言うと2人はすごく驚いた顔になった。
そして恐る恐るといった感じで穂花が尋ねてきた。


「ハルくん、ここがどういう場所か知ってる?」


「ん?この世界のことか?」


「ううん、ちがう。このダンジョンのことについて」


今度は俺が驚く番だった。


(ダンジョン?ここが?どういうことだ?)


「ダンジョンって、ここが?」


「やっぱり知らないんだね」


そう言って穂花と暎斗は目を合わせて頷き合う。


「ハルくん、ここってなんだよ」


「・・・・・・・・・マジか」
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