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26、動く戦況

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「くっ、くそ!!あっ、足が動かぬ。」


アルト王子は王宮の中を隠し通路を使いながら逃げていた。その側には数名の騎士と国王も一緒だ。2人ともリーベル騎士団の騎士たちから逃げてきているので体は満身創痍だ。特に足を切られた国王の状態が酷い。


「父上、頑張って下さい。例の場所まではもうすぐです。先ほどヤプールの戦列から聖女をこちらへ下げさせました。」

「そうだな。聖女にさえ会えばあとは何とかなる。体を治したあと一旦国外へ出てしばらく身を隠そう。」そう話しているが、王宮はリーベル騎士団に火をつけられずいぶん火が回っている。もう何も持ち出せる物はないだろう。


この2人を庇いアルファザードの騎士団長は既に殉死していた。


・・・・・・おかしい。あまりにもリーベル騎士団の手回しが良すぎる。


父親に肩を貸しながらアルト王子はそう考えていた。この戦いが終わったら必ず突き止めてやる。その気持ちで何とか聖女のいる大聖堂に向かって必死に歩いていた。



もうすぐだ。あと少しで大聖堂の地下室だ。あそこにさえ着けば・・・・


アルト王子が聖女のいる地下室に着くとそこには簡易ベッドが置かれその上にケイトが横たわっていた。体の何ヶ所かが既に真っ黒に変色し、顔も変形していた。


「ヒュー、ヒュー」と喉から音がする。喉もすでにやられているのだろう。いったい何名の兵士を治療したのか。



アルト王子はその場に父親を座らせ、

「おい、聖女!!」と怒鳴りながら簡易ベッドに近寄りグラグラとベッドを揺らした。

「今すぐ起きて父上を治療するんだ。何のためにお前をここまで生かしておいたと思ってるんだ。さっさとしろ!!」横たわるケイトの体を手を引っ張り無理やり起こした。

「アルト王子、私はもう無理です。ご容赦ください。」ケイトは泣きながらアルト王子に懇願するが、

「うるさい。泣き言など聞かぬ。さっさと父上に治療を施せ。」そう言いながらケイトの髪を掴むとベッドから下ろし父親の側まで引き摺った。ケイトは抵抗する体力も無くされるがままだ。

仕方なくケイトは治療を始めるがすぐ口から血を流し、目からも血の涙が流れ始めた。力を込めるはずの指も爪から血が流れている。

「・・・・・・ううっ」

「ちきしょう治療出来るのはここまでか。父上のケガも少しは治った。父上、歩けますか?」

「アルトよ。走るのは無理だが歩く事は出来るようになった。しかし状況が状況だ。先を急ぐぞ。」と言ってさっさと歩き始めた。

その後に続くアルト王子。足を止めて振り返るとケイトに向かって

「世話になったな聖女。私は必ず生き延びてこの国を奪い返す。お前はここで安らかに眠るがいい。」と言い放つと部屋から出て行った。

ケイトはアルト王子が部屋から出て行くのを確認すると少しずつ、少しずつ泉に向かって腹這いで進み始めた。

「・・・・・・あいつらに利用されっぱなしなんて嫌だ。」その気持ちだけで気力を奮い立たせた。



あと少し、あと少し。あと少し。

ケイトの体が何とか泉の水に浸かったところでケイトの意識が途絶えた。


ーーーーカルス、カルス助けて。




その頃、ソフィアは別働隊と共にリーベル騎士団の陣営にいた。理由を説明し、ヨハンからの書状をこちらリーベル騎士団の騎士団長に手渡すためだ。

「初めてお目にかかる。私はヤプール騎士団のソフィアと言うもの。我が騎士団長からそちらの騎士団長宛に書状をお持ちした。」

ソフィアはそう話すとしばらく待たされた。そして現れたのは山のような大きな男だった。
力強い眼差し、鎧のような筋肉。真っ直ぐに通った鼻筋は本人の意志の強さを現しているのだろう。


「ソフィア殿と申したか。今日は我が騎士団長はここにはおらぬ。私は騎士団長代理を務めるキーン・バルデスと言う者だ。私が書状を改めさせてもらう。」

「分かった。では貴殿にお願いいたします。」そう話し側にいた騎士に書状を手渡した。

キーン・バルデスは書状を読み終えると「了解した。すぐに本国にそう伝えられよ。しかしソフィア殿、貴殿はもしかしたらリーベル出身か?」

「そうです。それが何か?」

「いや、今はこの陣営を離れているが貴殿に大変よく似た男がこの戦いに参加している。また、機会が有ればその男と顔合わせしてみないか?」そう話した時、バルデスに側近が何か耳打ちした。

ソフィアはそれを横目で見ながら「ははっ、これはありがたい。一日でも早くそんな状況になりたいですね。」と返しておいた。


「ところでバルデス殿、ここから大聖堂までの道のりはご存じですか?」

「あぁ、知っている。偶然だがいま話した貴殿にそっくりな男もそちらへ向かっている。」

「バルデス殿、大聖堂までの道を教えて頂けると助かる。」

「分かった。今から説明させよう。私はこれから最後の後始末をするんでね。失礼する。」そう話し、すぐ近くにいた騎士に声をかけて出て行った。



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