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12、マナー講師エリザベス

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「・・・・そうだったのか。」

セバスチャンがカルスに提案してから1週間後の夕食の時の報告である。正直言ってヨハンはあまり驚かなかった。呪っていた張本人の名前を聞いてもピンとこない。それよりもヨハンは2~3日前から謎の痛みに悩まされていた。


食欲もあり別に動作に支障がないにも拘らず、ずっと体のあちこちが痛むのだ。特に体温が上がってくると痛みは顕著だった。

そんな話をしつつも食事を終えた時にカルスがじっとこちらを見ていた。「どうした?私に何か付いてるか?」と話かけるが何も言わない。

そう話しているうちにカルスがイスから立ち上がりヨハンに近寄ってきた。カルスはもちろんドレス姿だ。しかし彼女はそんな事など一切気にせず近寄るとヨハンの目の前に立ちじっとヨハンの顔を見つめた。


綺麗なグリーンアイに見つめられて、表情を隠してはいるがヨハンはドキドキしていた。何と言っても女性には免疫が無い年頃の男なのである。そのうちカルスの言いたいことに気がついた。「あっ、ん、えっ!!」

カルスは「だよなぁ。俺もおかしいと思ったんだ。これだな。これだったんだな。そうだそうだ。わかった、わかった」と言って手を叩いてニンマリ笑っていた。


そしてヨハンの肩をバシッと叩いて「ヨハン、なっ?わかっただろ。お前、背が伸びてるじゃん」そう話つつ肘でカルスがヨハンの横腹をこづいた。


以前はカルスに見下げられていたのに今は目線が一緒の高さになっている。2人の様子を側で見ていたセバスチャンは喜びで涙が出そうだった。

「・・・・あっ、ああ。変な感じだ。どうりで最近体が痛いと思った。そうか私の背が伸びていたんだな。」思わず自分の手のひらや足先を見る。セバスチャンの方を見ると嬉しそうにうん、うんと頷いていた。

「呪いが解けて良かったじゃん。呪いが解けたことが分かったところで2人に言いたい事がある。」カルスはそう話すと2人の方へ向き頭を下げた。「こんな俺でも女性らしくなれるだろうか?以前の話、お願いしても良いだろうか?」そう話すと頭を上げた。


セバスチャンはヨハンを見た。ヨハンはセバスチャンに頷いて見せると「カルス様、了解しました。それでは一緒に良いレディーになれるよう頑張りましょう。もちろんカルス様の嫌がることはしませんのでご安心を。後日、マナー講師をこちらへお呼びしカルス様にご紹介します。そして新しい名前ですが何かご希望はありますか?」と話しかけた。


「いや、ずっと考えてみたがこれと言っては浮かばないよ。ただ兄妹のように一緒に育った女性が「カレン」って言う名前だったからそれだけは避けたい。」と話すと「ヨハン様、どうでしょう?『ソフィア』と言う名前は。どことなく似てらっしゃいませんか?」と意味ありげに話した。


「ん?ソフィアって誰のことだ?」とカルスが訪ねると、セバスチャンが「数年前に亡くなられたヨハン様のお母様です。それはそれは強くて美しく優しい女性でした。」と説明した。

「ソフィアか・・・・。俺はどちらでもいいけどヨハンが嫌だろう。」

「・・・・・・いや。君にならいいよ。では今日から君を『ソフィア』と呼ばせてもらう。よろしく『ソフィア』」そう話すとヨハンは手を差し伸べた。

「じゃあ、ありがたく名乗らせてもらう。今日から私はソフィアだ。」そう話しヨハンの手を握り返した。


ここにカルス改め『ソフィア・モルガン』が誕生したのだった。この時カルスが20歳、ヨハンが18歳だった。



これから数日後、ソフィアの前に1人の老婦人が紹介された。上品なボルドーのドレスを纏い、ニコリとも笑わない目元がこの老婦人の厳しさを表している。


(うわぁ~。これは厳しそうだなぁ)ソフィアは早々に覚悟を決めた。

老婦人は「私の名前はエリザベスと言います。今日からソフィア様、貴女のマナー講師を務める事になりました。」そう話すとソフィアの前に手を広げて見せた。ちょうどソフィアから見ると目の前にパーッとエリザベスの手が開かれた感じだ。

「5ヶ月。ソフィア様には5ヶ月で修了してもらいます。私も暇ではありませんのでこれ以上は教えられません。どうです?出来ますか?ソフィア様。」とエリザベスはソフィアの目を見ながら話した。

「いいわ。受けてたってやるわ。」そう話すと手をグッと丸めて力こぶしを作り、目をエリザベスの方に向けニコッと笑った。
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