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最後のイベント

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 ここは「十六夜の夜」。紳士の社交場であり、癒しと目くるめく快楽を求めて男がやってくる場所である。

 完全な会員制で、選ばれた家柄以上の入場は禁止されており、トリックによりこの場所は導かれた者でないと、たどり着けないと言われている。

 その神秘的な所が男性たちの興味をそそり、そこへ行って遊ぶ事が一種のステータスとさえ言われている。

 そんな十六夜の夜だが不定期にあるイベントが行われる。このイベントは参加資格が公爵家以上。もしくは王家や然るべきポジションに居る者。

 対象客は事前に招待状が送られ招待状には日時と参加費、そしてイベントに参加する条件が書かれている。もちろん女性と遊ぶ以外にもカジノなどの賭場が併設されており、そこで遊ぶ事も可能である。


 そしてここは、この国一番のサンモリッツ劇場である。この劇場でお芝居を見ると言う事はかなり裕福な家でないと不可能で普段のチケットも中々手に入らないことで有名である。

 この日も例の招待状を持った、たくさんの男達で賑わっていた。そしてこの場所にギンジの姿も会った。

 目立たぬようギンジは舞台裏で一服すると、「・・・・この仕事も今日で最後か?」と呟いた。タバコが無くなり指で火を消したらこの男の仕事開始の合図だ。

 その場所で手で印を結び始めた。そして「忍法砂上の楼閣」と呟いた。何とも皮肉な術名だがこの術はこの場所にいる者の精神を一斉に支配する。そして意のままに操る。

 そう、この男もリンダと同じ忍びの者だった。

 そして劇場の暗い通路の突き当りがぽっかりと開いた。そこへ精神をギンジに支配された状態で、ぞろぞろと向かって入って行く男達。

 その中にフランツとルーカスの2人の姿があった。もちろんフランツの能力で、2人共ちゃんと自我は保っている。それをギンジに気取られないように他の者たちについて歩く。

 最後の招待客が入ったのを確認して、ギンジも付いて入って行った。劇場の手下により素早くその穴は閉じられ、その場所には元通りの古ぼけた白い壁があるだけである。

 この劇場の暗い隠し通路からしばらく歩くと馬車が何台か止まっており、男たちを「十六夜の夜」へと連れて行く。これが「十六夜の夜」の場所を割らせない工夫だった。

 これでは騎士団も調査が出来なかった。実際にこのギンジの「砂上の楼閣」を、フランツの神力が嗅ぎ取ったのもほんの偶然で、嗅ぎ取った後からは、極秘で念入りに調査が行われた。そして、やっとつかんだ手がかりだったのだ。

 馬車が「十六夜の夜」へ付くと術が解けた男たちは一斉に我に返った。それから「十六夜の夜」の案内人によって屋敷へと案内され、専用の部屋で用意されたゆったりとした服装に着替えた。

 男性達はそれぞれバラバラに屋敷の中にいるお好みの女性を探し始めていた。

 ここでフランツはリンダに力を使って話しかけていた。劇場からの距離が分からなかったので自信は無かったが、無事にリンダにつながりリンダは場所を特定するに至った。リンダの索敵の能力がずば抜けていたのが幸いした。


「ナユタ、ノア。フランツさんと繋がれたわ。ここからそんなに遠くない。右方向へ3キロほど行った所よ。そこには何があるの?」と劇場の裏で2人に尋ねた。

「ここからだと湖があるだけだ。いや待てよ、コテージが何棟かある。そこか?」ナユタがそう話すと「ナユタ、僕の背中に乗って。リンダ嬢、君の足ならついて来れるよね?」と言いながらナユタを背負おうとしたが、それを一旦リンダが止めた。

 そして近くの騎士に「アラン隊長にここから動きます。とお伝えして下さる?」と話すと既に話は出来上がっていたらしく「近くにおられます。少しだけお待ちください。」と言いながら素早くその場所を離れ、数分後にはアラン隊長率いる20名近くの騎士団がこちらへやってきた。

「アラン隊長、挨拶は後です。私たちについて来て下さい。」と言いながらノアがナユタを背負って走り出した。さすが「脚のノア」とんでもないスピードだ。

 リンダも遅れまじと道具が入ったリュックを背負いながら自分の体に術を掛け、ノアの後を追いかけた。さすがに結構な速さだ。騎士団も屈強な強者ぞろいだが、武装している事も有ってついて走るのは難しいようだ。

 リンダは「アラン隊長、ここから右方向の湖のコテージへ向かって下さい。そちらで私たちもコテージを捜索しながら皆さんをお待ちしています。どうかお気を付けて。」と言いながらスピードを上げノア達の後を追って行った。

 そして数分後には3人は木の影に隠れ湖の側のコテージを眺めていた。

 リンダは手で印を結ぶと、「・・・・2人共動かないで。ちょっと待って。少し周囲を調べてみるわ。索敵!!」と言うと目を閉じて精神を集中させていた。




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