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11、タチの悪い呪い
しおりを挟む食事のマナーは幼い頃からカレンと一緒に教え込まれたので大丈夫だと思う。ここの食事は口にあった。はっきり言ってどれも美味しい。まぁ空腹だったのも大きいが。
「ところでカルス殿、その・・・・・・ちょっと変な感じだな。まず助けてもらった事に関して改めて礼を言っておきたい。ありがとう」と食後のデザートの時にヨハンが話しかけてきた。
「良いってことだ。気にすんなよ。」言葉は悪いがデザートを食べる手元は大変優雅である。
「いやそれだけでなく呪いからも解き放ってくれた・・・・。」
「でもまだ結果はわからないんだろ?礼を言うのは早いよ。」
「いや、先ほどメイドの1人が突然苦しみ出してそのまま死んだと報告を受けた。今はまだ調査中だが死んだメイドはここにいるセバスチャンに次いで古株の人間だった。ほぼ彼女で間違いないだろうと思っている。」
「そうだったのか?そこの所は今後の状況を見てからだな。」
「まぁそうだな。ところで君はリーベル国にゆかりのある人間なのか?すまない、眠っている間にその首元のペンダントについて調べさせてもらった。リーベル国のハントン家の紋章が刻み込まれていた。」
「あぁそうらしいね。と言うのも私自身はアルファザードで育っているんだ。リーベル国では双子は災いを呼ぶとされているらしくってね。私は双子の片割れだったって訳さ。はぁ~、まぁ詳しい話は置いといて両親の伝手でアルファザードの知り合いのところで男として育てられたんだ。」
カルスはここまで話し終えるとお茶を飲み干した。
「アマデウス流はいつ身に付けた?」
「弟子入りしたのは今からだいたい3~4年前か?継承してすぐお前と出会ったんだ」ここですかさずセバスチャンがカルスのカップにおかわりのお茶を注いだ。
「ところでカルス殿、私は君にお礼がしたいと思っている。何か欲しいものはあるか?」正面からヨハンがカルスを覗き込んだ。長い銀髪に青い瞳の美しい男だ。一見少女に見えたのは仕方ないと思う。
「いや特にない。私はそんなつもりはなかったし暇つぶしに助けたんだから。まっ、滝に落ちるのは想定外だったけど」そう話すとお茶を飲んだ。
「お話中のところすいませんが、わたくしに提案があります。カルス様、ヨハン様も聞いてはもらえませんか?」とここでセバスチャンが話しだした。
「話を聞くところカルス様は今まで男性として育てられてはいますが、現在はこうして見ても1人の美しい女性です。これから男性として生きて行くにはすでに生きづらい状態では無いでしょうか?もしカルス様がお嫌でなければこのヤプールで女性としての生活を考えられたらどうでしょうか?そのためのお手伝いを是非ともさせていただきたいと思うのです。」と話した。
「セバス、良い考えだと思うが実際にはどうするんだ?」ヨハンが思わず聞いた。
「はい、まずカルス様には新しいお名前と戸籍をご用意したいと思います。ちょうどこちらの遠縁にご主人に先立たれお一人でいらっしゃる方がおられますのでそこに養子として入って頂く方向で考えています。どうですか?カルス様。ここで私たちと出会ったのも何かの縁。新しい人生をスタートさせてはいかがですか?」とセバスチャンがカルスに向かってにっこり笑った。
「申し出はありがたい。でも少し考えさせてくれないか?いきなりでちょっと時間が欲しい。」
「良いですよ。私たちは焦ってはいません。カルス殿、貴方の人生を左右する大切な提案です。どうかゆっくり考えてください。」セバスチャンはそう話すとヨハンの方を見てにっこり笑った。
この日から2日後だった。ヨハンにかけられた呪いの事がわかったのは。
かけた張本人はすでに他界していた。もともとこの屋敷の使用人だった男だ。仕事の不出来をヨハンの父親に厳しく咎められ呪い師を雇い呪いをかけようとした。
しかし呪う期間が長期にわたるのでそのための依代、媒体を必要とした。当時、呪った本人の内縁の妻だったメイドを媒体にした。呪い返しを受けて死んだメイドはその呪いの媒体だったのだ。
本来なら直接ヨハンの父親にかけたかったが当時ヨハンの父親は家の精霊たちの守りが固く呪いが届かなかった。
ちょうどヨハンを身籠った母親にターゲットに変え、母親がこのメイドを伴って外出中の所を狙い、お腹の中にいる跡取りのヨハンに呪いをかけたのだ。『家を滅ぼす呪い』を。
その呪いを跳ね除けヨハンは産まれた。しかし呪いは媒体のメイドが側にいたためヨハンを知らず知らずのうちに蝕んでいた。身長が伸びなかったのもそのせいである。ヨハンとメイドの呪いの鎖を切ったのがカルスの「アマデウスの剣」だったわけである。
「本当にタチの悪い呪いです。ヨハン様、何事もなく解呪できて本当に良かったですね。」セバスチャンの依頼でメイドの死体を見てそう言ったのはヤプール国一番の魔術師のビンセントであった。
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