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あの人に会いたい。

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「おいおい、良い加減にしてくれよ?一体何を言ってるのか分からないね。」と掴み上げられたまま、イザークはとぼけた表情でニコルに言った。

「馬鹿を言うな!最初からサラを私の家で引き取り貴方の下で働くと言う約束だったでは無いか??サラがなぜ君の息子の婚約者候補になってるんだ?おかしいだろ?人殺しまでして何がしたいんだ!!」と叫んだ。

「人殺しなんて人聞きの悪い、証拠は有るのか?証拠は?」と薄く笑いながらニコルを責め立てた。

「チクショー!!」とニコルが叫ぶとイザークを突き飛ばして「人を馬鹿にしやがって!私はお前を許さないからな。」と捨て台詞を吐きながら外へと走り去った。

 
 一連の騒動でその場が静まり返っている。


「パンッ、パンッ、パンッ、」と手を叩く音がする。イザークが素早く立ち上がり手を叩いているのだ。

「さぁ、皆さん今日はそろそろお開きにしようか?邪魔者も入ったのでな。また今度は独立記念パーティーをするので皆さんを招待しよう。今日のほんのお詫びだ。」とイザークがそう言いながら部屋を出て行った。

 サラは側にいたグリードに「グリード様、ひとつお尋ねしたいのですが?」と聞いた。

「サラ殿、飛んだお見苦しい所をお見せしました。それより質問とは?」ニコル様の話を今初めて聞いたのか少し顔色が悪い。

「ーーええ、はい。私もこの国がハリストンの暫定政権から独立するのは聞いています。しかしそれはいつなのですか?」

「あぁ、もう近いですよ。今週末です。調印式には私も父も参加しますので。」

「そうなんですか。分かりました、ありがとうございました。それよりもうお部屋へ戻っても良いのでしょうか?イザーク様もすでに居られませんし。日もまだ高いですし。」と話すと

「もう良いと思いますよ。私もいったん仕事に戻ります。」と話しながらサラを部屋の前まで送ってくれた。

 グリードはイザークとは顔は似ているがタイプが全く違う男性でどちらかと言うと爽やかな好青年だった。聞けばこの国の騎士団に所属しており、既にもうすぐ副団長と言う所にまで上り詰めているのだとか。

 サラの部屋の扉の前に立つとグリードは真剣な眼差しでサラに話した。

「サラ殿、私はこの短い時間ですが一目見た時から貴方様をお慕いしております。どうか私との結婚を前向きにお考え下さいます様宜しくお願いします。」とサラに告げると礼をして去って行った。


「ふぅ。」部屋に戻るとホリーさんを呼び出しお湯を貰い入浴した。ドレスを脱ぎメイクを落とすとホッとした。


 サラは湯船に浸かると暫く呆けていた。そして思考が戻って来ると、考えが纏まり始めた。

 私の知らない所で色んな事が起こっている。もう嫌だ。人が殺される所ももう見たく無い。クリスタ様やシンディさんの所へ戻りたい。いい加減疲れた。あのイザークも気持ち悪い。


ーー調印式からの独立宣言まであと少しか。


 そんな事を考えていたらどうやら眠っていたらしく、入浴を終え部屋に戻ると既に夕食が置かれていた。何だか食欲が無かったのでスープだけ飲んで後はベルを鳴らしてホリーさんに食器を下げてもらった。

「大丈夫ですか?皇女様。もし食べられそうならすぐベルを鳴らしてくださいね。」と言いながら下げてくれた。

 そして陽が落ちて来てもサラは落ち着かなかったので窓を開けて往来を眺めて居た。独立宣言や調印式に向けて人が集まって来ているのだろうか?夜だと言うのに往来にはとても人が多かった。

 帰りたい。泣きたく無いのに涙が止まらない。そしてあの人に会いたい。。。。

 サラは窓辺でそっと涙を拭くと窓を閉めてベッドへ入った。月夜が美しかったのと真っ暗闇だと怖かったのでカーテンは開けたままにしておいた。部屋に降り注ぐ美しい月の光だけがサラを慰めていた。

 そして深夜の1時過ぎぐらいだったか?それ以前かも知れない。サラは息苦しさを覚えて目を覚ました。

 何だか周囲が酒臭い。目を凝らしてよく見るとサラの体の上にイザークが乗っかり右手でサラの首を絞め左手で口を塞いで居た。

 暗闇の中、月の薄明かりで見えたイザークの姿は、よれよれのシャツを着て目が血走り、いつもセットしていた頭髪は乱れ昼間と同じ人間とは到底思えなかった。

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