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裏切り
しおりを挟むそれから暫くはその部屋で過ごす事を余儀なくされた。ドアにはしっかりと外側から鍵がかかっていた為だ。ある時は本を読み、またある時は往来に行き交う人々を日がな一日眺めたり。
時折ホリーが食事を運んでくる。そして今日は開封済みのマージ家の手紙を持って来た。筆跡はクリスタ様だ。リチャード様の事が書いてある。ふん、ふん、と読み進めて行く。
「ーーーーそうなのね。」と一言呟くとその手紙を閉じた。
そして3日後に事態が動き出した。
その日は朝から泣きたくなる様な快晴だった。食事を運んでくれたホリーが「皇女様、今日はお食事の後、お召替えをして頂きますね。イザーク様からのご指示が出ておりますので。」と朝食を配膳しながら話した。
「分かりました。」とホリーに返事をするとゆっくりと食事を取った。
「ではサラ皇女様こちらへどうぞ。」とホリーに連れられて初めて部屋から出た。屋敷の内装も凄いが通路から見える庭園も見事な物だ。
ここにも薔薇がたくさん植えてあった。その中には紫の薔薇も咲いていて思わず立ち止まるとサラの目から涙がこぼれ落ちた。急いで涙を手で拭うと
「ーーーーランスロット様。」と小さく呟いた。その呟きを聞く者は1人も居なかった。
「さぁ、サラ皇女様こちらになります。」とある部屋へ通された。いわゆる支度部屋の様な所らしく様々なドレスがそこには有った。
「では私はここまでなので。後ほど担当の者が参ります。」そう話すとホリーはサラの前から去って行った。
思わず部屋を見渡していると他にもこの部屋へ入ってくる人がいた。
「失礼します、私はこのお屋敷を任されておりますリディアと言います。今日は皇女様のお支度を担当させて頂きます。宜しくお願いします
。」と話すとサラに恭しく礼をした。
「ーーーーあの、私はここへ突然連れて来られています。今日の予定すら何も分からない状態です。今日は一体何があるのでしょうか?」とリディアに尋ねた。
「私も良くは存じませんが顔合わせと伺っております。後ほどイザーク様がこちらへ来られる予定です。その時にお聞きになれば宜しいかと存じます。」と話しながらてきぱきとサラの来ていた服を脱がしドレスを選んで来た。
ロイヤルブルーのドレスだ。サラのくすんだ灰色の髪にも良くあっていた。顔も手入れを受け化粧を施された。その流れで髪にもアップにして赤い小さな薔薇が飾られた。
本来なら心が弾む出来事なのに心が晴れない。そのまま引き続き靴を合わせ鏡の前へと移動した。
「本当にお美しいですわ。月の女神の様です。」とリディアが誉めるがそんな事に留意する余裕などサラには無かった。
「あぁ、やはり美しいね、お母様にそっくりだ。」と部屋の入り口から声がした。
「ーーーーイザーク様。」と振り返りサラが呟くと「ローズ、君のお母さんはローズと言う名前だった。覚えているかい?」と言いながらサラの側に寄って来た。
そしてサラの正面に立つと「ローズが私の屋敷に来てくれた16歳の時のクリスマスパーティの時と同じ色のドレスだ。」と話しうっとりとサラを眺めている。
「ーーーー。所で今日は何があるのでしょうか?」とイザークに尋ねると「あぁ、君に息子達を紹介したくてね。気が合うと良いが。サラ殿の紹介も兼ねて皆で昼食を食べよう。」とサラをエスコートした。本来なら触るのも嫌だがそこは我慢をした。
「さぁここだよ、サラ殿。皆が待っているよ。」と言いながらドアを開けた。そこには10人前後の男女が居て、その内の若い2人の男がイザークの息子だと直ぐに分かった。2人ともイザークによく似ていたからだ。
部屋には食事が提供され、アンサンブルで音楽が流されていた。規模は少ホールと言った所か?
2人ともサラを認めると側までやって来た。
「初めまして、私はグリードと言います。」と言いながらサラに握手を求めて来た。ガッチリとした逞しい男の手だ。剣だこが有る。この方は騎士なのかしら?顔はイザークと似ているが雰囲気がまるで違う。顔立ちもこの方の方が整っている。
「サラ殿、この子が長男だ。君と同じ20歳だ。同じ歳同士仲良くして貰えると良いが。」その言葉を聞きながらグリードと握手を交わした。
「父上、私にもご紹介下さい。」とグリードの隣の男がサラを見ている。好奇心を隠そうともしない瞳が印象的だ。この人はお母様似かしら?髪の色もイザークやグリードと少し違う。
「あぁ、この子が次男のエイジだ。この子は18歳。来年学校を卒業する。」と話した。エイジも握手を求めて来たのでそれに応じ
「グリード様々、エイジ様ですね。宜しくお願いします。」と挨拶をした。
そして、そのあとは残りの面々にひと通り挨拶をさせられて、挙句の果てに
「サラ様はハリストンからシュレーゲルに拉致された所を我々が保護させて貰ったんだよ。」と適当な事を人に会う度に話していた。
最後に紹介されたのがイザークの奥方だった。
「ディジーよ。」と言うとキッとサラを睨み付けた後、他の方々の所へ行ってしまった。
「まぁ、あいつはいつもあんな感じだ。」とイザークが言っていた。
「それよりサラ様、私と踊って頂けないですか?」とグリードが誘って来た。
「はい、分かりましたが私はダンスが苦手なのです。それでも宜しければ。」と返事をするとグリードがにっこりと笑いサラの手を取って部屋の中央へと連れ出した。
その時、部屋の外が騒がしくなった。何事かと思って見ていたら扉がドンっと開けられた。
そこに現れたのは他でも無いニコルだった。
「おい!!イザーク、話が全然違うでは無いか??」と言いながら大きな足音を立ててイザークの側へとやって来た。そしてチラッとサラの姿を認めると
「サラは私の家へ来るはずだった。今、どうして君の所にいるのだ?説明して貰おう。」とイザーク胸元を掴み上げた。その様子を見たサラにはもう驚く事しか出来なかった。
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