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狙われたキス

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何回かパンのおかわりもらってお腹がいっぱいになった。

デザートも最高だった。大好きなサンダルのいっぱい入ったムースにバニラのアイスが添えてあった。もうそれだけでご機嫌。

「しっかし、お前本当に美味そうに食うなぁ。男でもそれだけ美味そうに食べる奴なかなか居ないぞ?」カイルはそう言ってチェックを済ませると店を出て二人並んで歩き出した。

「デザートは別腹なんです。異世界に行くんです」どうせ酔ってるし。ふん!真面目に言ってやったわ。デザートは私のお腹の中で皮下脂肪という形で異世界転生するのだ。

「ははっ、お前酔っ払うと面白いんだな」カイルが破顔している。やめてよね、酔っ払った心臓にイケメンの笑顔は悪いんだからね。

ふいっと横向くと「おいどうしたんだ?気分でも悪いのか?」って言ってきた。

思わず顔をあげると間近にカイルの顔があった。そして一瞬でキスされていた。腰に手が回され逃げたくても逃げられない。後は壁だ。体を突き放そうとするが強い力で抱きすくめられて声が出ない。

ようやく唇が解放され目が合うと「俺は前からお前が好きだ。おそらくお前が思っているずっと前から。だから謝らないしこれからもっと態度で表していくからそこんとこよろしく!」そう言ってニヤッと笑った。

ユミリーがあまりの展開の速さに何も言えず口をパクパクしていると、「もう遅いし送っていくよ。さぁ行くぞ」そう言ってユミリーをエスコートして歩き出した。

慣れている。この男慣れすぎてやしないか?

訝しがるユミリーを横目にさっさと部屋の前まで送り届け「じゃあお休み。早く寝ろよ」と言って帰っていった。


部屋に入るとキャルがベッドでゴロゴロしている。「おかえり~。ユミリー飲んできたの?顔真っ赤じゃん」と言って笑っている。

「うん・・・」それだけ言い返しシャワーを浴びに浴室へ向かった。ノロノロと服を脱ぎシャワーを浴びながら唇に触れる。


・・・・私のファーストキスだったのに。でも拒めなかった。そんな自分が自分で信じられない。もしかして私って男日照りだった?



でも・・・・酔っ払った勢いでキスしないでよ!!本当ひどいわ。もう今日は寝る。

明日はオフだし孤児院に行く日だ。

子供たちと遊んで気持ちを切り替えるのよっ!







◇◇◇




いい天気だ。ダンス日和ってこんな日を言うのよ!と思いながら歩いている。もちろんこの世界にだってそんな天候はない。

今日は教会で子供たちがダンスを披露する日だ。教会に着くとダンスには教会内では狭いので外に作って貰ったステージが見えてきた。
ステージといってもまぁたかが知れてるけど・・・・。

今回の披露に向けて結構難しいステップを組み合わせてダンス構成をまとめてある。曲も楽しいアップテンポの曲なので見応えがあるはず。

先日ちょっと見た感じは不安要素はあるけど子供たちならやってくれると信じている。今回は初めて一番上手い子にセンターパートを任せてみたのだ。

黒人の女の子だったんだけどすごく張り切ってた。もともとリズム感も良かった。背が高く手足が長い子で振り付けも映える。めちゃくちゃカッコいい。

歩きながら「ムフフ~」と声が出たので思わず周りを見てしまったのはご愛嬌。


教会へ向かうと大勢の人たちがステージ前にいる。こそこそと教会に入り控室の子供たちの元へ向かう。子供たちを見るとみんな一斉に「ユミ先生~」と言って側までやって来た。

「おはようみんな?昨日はよく眠れた?ご飯はしっかり食べた?」と尋ねるとセンターパートを任せた子が「うん、みんな昨日は早く寝たし体調はバッチリだよ!」と笑っていた。

いつも教会でこの子供たちのダンスを担当してくれているシスターが「皆さん、ユミ先生も来手くれた事だしそろそろ始めましょうか?」と言って声をかけてきた。子供たちの表情が一気に引き締まる。

「じゃあ先生は外で見てるね。大丈夫よがんばってね?」と声をかけ外の観客席へ向かった。隅っこに陣取るとそっと席に座った。ここからは子供たちとシスターの出番だ。

シスターが今回のテーマを紹介するとピアノが伴奏を始めた。

それに合わせて聖歌隊が歌い始めるそれに合わせて子供たちが呼吸を合わせ踊り始める。

うん、今のところは順調順調。そうそうその調子よ。このまま突き進んでいけっ!そう思った時だった。

センターパートの子の振り付けが一瞬抜けた。本人の顔色がさっと曇った。でも大丈夫、これぐらいなら観客にはバレてないと思う。


曲が終わり一同きれいに整列しておじぎした。子供たちがたくさんの拍手を浴びている。私は席を立つと子供たちを労うために再び教会に入る。


その途端だった。


「どうしてあんな所でトチるんだよ!!」と一番年長の男の子が叫んでいた。急いで部屋に入るとセンターを任せていた女の子が部屋の中央に立ちすくみポロポロと悲しそうに泣いていた。

他の皆んなは何も言わず取り囲んで固唾を飲んでこの事態を見守っている。

「よしなさい!!」とその間に入ると「ユミ先生っ!!」とセンターパートを任せていた子が泣きついてきた。その子の頭を撫でながら「先生見てたけど、誰も気が付いてなかったよ。大丈夫。うまかったよ?」と溢れる涙を拭いてやる。

「でも先生、練習は上手く行ってたんだ。本当に上手く行ってたんだ。なのにちくしょう・・・・」怒っていたはずの男の子も涙声だ。全くどっちが悪いのかこれではわからん。いやどっちも悪くはないんだけど・・・・


「皆んなちょっと集まってくれる?」と声をかけみんなを集める。そしてかがみ込み子供たちに目線をじっと合わせる。

「・・・・私、ちゃんと最後までみんなを見てたよ。正直言ってこんなに上手く行くとは思わなかったぐらいよ?」
子供たちがまさかそんなことを言われると思ってなかったのか、きょとんとした顔で見ている。ん~可愛いわぁ。

「えっ、だって今回は新しい事に挑戦してるんだよ?間違っても仕方ないんじゃない?だってもう終わったし参列者の皆さんすっごく喜んで寄付して行ってくれてたわよ?

・・・・・今回はね、まず間違えてしまう事もあるって覚えといて欲しいんです。だから今日よりも明日。明日よりも明後日。ダンスだけでなくしっかり後悔のない一日を過ごしてください。そうしたら失敗しても悔しくないでしょ?」と言って一人ずつ抱きしめながらくりくりと頭をなでていった。



その姿をまさかアルバートたちが後ろからじっと見ていたとは知らず。
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