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㉘クラリス、ケニー王子の手を取る
しおりを挟むケニー王子側が提案した内容は魅力が有った。
まずクラリスの事業の半国営化。そしてその為の設備投資の資金の出資者はケニー王子。
大まかに言えば収益の35%がデールの収益へ。そして綿花の畑がマインツに有るのでそこの運転資金が20%・・・・残りがノーチラス商会。
まぁそう言った所だ。しかしクラリスは即答は避けて一旦持ち帰った。ちょっと自分で考えたい。
綿花(コットン)の栽培がマインツの気候に合っているので、気候変動がない限りデールで栽培する事は考えていない。
ただ綿花から布へ加工する技術はクラリスが所有していて、今はお父様の管理下にある。この辺りはしっかり権利書として残している。
クラリスは家の為に利益を半分以上パルマ家へ入れていた。だがお父様が最近スチュアートの力量を疑い始めている。
「クラリス、お前の商売のセンスは目を見張る物がある。今回の綿花(コットン)の事は誰にも言うな。お前が大人になった時に公表しよう。」だからクラリスの稼ぎ出す利益は外見上(書類上)は少なく見せてある。
ただ、マインツでは綿花(コットン)の需要がまだ殆ど無い。勝負はデールでかけるとしたクラリスの考えを父親は支持したのだ。
パルマ家の利益は実は既に6割はクラリスの稼ぎで賄われていたのだ。これは父親とクラリスとで偽装して隠しておいた。
デールはマインツからコットンを輸入。その窓口がクラリスのノーチラス商会。
マインツ側の窓口はパルマ侯爵家を隠れ蓑にしたクラリスの工場である。この工場に綿花(コットン)が持ち込まれ種を取り除くなどの1次加工される。
それをデール国のノーチラス商会が買い付けているのだ。ノーチラス商会の加工工場で2次加工に回されここで初めて1枚の布に変わる。
そこから布に変わった綿花をノーチラス商会が経営する縫製工場に回され初めて製品となるのだ。
今回のケニー王子の提案は出資条件がデール国内においての利益の確保。だから全体の約35%
ノーチラス商会が今後行う予定のデザイナーの発掘や商品展開にもひょっとしてケニー王子が関わって来るかもしれない。
「・・・でもケニー様と言えばこの国の王子様なんだよね。出資者としたらこれ以上無いぐらいの条件の方。本来なら私からお願いしに行くのが筋なんだよね。」とゴロリとベッドに寝転んで考えて見る。
「まぁ良いわ。女は度胸、チャンスと捉えてこの話を本格的に進めてみよう。」クラリスはシミひとつない部屋の天井を見つめながら決心した。
◇
その週末クラリスは学校を出て寮へ帰った所を先日に出会ったフランツという名前の男に捕まっていた。
「失礼ですがクラリス様ですね。先日お会いしましたフランツと言う者です。覚えていらっしゃいますか?」
「あっ、えぇ、はい。覚えています。今日はどう言った??」
「すいませんがケニー様がクラリス様とこれからお食事でもどうかと考えていらっしゃいます。本日のクラリス様のご都合などはいかがでしょうか?」と話しかけている。
このフランツという男はとんでも無い男前である、つまり寮の前だと目立って目立って仕方がない。思わずキョロキョロと周りの目を気にしたクラリスは「・・・わかりました。ケニー様のお誘い喜んでお受けします。」とだけ言った。
「話を了承して下さりありがとうございます。では約1時間後ここへ迎えに参ります。では一旦失礼致します。」と言ってフランツは風のように立ち去った。
ケニー王子は約束通りそれから1時間後にやって来た。馬車もそんな大きな馬車では無く、小ぶりな物であった。待ち合わせが寮の前と言う事を考慮してくれたみたいだった。
だからかケニー王子は今時の若者らしい拍子抜けしてしまうほど砕けた服装だった。こうしてみればケニー王子が年相応に見える。
対するクラリスもドレスなどではなくカジュアルなワンピースにコサージュをつけていた。
「待った?クラリス嬢?」と馬車へ乗り込むのを手伝いながら聞いてくる。「いいえ、私もちょうど今来た所です。お気になさらず。」と言って微笑んだ。
馬車はしばらく走った。馬車に乗っている間はやはりこの国の王子様と2人きりと言う事もあって緊張して手が震えそうになった。でもケニー王子が自分の仕事の話などをして、話題を提供しクラリスの緊張を解してくれた。
話をするうちに1軒のレストランについた。田舎風のレストランでクラリスが見てもドレスコードなどは無さそうで少し安心した。
「デールでは結構隠れ家的レストランなんだ。味は僕が保証する。まぁ今日は仕事を忘れて楽しんで?」とクラリスをエスコートしながら笑っていた。
入り口から中に入るとこの店の女将さんだろうか?が出迎えてくれた。
「ケニー様いらっしゃいませ。あら~、今日は良い人とご一緒ね。まぁ羨ましいわ。私もそんな頃があったわ。懐かしい~~。」と言いつつも笑いながらケニー様の上着を預かりハンガーにかける。
個室を用意してくれているのでこんな世間話も気軽に出来るのだろう。まさかと思うがお客さんが一人もいない。えっ、ここを貸し切ったの?
席に着くとケニー様が聞いて来た。「今日は私のお任せでいいかな?食べられない物はある?」
「いえ、私は結構デールの食事が好きなんですよ。大丈夫です。」と少し緊張しながら答えた。
食事は控えめに言って最高だった。特にメインのステーキの火入れが絶妙だった。
「ケニー様本当に本当に美味しいです。ありがとうございます。」とお礼を言っておいた。割り勘も頭に浮かんだが相手は王室だ。ここは有り難くご馳走になろう。また何か返せば良いだろう。
食事もデザートに差し掛かり食後のお茶を飲んでいた。クラリスは留学生活の話をしてケニーを笑わせた。
「ところでケニー様。先日の話なんですが・・・」と言いかけた所で「いや、まだ返事はいいよ。君を焦らせるつもりはこれっぽっちもないから。ゆっくり考えて?」と言って笑った。
でもクラリスは「いえ、ケニー様。私はお願いしたいと思います。」とハッキリいった。
「その上で聞いてほしい事があるんです。」と前置きしてゆっくりと自分の権利の話やパルマ家の話を打ち明けた。話の成り行き上婚約者のスチュアートの事も話した。
ケニー様は腕を組みながらうん、うんと頷いて聞いていた。そして、
「分かったよ。その辺は僕の方でも調べておく。でも話を聞かせてもらう限りその婚約者がクラリス嬢、ひいてはパルマ家の為になるとは僕はどうしても思えない。クラリス、僕が力になろう。今度マインツへ戻ってからも僕には近況を知らせてほしい。僕なら君の望むようにしてあげられる。」と言ってテーブルの上のクラリスの手をそっと握った。
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