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おたんこなすのユミリー
しおりを挟む「きゃー!何よこのひどい顔色!!信じられなーい。ちょっとアンタっておバカ?おたんこなす?」
ユミリーが朝一番にメイク室に入ると早速ここ「アルテミス」専属のメーキャップアーティストであるスティーブに捕まってしまった。
ーーーーそんなことアンタに言われなくても分かってるわ。
ユミリーはそう心で呟くが目の前のオカマの口撃が鋭さを増した。ユミリーの顔を触って一言「アンタ?仕事舐めてんの?今日何の日か知ってるよね?」
「・・・・分かっています。すいません」・・・・仕方ないじゃない。ここに来てからキャルとはずっと一緒に暮らしていたのよ。そのキャルが突然いなくなってしまったんですもの。
「一度だけ。一度だけこのアタシが助けてあげるわ。次は無いと思いなさい」そう言うとユミリーの腕を掴み隣の仮眠室へ引っ張り込んだ。そして仲間に話をつけると自分のバニティバッグを持って仮眠室へ戻ってきた。
「何してるの!さっさとベッドに横になるのよ。これからアタシのゴッドハンドを駆使してそのショボけたアンタの顔を何とかするわ」
そのスティーブの言葉にユミリーは急いでベッドに横になるとスティーブは素早くバッグから色々取り出しサイドテーブルに並べていく。
最初にユミリーの上着の首元を広げると、首筋から額に向かって素肌をホットタオルで拭き取り、柔らかくなった肌に素早くマッサージクリームを広げていった。
ユミリーの肌を大きくマッサージしながら「このクリームはね?血行を促進する成分がたっぷり含まれているの。だからこうしてのばしていくだけで肌が暖かくなってくるのを感じない?」と優しく話し出す。
さっきまで彼の大きな目がユミリーを糾弾するように睨みつけていたのが今は落ち着いている。
ーーーーそう言えばこんな早朝なのにこの人の指先が全然冷たくない。あっ、こんな時のために常に温めてるのか・・・・。
マッサージを施術している手振りは大きいのにユミリーの肌には圧力や摩擦を一切感じない。これがこの人の実力なんだ「アルテミスの影の実力者」と呼ばれる所以か・・・・
ホットタオルでクリームを拭き取ると今度は人肌に温めてあったオイルがのばされていく。こわばった神経がほぐされて気持ちがいい。
「アタシはねぇ、アンタが本当に一生懸命やってたのを知ってる。だからこんな状態になるような事があったというのは分かる。でもね私たちの仕事はたとえ親、兄弟が死んでも仕事は笑ってなきゃだめ。分かってるでしょ?」だからこんなのは今回だけよぉ~。と言いながらさらに手のひらにオイルを出し自分の体温で温めている。
そしてユミリーの頰に密着させるとしばらくそのまま置いた。
慣れた手つきで今度は特殊な道具でオイルを拭き取っていく。「ほら自分の肌を触ってごらんなさい。全然ベタベタして無いでしょ?」触ってみると確かにそうだった。
「このオイルはねぇ。アタシがブレンドしたオリジナルなの。これでも王室御用達だからお高いのよ?アンタみたいな貧乏人のボロボロ肌に使って貰えることを幸運だと思いなさい」
そしてコットンで化粧水をつける。「この化粧水はこの国一番の保湿力を持ってるの。貴重な原材料をふんだんに使ってあるのよ。アンタなんて本当なら使うどころか目にする事も出来ないような極上の品物よ」
まぁ黙っていれば年齢不詳の小太りオカマにずいぶんな言われようである。でも何だかそれがユミリーには心地よく思わず笑っていたのだろうスティーブがユミリーを鏡の前に移動させると今度はメイクを始めた。
「・・・・やっと表情が出たわね。アンタそれでなくても冴えない顔してんだからせめて笑いなさい。どんなに辛くても笑うの」そう言いつつメイクの手を休めない。
そしてパウダーで仕上げるとそこには透明感のある顔色に薔薇色のほお、そして麗しい唇を持つ「ビネット」が微笑んでいた。
「仕上げよ。これ飲んでから行きなさい」とコップを手渡された。そこには温かい透明の液体が入っていた。ユミリーは思い切って飲み干した。液体は思った以上に飲みやすくフルーティだ。飲んだとたん体の中から暖かくなってきた。力が湧いてくる感じ。
「かあぁ~やっぱりアタシって天才!!もう大丈夫ね?大丈夫じゃなくても大丈夫って言いなさい。今日の公演が終わったらアタシの所に来なさい良いものあげるから。分かった?じゃあ頑張るのよ」そう言ってユミリーの肩をバシンッと叩くとスティーブはメイク室に戻って行った。
ユミリーは急いで舞台へ向かうとスティーブは話を通してくれていたのだろう。先に最終の打ち合わせが始まっていた。ユミリーの姿を見つけたマリ先生が「やっと来たわね。さぁこれで全員揃ったわ。次で最後よ張り切っていきましょう!!」と叫ぶ。
改めて舞台を見ると海を表すプールが組み上がっていて並々と水を湛えていた。
ーーーーうわぁ~うちの大道具さんたち凄い!!
「さぁ、幕が上がるわ。今日は一般の方々だけでなく他国の高官や軍本部の方もたくさんいらしてるの。今日初めて舞台に上がる人はともかく、誰でも初めて公演の舞台を踏んだ経験があると思うの。その気持ち思い出して。じゃあ楽しんで行ってらっしゃい」マリ先生はそう言うと舞台の袖に向かって戻っていった。主役を残し出演者たちもその後に付いていく。
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