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⑲ラフィネ探偵
しおりを挟む次の日、私は朝一番に父親の部屋を訪ねると「父さん、話を進めてくれてかまわない。」と告げた。この家には私の他に弟がおり、優秀な彼が父の後を継ぐだろう。
ただ、仕事の事が有るから婚約するのは構わないが挙式は少しだけ待って欲しいと伝えた。弟に自分の仕事の引き継ぎをしたいと父に言うと「そうか、そうか。それなら仕方ないな。先方にそう伝えよう。」と笑っていた。
その後すぐに婚約だけはしたので一応リリアンは婚約者になった。そして式の日取りは先に決まった。そうしないとリリアンが煩かったからだ。
リリアンは最初の方こそ大人しかったが、結婚式近くなって来ると本来の傲慢な姿を現した。
・・・わがままで人の話はまず聞けない。
ヒストリア家は元々子宝に恵まれず子供は晩年に出来たリリアンだけだ。今は亡き伯爵夫人が存命だった時はそれほどでも無かったが、亡くなられてからは酷くなった。
私と会う時は必ず自分が優先だったし、仕事を理由に遅刻した時は、次の日に私の父親が呼び出されて大声でヒストリア伯爵に怒鳴りつけられた。
結婚式の衣装も何度作り変えたか分からないぐらいだ。これには結婚式場のスタッフも口には出さなかったが相当な恨みを買ってると思う。
私は仕事とリリアンのご機嫌取りと並行して、今まで貯めていたお金で、極秘で結婚式までを期限としオリビアの件を個人の探偵事務所へ調査を以来した。
これは父に気取られたく無かったので探偵を探すのに少し苦労した。ちょうど街外れに50代の女性が新しく独立して立ち上げた調査会社があったのでそこへ調査を依頼した。
私は彼女の初めてのお客さんになったらしくかなりまけてもらえた。
私は仕事をしながらこの調査会社の報告を受け取るようにした。もちろん地元では調査の報告は受けない様に工夫し、調査経過を聞く時は必ず複数名で動き、そおっと30分だけ仕事から離れ、部屋の隅でこっそり報告を受けるようにした。
調査を依頼して1ヶ月ほど経つと探偵が「‥‥マイケルさん、調査がいよいよ大詰めです。報告場所はどうされますか?」と聞いてきた。
「そうですね。隣国マインツとの国境に一軒のレストランがあります。名前は【パピヨット】と言うんですがそこでお会いしましょう。・・・・そうですね、時間は正午ごろが良いですね。」と約束した。私はすぐに【パピヨット】に個室の予約を入れた。
今回の探偵の方はラフィネと言う50代前半の女性だ。元々お城の下働きをしていた方で、それなりのネットワークを持っており裏社会にも顔が利く。
見た目はすごく若く見える。30代だと思っていたら「ふふふっ、若い男にそう言って貰えると女冥利に尽きると言う物。」と妖艶に微笑んだ。
私はオリビアを襲った奴らはあの後すぐに国を出ていると読んでいた。人数が多いのでアシがつくのを嫌がると思ったのだ。
ラフィネに会う日は父親に「ちょっと友人たちと遊んで来るよ。結婚したら遊びにくくなるだろ?」と言っておいた。「ははっ、そりゃそうだ。少しぐらいなら羽目を外したって構わない。」と言った。この時の父親の嬉しそうな満足気な顔は今でも忘れない。
早めに家を出て、馬車をわざと遠回りさせゆっくりとパピヨットに入った。念のため尾行を疑っていたのだ。用心するに越した事はない。スタッフに名前を告げるとすぐに奥の個室に案内された。
既にラフィネは到着しており、
「マイケル様、本日はお越しくださりありがとうございます。」そう話すとイスからすぐに立ち上がりラフィネはにっこりと笑って挨拶してきた。
そこへスタッフがオーダーを取りに来たので2人ともコーヒーを注文する。スタッフが部屋から出たのを確認して、
「今回の事件は黒幕はやはりヒストリア家でした。非常に分かりやすかったです。かの家は伯爵位をお持ちとお聞きしましたが、疑うぐらい単純でした。あれで伯爵様とはこの国も終わりですね。なのでもう少し料金勉強出来ますよ。」と一気にしゃべるとクラッチバッグからタバコをとり出して火をつけると「ふぅー」っと吸い始めた。
「とりあえず話を聞かせてくれないか?」
「えぇ、もちろんですとも。」ラフィネがそう話した時にちょうど頼んでいたコーヒーが来た。
2人ともコーヒに口を付けると、ラフィネが
「事の発端は爵位持ちの自分達から婚約話を持ちかけているのに、たかだか商売人であるマイケルさんの心を何とか決めさせたかった見たいですね。」
「・・・・・・やはりそうでしたか。」
「実行犯は地元の破落戸が2名これは監視役。残りはマインツの人間でした。やはり地元の2名が監視役をやってたみたいです。」
そりゃそうだ。自国の女性にあんな無情な真似はさすがに出来ない。よその人間を使うのは当たり前だ。
「ただ、もう監視役の2人は捕まってますよね?彼らの言い分では被害者を死なせるのは想定外だった様ですね。ただ依頼されていた通り貴方を脅したかっただけだと。」そう話すとなんとも言えない表情で私を見た。
「まぁ、実行犯はほぼ全て前科持ち。証拠は有りますが黒幕はマイケルさんの上得意先ですよね?今回の件、調査結果を聞いてどうなさるおつもりですか?」と灰皿でタバコの火を消しながら聞いて来た。
無言になってしまった私を見ると、ラフィネはせっせとセカンドバックからたくさんの証言の証拠を出して来て私の目の前に積んだ。
彼らが飲み食いした代金、賭場で賭け事に使っていた内容とその代金。女性を何人も部屋に呼び如何わしい遊びをしていた代金を書き記したもの。
たかが20代の人間たちがこんなに羽ぶりがいいのは確かにおかしい。男たちが短期間で大金を手にした事は猿でも分かる。
「・・・マイケルさん落ち着いて?」と言いながらラフィネが机の上の私の手を上からそっと押さえてくれた。手を握りすぎて爪が手のひらに食い込み血が出ていた。
「あっ、すまない。」そう話すとラフィネがハンカチを差し出した。
「いえいえ、でもそんなに肩に力が入ってたのではこれから何にも出来ませんよ??マイケルさん、ヒストリア家に仕返しするんでしょ?そう顔に書いてある。」と言って微笑んだ。
ラフィネの調査書はほぼ完璧だった。
中でも決定的だったのは、ヒストリア伯爵がリリアンを連れて直接マインツの裏社会で今回の件の依頼をしたのが書類で残っていた事だ。
襲撃する相手やその報酬や日時、金銭の受け渡し場所まで記載されている書類だ。嬉しい事にヒストリア伯爵のサイン付きだ。
ラフィネは調査代金を私が思ったよりだいぶんまけてくれてたが奮発しておいた。彼女1人では探偵事務所は回って行かないだろう。実際私に報告しに来たのも初老の老人だった時もあった。
「マイケルさんいいの?ありがとうございます。事務所立ち上げたばかりなので助かります。」と言って少し笑っていた。
【パピヨット】でラフィネと別れると、この日はそのまま家には帰らなかった。少し1人きりで考えたい事があったからだ。それにやっておかなければならない事がたくさんあった。挙式まで後2週間だ。それまでにどこまで出来るか。
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